にげうまメモ

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23/03/16 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

3/16(木)

Cheltenham (UK) Soft (Good to Soft in places)

Turners Novices' Chase (G1) 2m3f168y (Replay)

1. Stage Star J: Harry Cobden T: Paul Nicholls

Cheltenham Festival3日目。Jack Kennedyの離脱を受けて一時的に現役に復帰したDavy Russellを擁するアイルランドのMighty Potterが人気になっていた。レースはイギリスのStage Starが逃げる展開で、これをNotlongtillmayが追いかける。Mighty Potter、Appriciate Itが坂を下りながらこれに接近を試みるも、どうにも前がふさがって前に出てこれない。一時は前に出たNotlongtillmayを内から抵抗したStage Starが振り切って勝利した。Mighty Potterは外に膨れながらも追い込んだが3着まで。

Stage StarはこれでChaseは5戦4勝とした。HurdleではTolworth Hurdle (G1)の勝ち星がある馬で、どうにもノドの問題があるようだが、基本的に強い体幹に支えられたしっかりとした飛越を武器とする馬で、今回は自身のペースでリズムよく進めた利が大きかった。格下のNotlongtillmayが一時的に前に出ようと試みているのだが、そこからCheltenhamの上り坂でしっかりとこれを退ける辺り、この馬のスプリント能力を含めた強さが光る内容となった。とはいえどうにもMighty Potterをはじめとする人気上位馬のミスに助けられたという面は否めないだろう。ひとまずイギリスを代表する名門Paul Nicholls厩舎としては2020年以来のFestival Winnerのようで、近年不調が続くイギリス勢としてこれは喜ばしいところではあるのだが、将来性というところではレースの内容に注意しておいた方がよさそうだ。一方のMighty Potterはもったいない競馬となった。ここまでG1は4勝、ChaseでもG1を2勝している実力馬なのだが、今回は勝負所でWillie Mullins陣営のJames Du Berlaisが外から進路を締めにきており、前にいたNotlongtillmayもリズムよく運んでいたため、結果的にCheltanhamの下り坂での加速に失敗している。パワーのあるスピードの持続性能を武器とするMartalineの産駒にとってこれが致命的なミスとなった。一時的に現役に復帰しているアイルランドを代表する名手Davy RussellのFestival勝利を見たかったのだが、競馬とはなかなか難しいものである。

Musselbrughで連勝してきたNotlongtillmayは見せ場を作っての2着。Stage Starののんびりとしたペースを好位で追走し、かつ実力馬のミスにより助けられた面は大きかったのだが、とはいえ勝負所では一旦はStage Starを退ける勢いで出てきたこの馬のパフォーマンスは覚えておきたい。距離を延長してきた実績馬Appriciate Itは差のない4着だが、直線では内に急激に切れ込むような仕草を見せていた。この馬もまた下り坂での加速に失敗したものだが、Paul Townend騎手としてはもしかするとこのような仕草を警戒して内を狙っていた可能性もありそうだ。距離を延長してきたことにより馬が引っかかる可能性を警戒した可能性もありそうだが、最後はやや伸び脚としては微妙であった辺り、この距離は長いという可能性はありそうだ。

 

Pertemps Network Final Handicap Hurdle (Premier Handicap) 2m7f213y (Replay)

1. Good Time Jonny J: Liam McKenna T: Tony Martin

恒例のハンデ戦。例によって馬群は密集してレースは進行するも、坂を下る辺りから出てきたGreen Bookが抜け出しを図る。そのままGreen Bookはコースの真ん中に出て押し切りを狙うが、内と外から後続が殺到。外からいいリズムで出てきたMill Greenが前を狙うも、最内を縫って出てきたGood Time JonnyがSalvador Ziggy以下に3馬身差をつけて勝利した。

Good Time Jonnyは昨シーズンのアイルランドのLeopardstownでPaddy Power 'I'd Love A Can But Pnts Are Cheaper' Handicap Hurdle (Grade B)というよくわからない名前のハンデ戦を勝っている馬で、重賞はこれで2勝目とした。さすがにAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)などG1路線では厳しかったようだが、基本的には24fのHandicap戦で力を発揮するタイプといったところだろう。今シーズンはChaseにも挑戦しているが、結局いいところはなく終わっている辺り、このままHurdleを使うことになりそうだ。レースとしては全体が外を狙って前掛かりに出ていく中、結果的に最内のコースが空き、さらにワンテンポ遅らせて出てきたLiam McKenna騎手の騎乗が目立つ内容であった。11st7lbを背負ったSalvador Ziggyが2着。11歳のMill Greenも頑張って3着に来た。

 

Ryanair Chase (G1) 2m4f127y (Replay)

1. Envoi Allen J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

Ascotで強い競馬を見せ、素質馬の復活と持て囃されたShishkinの参戦で注目が集まっていた。レースは11歳となったChacun Pour Soiが軽快に逃げる展開も、馬群は密集して進行。好位からHitman、Envoi Allen。Shishkinも好位から進めるが、残り3障害地点で大きなミス。残り2障害あたりから前に出てきたEnvoi AllenがHitmanを振り切ると、追い込んできたShishkinをしのいで勝利した。

Envoi Allenはこれで3度目のCheltenham Festivalでの勝利とした。Gordon Elliott厩舎の騒動に巻き込まれてHenry de Bromhead厩舎に移籍してからはどうにも順調ではなかったようで、16fを使ったり24fを試したりと、どうにもレース選択も含めて苦労していたようだ。今シーズンは24f路線に参戦し、Down RoyalのChampion Chase (G1)は勝利したのだが、その後のKing George VI Chase (G1)では大敗していた。どうにも基本的に24fは長いようで、一方で16fのトップクラスのスピードに対応するだけのスピードはないというどっちつかずなところがありそうで、ある程度のんびりと進めることができれば24fでも距離的には持つようだが、基本的にはやはりこの距離の馬なのだろう。今回はChacun Pour Soiが緩めずに引っ張ったということもあって、ある程度のスピードは持っているこの馬としては比較的レースがしやすくなったような感もある。決め手という点では比較的いいものを持っている馬で、この馬の守備範囲に入るかどうかは注意してみておいた方がよさそうだ。

一方のShishkinは道中で大きなミスがあっての2着。昨年のQueen Mother Champion Chase (G1)では馬場を嫌って途中棄権に終わっていたのだが、どうにもCheltenhamのChase Courseというのはこの馬にとっては鬼門のような状態になっている。リズムよく運んだEnvoi Allenを猛追するあたりはさすがといったところだが、CheltenhamのChase Courseに対して苦手意識を持っていないかは今後はやや注意した方がいいかもしれない。おそらく距離的にはもっと長くなっても持ちそうな感もあるのだが、どうにも近年のイギリス屈指の素質馬がこのChltenhamの大舞台では苦労しているというのが現状である。上がり馬Hitmanは強敵相手に健闘しての3着だが、French Dynamite、Ga Low、さらにはFury Roadと実績的には格下の馬も含めてあまり差のないところまで来ている辺り、ペースとしては締まったものとはいえあまり厳しいものではなかったような感があり、レースレベルも含めてこの着順と着差はあまり信用しにくいところもある。少なくともHitmanについては前々でリズムよく運んだ利もありそうだ。Dublin Festivalで強い競馬を見せたBlue Lordは勝負所から脱落しての大敗。距離的なものなのか、Cheltenhamの坂がダメなのかは微妙なところだが、Arkle Challenge Trophy (G1)でもEdwardstoneにあっさりと突き放されている辺り、どうにもCheltenham向きという馬ではなさそうだ。11歳となったChacun Pour Soiはこの馬のレースはしたのだが、とはいえ20fのメンバー相手にもスピードで圧倒できないように、さすがに年齢的なところが大きそうだ。おそらくこの馬の全盛期のスピードであれば今回のメンバーではShishkinを除けば手も足も出なかったものと思われる。20fの距離も本質的には長そうで、馬自身はまだレースへの前向きさは失っていないようだが、今シーズンは大きくパフォーマンスを落としているかつてのチャンピオンをここに出してきたのは馬にとっては少々気の毒であった。

 

Stayers' Hurdle (G1) 2m7f213y (Replay)

1. Sire Du Berlais J: Mark Walsh T: Gordon Elliott

3連覇を狙うFlooring Porterの出走に加え、フランスからGold Tweet、Henri Le Farceurの2頭の参戦があり、ここまで大荒れの前哨戦の内容のわりにメンバーとしてはなかなかの顔ぶれとなった。レースはそのFlooring Porterが元気いっぱい逃げる展開で、隊列としてはかなり長くなる。勝負所からDashel Drasher、Teahupoo、Blazing Khalなどが接近し、その中からDashel Drasherが抜け出しを図るも、最内から抜けてきたSire Du BerlaisがDashel Drasher以下を抑えて勝利した。

Sire Du Berlaisは遡れば2019年及び2020年のPertemps Final (G3)での勝利、2021年のこのレースはFlooring Porterの2着に入っていたCourse Specialistで、2022年のLiverpool Hurdle (G1)でもFlooring Porterを下して勝利している。とはいえ今シーズンはここまで4戦するも微塵もいいところはなく、11歳という年齢的なところが懸念され大きく人気を落としていた。とはいえこの4戦は全く走る気を見せずに終わっていた辺り、あくまでまともに走ればというところだろう。印象的な深いブリンカーはもはやこの馬のトレードマークになっており、もはやこれが奏功したという可能性も考えにくいのだが、Cheltenhamの大舞台で馬が何か思い出したのかもしれない。高齢馬というのはわからないものである。

3連覇を狙ったFlooring Porterはやはり1年ぶりのレースということで、道中は馬がだいぶ力んで走るような場面があった。基本的にこのような締まったペースを作り出す馬で、その中でペースをCheltenhamの起伏に合わせて自在に操ることで後続を完封するレースがこの馬の勝ちパターンであった。結果的にこの展開により、Tehupoo、Dashel Drasherなどそれなりに前に早めに出てきた馬が上位を占めるに至っている。とはいえやはり驚きだったのが10歳のDashel Drasherだろう。基本的に前々で進めてしぶとく粘り込むレースを得意とする馬だけに、今回のFlooring Porterのレースはこの馬にとってはやりやすいものであった。残念ながら直線での進路どりが原因で3着に降着にはなっているが、レースの内容的には素晴らしいものであった。前哨戦で強いレースを見せたTeahupooはここでも3位入線と結果を残しており、直線で前が壁になる場面がなければSire Du Berlaisに対して逆転まであったかもしれない。いずれにせよ、5着のHome By The Leeまであまり差のない入線となっており、上記の通り展開による助けもあったような感もあるが、とはいえ混戦が続くこの路線の世代交代を感じさせるレースとなった。

後方から進めたPaisley Parkは前に肉薄できずの大敗に終わった。さすがにFlooring Porterのペースであそこまで後ろにいては何もできない。他馬よりも長くしぶとく伸び続けるロングスパートを武器にする馬だが、絶対的なスピードを武器にするタイプではないため、ある程度ロングスパートをかけて届く位置にいなければいけないのだが、とはいえFlooring Porter自身もロングスパートをかけるようなペースを作っているため、いくらなんでもあの位置ではどうしようもないだろう。フランスのGold Tweetも馬のタイプは異なるとはいえ敗因としてはPaisley Parkと同様で、前哨戦ではワンペースで流れたことでじわじわと押し上げていくことに成功したのだが、前回とはFlooring Porterのペースではあまりにもレースの性質が違い過ぎた。後方でぼんやり追走していたKlassical Dreamもなにもせずの大敗で、Henri Le Farceurともども、フランス的なスピードの持続性能を武器とするどちらかというとワンペース型の馬は後方に構えたこともあってなにもできない結果となった。ただし、フランスからの参戦があったことは喜ばしいことで、イギリスで結果を残したGold Tweet、さらにフランスHaiesでは2番手クラスに位置するHenri Le Farceurと、なかなかメンバーとしては濃いものであり、どうにもフランスに対して賞金額等の面から劣勢な感もあるイギリス障害競馬としてはこの流れが続いて欲しいところではある。

 

Magners Plate Handicap Chase (Premier Handicap) 2m4f127y (Replay)

1. Seddon J: Ben Harvey T: John McConnell

例によってCoole Codyが積極的に引っ張る展開も、残り3障害あたりから後続が殺到。Coole Codyと並んで元気よく運んでいたSeddonがここから抜け出すと、Fugitif以下に2馬身ほどの差をつけて勝利した。

Seddonは今シーズンはこれでLeopardstownのHandicap Chaseを含めて3連勝とした。元々はイギリスにいた馬で、イギリスではClass3辺りをうろうろしていた程度なのだが、現厩舎に移籍してからかなり馬が変わってきているようだ。レースの内容としてはCourse SpecialistらしいCheltenhamの形態を味方につけたもので、同様に有名なCourse SpecialistであるCoole Cody顔負けのレースを見せていた。後方から進めた11st6lbのFugitifが2着で、前走のPaddy Power Cheltenham Countdown Podcast Handicap (Premier Handicap)でも2着に入っており、この馬の好調ぶりを改めて示すことになった。昨日からしばしば話題に挙げているSaddler Makerの産駒であるGevreyは勝負所からおいていかれるも、そこから猛然と追い上げて4着に入り、先日からのSaddler Makerの産駒らしいレース振りを見せていた。

 

Jack de Bromhead Mares' Novices' Hurdle (G2) 2m179y (Replay)

1. You Wear It Well J: Gavin Sheehan T: Jamie Snowden

通常はDawn Run Mares' Novices' Hurdleとして行われる競走だが、先日事故で亡くなったJack de Bromheadを追悼する競走として行われた。レースは前々で軽快に逃げたYou Wear It WellがそのままHenry de Bromhead厩舎のMagical Zoeをしのいで勝利した。

You Wear It WellはこれでHurdleは5戦4勝とした。唯一敗れたのがChallow Novices' Hurdle (G1)で、先日のSupreme Novices' Hurdle (G1)ではさっぱりな結果に終わったHermes Allenが相手ではあったのだが、その後のJane Seymour Mares' Novices' Hurdle (G2)は圧勝していた。イギリス勢ということやレースの特性を考えてやや人気を落としてはいたのだが、とはいえ最後まで危なげのない走りを見せた。上記SupremeでのHermes Allenの大敗はやや不可解なのだが、Your Wear It Wellの走りを考えるとなにかしら大きくパフォーマンスを落とす原因があったと考えた方がよさそうだ。Henry de Bromhead厩舎のMagical Zoeが2着で、レース運びとしてはYou Wear It Wellと比べてやや難しいものになってしまったことを考えると、内容的には同格以上のものを考えておいてもいいかもしれない。Maidenを勝ったばかりのPrincess Zoeも出走しており、馬群の中から進めたが5着に終わった。キャリア1戦の馬がここまでのレースをできるというのはやや驚きなのだが、Cheltenhamの広いコースで真っ向からスピード勝負を挑まず、あえて馬群の中で飛越させて抜けてくるレース運びはこの馬の性質を考えると正攻法のやり方であり、かつ今後の障害馬としてのキャリアを構築するうえでは有意義なものであったように思われる。