にげうまメモ

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23/03/15 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

3/15(水)

Cheltenham (UK) Soft

Ballymore Novices' Hurdle (G1) 2m5f (Replay)

1. Impaire Et Passe J: Paul Townend T: Willie Mullins

Impaire Et PasseやGaelic WarriorをはじめとするWillie Mullins軍団に対してイギリスのHermes Allenが人気になっていた。レースはChamp Kielyが前に行くも、これに外からHermes Allenが並んでいき2頭で引っ張る展開に。残り3障害あたりから後続が殺到し、やや苦しくなってきたHermes Allenに代わってGood Land、Gaelic Warrior等が前に出てくるも、内から出てきたImpaire Et Passeが直線抜け出すとそのままGaelic Warriorに6馬身差をつけて圧勝した。

Impaire Et PasseはこれでHurdleは3戦3勝とした。母系にSelle Francaisの種牡馬Usefulを持つAQPSで、祖母にはイタリアの障害競馬でも活躍したKel Ecossaiseを有するフランスの障害血統の出身である。内容的には逃げたChamp Kielyが外にいたHermes Allen以下を牽制するような動きを見せていたため内から抜けやすくなったというところはあるのだが、それでもGaelic Warrior以下をこれだけ突き放すのだから完勝と言っていいだろう。色々と騎手の動きを観察していると、さすがにCheltenhamの大一番なだけあってそれぞれが技を凝らした騎乗を見せているのだが、もはや小細工なしにこの馬の能力が一枚抜けていたと考えてよさそうだ。Maidenでは86馬身差の圧勝を見せたことで日本でも話題を集めたGaelic Warriorが2着で、どうにもレース選択としてはWillie Mullins厩舎の中ではやや格下の扱いを受けている感もあるのだが、とはいえこの馬も実力のあるところを見せてくれた。どうにも行きたがって走って道中で一気に位置を上げていたりと乗り難しそうなところはあるようで、今後のレース選択や気性の成長等を含めて楽しみな一頭である。もちろん、明らかに数段格下の馬ばかりが集まっていたMaidenの86馬身差の圧勝よりもこちらの2着の方が価値があることは言うまでもないのが、Maiden勝ちの際には無駄に取り上げていたnetkeibaのtwitterアカウントは例によってだんまりのようだ。

逃げたChamp KielyはGaelic Warriorから僅差の3着。この辺りはあまり差がなさそうだが、スムーズに運んだChamp Kielyと比較して難しさを見せていた分Gaelic Warriorの方に伸びしろとしては分がありそうだ。好調のMichael O'Sullivanを擁するGood Landは4着で、道中でも地味にスパートをかけやすいポジションに移っていたりとさすがの騎手の好調ぶりを見せていたのだが、今回はさすがに相手が強かったようだ。イギリスの代表格と目されていたHermes Allenは勝負所から後退しての大敗で、Harry Cobdenがこの馬のスピードを殺さずに飛越していたりと、さすがはPaul Nicholls厩舎のex-french horseの扱いの達人らしい騎乗を見せていたのだが、この大敗は今後に向けてやや残念なものであった。

 

Brown Advisory Novices' Chase (G1) 3m80y (Replay)

1. The Real Whacker J: Sam Twiston-Davies T: Patrick Neville

ここまで無敗のGerri Colomebeが人気を集めていた。レースはイギリスのThe Real Whackerが積極的に引っ張る展開で、好位からGerri Colombe、Galia Des Liteaux、さらにはBronn。下り坂の辺りから例によって後続が殺到するも、好位で進めていたBronnが抵抗するThe Real Whackerを引き連れて抜け出しを図る。しかしここからThe Real Whackerが抵抗し、最後は追い込んできたGerri Colombeを抑えて勝利した。

The Real WhackerはこれでChaseは3戦3勝とした。North YorkshireのLeyburnに拠点を構えるPatrick Neville厩舎の所属馬だが、合計で20頭余りの競争馬しか存在しない小規模な厩舎であり、かつオーナーは共同馬主のようだ*1。レース中継を見ていると関係者の喜びようは素晴らしく、やはりこのような陣営の馬がFestivalを勝つというのは競馬業界にとっても喜ばしいことである。レース内容としてはこの馬のやることはやり切ったというもので、やはりMahlerの産駒らしくスプリントを掛けたときのフォームは不格好なのだが、最後まで脚が極端に上がることなく耐えきるあたり、この馬のステイヤー資質の高さを感じさせるものであった。一方のGerri Colombeは道中のレース運びからさすがにパワーとスピードの持続性能の高さを見せていたのだが、やはりSaddler Makerの産駒らしくCheltenhamの下り坂での加速という点では一枚見劣っており、最後は追い込んできているだけに勿体ないレースになってしまった。勝ち馬との着順はもはや紙一重だろう。同様のことはやはり道中リズムよく運んでいたもう一頭のSaddler Makerの産駒Galia Des Liteauxにも言えることで、この2頭のレース運びはSaddler Makerの産駒の特性を考えるうえで興味深い結果となった。

Willie Mullins陣営の伏兵Bronnは人気薄ながら見せ場を作った。直線に入ってからはやや失速し前2頭とは突き放されてしまったが、Chase3戦目の馬がこれだけ見せ場を作れれば上出来だろう。人気を集めたアイルランドのSir Gerhardは2周目からじわじわと上がっていったが、下り坂の辺りから脱落し大敗に終わった。やはりChase2戦目ということで飛越にはまだ拙さが残っていたようで、飛越さえうまくなればここでもやれてもおかしくはないだけの能力は持っている。とはいえJeremyの産駒らしくやはりスピードの持続性能を生かすタイプのようで、いくらなんでもこのような飛越ではどうしようもないというのが現状だろう。Kauto Star Novices' Chase (G1)を勝ったイギリスのThyme Hillもさっぱりだったが、この馬もやはり依然と同様に飛越の点では拙さが残っていた。このようなタイプは馬群の中で飛越をさせるようなタイプではなく、ある程度車間距離を取った上でのびのびと飛越させた方がよいだけに、これはレース運びの問題だろう。

 

Coral Cup Handicap Hurdle (Premier Handicap) 2m5f (Replay)

1. Langer Dan J: Harry Skelton T: Dan Skelton

恒例の2m5fハンデ戦。レースはスタートの地点から逃げる構えを見せていたRachael BlackmoreのWatch House Crossが積極的に逃げる展開だが、好位で追いかけていたCamprondが最終コーナーを回って抜け出しを図る。Camprondは一時は後続にややリードを取るも、最終障害を越えて後続が殺到。内から抜けてきたLanger DanがAn Epic Songを抑えて勝利した。

Langer DanはCheltenham Festivalは4度目の挑戦でようやく勝利を上げた。2021年のMartin Pipe (Class2)ではGalopin Des Champsの2着に入っていたのだが、昨年の同レースでは早々に他馬のあおりを食らっての落馬に終わっており、大変うれしい勝利となった。レースとしてはやや最終障害でミスをしたCamprondに助けられたという点はあるのだが、とはいえCourse Specialistらしいこのコースの特徴を生かしたレース運びで、飛行機のポーズがお決まりとなったHarry Skelton騎手の騎乗も見事であった。やはり同様のレースで進めたAn Epic Songが2着に入り、アイルランド勢の強さを見せつける格好となった。人気になっていたGalileo産駒のHms Seahorseは馬群の中で揉まれての大敗で、このようなレースへの経験値という点でやや苦しかったような感がある。

 

Queen Mother Champion Chase (G1) 1m7f199y (Replay)

1. Energumene J: Paul Townend T: Willie Mullins

Clarence House Chase (G1)で好勝負を繰り広げたEnergumene、Edwardstone、Editeur Du Giteの再戦という構図となっていた。レースはそのEditeur Du Giteが積極的に逃げる展開も、これにEnergumeが執拗に絡んでいく。Greaneteen、Nube Negraもこれに絡みに行くも、ついていけずに徐々に脱落。Energumeneは残り3障害あたりから逃げたEditeur Du Giteを振り切ると、ついてきたCaptain Guinessを突き放し、終わってみれば持ったままで10馬身差の圧勝とした。

Energumeneはこのレースは連覇としたが、昨年は当面の相手と思われたShishikinやChacun Pour Soiの離脱もあり、かつこの馬自身Shishkinを警戒して控える競馬を試みたこともあり、今年とはだいぶ様相が異なっている。おそらく昨年のAscotでShishkinに差し切られたことが相当なトラウマとなっていたようだ。前走のClarence House Chase (G1)ではその流れでやはり控える競馬を試みていたのだが、結果的にこれが自身のレースに徹したEditeur Du Giteの逃げ切りを許す結果となっていた。一方で今回はこの馬本来のスピードの持続性能の高さを存分に生かす競馬を見せており、これが逃げたEditeur Du Giteを競り潰し、かつこのペースについていくことができたのは元来高いスピード能力を持ったCaptain Guinnessただ一頭という圧倒的なレースを見せることに繋がった。やはりこの馬は中途半端に控えるよりはこのようなレースでこそこの馬の良さを発揮できるといったところで、かつてこの路線を賑わせてくれたUn De Sceaux、Special Tiaraといった16f Chaseにおいて圧倒的なスピードで押し切るタイプの馬がようやくこの馬本来のレースを見せてくれたことを喜ばしく思う。ちなみにPaul Townend騎手は直線ではもはや馬上で笑顔を浮かべていたようだ。なお、フランス産のAQPSはこの日のBallymore Novices' Hurdle (G1)に続いての主要競争制覇となり、その欧州障害競争における重要性を改めて知らしめる結果となった。

このEnergumeneについていくことができたのは結果的にはCaptain Guinnessただ一頭となった。もともと高いスピード能力を持った馬なのだが、どうにも色々と乗り難しかったりと結果を残し切れていないところがある馬で、今回も3着以下は圧倒しているのだが、とはいえEnergumeneには肉薄できないあたりもったいないところがある。対抗角と思われたEdwardstoneはEnergumeneのペースにさっぱりついていくことができずの敗戦となった。ある程度ミドルペースからCheltenhamの坂を利用して加速できればこの馬の展開に持ち込むことができるのだが、今回は要するに展開としては完全にオーバーペース気味で、もはやどうしようもないだろう。能力的には距離を伸ばしても対応は可能なように思われる。Greaneteen、Nube Negraといったイギリス勢も同様で、ここまで高いスピードの絶対値が要求されるレースは近年のイギリス16f Chaseにはないものであった。Clarence House Chase (G1)を逃げ切ったEditeiur Du Giteは自身のレースをしており、さすがにEnergumeneにあそこまで来られると厳しいものがある。なお、今年のArkle Challenge Trohpy (G1)ではやはり激しく引っ張るタイプのDysart Dynamoが存在していたことを考えると、El Fabioloを筆頭とする今シーズンの16f Novice Chaseの上位勢がどこまでEnergumeneに対抗できるかは今後非常に楽しみになりそうだ。

 

Glenfarclas Cross Country Chase (Class 2) 3m6f37y (Replay)

1. Delta Work J: Keith Donoghue T: Gordon Elliott

元々Saint Godfroy、GalcoflaurといったPauのCross Country Specialistの登録もあったのだが、PauのGrand Crossでの諸々を踏まえて出走はなく、Grand Crossを勝ったHip Hop Contiを含めフランスからの出走もなく、出走馬としてはイギリス・アイルランド勢のみとなった。レースは前半から葦毛のSnow Leopardessが元気よく引っ張る展開も、少しずつこれに接近していったLieutenant Roccoが途中から先頭に。しかしさらにここから前に出たFrancky Du BerlaisをめがけてDelta Work、Galvinが動き始め、残り2障害あたりからはDelta WorkとGalvinの一騎打ちに。昨年のレースを彷彿とさせる終盤は昨年と同じくDelta Workに軍配が上がった。

Snow LeopardessはMartaline産駒の牝馬で、CheltenhamのCrossはこれが2戦目となる。Becher Chase (G3)で素晴らしいパフォーマンスを見せた昨シーズンとは異なり勝ち星は上げることはできてはいないのだが、とはいえ前走のGrand National Trial (Premier Handicap)でも2着に入っており、この馬なりに元気そうだ。飛越に関してもNational Fenceを易々と超えるだけの高い技術を持ったベテランの牝馬で、Martalineの産駒らしいパワーとスピードを生かしてAidan Coleman騎手がこのGlenfarclas Chaseにしては珍しいハイペースを作り出している。Snow Leopardessにとってもどうやらオーバーペース気味だったようでさすがに苦しくなっているのだが、結果的にはかなりレースとしては締まったハイレベルなCross Countryが作り出されている。

Delta Workは昨年から引き続き連覇とした。もともとアイルランド24f ChaseのG1クラスでも戦うだけの力を持った馬で、この馬にとってこのコースはもはや慣れたもので、飛越としてもほぼ問題はないものを見せていた。上記のSnow Leopardessのペースもこの馬にとっては全く問題がないもので、内容的には納得の勝利だろう。ただどうにも飛越としてはもたもたと飛ぶようなところもあり、Aintreeでは後手に回らないかという点が心配である。Cross Countryは初参戦となったGalvinは強敵相手に見せ場を作っての2着で、どうも今シーズンはG1クラスではいまいちな結果を見せていたのだが、この馬の新たな可能性を示すレースとなった。この馬にとってもSnow Leopardessのペースは特に問題はなかったようで、まだ9歳と若い馬であり、過去にはNational Hunt Challenge Cup (G2)をはじめ超長距離への適正を有することを考えると、この路線では非常に面白い存在となるだろう。

8歳のFranco De Portは最後遅れて3着。どうにも飛越の面でやや追走に苦労しているところはあったのだが、とはいえこの馬もCross Countryは初めてであることを考えれば十分な内容だろう。Grand Steeplechase de Paris (G1)を含め、Chaseの大舞台を渡り歩いてきた馬で、この路線でも可能性を示したことは大したものである。面白いのがFrancky Du Berlaisで、終盤苦しくなった結果最終障害で飛越拒否には終わっているのだが、そこまではなかなかいいレースを見せていた。Market Rasenの夏の重賞で結果を残してきたようにスピード自体はあるタイプで、もしかすると馬場がさらに良ければこの路線でもやれるかもしれない。遡ればNovice Chase重賞でも良績のあるLieutenant Rocco、2018年のNeville Hotels Novice Chase (G1)ではDelta Workの2着に入ったMortalと続き、このレースの性質を考えるうえでは面白い着順となった。一方でDiesel D'Allier、Plan of AttackといったこのCheltenhamのCross Country Specialistはいずれもさっぱりで、ここまでのGlenfarclas Crossとは性質の異なるレースであることを示す結果となった。2020年の勝ち馬Easyslandもいたのだが、全く走る気を見せずの途中棄権に終わった。フランス時代はPauやCheltenham等でトップクラスのパフォーマンスを見せていた馬だが、イギリスの現厩舎への移籍後の成績はからきしで、なんとかかつての走りをもう一度見たいところなのだが、現状ではイギリス移籍が完全に裏目に出ており残念な状況である。

 

Johnny Henderson Grand Annual Challenge Cup Handicap Chase (Premier Handicap) 1m7f199y (Replay)

1. Maskada J: Darragh O'Keeffe T: Henry de Bromhead

恒例の2マイルHandicap Chase重賞。例によって11歳となったGlobal Citizenが軽快に引っ張る展開で、馬群はだいぶ長くなる。残り3障害あたりからDinoblueが前に出るも、内から抜けてきたMaskadaがDinoblue、Global Citizenを突き放して快勝した。

Maskadaは今シーズンはLimerickのTim Duggan Memorial (Grade B)に続き重賞は2勝目とした。元々はStuartt Edmunds厩舎に所属しLeicesterのListedを勝った実績のある馬だが、昨年の春から現厩舎に移籍している。さすがにBarbestown Castle Novice Chase (G1)ではBlue Lord相手に苦しかったようだが、Handicap Chaseならではといったところだろう。今回は16fに距離を短縮して結果を残した。これがChase4戦目の牝馬Dinoblueは見せ場を作っての2着で、ここまでそのほとんどが牝馬限定戦であったのだが、いきなり多頭数のハンデ戦でこれだけやれるのは大したものである。ただし斤量的には10st13lbという恩恵はあった。11歳のGlobal Citizenは連覇を狙って元気いっぱい進めたが、最後は捕まっての3着で、この馬のやるべきことはやり切ったといったところだろう。11歳になって2マイルセンでこれだけ前向きなレースを見せるというのはやはり驚くべきことであり、ベテランが躍動する姿というのは見ていて気持ちのいいものである。

 

〇 Champion Bumper (G1) 2m87y (Replay)

1. A Dream To Share J: Mr. John Gleeson T: John Kiely

後方から進めたA Dream To ShareがFact to File、Captain Teague等を退けて勝利した。A Dream To ShareはJohn Gleesonの両親であるClaire GleesonとBrian Gleesonによって生産された馬で、現在はJP McManusによって購入されている*2。今年で18歳となる学生で、Cheltenham Festivalは初騎乗となるJohn Gleeson騎手にとっては両親の生産した馬による嬉しい勝利となった。ちなみに"A Dream To Share"という名前はClaire Gleesonによって名付けられたそうだ*3。85歳となったJohn Kiely調教師にとってもキャリアの中で初のFestivalでの勝利となったようで、このFestivalで優勝した最年長の調教師となったそうだ*4