Aintree (UK) Good to Soft (Soft in places)
〇 Randox Grand National Handicap Chase (Premier Handicap) 4m2f74y (National)
Class 1, 7YO plus, Winner £500,000
毎年恒例のGrand National (Premier Handicap)の出走馬に関する短評(約50000字)については以下の記事を参照されたい。年々無駄に長くなっている気がするが、ひとまず供給が豊富であった昨年に引き続き*1今年は木曜日に上田麗奈さんを拝んだので頑張った*2*3*4*5*6*7。上田麗奈さんと同じ空間で上田麗奈さんのご出演作品を視聴しつつ上田麗奈さんのコメントを拝聴するイベント。フォトセッションで素敵な笑顔のご本人の後方に映り込んだのは一生の不覚。しにたい。なおグリッドマン ユニバースの応援上映*8は当然の如く外れた。
〇 23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Entries(にげうまメモ)
ブログを宣伝することを含めアウトリーチ的な側面を有するコミュニケーションは(特にバズり目的のものは)好きではないため、今年はもはやこの記事についてTwitterで呟いてすらいないのだが、このようなマニアックで分かりにくい記事しか上げないような辺境ブログの存在を記憶に留めてくださった方、ご訪問頂いた方、Twitterやラジオ等の媒体を通して何等かの感想をくださった皆様には改めて感謝を申し上げたい。特にラジオについてはもはや最近は合同企画の賑やかし要員で個人的な配信はだいぶサボってしまっているのだが、度々レターまで送って頂いた方にはこの場を借りて改めて御礼を申し上げる。レターについては現状も引き続きメンバーで共有しているため、当ブログを含めてご要望及びご感想等があれば引き続き気軽に送って頂ければありがたい。
〇 海外競馬ニュースch(Stand.fm)
なお、この週のAintreeのGrand National (Premier Handicap)以外のレース回顧については別記事を参照されたい。
〇 23/04/16 Weekly National Hunt / Jump Racing(にげうまメモ)
レースの前評判としてはCheltenham FestivalのUltima Handicap (Premier Handicap)を連覇し、共同馬主"The Ramblers"の所有馬として話題を集めていたCorach Ramblerが人気になっていた。続いてRachael Blackmoreを擁するAin't That A Shame、複数のG1勝ちのあるアイルランドの7歳馬Gaillard Du Mesnil、連覇を目指すNoble Yeats。それ以外にもThe Big Dog、Le Milos、トップハンデAny Second Now、昨年の3着馬Delta Work、Mr Incredibleといった馬が人気を集めていた。なお、直前でアイルランドのEscaria Tenが出走を取り消して39頭立てとなった。Fergal O'Brien調教師がReserveシステムがなくなったことで管理馬のCaptain Cattistockが出走ができなくなったことに文句を言っていたが*9、その指摘が的中する格好となった。
レースは大外からCoko Beach、Cloudy Glenなどが出てくる展開。第1障害でCloudy Glenが落馬し、この煽りを食らったRecite A Prayerも落馬。さらにGalvin、Diol Ker、Hill Sixteenの計5頭が落馬し、この開催でG1を2勝するなど目覚ましい活躍を見せ、そしてこのレースが現役最後の騎乗であったアイルランドのトップジョッキーDavy Russellの最後のGrand Nationalは第1障害で終わってしまった。レースはそのままCoko Beachが内に切れ込むように前に出てくる。第2障害で馬群の中にいたFury Road、The Big Breakaway、さらにDarassoの3頭が落馬。そのままCoko Beachは空馬に囲まれながらも最内に進路を取って先頭を走る。好位からLifetime Ambition、Mister Coffery、Minella Trumpなど。落馬が多発した第1及び第2障害とは異なり、やや先頭集団に空馬が複数存在していたもののBechers' Brook等の続く障害では特段の落馬は発生せずレースは進行。Canal TurnでLonghouse Poetが落馬。空馬が障害手前で内ラチに突っ込んでいくシーンもあったが、この事象は特にレースには影響を与えずValentine's Brookは概ね突破するが、外にいたLifetime Ambitionが別の空馬の煽りを食らって騎手が落馬。このあたりで内からMister Coffery、Our Powerが前に出てきて、Canal Turnでやや外に膨れたCoko Beachと並んでレースを引っ張る展開となる。好位からRoi Mage、Corach Rambler、Minella Trump、Back On The Lashなど。A Wave of the Sea、The Big Dog、Delta Work、Vanillier、Carefully Selectedなどはその後ろ。さらに遅れてGaillard Du Mesnil、Any Second Now、Ain't That A Shame、Gabbys Crossなどは後方集団から。Noble Yeatsも最後方に近い位置で、どうにも手ごたえがよろしくない。さらに後方にいたDunboyneは早々に騎手の手が激しく動き、馬群から脱落を始める。Melling Roadを横切る辺りではMister Coffeyが空馬を引き連れての単騎逃げの格好になる。第14障害の手前で後方にいたCape Gentlemanが何等かの理由で途中棄権。The Chairでは好位にいたOur Powerが大きなミスをなんとか立て直した一方で、後方にいたSam BrownとGabbys Crossが落馬。再度前に出てきたCoko BeachとMister Coffeyが並走する格好でレースは2周目に向かう。
2周目の入り口の障害は故障馬の治療のためオミットされることになるが、後方に置かれて途中棄権となったDunboyneを除いて無事に迂回することに成功する。先頭を走るのはCoko BeachとMister Coffeyだが、外からThe Big Dogが積極的に上がってくる。その後ろにOur PowerとRoi Mage、さらにBack On The Lash。追走に苦労していたAny Second NowとVelvet Elvisは第18障害の手前で途中棄権。Delta WorkとEva's Oskarの2頭が第19障害で落馬。Alan Johns騎手の初のNationalは2周目途中の志半ばで終わってしまった。Canal Turnの辺りでMister Coffeyがやや後続にリードを取って抜け出すと、The Big Dog、Coko Beach、Roi Mageに数馬身の差をつける。Canal Turnの後にMr Incredibleの騎手が落馬。Valentine's Brook、さらにその後のOpen Ditchの辺りではMister Coffeyが引っ張る展開で、好位からThe Big Dog、Roi Mage。Coko Beachはやや後退して、代わってCorach Ramblerが上がってくる。並んでBorn By The Sea、Ain't That A Shame、その後ろにEnjoy D'Allen、Gaillard Du Mesnil、Le Milosなど。Noble Yeatsは手ごたえが怪しいが頑張って追走。Melling Roadの辺りではMister Coffeyの騎手がやや気合をつけつつもNickey Henderson調教師の悲願を掛けて快調に飛ばしていく。好位にいたThe Big Dogはだいぶ手ごたえが怪しくなってくるも、これに持ったままで接近してきたのがCorach RamblerとRoi Mage。後ろからVanillierやBorn By The Seaも接近。残り2障害あたりから手ごたえが怪しくなってきたRoi Mageを振り切ってCorach Ramblerが逃げるMister Cofferyに接近。そのままCorach Ramblerは最終障害でMister Cofferyを交わして先頭に立つと、最後はものすごい勢いで追い上げてきたVanillier以下を振り切って勝利した。3着にはじわじわと差を詰めていたGaillard Du Mesnil、遅れて追い込んだNoble Yeats。前で頑張ったThe Big Dog、Born By The Sea、Roi Mage。逃げたMister Coffeyは最後力尽きて8着。そのほか、A Wave Of The Sea、Le Milos、Our Power、Enjoy D'Allen、Fortescue、Carefully Selected、Minella Trump、Francky Du Berlais、Ain't The A Shame。上記17頭が完走した馬である。
今年は第1障害及び第2障害で多数の落馬が発生し、スタートの入りについてはややカオスな立ち上がりとなっているのだが、そこから出てきたのは重馬場巧者のCoko BeachやMister Cofferyであり、Mister Coffeyはやや積極的に立ち回ってはいるものの、Good to Softという平均的な馬場状態も相まって全体的に極端な展開となっているわけではなさそうだ。Corach RamblerはUltima Handicap Chase (Premier Handicap)を連覇してきた馬だが、ここでは堂々たる立ち回りで勝利をつかんだ。終始好位でリズムよく進めての勝利であるが、なにより印象的であったのがその安定した高い飛越で、元々CheltenhamのHandicapにて馬群をすり抜けてくる器用さを武器としていた馬なのだが、それに加えて初のNational Fenceにも関わらず終始安定した高い飛越を繰り出していたことでこの盤石のレース運びが可能となった。Canal Turnなどでもやや狭くなる場面はあったのだが、それでも落馬や空馬による不利を殆ど受けずにレースを進めていたというのはこの馬の持つ技術の高さに加え、このレースを熟知したDerex Fox騎手の手腕によるところも大きいだろう。Derex Fox騎手にLucinda Russell調教師という陣営から思い出されるのはやはり2017年の勝ち馬であるOne For Arthurで、このOne For Arthurもまた高い飛越と強靭なロングスパートを武器にこのGrand Nationalの舞台をぶち抜くというレース運びであった。その陣営が送り出したCorach Ramblerはつい先日わずか14歳という若さで亡くなった*10One For Arthurが乗り移ったかのような素晴らしい走りで、さらにLucinda Russell調教師の父Peter Russellも1月に亡くなったことを考えると*11、今回の勝利は陣営にとっても嬉しい勝利となったことは間違いないだろう*12。10st5lbという軽量には恵まれた感もあるのだが、とはいえまだ9歳と比較的若い馬であることは喜ばしいことであり、更なる活躍が期待される。One For Arthurは大舞台の勝利ののちは故障でなかなか順調にレースに出走することができなかったが、この馬はなんとか無事に行って欲しいものである。今年で30歳となったDerek Fox騎手は先週の落馬で肩を痛めていたようで、一時は出走も危ぶまれていたようだが、土曜日の朝は医務室の床で腕立て伏せをすることでその回復ぶりを証明し*13、怪我を克服しての勝利となった*14。それにしても、この9歳となった馬を長年に渡ってしっかりと訓練し、障害馬として世界最高水準の技術を習熟し、そしてこの大舞台においてそのような馬とともに最高の騎乗と走りを以て栄光を掴むという、陣営と馬が一丸となった素晴らしい勝利であり、やはり競馬の「馬と人との共生」という文脈において象徴的なシーンであることは言うまでないだろう。加えて、Corach Ramblerの共同馬主である"The Ramblers"の7人がたった17,000ポンドで購入した馬であることを考えるとまるで夢のようなストーリーで、その中には21歳の大学生、オーストラリア在住のメンバー、つい先日妻を亡くした男性等も含まれることを考えると*15、ある意味ではもう一つの"Dream Alliance"とでもいえるのかもしれない。
アイルランド勢として最先着を果たしたのが8歳馬のVanillier。HurdleではAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)の勝ち鞍がある馬なのだが、Chaseではどうにも飛越が安定しないところがありなかなか勝ち星をあげられず、ここまで棚ぼた感のあるG2を1勝したのみに留まっていた。とはいえ一方で今回は終始馬群の内に突っ込むようなレースをしており、鞍上としてはそれなりに飛越に関しては自信があったような印象がある。実際に全体的に高く安定した飛越を見せており、特段ミスらしいミスが見られなかったのは特筆すべきだろう。ただしやはりなかなか飛越時に加速しきれないという課題は残っているようで、結局最終障害を越えてから外に出して一頭違った伸び脚を見せており、最後の余力を考えるともう少し強気に立ち回っても良かったような感がある。いずれにせよ、まだ8歳と若い馬で、今シーズンにおけるこの馬の進境は著しいことを考えると、引き続きこの舞台で注目したい。なお、同馬に対して以下のような失礼なことを書いている某クソブログの管理人は例によって腹を切ってお詫びすべきである。
ただし、やはりHandicap Chaseへの経験という点ではいまいちで、Leopardstown Handicap Chase (Grade A)でも早々に落馬に終わっていり、このようなタイプはある程度車間距離を取って走らせたいという特性もあることを踏まえると、ここではそれなりに難しいタスクになることが予想される。
アイルランドの同じく葦毛のGaillard Du MesnilはVanillierと同じく馬群の内で進めたが、2周目からは外に切り返して進出を図った。ただしどうにも外から進出を試みたもののコーナーの影響等で内でじっとしていたVanillierと同じような位置で進めるに至っており、おそらくこれはPaul Townend騎手の当初の戦術プランであったと思われるが、結果的にこの馬のスタミナを消耗したのみであまりうまくいっているような感はなかったように思われる。Vanillierよりもスピード自体はある馬で、馬群の中から進出を試みてもよかったような感もあるのだが、これは前走のNational Hunt Challenge Cup (G2)でズブさを見せていたことを懸念したのだろうか。とはいえ上記のような戦術的な失敗があったにも関わらず3着まで食い込んできていることはやはり馬を褒めるべきで、初のNational Fenceにも関わらずさほど大きなミスらしいミスがなかったのも今後に向けて明るい材料であった。
連覇を狙ったNoble Yeatsは最後猛然と追い込んで4着まで来た。基本的に馬群の後ろの方で追走に苦労しているようなレース運びを見せており、特段ペースとしては早いものではなかったようなことを考えると、どうにも今後に向けて心配な敗戦となった。Cheltenhamの2戦はともかくとして、それ以前のAintree及びWexfordでのレースではこのような仕草は見せていなかったことを考えると、11st11lbという相対的な斤量の厳しさがあったのか、もしくは今シーズンはフランスへの遠征を含めた6戦目とそれなりに数を使っていたことによる影響があったのか、そのあたりはどうにも定かではない。最後は猛然と追い上げているようにこの馬の持っているものは確かなのだが、どうにも今回の負け方は次回以降において気にした方がよさそうだ。前に行ったThe Big Dogは先頭集団の中では最先着を果たしての5着で、最後はかなり苦しくなっていたにも関わらず5着まで踏ん張った。前走のLeopardstownでもかなり前向きに走る素振りを見せていたことを考えると、中段から一気に進出したレース運びではなくもう少し慎重に立ち回ってもよかったような感もあるのだが、とはいえこの馬のできることはやり切ったという内容だろう。
Long Handicapを背負ったBorn By The Seaは大健闘の6着。直線入り口ではFelix De Giles騎手のRoi Mageと進路を争うようなところもあったりとロスはあったのだが、とはいえそこまでは勝負圏内に入っていた。この馬のここまでの実績を考えれば素晴らしい内容だろう。実績的に再度のGrand National挑戦が叶うかはかなり微妙なところではあるのだが、またこの舞台で見たい馬である。ex-French SteeplechaserのRoi Mageは大いに見せ場を作っての7着で、足が速い馬ではないだけに最後はやや遅れたが、そこまでかなり強気に立ち回っていたことを考えると、3着争い集団からさほど遅れずに入線したという結果は十分な内容である。National Fenceへの対応についても全く問題はなかったようで、フランスSteeplechaserの持つ大きな可能性を示す走りであった。昨年のこのレースではReserveに割り当てられていた馬であることを考えると、より馬がフレッシュな10歳であった昨年は更なるパフォーマンスの向上を示すことができた可能性もある。加えて、昨年4月以降の走りを踏まえてこの馬のレーティングは相対的に引き上げられており、今回は10st8lb、出走順19番目とそれなりに高い位置にランク付けされていたことを踏まえると、昨年のこの馬に対するレーティングには大いに疑問が残るところである。
Nicky Henderson調教師の悲願を背負ったMister Coffeyは積極的に立ち回っての8着。調教師としては一瞬は夢を見たということで*16、最後は完全に脚を使い果たしての失速ではあったものの、ここまでChase未勝利の馬のレースとしては素晴らしいものがあった。飛越の面では特段の問題はなかったようで、立ち回り次第ではもう少し上位に食い込むことができた可能性もありそうだ。9着以降の馬の中で比較的目立ったのはOur Powerで、The Chairでの途中の大きなミスが大きかったような感がある。ひとまず特段の問題はなかったとのことで*17、引き続き期待したい。Minella Trumpも積極的に進めたが、じわじわと遅れ大敗。馬は元気なようで厩舎では大切にされているそうだ*18*19。Rachael BlackmoreのAin't That A Shameも勝負所で進出を試みたがそこまでだったようだ。A Wave Of The Sea、Le Milos、Enjoy D'Allen、Fortescue、Carefully Selected、Francky Du Berlaisは特に見せ場は作れず。先行勢の中ではCoko Beachは途中まで先頭を走って見せ場を作ったが、やはりGood to Softということで、ペースが上がってからは脱落して途中棄権に終わった。途中で大きなミスもありそこからリズムを崩した可能性も考えられそうだが、距離というよりはペース的なところだろう。8歳とまだ若い馬で、重馬場であれば再度見直したいところである。案外だったのがAny Second Nowで、全体的にさっぱり走る気を見せなかったのが気がかりな結果となった。11歳という年齢的なところもある可能性もあるが、とはいえ近走でそのような素振りは見せていなかっただけにやはり気になるところである。スタート直後に不利を受けた影響も否めないところだが、こればかりはどうにも後方の出来事ということもあり、レース映像からも視認しにくく定かではない。
今年は比較的重複落馬も多く、全体的に不幸な落馬となった馬もそれなりに存在した。特にもったいなかったのがLifetime Ambitionで、Valentine's Brookにおいて障害手前でうろうろしている馬に邪魔をされての落馬となった。能力的にはかなりしぶといものを持っている馬だけに、あのままの先行策でどこまでやれるか見てみたかったところである。幸いなことに馬は元気なようだ*20。昨年3着のDelta WorkはEva's Oskarを巻き込む形での落馬で、どうにももたもたと飛越をしていた昨年のレースからの不安が的中する形となってしまった。巻き添えを食らったEva's Oskarはひとまず元気なようで、Tim Vaughan Racingのtwitterで元気な姿を見ることができる*21。Canal Turnで落馬したMr Incredibleはおそらく鞍が滑っての落馬だろう。能力的にはいいものを持っている馬だけに、やや勿体ない競馬となってしまった。Cape Gentleman及びRecite A Prayerについては追加の獣医検査が行われることになったそうだが、Recite A Prayerについては眼窩の骨折があったものの特段問題はなく*22、腱の故障のあったCape Gentlemanは引退してアメリカで余生を過ごすそうだ*23*24。残念な結末となったのがNational SpecialistのHill Sixteenで、Becher Chase (G3)でも好走していた馬の10st2lbという最軽量での挑戦という興味深い参戦となったのだが、第1障害の落馬により助からなかったそうだ*25。
〇 Corach Rambler wins the Grand National as 118 people arrested after protest (ITVX)
〇 Grand National: 118 people arrested over protests that delayed start of Aintree race (BBC)
動物愛護団体"Animal Rising"はGrand National Meetingの開催を妨害することを事前に脅迫していた。通常、この開催において動物愛護団体は競馬場正門脇で誰一人として見向きもしない負け犬の遠吠えの如き抗議行動を侘しく行う程度に留まっていたが、今年は近隣道路を封鎖した抗議活動が行われたことに加え、レース前にはコースに脚立が投げ入れられたうえ、一部の活動家がコースに侵入しレースの妨害を図ったようだ。一連の活動を受けて合計118人が逮捕されたようだが、コース内に侵入した活動家の排除等のためレースの発走は遅延し、Grand Nationalのスタートに向けてパドックに姿を現していた馬は一時的に待機エリアに戻る等の措置を余儀なくされた。
常識的な一般教養を有する人間にとってこれらの活動家の主張が支離滅裂かつ非科学的で荒唐無稽な妄想に過ぎないことは揺るぎようのない事実だが、一方で第1障害の落馬により死亡したHill Sixteenの調教師であるSandy Thomsonはこのレースの遅延により馬が過度に興奮したことが落馬の原因であると述べていたこと*26*27、さらに第1障害で落馬したGalvinは活動家が投げ入れた脚立により外傷を負ったという話もあるようで*28、Nicky Henderson師がスタートの遅延が競争馬のコンディションに及ぼす影響について指摘しているように、残念ながら一連の抗議行動による円滑な競馬開催及びレースの安全性への直接的な影響を否定することは困難である*29。実際に、トップハンデを背負っていたAny Second Nowは上記の通り案外な凡走に終わっているが、待機時に斤量面を鑑みて一度鞍を外される等の対応がされている。Grand National Meetingは(比較的静かとはいえ)多数の観客がパドック周りに集まること、特にGrand Nationalのパドックは超多頭数により馬が密集することなどから、Any Second Nowに限らず今回のこの事象が少なからず出走馬のコンディションに与えた影響を否定することは困難である。加えて、今年のGrand National Meetingにおいて、計3頭の馬が競走中の事故が原因で死亡したということは残念ながら事実であり、比較的競馬に関心が薄い層を含めた一般社会における競馬文化の立ち位置に対する影響も含めて上記の活動を無視することは困難である。John Hanlon調教師が指摘しているように、これらの無知な活動家*30に対しては"You can’t educate pork"*31という諺以上のことはなにも言うことはなく、Sandy Thomson調教師はこれらの動物愛護団体に対してより断固たる姿勢を取るよう主張しているように*32*33、逆説的に競馬開催の安全性及び円滑性の支障となった過激な活動家に対してはより厳格な対応が必要であろう。一方で競馬文化の社会における立ち位置という論点において、動物との共生の実現におけるこのスポーツの重要性及びこのスポーツに参画する(競走)馬における高度な動物福祉/愛護の実現については多数の関係者から強調されているところであり*34*35*36*37、それらに関する一般社会との適切なコミュニケーションの重要性はDan Skelton調教師や英国Jockey ClubのNevin Truedsdale氏が強調している*38*39*40。この事件に関して、競馬の安全性の向上を目指して獣医大学等と協力した科学的アプローチを推進するBHAのChief Executive OfficerであるJulie Harringtonから、競馬産業における馬の位置づけ、競馬に纏わる動物福祉に関する現状、今後の科学的エビデンスに基づいた規制及び教育上の取り組み、並びに過激な動物愛護運動への抗議を含む声明が発表されていることに加え*41*42、業界関係者による適切な情報提供及びコミュニケーションを目的とした"Stand Up For Racing"という試みも始まっている*43。加えて、今般の競争で素晴らしいレースを見せたCorach Ramblerに代表される計40頭の馬を中心とした、陣営が家族同然に扱い、長い年月をかけて寄り添ってきた大切な馬による世界最高峰のスポーツの祭典への参戦及び制覇という複合的かつ相補的なストーリーは、このスポーツの有するナラティブな文脈において重要な象徴的価値を有するものであり、同時に上記の近視眼的かつ偽善的な動物愛護運動及びそれらが一般社会に齎す競馬文化への偏見に対する強烈なアンチテーゼであったと言えよう。実際にLucinda Russell調教師は地元の人々がCorach Ramblerに会えるよう厩舎を開放し、多数の人々がNational Winnerに会おうと厩舎を訪れたそうだ*44。
なお、当然、今般の抗議活動に関するメディアの報道に関してRoi MageのアシスタントトレーナーであるJames Griffin師等が指摘しているように*45*46、上記の適切な情報提供及びコミュニケーションは日本を含む世界各国の(競馬)メディアにおいてもその責を担っていることは明白であり、そのスタンス及び方法論は(海外障害)競馬に関する関係者の基礎的知識の習熟及び啓蒙活動を含めて慎重に検討する必要があることは疑いようがない。レース前にITVが動物愛護団体の主張のみを報道したことで誹りを受けたが*47、当ブログ等において再三指摘しているように*48*49*50、海外障害競馬において落馬事故等に関連した低俗な話題ばかりを断片的に垂れ流し、関係者及び馬事文化へのリスペクトを欠くばかりか、海外障害競馬の文化的価値を貶めると同時に誤った偏見を助長している某競馬メディアアカウントは現状、馬を含めた全ての競馬関係者及び馬事文化に仇なす狂信的な動物愛護運動の片棒を担いでいるとすら言えることは日本在住の一競馬ファンとして実に遺憾である。
🗣 "I feel there is a little bit of a lack of understanding. We all want what is best for horses."
— Racing TV (@RacingTV) 2023年4月15日
Fantastic words from @DSkeltonRacing who discusses the delay to racing amidst protestors getting onto the track at Aintree pic.twitter.com/l4f6bF1F3n
*1:https://virgos2g.hatenablog.com/entry/2022/04/09/003000
*2:https://twitter.com/mashle_official/status/1646469201547390978
*3:https://twitter.com/81pro_official/status/1646471083904884736
*4:https://twitter.com/mashle_official/status/1646899109658349570
*5:https://twitter.com/mashle_official/status/1647193061674586112
*6:https://twitter.com/ReinaUeda_Staff/status/1646506045110648832
*7:https://twitter.com/himi2bako/status/1646528679789338625
*8:https://twitter.com/81pro_official/status/1647548020815433729
*9:https://www.racingpost.com/news/festivals/grand-national-festival/fergal-obrien-gutted-at-captain-cattistock-absence-as-punters-latch-on-to-back-on-the-lash-a7sDB6g9rk2I/
*10:https://www.thescottishsun.co.uk/sport/10418154/one-for-arthur-scottish-horse-win-grand-national-dies/
*11:https://www.theguardian.com/sport/2023/apr/15/corach-rambler-wins-grand-national-after-animal-rights-protesters-force-delay-to-race-horse-racing
*12:https://www.racingpost.com/news/reports/2023-grand-national-corach-rambler-charges-to-magnificent-victory-for-lucinda-russell-after-disrupted-start-agsT60n9jEhs/
*13:https://www.theguardian.com/sport/2023/apr/15/corach-rambler-wins-grand-national-after-animal-rights-protesters-force-delay-to-race-horse-racing
*14:https://www.racingpost.com/news/festivals/grand-national-festival/he-was-very-close-to-not-making-it-derek-fox-overcomes-late-injury-scare-to-win-second-grand-national-afW1F0N1PEfv/
*15:https://www.racingpost.com/news/reports/ive-peaked-too-early-says-21-year-old-corach-rambler-co-owner-as-connections-revel-in-mind-blowing-win-aABo38A1P90A/
*16:https://www.racingpost.com/news/festivals/grand-national-festival/you-thought-he-was-going-to-get-there-but-not-quite-henderson-rues-national-near-miss-with-mister-coffey-avtou1Z4vBj8/
*17:https://twitter.com/PotterGRacing/status/1647588131430973441
*18:https://twitter.com/donaldmccain/status/1647539121722720257
*19:https://twitter.com/mccain_abbie17/status/1647526694847225856
*20:https://twitter.com/kateharro1989/status/1647512473900072961
*21:https://twitter.com/TVaughanRacing/status/1647523861921923072
*22:https://www.attheraces.com/news/2023/April/16/willie-mullins-reports-all-will-be-well-with-recite-a-prayer
*23:https://www.attheraces.com/news/2023/April/16/cape-gentleman-set-to-enjoy-happy-retirement-in-america
*24:https://twitter.com/jhanlonracing/status/1647877001162653697
*25:https://twitter.com/RacingTV/status/1647298062593736709
*26:'They haven't got a bloody clue' - Sandy Thomson blames 'ignorant' protesters for Grand National horse death | Racing Post
*27:https://www.sportinglife.com/racing/news/roi-mage-team-disappointed-with-exposure-given-to-protestors/208778
*28:https://twitter.com/RacingTV/status/1647529660824137728
*29:https://www.attheraces.com/news/2023/April/16/national-field-size-should-stay-as-it-is,-says-henderson
*30:https://www.attheraces.com/news/2023/April/16/cape-gentleman-set-to-enjoy-happy-retirement-in-america
*31:豚は出荷よ~
*32:https://www.attheraces.com/news/2023/April/16/sandy-thomson-adamant-protests-contributed-to-fatal-fall-of-hill-sixteen
*33:https://www.racingtv.com/news/sandy-thomson-adamant-protests-contributed-to-fatal-fall-of-hill-sixteen?fbclid=IwAR3xB9is-iJA3gg296tZQM88bhzoXW6NjJ0TzirtSTINmyehcGYjY2AT9mU
*34:https://twitter.com/almracing/status/1647695817312960515
*35:https://twitter.com/JadeJoyce96/status/1647703245186277376
*36:https://www.racingpost.com/news/reports/2023-grand-national-corach-rambler-charges-to-magnificent-victory-for-lucinda-russell-after-disrupted-start-agsT60n9jEhs/
*37:https://www.racingpost.com/news/festivals/grand-national-festival/theyre-looked-after-like-kings-hill-sixteens-owner-defends-sport-despite-sad-grand-national-loss-anjLW3d0evkz/
*38:https://www.racingpost.com/news/festivals/grand-national-festival/lets-face-this-head-on-jockey-club-chief-calls-for-racing-to-get-on-the-front-foot-with-sports-detractors-aAITp3P9VT23/
*39:https://twitter.com/LBC/status/1647504244440743936
*40:ちょうど発走の数分前、Racing TVにより行われたDan Skelton調教師のインタビューは(広義の)サイエンスコミュニケーションという観点からこの一連の問題に関する核心を突いている。自身もかなり有力な出走馬を有しており、競馬開催のプロセスも変則的かつ流動的であった状況において、ここまで的確かつ建設的な見解を述べる師の慧眼と洞察には恐れ入る。
*41:https://www.britishhorseracing.com/press_releases/bha-statement-following-the-2023-grand-national/
*42:https://www.racingtv.com/news/national-protests-roundly-condemned-by-bha-chief-julie-harrington
*43:https://twitter.com/StandUp4Racing
*44:https://www.racingtv.com/news/locals-gather-to-salute-national-hero-corach-rambler
*45:https://www.sportinglife.com/racing/news/roi-mage-team-disappointed-with-exposure-given-to-protestors/208778
*46:https://twitter.com/almracing/status/1647695817312960515
*47:https://twitter.com/BHAHorseracing/status/1645773880655577096
*48:https://virgos2g.hatenablog.com/entry/2023/03/26/000000
*49:https://virgos2g.hatenablog.com/entry/2023/03/15/000000
*50:https://twitter.com/_virgos2g/status/1646889766036844544