にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

23/10/19 英Grand Nationalにおける軽量馬に関する考察

*英Grand Nationalに関する変更について

THE JOCKEY CLUB ANNOUNCES CHANGES TO THE RANDOX GRAND NATIONAL AS PART OF RELENTLESS FOCUS ON HORSE WELFARE (The Jockey Club)

2023年10月12日付で、英Jockey Clubは2024年の英Grand National (Premier Handicap)において動物福祉及び安全性の向上を目的とした大規模な施策を実施することを発表した。約200万ポンドを費やすこの大規模な施策の中には多数の設備投資も含まれるが、出走馬に対する要件として最低レーティングの引き上げ(125→130)及び最大出走頭数の減少(40→34)が含まれている。この変更に伴い、例年最大出走頭数を大幅に超える登録馬を集め、その出走にはそれなりに高いレーティングを要求されてきた英Grand Nationalの出走はさらに厳しくなることが想定される。本稿では過去の英Grand Nationalにおける出走順35~40番目の出走馬に焦点を当て、これらの出走馬集団の性質及び上記変更がもたらす影響について考察する。

なお、2023年英Grand Nationalに生じたアクシデント及び当該事件に対する業界側の議論等については以下の記事を参照されたい。

23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Result (にげうまメモ)

安全性に係る議論は2023年のVelká Pardubickáにおいても行われている。

23/10/08 Czech Racing - Velká Pardubická Result (にげうまメモ)

当ブログに掲載している文章及び画像・データ等に関する取扱いについてはaboutページを参照されたい。それなりに刺々しいことを書いているが、中の人は(特にバズり目的のインフルエンサー等により)データ等が誤って解釈され独り歩きすることを懸念している。

このブログについて (にげうまメモ)

 

本稿では2000~2023年の英Grand Nationalについて、出走順35~40番目の出走馬(以下、「軽量馬群」)に関するRating、Weight(long handicapを含む)及び着順等をRacing Postのデータベースに基づき抽出した。なお、2020年はCOVID-19の影響でGrand National自体が中止となっていることに留意されたい。出走順40番目及び35番目の馬の一覧は以下のとおりである。

Year Horse Rating  Weight
2023  Born By The Sea (IRE) 143 10st2lb oh6 
2022 Fortescue (GB) 143 10st6lb
2021 Blaklion (GB) 145 10st2lb
2019 Joe Farrell (IRE) 142 10st2lb
2018 Road To Riches (IRE) 142 10st5lb
2017 Doctor Harper (IRE) 143 10st6lb
2016 The Romford Pele (IRE) 145 10st4lb
2015 Royale Knight (GB) 139 10st2lb
2014 Swing Bill (FR) 138 10st1lb
2013 Viking Blond (FR) 131 10st0lb oh3
2012 Neptune Equester (GB) 137 10st0lb oh5
2011 Golden Kite (IRE) 138 10st2lb
2010 Royal Rosa (FR)*1 139 10st5lb
2009 Zabenz (NZ) 139 10st5lb
2008 Dun Doire (IRE) 137 10st7lb
2007 Le Duc (FR) 134 10st2lb
2006 Just In Debt (IRE) 134 10st4lb
2005 L'Aventure (FR) (SF) 134 10st5lb
2004 Luzcadou (FR) 129 10st0lb oh9
2003 Empereur River (FR) (SF)  132 10st0lb oh2
2002 Supreme Charm (IRE) 132 10st0lb oh2
2001 Supreme Charm (IRE) 129 10st0lb oh6
2000 Celtic Giant (GB) 127 10st0lb oh7

Table 1 2000~2023年英Grand Nationalにおける出走順40番目の出走馬一覧

 

Year Horse Rating  Weight
2023  Our Power (IRE) 143 10st2lb oh2 
2022 Blaklion (GB) 145 10st8lb
2021 Minella Times (IRE) 146 10st3lb
2019 Livelovelough (IRE) 144 10st4lb
2018 Houblon Des Obeaux (FR)  144 10st7lb
2017 Cocktails At Dawn (GB) 145 10st8lb
2016 Hadrian's Approach (IRE) 147 10st6lb
2015 River Choice (FR) 140 10st5lb
2014 Rose Of The Moon (IRE) 140 10st3lb
2013 Auroras Encore (IRE) 137 10st3lb
2012 Midnight Haze (GB) 137 10st0lb
2011 Character Building (IRE) 140 10st4lb
2010 Irish Raptor (IRE) 141 10st7lb
2009 Himalayan Trail (GB) 140 10st6lb
2008 Kelami (FR) (SF) 139 10st9lb
2007 Mckelvey (IRE) 136 10st4lb
2006 Direct Access (IRE) 136 10st6lb
2005 Merchants Friends (IRE) 135 10st6lb
2004 Blowing Wind (FR) 130 10st1lb
2003 Djeddah (FR) (SF) 133 10st1lb
2002 Spot Thedifference (IRE) 132 10st0lb oh1
2001 Feels Like Gold (IRE) 129 10st0lb oh4
2000 Art Prince (IRE) 127 10st0lb oh4

Table 2 2000~2023年英Grand Nationalにおける出走順35番目の出走馬一覧

2000年代初頭は毎年のように発生していたlong handicap(out of handicap)は近年は少なくなっており、2023年はlong handicapが発生したもののこれは約10年ぶりの出来事であった。この年は出走順33番目のRecite A Prayer以下の馬がlong handicapとなったが*2、これは2023年においてトップハンデを背負ったAny Second Nowのレーティングが167と、近年においても比較的高値であったことにも一部起因すると思われるが(2022年:Minella Times 161、2021年:Bristol De Mai 167、2019年:Anibale Fly 164、2018年:Blaklion 161、2017年:The Last Samuri 161)、一方で出走可能となった馬の最低レーティングが143と、全体的な出走馬のレーティングの分布としては近年珍しく広いものとなっていたことに起因すると思われる。いずれにせよ、過去は130そこそこで推移していた最低レーティングは年々上昇しており、ここ8年ほどは140台半ば、それも145が最低限出走に必要なレーティングであったと考えていいだろう。出走順35番目の出走馬のレーティングを踏まえると、出走順34番目までに入るにはレーティングとして145~148程度は必要になるものと思われる。1999年~2011年における統計情報(2011年のBHAによるGrand NationalのReview of Safety and welfare)においても同様の傾向を示しており、やはり全体的に出走に必要なレーティングの増加が認められる*3。なお2023年10月19日現在、British Horseracing Authority(BHA)のRatings DatabaseでChaseカテゴリーのレーティング145を保有している馬はSail Away、Kinondo Kwetu、Fantastic Lady、Caribean Boy、Iceo、Minella Trump、Monmiral、Galia Des Liteaux、A Different Kind、Highland Hunterである*4。Minella Trumpの場合は2022年2月のEdinburgh Gin Handicap Chase (Class 3)において11st12lbを背負って勝利した際*5、Monmiralは2023年1月にDipper Novices' Chase (G2)にてThe Real Whackerの2着に入った際にレーティング145を獲得している*6

なお、上記リストのうち2010年のRoyal Rosaは正確にはReserveであるが*7、出走順39番目のFlintoffと同数値のレーティングを有すること、もともと出走順40番目の馬の代替として出走したことから調査対象とした。中の人が当初気が付かずに解析対象としたという説もある。いずれにせよ、Garde Royaleの産駒である同馬は2010年は落馬に終わっているが、2011年にも出走順38番目、10st3lbを背負って同レースに出走し、18着に入っている。なお、同馬は2010年及び2011年のBecher Chase (Listed)でも好走したNational Specialistである。

上記の中で、Zabenzというニュージーランド生産馬は近年ではなかなか面白い存在だろう。Zabenzは2002年にFlemingtonのVIC州Grand National Hurdleを勝利した馬で*8、その年の夏にはアメリカに遠征、SaratogaのNew York Turf Writers Cup (G1)を制している*9。2004年からイギリスに移籍するも*10Stan James Feltham Novices' Chase (G1)にて2着に入ったのが最高と結果は残せず、2009年のこの競走はPoint-to-Pointを連勝し挑むも落馬に終わっている。2010年代頃まで南半球生産馬はイギリス障害競馬においてそれなりに見かけたようだが、近年はめっきり少なくなり*11、2020~21年頃にはQueensland Oaksの勝ち馬Miss Keepsakeの産駒であり、Black Caviarの生産者であるオーストラリアGilgai Farmで生産されたThalitleozibatlerがWillie Mullins厩舎からデビューするも*12、5戦してさっぱりいいところはなく、その後の行方は不明である。なお、2015年に出走順35番目の馬として出走したRiver ChoiceはフランスRichard Chotard厩舎の調教馬であるが、早々に落馬に終わっている。過去にはフランスからの英Grand National参戦馬はあのThe Fellowを含めてそれなりにいたようだが、2023年現在、フランス調教馬としてはこの馬が最後の英Grand National参戦となっている。

 

Figure 1 2000~2023年英Grand Nationalにおける出走順35~40番目及びReserveの出走馬(軽量馬群)の成績(頭数)

Figure 1に軽量馬群全138頭の各成績における頭数(縦軸)を示す。2000~2023年の英Grand Nationalにおいて、軽量馬群から2頭の勝ち馬を輩出している。最も記憶に新しいのは2021年のMinella Timesで、この馬の出走順35番目、レーティングは146、斤量は10st3lbであった。これはRachael Blackmoreによる女性騎手初のGrand National制覇として、世界の競馬史に残る歴史的なレースとなった*13。加えて、2013年のAuroras Encoreもまた出走順35番目で、レーティングは137、斤量は10st3lbであった。これは単勝オッズ66/1という近年の英Grand Nationalでは稀に見る高配当で、"Huge shock in the National"という実況の台詞が印象的な年であった。これ以上の高配当としては2009年のMon Momeの100/1が挙げられる。そのほか、2007年において2着に入ったMckelvey(出走順35、レーティング136、斤量は10st4lb)、2018年において3着に入ったBless The Wings(出走順36、レーティング143、斤量10st6lb)、2005年において3着に入ったSimply Gifted(出走順36、レーティング135、斤量10st6lb)が軽量馬群の中で好成績を残した馬として挙げられる。

2000~2023年の軽量馬群全138頭における完走率は41.30%、落馬率(Fall / Unseated Rider)は37.68%となった。これは2000~2022年の英Grand Nationalにおける全体の完走率38.26%及び落馬率37.92%とほぼ変わらない数値であり*14、特段この集団が際立って競争力を持ったレースへの参戦に支障を生じているわけではないと考えられる。なお、全体の数値の算出には以前の記事の際に集計したデータを利用しており、けしからんことに中の人が手を抜いたため2023年のデータは含まないことに留意されたい。

Figure 2 2000~2023年英Grand Nationalにおける出走順35~40番目の出走馬(軽量馬群)の成績(年代別)(%)

Figure 3 2000~2023年英Grand Nationalにおける出走順35~40番目及びReserveの出走馬(軽量馬群)の完走率及び落馬率(年代別)(%)

Figure 4 2000~2022年英Grand Nationalにおける全体の完走率及び落馬率(年代別)(%)

一方で、上記Figure 1を年代別に分類すると明確な差異が認められる。Figure 2に示すとおり、2000~2009年における軽量馬群の落馬率は2010年以降と比較して著しく高く、完走率もまた著しく低いことが認められる。2010~2019年及び2000~2009年においてはいずれの軽量馬群においても延べ60頭が該当することを踏まえると、近年は軽量馬群における途中棄権率の低下もまた認められるものの、完走率の変化に影響した要因として落馬率の低下が比較的大きな影響を及ぼしたと考えてよいだろう。上記Table 1及び2で示した通り、年を経るごとに軽量馬群の保有するレーティングは増加傾向にある。加えてFigure 4に全体の完走率及び落馬率を示しており、全体としても落馬率の低下及び完走率の増加傾向が認められるが、軽量馬群ほど劇的な変化は認められない。2012年には2011年における事故を受け、コース全体の安全対策及び動物福祉が見直されたことにより、2000~2009年及び2010~2022年の各障害における落馬率には差異が生じている*15。従って、2000~2009年と2010~2019年とでAintreeのNational Courseの性質自体等が変化したことによる影響が存在する可能性も十分に考えられるものの、上記レーティングの増加傾向に基づく軽量馬群の質の変化についても併せて考えた方がよさそうだ。このデータに加えて、軽量馬群で好成績を収めた馬の多くが2010年以降に現れていることを踏まえると、近年においては軽量馬群のレースにおける競争力の向上が生じていたことが示唆されるだろう。

なお、今般の調査では含めなかったが、2000~2022年にかけて英Grand NationalにはReserve(予備馬)システムが存在した。これは出走順41~44番目の馬をReserveに割り当てておき、もともと出走を予定していた馬の出走取消によりReserveの馬が順番に出走可能となるシステムで、2000~2022年においては延べ12頭の馬がレースに出走している。しかしながらその殆どが競争中止に終わっており、完走したのは2022年のRomain De Senam及びCommodoreのみ、しかしながらそのいずれもが大敗と、出走馬が少なかったとはいえ今般対象とした軽量馬群と比較しても競争力が低いことが推測される*16。そもそも当該システムは2023年にはFergal O'Brien調教師の文句とともに*17廃止されており、出走順が41~44番目の馬が割り当てられることから軽量馬群とは性質が異なる可能性も考え得ること等を踏まえ、今般の調査対象とはしていない。

Figure 5 2010~2023年英Grand Nationalにおける各出走順カテゴリーに関する完走率・好走率・落馬率(%)

Figure 5に、2010~2023年英Grand Nationalにおける出走順1~10、11~20、21~30、31~34及び35~40番目(軽量馬群)の完走率、好走率、落馬率(Fall / Unseated Rider)を示す。好走率は延べ出走頭数に対する5着以内に入った延べ頭数と定義した。Figure 5に示す通り、完走率、好走率、落馬率に若干の差異はあれど、各カテゴリーにおいて大きな数値の差異は認められない。今般調査対象とした軽量馬群(出走順35~40)においても、特段これらの数値に他のカテゴリーと大きな差異は認められておらず(むしろ完走率については比較的高値であるとすら考えられる)、特段この集団の馬がレースにおける競争力の面で見劣るわけではないと考えていいだろう。なお、出走順31~34の出走馬群について、他のカテゴリーと比較した際の完走率及び好走率の低値及び落馬率の高値が認められる。この集団について、2010~2023年において5着以内に入ったのは2021年のFarclas(出走順34、5着)及び2016年のVics Canvas(出走順32、3着)の2頭のみである。当該カテゴリーの総数は51頭と他よりも少なく、数値的な誤差の範囲である可能性が考えられるが、この理由については更なる解析が必要であろう。

Year Number  Horse OR Weight  Position  SP 
2023  35 Our Power 143  10st2lb 11 25/1
2023 39 Back On The Lash 143 10st2lb PU 22/1
2022 36 Poker Party 145 10st8lb PU 36/1
2022 37 Death Duty 144 10st7lb UR 33/1
2022 39 Eclair Surf 143 10st6lb F 14/1
2022 40 Fortescue 143 10st6lb UR 28/1
2021 35 Minella Times 146 10st3lb 1 11/1
2019 35 Livelovelough 144 10st4lb 11 25/1
2019 36 Walk In The Mill 144 10st4lb 4 25/1
2019 40 Joe Farrell 142 10st2lb PU 14/1
2018 35 Houblon Des Obeaux 144 10st7lb F 25/1
2018 36 Bless The Wings 143 10st6lb 3 40/1
2018 37 Milansbar 143 10st6lb 5 25/1
2018 38 Final Nudge 143 10st6lb F 33/1
2018 40 Road To Riches 142 10st5lb 6 33/1
2017 35 Cocktails At Dawn 145 10st8lb F 33/1
2017 36 Thunder And Roses 144 10st7lb UR 25/1
2016 38 Saint Are 146 10st5lb PU 16/1
2016 40 The Romford Pele 145 10st4lb UR 33/1
2015 36 Court By Surprise 140 10st3lb PU 33/1
2015 37 Alvarado 140 10st3lb 4 20/1
2015 38 Soll 139 10st2lb 9 9/1
2015 40 Royale Knight 139 10st2lb 6 25/1
2014 36 Shakalakaboomboom  140 10st3lb PU 16/1
2014 37 Alvarado 139 10st2lb 4 33/1
2014 39 One In A Milan 139 10st2lb F 40/1
2013 39 Soll 132 10st0lb 7 33/1
2012 39 Hello Bud 137 10st0lb 7 33/1
2011 35 Character Building 140 10st4lb 15 25/1
2011 37 Arbor Supreme 139 10st3lb F 20/1
2011 39 Skippers Brig 138 10st2lb 9 33/1
2010 35 Irish Raptor 141 10st7lb F 33/1
2010 38 Hello Bud 140 10st6lb 5 20/1

Table 3 2010~2023年英Grand Nationalにおける単勝オッズ40/1以下の出走順35~40番目の出走馬一覧

Table 3に、2010~2023年英Grand Nationalにおいて、ある程度人気を集めた軽量馬群の一覧を示す。上記2021年の覇者Minella Timesは同年においても11/1と比較的人気を集めた有力馬であるが、それ以外にも多数のNational Specialistが含まれていた。2016年に出走順38番目で挑んだSaint Areは有名なNational Specialistで、2015年の同レースはMany Cloudsの2着、2017年の同レースはOne For Arthurの3着と頑張っている。現役生活を通じて計5回もの英Grand National出走歴を有することに加え、それ以外にもBecher Chase (G3)への計3回の出走歴も有する馬で、2011年にはAintreeでSefton Novices' Hurdle (G1)を制すなど、まさにAintree競馬場を中心に活躍した馬と言えよう*18。2014年、2015年と名前のあるAlvaradoもまた有名なNational Horseで、英Grand Nationalは計3回挑んでいる。Scottish Grand Nationalでも精力的に走った馬で、2016年は2着、2017年は4着に入っている。Hello BudはBecher Chase (Listed)を2011年、2012年と連覇したNational Specialistで、英Grand Nationalには計3回の出走があった。しかしこの馬において最も特筆すべき実績は2009年のScottish Grand National (G3)の勝利であり、残念ながら英Grand Nationalは2010年の5着が最高と結果は出なかったが、National Fenceへの適性と4マイル超の競争への適性を兼ね備えた馬であった。ShakalakaboomboomはCheltenhamでMajordomo Hospitality Handicap Chase (G3)等を制した馬であり、2014年こそ出走順36番目での参戦であったが、2012年は8/1の一番人気で同レースに挑んでいる。Bless The Wingsは元々CheltenhamのCross Country Specialistで、13歳馬として挑んだ2018年は戦前の評価は40/1ながらも3着に入った。同馬は14歳となった2019年にもこのレースに出走し、最後まで気力溢れる走りで13着と完走を果たしている。他にもNational SpecialistであるWalk In The MillやSollといった名前もあるほか、女性騎手Bryony Frostと挑んだMilansbar、Ascot及びKemptonのG3を連勝してきた上がり馬Our Power、同年のClassic Chase (G3)を圧勝したEclair Surfの名前もあり、やはりこの軽量馬群においても有力かつ可能性のある馬が含まれていたと考えてよさそうだ。

上記比較的人気を集めた馬のみならず、人気薄の馬にも個性的な出走馬が多く存在した。2021年に出走順36、10st3lbで挑んだSub Lieutenantは単勝50/1の前評判であったが、母Georgie Howellと娘のTabitha Worsleyのコンビで挑んだ馬であった*19。WorcestershireのTenbury Wellsという小さな町に拠点を置くGeorgie Howellは調教師として当時"Under-rules"において未勝利であり、Tabitha Worsleyもこれが初の英Grand Nationalであったが、それでもこの世界一の大舞台において並み居る有力馬に対して正々堂々と戦い、14着と完走を果たしている。これは英Grand Nationalが賞金額だけは立派な凡庸なG1競走とは一線を画す世界一の競馬として高く評価されている所以であろう。同年に出走順40、10st2lbで出走したBlaklionは2017年、2018年のGrand Nationalでは11st台を背負った有力馬として挑んでいたNational Specialistで、この年はイギリス勢としては6着と最先着という立派な結果を残したことに加え、同レースには2022年にも参戦し、14着と完走を果たした。2016年に出走順36番目、10st5lbで出走したVieux Lion Rougeは有名なNational Specialistで、これがNational Courseデビュー戦であったが、7着と完走を果たした。この馬はNational Courseに高い適性を示し、2016年、2020年のBecher Chase (G3)を制したほか、Grand Nationalは現役生活を通じて計5回参戦している。2022年に出走順37、10st7lbで出走したDeath DutyはNovice Hurdle及びNovice Chase時代にG1を2勝した馬であるが、その後故障で758日間の休養を余儀なくされ、復帰後は低迷していたものの11歳となった2022年の2月にPunchestownのGrand National Trial (Grade B)を勝利し復調ぶりをアピールしていた。英Grand National (G3)ではCanal Turnで落馬に終わっていたが、大きな故障を乗り越えてきた素質馬が高齢になって再びその能力を発揮し、大舞台へ挑戦するという経緯は競馬の醍醐味の一つであることは間違いないだろう。

 

一方で、出走頭数は落馬リスクと相関があることは既に複数の公表文献で示されている*20*21*22*23。出走頭数の増加は出走馬間のコンタクトの複雑性の増加及び飛越スペースの縮小等の影響により飛越難易度を相対的に引き上げることが容易に想定され、実際にGrand Nationalの各障害においてもこれらの影響に起因すると考えられる落馬率の差異が認められている*24*25。従って、今般の変更は少なくとも一応は安全性上の観点からは一定の理解は可能な施策と言えるだろう。一方で、25~40頭の出走馬を集めた競走のデータの母数は比較的少なく統計的な根拠は弱いと想定されること*26、そもそもAintreeのNational Courseは極めて幅員の広いコースであること、出走馬には多頭数Handicap Chaseの経験豊富な馬が集まること等を踏まえると、AintreeのNational Courseにおける全体40頭に対する15%減による影響がどこまで意義のある変化をもたらすかは不明である。加えて今般の施策においてはこれ以外にも多数の安全対策が実施されていることを踏まえると、出走頭数の減少によるレースの安全性にもたらす効果については慎重に検討する必要があるだろう。また、上記のように今般の施策による影響で出走が叶わなくなる集団(軽量馬群)の中にも多数の有力馬等が含まれていたことを踏まえると、これらの出走馬の出走が叶わなくなることはGrand Nationalのレースの質にもたらす影響という観点では残念な施策である。昨今のレースの安全性に対する意識の高さを鑑みるとこの変更を撤回することは非常に難しい判断となることが想定されるものの、その効果については慎重に検証される必要があるように思われる。

 

*参考記事

'These people won't give up until the race is gone' - readers have their say on the Grand National changes (Racing Post)

Grand National legends back field size reduction as Aintree unveils major changes to big race (Racing Post)

'They will make the race classier rather than a lotto draw' - Willie Mullins and Gordon Elliott react to Grand National changes (Racing Post)

'It makes sense to me' - Hill Sixteen trainer Sandy Thomson backs changes to big race at Aintree (Racing Post)

The big changes: the long history of safety-related improvements to the Grand National (Racing Post)

*1:Reserve

*2:https://www.racingpost.com/results/32/aintree/2023-04-15/831493

*3:https://www.britishhorseracing.com/wp-content/uploads/2017/03/grand-national-review.pdf

*4:https://www.britishhorseracing.com/regulation/official-ratings/ratings-database/#!?sortby=ratingChase:desc&page=1

*5:https://www.britishhorseracing.com/racing/horses/horse/#!/2428504

*6:https://www.britishhorseracing.com/racing/horses/horse/#!/2701712

*7:https://www.betting-offers.com/horse-racing/the-grand-national/grand-national-reserves-do-they-ever-run-and-do-they-ever-win/

*8:https://www.thoroughbrednews.com.au/News/Story/5342

*9:https://www.saratogian.com/2002/08/30/second-try-a-charm-for-zabenz/

*10:https://www.theage.com.au/sport/racing/top-hurdler-zabenz-off-to-england-20020704-gducya.html

*11:https://www.racingpost.com/bloodstock/news/whatever-happened-to-new-zealand-bred-jumpers-in-britain-and-ireland-atwE42u8Hb2g/

*12:https://www.racingpost.com/bloodstock/news/unusual-heritage-helps-mullins-bumper-runner-stand-out-on-paper-aJ3dJ7M6A0Sm/

*13:https://virgos2g.hatenablog.com/entry/2021/04/10/010000

*14:https://virgos2g.hatenablog.com/entry/2022/05/02/225531

*15:https://virgos2g.hatenablog.com/entry/2022/05/03/105437

*16:https://www.betting-offers.com/horse-racing/the-grand-national/grand-national-reserves-do-they-ever-run-and-do-they-ever-win/

*17:https://www.racingpost.com/news/festivals/grand-national-festival/fergal-obrien-gutted-at-captain-cattistock-absence-as-punters-latch-on-to-back-on-the-lash-a7sDB6g9rk2I/

*18:https://www.racingpost.com/profile/horse/763791/saint-are/form

*19:https://www.mirror.co.uk/news/uk-news/jockey-aims-make-grand-national-23851543

*20:https://www.wageningenacademic.com/doi/abs/10.3920/CEP210047

*21:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0167587702000983

*22:https://www.wageningenacademic.com/doi/epdf/10.3920/CEP13005?role=tab

*23:https://www.britishhorseracing.com/wp-content/uploads/2017/03/grand-national-review.pdf

*24:https://virgos2g.hatenablog.com/entry/2022/05/02/230451

*25:https://virgos2g.hatenablog.com/entry/2022/05/05/100443

*26:https://www.racingpost.com/news/britain/data-shortage-compelled-jockey-club-and-aintree-to-take-balanced-view-over-reducing-grand-national-field-size-asDGg5i84keU/