にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

24/04/13 National Hunt Racing - Grand National Entries

Aintree (UK)

Randox Grand National Handicap Chase (Premier Handicap) 4m2f74y (National)

Class 1, 7YO plus, Winner £500,000

毎年のように本記事でマイナス評価を下した馬が好走し腹を切ってお詫びしている記事であるが*1*2*3、今年も懲りずに例によって少しずつ更新予定である。ただし、出走馬については適宜変更が生じることに留意されたい。過去のGrand Nationalのレース回顧等に関する記事は以下のカテゴリーを参照されたい。

トップ > イギリス・アイルランド競馬 >Grand National(にげうまメモ)

今年のGrand Nationalにおいては動物福祉及び安全性の向上を目的とした大規模な変更が行われている*4。その中には最大出走頭数の変更(40頭→34頭)が含まれており、従って今年からレーティング順で35~40番目となった馬の出走が不可となった。当該変更により生じる影響等に関する考察については以下の記事を参照されたい。

23/10/19 英Grand Nationalにおける軽量馬に関する考察(にげうまメモ)

今年の4月にイギリス競馬における動物福祉に関する透明性のある科学的かつ客観的なデータを提供する"HorsePWR"という業界横断的なキャンペーンが開始されている。この取り組みは業界関係者から高く評価されている。昨年のGrand Nationalに関する様々な議論を受けて始まった"Stand Up For Racing"の発起人の一人であるKevin Blake氏は"The Grand National is our frontline in the battle to retain horseracing's social license."と述べており*5、このタイミングでこのようなキャンペーンが開始されたことの意義は極めて大きい。

HORSE PWR - SAFETY AND WELFARE IN HORSERACING (HorsePWR)

New campaign launched by British racing to build public trust around horse welfare (British Horseracing Authority)

 

表記フォーマットは以下のとおり。出馬表はAt The Races を参照している。

  • 馬番. 馬名 (生産国), 斤量 J: 騎手 T: 調教師
  • - 馬齢 性別 父 - 母 (母父)

斤量はストーン・ポンド表記で記載する。キログラムへの換算表は以下の記事を参照されたい。

21/09/16 障害競馬入門③ - レース条件 - (にげうまメモ)

 

 

●. Conflated (IRE), 11st12lb J: ● T: Gordon Elliott (IRE)

- 10yo gelding Yeats - Saucy Present (Presenting)

Yeatsは元々はイギリス平地競争の名ステイヤーとして名を馳せた存在であるが、もはやこのGrand National出走馬関連記事においてはすっかりお馴染みになった存在で、イギリス・アイルランドでは2021-22シーズン及び2022-23シーズンの2度に渡って獲得賞金リーディングサイアーに輝いていることを筆頭に、毎年のようにイギリス・アイルランドリーディングサイアー争いの上位に顔を出している有力な種牡馬である*6。その産駒には成功した競争馬が多数含まれており、2022年のGrand National (G3)にてアマチュア騎手として大成功したSam Waley-Cohen騎手の現役最後の騎乗を飾ったNoble Yeatsを筆頭に、その軽快な先行力を武器にStayers' Hurdle (G1)を連覇したFlooring Porter、2022年Prix La Haye Jousselin (G1)の勝ち馬Figuero、2016年のPrix Renaud Du Vivier (G1)の勝ち馬でその後はチェコ調教馬としてイタリア・チェコで活躍したCapivari等、多数の主要競争勝ち馬が挙げられる*7*8。このConflatedもYeatsの代表産駒の一頭である。母Saucy Presentは未出走馬だが、半兄でMilanの産駒Ordinary Worldはギアを上げると唸るような手ごたえで進出してくるレース振りを武器に、Dublin Chase (G1)やRacing Post Novice Chase (G1)で2着に入る等、アイルランド16f Chase路線のG1戦線で存在感を示した。

Emphatic! CONFLATED is a class apart in the Savills Chase - Racing TV (Youtube)

Conflatedはここまで2022年にIrish Gold Cup (G1)及びSavills Chase (G1)と24fのG1を2勝しているアイルランドの名馬である。主な実績を残しているLeopardstownのみならず、Aintree、Down Royal、さらにはCheltenhamと性質の異なるトラックでもそれなりの実績があるように極端に守備範囲が狭い馬ではないのだが、一方で基本的にはLeopardstownのようにだらだらと脚を使っていくタイプのトラックを得意とする馬で、おそらくこれがLeopardstown以外での勝ち味の遅さに繋がっているものと思われる。このような馬の性質を踏まえるとおそらくAintreeのNational Course自体への適性はありそうだ。2022年の12月以来勝ち星はないが、とはいえ今シーズンのDown RoyalのChampion Chase (G1)は僅差の3着、Leopardstownの2戦は見せ場を作るも最終障害で落馬、CheltenhamのRyanair Chase (G1)では20fのペースに苦労しながらも最後盛り返しての3着と、特段調子が悪いわけではなさそうだ。昨年のCheltenham Gold Cup (G1)でも終い盛り返して3着に来ているように距離延長についてもあまり懸念があるわけではなく、昨年の段階でもGordon Elliott調教師はこの馬のAintreeのNationalへの適性を主張していたように能力的には面白いものがあるのだが*9、一方でここまで超多頭数のハンデ戦への経験があるわけではなく、加えてこの斤量は大きなビハインドになることは明らかであろう。

【4/9追記】同馬はMelling Chase (G1)に向かうことが発表された*10

 

1 Noble Yeats (IRE), 11st12lb J: Harry Cobden T: Emmet Mullins (IRE)

- 9yo gelding Yeats - That's Moyne (Flemensfirth) 

The WORLD's most famous horse race & what a story! NOBLE YEATS wins the 2022 Grand National at 50/1 (Youtube)

上記Yeatsの産駒。Noble Yeats自身は2022年のGrand National (G3)の勝ち馬であるが、同レースでコンビを組んだアマチュア騎手Sam Waley-Cohen騎手にとっては現役最後となる騎乗であり、過去にCheltenham Gold Cup (G1)等の主要競争をLong Runとのコンビで制した同騎手の有終の美を飾ったレースはまさに近年の競馬シーンを代表する"Fairytale"であった*11。1940年のBogskar以来となる7歳馬の勝利、加えて1958年のMr. What以来2頭目のNovice馬の勝利と、2022年には記録的な快挙を成し遂げた同馬はその後もGrand National (Premier Handicap)の勝利を目指して活躍しており、2023年のGrand National (Premier Handicap)はCorach Ramblerから8馬身半差の4着に入っている。一方で、今シーズンは過去2年とは異なりHurdle戦線を使っての参戦となる。直近のCheltenhamのStayers' Hurdle (G1)はFlooring Porterの作り出したペース変動に対応できずに終わっているが、1月のCleeve Hurdle (G2)ではつい先日引退したAidan Coleman騎手とのコンビで活躍したベテランPaisley Parkらイギリス24f Hurdle路線の一線級メンバーを下して勝利しており、9歳となった今年もこの馬自身の調子落ちはないだろう。基本的にトップスピードの高さよりはYeatsの産駒らしくだらだらとしたレースにおいて強靭な持久力を生かすことで他馬が苦しくなった終盤になって浮上してくるタイプで、超長距離戦への適性やNational Fenceへの対応力を含めて強調できる一頭である。課題は当然斤量面だが、加えて最近はどうにもズブさのような面も覗かせており、これが今シーズンHurdleを使ってきたことで解消されていればよいのだが、昨年のように後手後手に回ってのレースとなる可能性には留意しておきたい。

 

2 Nassalam (FR), 11st8lb J: Caollin Quinn T: Gary Moore

- 7yo gelding Dream Well - Ramina (Shirocco)

父*ドリームウェルは日本では2000年から計4シーズンの供用となったが、アドマイヤモナークが平地重賞を勝利した程度と産駒成績は振るわず、その後はフランスHaras de Fresnay-Le-Buffardに輸出されている*12。しかしながらフランスにおいては種牡馬として成功しており、特にアイルランドのKlassical DreamはPunchestownのChampion Stayers' Hurdle (G1)の3連覇をはじめ、24f Hurdle路線を中心にG1を計7勝、AuteuilのGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)でも上位争いを繰り広げる等、近年の同路線のチャンピオンホースとして君臨している一頭である。Dream Wellの産駒は他にもイタリアGran Corsa Siepi Di Milano (G1)などを勝利したChamp De Batailleや、フランスPrix Renaud Du Vivier (G1)を勝利したHippomene、2015年のIII. kvalifikace na VPなどを勝利しチェコCross Country路線で上位争いを繰り広げた能力馬Rabbit Wellなど複数の活躍馬が含まれており、残念ながら日本では不振に終わった同馬であるが、フランスにおいては喜ばしいことに同馬の種牡馬としてのポテンシャルが遺憾なく発揮されている*13。NassalamもまたDream Wellの代表産駒の一頭である。母Raminaはドイツ生産馬で、平地競争で2勝を挙げている。引退後はフランスで繁殖牝馬として繋養されているようだが、Dream Wellが交配されたのはNassalamの一度きりである。

Incredible! NASSALAM demolishes WELSH GRAND NATIONAL field! (Youtube)

Nassalamは2023年のWelsh Grand National (Premier Handicap)を34馬身差で圧勝した馬である。フランスからの移籍直後はGary Moore厩舎の素質馬としてFontwellのJuvenile Hurdle2戦で合計108馬身差をつけて圧勝したことで話題を集めたが、結局鳴り物入りで参戦したJuvenile Hurdle路線ではCoral Finale Juvenile Hurdle (G1)の2着が最高と主要競争での勝利は挙げられず、2021-22シーズンからChaseに転向している。Chaseでも棚ぼたで勝利したNoviceのG2競走勝ちのみとあまり目立った成績はなかったが、今シーズンに入ってAintreeのGrand Sefton Chaseで11st6lbを背負って4着に入ると、Welsh Grand National Trial (Class 2)、Welsh Grand National (Premier Handicap)と連勝して頭角を現してきた。基本的にはある程度以上重い馬場でスピードの持続性能を生かすタイプで、前走のCheltenham Gold Cup (G1)では途中棄権に終わっているとはいえおそらくこの馬にとってはオーバーペース気味で飛越のミスからリズムを崩したと想定されることを考えると、あまり悲観すべき敗戦ではないだろう。National Fenceへの経験値や距離適性を考えると数少ないイギリス勢の一頭として興味深い存在ではあり、重馬場でハマった時の破壊力は素晴らしいものがあるのだが*14*15、一方でこのようなタイプの弱点として軽い馬場のスピード決着をはじめ守備範囲外の性質のレースとなるとあっさり脱落する可能性はあるだろう。加えて今シーズンは既に厳しい消耗戦になったWelsh Grand National (Premier Handicap)等と厳しいレースを連戦しており、疲労の面でもやや心配なところがある。ちなみにGary Moore調教師はこの重い斤量に文句を言っているそうで*16、Cheltenham Gold Cup (G1)での走りを見ればそれはそうだろう。

 

3 Coko Beach (FR), 11st8lb J: Jordan Gainford T: Gordon Elliott (IRE)

- 9yo gelding Cokoriko - Solana Beach (Take Risks)

父Cokoriko*17はGarde Royale - Robin Des Champsというフランス障害競馬名門の父系の出身で、フランスHaiesにて4戦2勝、うちPrix Gerald De RochfortというAuteuilのListed競走を勝利している。種牡馬入り初年度は128頭、その後2年間はそれぞれ毎年200頭を超える繁殖牝馬を集めるなど大いに期待されていたようだが*18、その産駒も期待に違わず活躍しており、2023年のフランス種牡馬リーディングではついに勝利数ベースで計69勝の1位に輝いている。その産駒にはこのCoko Beachを筆頭に、Polirico、Homme Public、 Hermes De ChamdouxやIcare Allen、Iberico Lord、Villa Rica等多数の重賞勝ち馬が含まれているが、まだG1競走を制した馬や後継種牡馬は現れていないようで、その産駒の一層の活躍に期待したいところである。

What a performance! Coko Beach - 2021 Goffs Thyestes Chase (Youtube)

Coko BeachはこのGrand National (Premier Handicap)は3度目の挑戦となる。アイルランド24f超のHandicap Chaseでは既にお馴染みになった馬で、実績的には2021年のThyestes Chase (Grade A)や2023年のGrand National Trial (Grade B)、Troytown Chase (G3)等の勝ち星が挙げられる。今シーズンも上記Troytown Chase (G3)を制したことに加え、前走はこの馬にとって初のBank CourseとなるPunchestownのP.P. Hogan Memorial Cross Country Chaseを勝利してここに挑んできた。昨年12月のBecher Chase (Premier Handicap)でも11st9lbを背負って2着に入っているように9歳となった今年も引き続き元気そうで、Cokoriko産駒らしく比較的前向きに淡々と追走しつつ、渋った馬場において高く伸びのある飛越に支えられたパワーとスピードの持続性能によるNational Fenceへの対応力や距離適性の観点からは十分なポテンシャルを持っている一頭だろう。一方でここまでのレースから良馬場のスピード決着においては手も足も出ないこともまたはっきりしており、Good to Softの馬場で行われた一昨年(8着)や昨年(途中棄権)から馬場条件の大幅な変更が必要であることは言うまでもない。

 

4 Capodanno (FR), 11st8lb J: Keith Donoghue T: Willie Mullins (IRE)

- 8yo gelding Manduro - Day Gets Up (Muhtathir)

Manduroは当初はアイルランド、2013年からはフランスで繋養された馬で、アイルランド時代の産駒RashaanはアメリカでNew York Turf Writers Cup (G1)を制すなど、近年勢いのあるTamerlane - Dschingis Khan - Königsstuhl - Monsunのドイツ血統の一員として一定の結果を残した。Monsunの後継種牡馬には多数の成功した種牡馬が含まれており、その代表産駒にSprinter SacreやDelta Work、Rubi Ball、Rubi Light等の超一流馬を多数擁するNetworkを筆頭に、Samum、Shirocco、Arcadio、Gentlewave、Getaway、Maxios、Bathyrhonと、いずれも現代欧州競馬においては馴染みの深い面々である*19。面白いところでは、Networkの産駒でAQPSのVoiladenuoはフランスで種牡馬入りし、フランス唯一のAQPS種牡馬として一定の存在感を示している。Monsunの後継種牡馬として近年日本にKing George VI And Queen Elizabeth Stakes等を制した*ノヴェリストが輸入されて話題を集めたが、残念ながら産駒成績は尻すぼみのようだ。Manduro自身は2020年に心不全で亡くなっているようで*20、残った産駒には頑張ってもらいたいところである。Capodannoの母Day Gets UpはフランスAuteuilのHandicap Steeplechase等計4勝をあげた馬であるが、Capodannoの他に今のところ目立った活躍馬は出ていないようだ。

Capodanno sparkles as Bob Olinger disappoints in Champion Novice Chase - Racing TV (Youtube)

Capodannoは2022年のPunchestown FestivalにおけるDooley Insurance Group Champion Novice Chase (G1)の勝ち馬で、このGrand National (Premier Handicap)は2回目の挑戦となる。ただしG1勝ち馬とはいえ当時有力馬と目されていたBob Olingerの凡走による棚ぼた感は否めず、その後も全体的にもたもたとした飛越を繰り返す馬が目立ったCotswold Chase (G2)にて比較的真面目に走った結果の勝利程度の実績に留まっている。とはいえ昨年末のSavills Chase (G1)でもしぶとく走ってGerri Colombeとは僅差の3着、Cheltenham FestivalのRyanair Chase (G1)も最後盛り返して4着と地味に頑張っているようで、おそらく本質的にはトップスピードに秀でたG2~G1向きの馬というよりは持久力でしぶとく走って勝負を掛けるハンデ戦向きの馬と想定される。一度20fのRyanair Chase (G1)を使ったことが馬自身にとっていい刺激になっていることを期待したい。昨年のような良馬場においてはシンプルなスピード面での不安要素もあるのだが、さっぱりいいところがなかった昨年と比べるとレースを使ってきた上積みには期待してよいだろう。

 

5 I Am Maximus (FR), 11st6lb J: Paul Townend T: Willie Mullins (IRE)

- 8yo gelding Authorized - Polysheba (Poliglote)

父AuthorizedはSadler's Wells - Montjeuという欧州障害競走において最も成功した系統の一つの出自で*21、2018-19年とこのGrand National (G3)を連覇したアイルランドの歴史的名馬Tiger Rollをはじめ、アイルランドHurdleのG1を計8勝したNichols Canyon、Velká Pardubická勝ち馬のNo Time To Lose、Prix Maurice Gillois (G1)の勝ち馬Let Me Love、Champion Novice Hurdle (G1)の勝ち馬Echoes In Rain、Triumph Hurdle (G1)にてCheltenham Festival史の中でも最も不幸な落馬の一つにも挙げられるアクシデントのあった素質馬Goshenといった多数の活躍馬を送り出すことに成功し、その種牡馬としての名声を不動のものとしている。一時はトルコに輸出されたものの産駒の活躍を鑑みて再度アイルランドに買い戻されたという経緯もあり*22、その種牡馬としてのポテンシャルは疑いようがないだろう。Authorizedの産駒として日本でもエンシュラウドが2020年のイルミネーションジャンプステークスを勝利しているが、興味深いことに日本で平地競争馬として活躍したAuthorized産駒のBandeが種牡馬としてフランスに輸出されている。Bandeのフランスでの種付け初年度は165頭もの牝馬を集めたそうで、同馬に掛かるフランス生産界からの期待の高さを伺うことができるだろう。Bandeの産駒は既にトルコで平地競争を勝利しているが、フランスでは初年度産駒が3歳となる2024年からデビューしており、その活躍に期待したい。なお、2023年のフランス3歳HaiesではMotivator産駒のJigme、Authorized産駒のLeon Du Berlais、Doctor Dino産駒のMaster D'Ocと牡馬が結果を残したことで話題を集めたが、早々に種牡馬入りが決まっていたJigme以外は2024年現在も現役のようだ。なお、母Polyshebaはフランスで平地競争を使ったのちアメリカへと移籍した馬だが、引退後はフランスにいたようで、I Am MaximusにはAll Authorizedという2019年生まれの全弟が存在する。

I AM MAXIMUS powers to victory in the BoyleSports Irish Grand National - Racing TV (Youtube)

I Am Maximusは2023年のIrish Grand National (Grade A)の勝ち馬であるが、弱冠7歳のNovice馬が初の多頭数の3m5f戦でいきなり結果を残したことは大きなインパクトを与えるものであった。今シーズンはNovice規定の関係で12月のDrinmore Novice Chase (G1)から始動しているが、20fと距離的には短いレースであったことからあまり前評判は高くなかったものの、そこでも終い追い上げて勝利と結果を残している。同レースで2着に入ったFound A Fiftyはその後Racing Post Novice Chase (G1)での快勝をはじめNovice Chase路線のG1戦線で結果を残しており、決して低水準のレースではなさそうだ。その後のSavills Chase (G1)、Irish Gold Cup (G1)といずれももたもたとした飛越の影響か勝利したGalopin Des Champsからだいぶ離れた入線に終わっているが、一方で直前のBobbyjo Chase (G3)ではVanillierを14馬身突き放しての快勝を飾っている。どうにも道中はのんびりと飛越をしつつ、後半になって飛越を安定させつつスパートをかけていくタイプの馬だけに展開的には後手後手に回る可能性はありそうだが、とはいえ前走ではまともに走ってからの飛越はしっかりとしたものを見せており、超長距離戦への適性や持っているポテンシャル、及び斤量的なところを考えれば最有力候補の一頭だろう。ただしSavills Chase (G1)やIrish Gold Cup (G1)で見せていたいまいちな飛越の再発については懸念材料ではありそうで、序盤のNational Fenceへの対応については慎重に見ておいた方がいいだろう。

 

6 Minella Indo (IRE), 11st6lb J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead (IRE)

- 11yo gelding Beat Hollow - Carrigeen Lily (Supreme Leader)

父Beat HollowはSadler's Wellsの産駒で、平地・Hurdle・Chaseの全てで重賞勝利を挙げたオールラウンダーWicklow Braveや、2021年及び2023年のFighting Fifth Hurdle (G1)を勝利したNot So Sleepy、更にはCinders And AshesやHollow Treeといった複数のG1勝ち馬を送り出している*23。日本でも2022年の東京ハイジャンプ (G2)を勝利したゼノヴァースの母父としても名前を知られているだろう*24。Beat Hollowにはアイルランドで繋養される種牡馬として珍しく後継種牡馬も存在するようで、Fly With Meというフランス平地2マイル戦線で活躍した馬がNational Hunt Sireとして繋養され、Prix NoiroというListed競走を勝利したJereviendraiを送り出している。Minella IndoはBeat Hollowの代表産駒である。

It's victory for MINELLA INDO in the 2021 WellChild Cheltenham Gold Cup from stablemate A Plus Tard! (Youtube)

Minella Indoは言うまでもなく2021年のCheltenham Gold Cup (G1)の勝ち馬であり、ここまでにG1競走を3勝しているアイルランドの名馬である。ただし24f ChaseのG1戦線で活躍したのは2022年までで、それ以降も重賞勝ちはあるのだが、同路線における全盛期の勢いは既になく、今シーズンもDown RoyalのChampion Chase (G1)では勝利したGerri Colombeから21馬身差の4着と期待を裏切る結果となっている。さすがに年齢的にだいぶスピード面で陰りがあるようだが、一方で12月のGlenfarclas Cross Countryでは12st0lbのトップハンデを背負ってLatenightpassから4着と頑張っており、若干ズブくなっているようなところもあるとはいえ、まだまだこの馬自身競争馬としての可能性を残しているようだ。元々の能力を考えればここでも面白い存在であることは間違いないのだが、一方でおそらくここへのプレップレースとして想定していたと思われるCheltenham FestivalのGlenfarclas Cross Countryが馬場状態の影響で開催中止になっており、その影響については少し注意しておいた方が良いかもしれない。フレッシュな状態でレースに挑むことが出来ると考えればプラスにはなるのだが、レース間隔としては昨年12月から120日ぶりの実戦となる。

 

7 Corach Rambler (IRE), 11st6lb J: Derek Fox T: Lucinda Russell

- 10yo gelding Jeremy - Heart N Hope (Fourstars Allstar)

父JeremyはDanehill - Danhill Dancerと続く父系の出自で、アメリカ生産馬であるがアイルランド種牡馬入りし、Our Conor、Jer's Girl、Appriciate It、Black Tears、Belfast Banter、Sir Gerhard等、多数のG1勝ち馬を送り出している。Jeremyの祖母はあのWind In Her Hairであり、Jeremy自身はディープインパクト及びブラックタイドの近親として日本人にもその名前を耳にしたファンは多いだろう。残念ながらJeremy自身は2014年に僅か11歳で亡くなっており*25、同馬の産駒のポテンシャルの高さを考えるとその早逝は惜しまれるところである。後継種牡馬としてKool KompanyやSuccess Daysという平地競争馬が存在しいずれもアイルランドで繋養されているが、どうやらKool Kompanyは元々はスペインで繋養されていたものの、Jeremyの成功等を踏まえてアイルランドに移動したそうで*26、これらの後継種牡馬から早逝したJeremyを継ぐ馬が現れることを期待したい。なお、ロシアにもBlack Cityというロシア平地G1で3着のある馬が後継種牡馬として存在するらしい*27。Corach RamblerはJeremyに残された産駒の1頭である。母Heart N Hopeは"Under rules"にて4戦するもさっぱりいいところがなかった未勝利馬で、その影響かCorach Ramblerはその取引価格についても話題を集めた。

Victory for Scotland! Favourite CORACH RAMBLER wins the 2023 Grand National under Derek Fox (Youtube)

Corach Ramblerは昨年のGrand National (Premier Handicap)の勝ち馬であるが、そのつい最近に過去のGrand National (G3)勝ち馬One For Arthurを亡くしたスコットランドのLucinda Russell陣営や、様々な出自や背景を持つ共同馬主"The Ramblers"にとって非常に嬉しい勝利であったことが広く知られている*28。Handicap Chase路線を使っていた昨シーズンまでと異なり今シーズンは定量戦を使っているようで、昨年10月及び11月の競争はいずれもいいところはなかったようだが、直前のCheltenham Gold Cup (G1)では後方から脚を伸ばしての3着と見せ場を作った。極端な消耗戦であっただけに最後は坂を上った辺りで苦しくなったようだが、とはいえ改めてこの馬の器用な加速力と強靭な持久力を見せつけるレースであり、ここに向けての有力馬として改めて名乗りを上げるパフォーマンスであったことは確かだろう。基本的に安定した高い飛越でNational Fenceに対応しながら馬群の中をすり抜けることが器用なスピードと持久力を武器とした馬で、斤量的には昨年と比べると不利になるとはいえ、AintreeのGrand Nationalに必要な能力と適性を有していることについてはもはや疑いようがない。今シーズンは比較的ゆったりとしたローテーションを組んでいることも強調材料で、あくまで前走の厳しいレースとなった前走の反動がなければといったところだろうか。なお、昨年のAintreeはGood to Softという早い馬場であったが、Lucinda Russell調教師は重馬場を特に不安視していないようだ。また、主戦のDerek Fox騎手は直前のNewcastle開催での鞭の使用について制裁を受ける可能性があったようだが、幸運なことにAintreeでの騎乗に関しては支障が生じないようだ*29

 

8 Janidil (FR), 11st6lb J: Jody McGarvey T: Willie Mullins (IRE)

- 10yo gelding Indian Daffodil - Janidouce (Kaldounevees)

父Indian DaffodilはNiniski - Hernandoのラインの出自で、フランスにて主に8~10f戦を使われ、引退後はフランスで種牡馬入りしたようだ。ただしその産駒として主要競争の勝ち馬はJanidilのみで、他にはDaffodil Roseという馬がCrystal CupのフランスCross Country競走にて何度か上位争いを繰り広げた程度である。Indian Daffodilに種付け頭数も毎年10~30頭程度とあまり伸びていないようだ。Hernandoの子孫としてはSulamaniがイギリス・アイルランド16~20f Hurdle路線において多数のG1勝ちを収めた歴史的名牝HoneysuckleやNovice馬としてGrand National (G3)制覇を成し遂げたアイルランドのRule The Worldを送り出したのが目立つところだろう。Niniskiのラインには他にもReve De Sivolaの父Assessor、Wayward PrinceやWhat A Friendの父Alflora、Serienlohnの父Lomitas、さらにLomitasの後継種牡馬であるBelenusやSilvano、Malinasといった成功した種牡馬が含まれており、現代障害競馬でも馴染みのある系統である。

JANIDIL seals a Grade 1 double for Jody McGarvey in the Underwriting Exchange Gold Cup Novice Chase (Youtube)

Janidil自身は2021年のUnderwriting Exchange Gold Cup Novice Chase (G1)というFairyhouseのEaster Festivalにおける20fの競争を勝利した馬である。ただしその後はどうにも勝ち味に遅く、2022年のRyanair Chase (G1)等にて2着に入る等それなりの入着歴はある一方で、勝ち鞍としては2023年にRed Mills Chase (G2)を勝利したのみに留まっている。なにかとコンスタントに走る馬ではあるのだが、とはいえG1~G2クラスの一線級で勝ち切るほどの決め手はないというのが現状で、良績的にも20fに集中しているように大幅な距離延長に適性を見出せるほどの実績があるわけでもなさそうだ。前走のStayers' Hurdle (G1)の凡走はここへの試走と考えられるだけに参考外としてよさそうで、今シーズンもこの馬なりにコンスタントに走ってはいるようだが、とはいえ他と比べるとさすがに強調材料に欠けるというのが現状だろう。

 

9 Stattler (IRE), 11st5lb J: Mr Patrick Mullins T: Willie Mullins (IRE)

- 9yo gelding Stowaway - Our Honey (Old Vic)

Mill Reefの末裔でShirley Heightsを祖父に有するStowawayは2020-21年のイギリス・アイルランドリーディングサイアーで、その産駒にはOutlander、Champagne Fever、Champagne Classic、The Worlds End*30、Put The Kettle On、Monkfish、Fiddlerontheroof等多数のG1勝ち馬が含まれる*31。面白いところでは元々Dan Skelton厩舎に所属していたRockstar Ronnieはその後オーストラリアに移籍、2023年ではパワーとスタミナ溢れる走りでオーストラリア最長距離を誇る主要競争であるGrand Annual Steeplechaseを制しており、近年オーストラリア主要競争で存在感を示している欧州からの移籍馬の一角として結果を残した。Stowawayは残念ながら2015年2月に亡くなっており*32、2016年生まれのStattlerはラストクロップの一頭である。Stattlerには半弟Might Iという馬がおり、同馬は2022年のMersey Novices' Hurdle (G1)で2着に入った実績がある。

STATTLER digs deep to master Farouk D'alene at Naas - Racing TV (Youtube)

Stattlerは2022年にウクライナ支援も兼ねて行われたNational Hunt Challenge Cup (G2)の勝ち馬である。元々24fのNovice HurdleのG1戦線で走っていた馬だが、Chaseへと転向した2021-22シーズンは上記National Hunt Challenge Cup (G2)を含め3戦3勝と飛躍のシーズンとした。ただし24fのG1戦線に参戦した2022-23シーズン以降はIrish Gold Cup (G1)の2着が最高と勝ち星はなく、前走は目先を変えてP.P. Hogan Memorial Cross Countryに参戦している。National Hunt Challenge Cup (G2)ののちにG1戦線へと矛先を向けた理由はよくわからないのだが、基本的には24f超のマラソンレースに適性を持った馬と想定され、24fのG1戦線ではなくこちらに向かってきたこと自体は興味深い内容だろう。前走のP.P. Hogan Memorialは初のBank Courseということを踏まえると敗戦自体は気にしなくてよさそうで、馬自身の状態次第では興味深い一頭だろう。過去にはアマチュア騎手を対象としたNovice馬の4マイル戦として将来性豊かなステイヤーのための競争として実施され、Tiger Rollをはじめ強靭なステイヤーを多数輩出したものの、近年は出走頭数の減少や距離の短縮といった逆境にあるNational Hunt Challenge Cup (G2)出身馬としても頑張って欲しいところである。ただしローテーション的には上記Minella Indoと同様の懸念がある。

 

10 Mahler Mission (IRE), 11st5lb J: Ben Harvey T: John McConnell (IRE)

- 8yo gelding Mahler - Finnow Turkle (Turtle Island)

父MahlerはGalileoの産駒で、ここまでの代表産駒としてはThe Real Whacker、OrnuaといったG1勝ち馬が挙げられるほか、The Big Dog、Notachance、Annual Invictusといった重賞勝ち馬も多数含まれている有力な種牡馬である*33。Mahlerの産駒としては他にもSvenskt Grand Nationalの勝ち馬Truckers Glory、H M Konungens Prisの勝ち馬Three Is Companyも含まれるが、Three Is Companyはスウェーデン調教馬として珍しくPardubiceに遠征したことで話題を集めた*34。その産駒には高い航行能力とバテ合いになった際のしぶとさを生かす馬が多く、一方でスプリントを掛けた際のフォームはどうにも不格好でトップスピードの面では見劣る傾向があるが、フォーム的にバテたと思いきや騎手の剛腕に助けられつつそこからしぶとく走り続けるような強靭なステイヤーとしての能力を有する馬が多い。

MAHLER MISSION enhances his Cheltenham Festival credentials with a smooth win at Navan (Youtube)

Mahler Mission自身のタイトルとしては2022年のRiver Don Novices' Hurdle (G2)程度に限られるが、2023年のNational Hunt Challenge Cup (G2)では後続にリードを取って逃げ込みを図るも残り2障害地点で落馬に終わっている等*35、その実力は見た目の実績以上に侮れないものがある。今シーズンはCarlisleのIntermediate Chase (Listed)で2着、Coral Gold Cup (Premier Handicap)でDatsalrightginoの2着とコンスタントに結果を残してここに挑んで来た。Albert Bartlett Novices' Hurdle (G1)では大敗しているようにどうにもメリハリの利いたスピードを要求されるレースでは分が悪いようだが、一方でMahlerの産駒らしくステイヤーとしての持久力にはいいものを持っているようで、能力的なところを考えると実績以上に期待してよい一頭だろう。ただし例によってフラットでのスプリント勝負になった際はやや切れ負ける可能性はありそうで、4マイル超のNational Courseを走り切ってから馬を動かしていく騎手の頑張りに期待したい。2023年にSeddonで最初のCheltenham Festival勝利を成し遂げたJohn McConnell調教師はこのGrand Nationalを大目標に掲げており、Mahler Missionについては過去最高の馬と自信を持っているようだ*36

 

11 Delta Work (FR) (AQPS), 11st4lb J: Jack Kennedy T: Gordon Elliott (IRE)

- 11yo gelding Network - Robbe (Video Rock)

父NetworkはMonsunの後継種牡馬の中では最も成功した一頭で*37、その産駒にはイギリス競馬史に残る名馬となったSprinter Sacreを筆頭に、Rubi Ball、Rubi Light、Saint Are、Acapella Bourgeois、Adriana Des Mottes、Le Richebourgと多数の活躍馬が含まれている。その産駒にはAQPS*38も多く含まれており、その産駒としてAQPSであるVoiladenuoがフランスで種牡馬入りしているということは興味深い事実であろう。Sprinter Sacre自身も1918年生まれのEliza (SF)がTrotterであるIcareとSelle FrançaisであるMademoiselleの産駒であり、そのElizaから続くSelle Françaisの牝系に代々サラブレッドが交配されてきたというパターンである。Delta WorkはNetworkの代表産駒の一頭であり、この馬もまたAQPSとなる。Delta Workも基本的にはSelle Francaisの牝馬に代々サラブレッドが交配されてきたというパターンだが、その6代母Vedette VIIIの父DumbeaはFrench Trotterであり、一方の母Voitureがサラブレッドのようだ。Delta Workの半弟でDoctor Dinoの産駒Jazzy Mattyは2023年にCheltenhaのFred Winter Juvenile Hurdle (Premier Handicap)を制している。

TIGER ROLL'S LAST EVER RACE AT THE CHELTENHAM FESTIVAL (Youtube)

Delta WorkはここまでにIrish Gold Cup (G1)やSavills Chase (G1)をはじめG1競走を計5勝しているアイルランドの名馬であるが、24f ChaseのG1路線で好勝負を演じていたのは2021年頃までで、既に同路線からは遠ざかって久しい。一方でこのAintreeへの路線においては2022年のGlenfarclas Cross CountryにてGrand National (G3)を連覇した同厩舎・同馬主のTiger Rollを破って名乗りを上げると、同年のGrand National (G3)においては11st9lbを背負いながらも頑張って3着に入った。このレースは昨年(落馬)に続き3度目の挑戦となる。ただし、Glenfarclas Cross Countryを勝って挑んだ昨年・一昨年と異なり、今年はCheltenham Festivalの同競争が馬場の問題で中止となり、本来意図したローテーションを経由できなかったという面があることには留意しておきたい。また、昨年11月のGlenfarclas Cross Countryでは11st13lbを背負って17馬身差の6着とそれなりに好勝負をしているようだが、一方で昨年・一昨年ともにどうにもこの舞台では飛越の問題か後手後手に回るようなところが目立っており、昨年もEva's Oscarを巻き込む形で落馬に終わっていることを考えると、11歳となった今年において明確な上がり目があるかと言われるとやや微妙なところである。

 

12 Foxy Jacks (IRE), 11st4lb J: Gavin Brouder T: Mouse Morris (IRE)

- 10yo gelding Fame And Glory - Benefit Ball (Beneficial)

父Fame And GloryはMontjeuの産駒で*39、Sadler's Wellsの分枝の中でも最も高いポテンシャルを示しているMontjeu一派の一角として、これまでにCommander of Fleet、Ballyadam、Flame Bearer、Home By The Lee、The Nice Guy、Stage Star、Farren Glory等、多数のG1馬を送り出している。残念ながら2017年に心不全により亡くなっているそうで*40、Foxy Jacksは残された産駒の一頭となる。

FOXY JACK BEATS DELTA WORK AND GALVIN TO WIN CROSS COUNTRY CHASE (Youtube)

Foxy Jacksはアイルランド20~24f Handicap Chase戦線の常連で、遡れば2021年のGuinness Handicap Chase (Grade A)の勝利がある。2022-23シーズンはどうにもいまいちな結果に終わっていたようだが、今シーズンからGavin BrouderというConditional Jockeyとコンビを組んで先行策に打って出ているようで、7月のKilbegganのMidlands National (Listed)や11月のGlenfarclas Cross Countryの勝利と結果を残しているようだ。11月のCheltenhamの勝利ののちはLeopardstownのHurdleを一走してここに備えてきた。Glenfarclas Cross CountryからAintreeのNational Courseへの外挿性の高さを考えるとここでも面白い一頭で、明らかにここを目標にローテーションを組んで来たことは好感が持てる内容であろう。Glenfarclas Cross CountryでもLong Handicapとなる馬が多い中で10st12lbとこの馬はそれなりの斤量を背負っていたことも面白い材料である。一方で前々で運ぶことが想定されるだけに展開的にはそれなりに厳しくなることが想定され、このコースは一度2022年のTopham Chase (G3)を走るも落馬に終わっていることは心配な材料である。Mouse Morris調教師は2016年のRule The World以来のGrand National (Premier Handicap)勝利を目指すことになる。過去には24fのHandicapperが活躍した一方で、近年は必要とされる馬の能力の傾向が異なっていると語る同調教師は同馬のハンデキャップ(157)に文句を言っているようだが、馬の状態は良いらしい*41*42

 

13 Galvin (IRE), 11st2lb J: Sam Ewing T: Gordon Elliott (IRE)

- 10yo gelding Gold Well - Burren Moonshine (Moonax)

父Gold WellはMontjeuの未出走の全弟で、National Hunt Sireとして活躍したものの2013年の11月に亡くなっている。その産駒にはDan & John Moore Memorial (Grade A)の勝ち馬Rebel GoldやIrish Grand National (Grade A)の勝ち馬General Principle、Scottish Grand National (G3)の勝ち馬Win My Wings、さらにはMildmay Novices' Chase (G1)の勝ち馬Holywell、La Touche Cupを2勝したCross Country SpecialistのBallyboker Bridgeなど、複数の主要競走勝ち馬が含まれている。Galvin自身は2014年生まれのラストクロップであるが、2021年のSavills Chase (G1)を制す等Gold Wellの代表産駒として父の名声を高めることに成功した。

GALVIN gets there! He overhauls A PLUS TARD close home in a Savills Chase to savour - Racing TV (Youtube )

Galvinはこのレースは2回目の参戦となる。元々Novice馬の中では卓越した飛越技術を武器に2021年のNational Hunt Challenge Cup (G2)を制した馬だが、その後は意外なことにG1戦線で活躍し、2021年のSavills Chase (G1)を勝利するなど結果を残した。ややG1路線で頭打ちになっていた昨年のCheltenham FestivalではGlenfarclas Cross Countryに矛先を変え、同レース連覇を果たしたDelta Workから僅差の2着に入ってAintreeへと駒を進めた。しかしながら、勢いのあった昨シーズンと異なり今シーズンはCheltenhamのCross Countryを2走するもいずれも大敗と案外な結果に終わっている。National Hunt Challenge Cupの実績を考えると距離延長自体はさほど問題にはならないはずで、National Fenceも2回目とはいえGlenfarclas Cross CountryのこのNational Courseへの外挿性を考えると、この馬の持っている適性や技術面には期待したいところである。11st11lbという厳しい斤量を背負っていた上に第1障害で早々に落馬に終わり、その上に活動家が投げ入れた脚立により外傷を負うという踏んだり蹴ったりな昨年*43と比較すると条件的には好転することが期待されそうだが、とはいえ一方でG1戦線からの転戦で結果を残した昨年と比較するとどうにもここ最近の成績面で見劣りするというのはまた事実で、馬の状態がここに来て上向いていればといったところだろう。

 

14 Farouk D'Alene (FR) (AQPS), 11st1lb J: Donagh Meyler T: Gordon Elliott (IRE)

- 9yo gelding Racinger - Mascotte D'alene (Ragmar)

父RacingerはRainbow Quest - Spectrumの父系の出身で、このGrouk D'Alene以外には2022年のEMS Copiers Novice Handicap Chase (Grade A)を勝ったEl Barraが活躍馬として挙げられる。日本ではサクラローレルでお馴染みのRainbow Questの子孫として、Crillonが16f Hurdleのチャンピオンホースとして君臨したBuveur D'AirやGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)を勝利したフランスHaiesチャンピオンのHermes Baie、Grand Prix D'Automne (G1)を連覇したAlex De Larredyaを送り出しているのが目立つところだろう。Spectrumの子孫としてはGolanがGreat Eastern Steeplechaseの勝ち馬PetushkiやGalway Hurdle (Grade A)の勝ち馬Missunited、GamutがRoad To RichesやRoad to Respect等のG1勝ち馬を送り出している。面白いところでは日本でも繋養された*クロコルージュの産駒でアイルランド生産馬のCroco Bayは2019年にCheltenham Festivalで行われる名物競争であるGrand Annual Challenge Cup (G3)を制している。

Farouk D’Alene enhances Cheltenham Festival credentials with battling Navan win - Racing TV (Youtube)

Farouk D'Aleneは目立つ実績としては2022年のTen Up Novice Chase (G2)の勝利が挙げられる。しかしながらCheltenhamのBrown Advisory Novices' Chase (G1)は残り2障害地点で落馬に終わると、今シーズンはTroytown Chase (G3)では第1障害で早々に落馬、続くThurlesのListedもClassic Getawayから大きく離された大敗といまいち結果を残せていない。一方でLeopardstownのPertemps Handicap Hurdleでは2着と頑張っていたようで、おそらく良馬場よりもかなり重い馬場を得意とする馬であること、Brown Advisory Novices' Chase (G1)では落馬まではそれなりに勝負に加わっていたこと等を踏まえると、馬場状態次第では浮上する可能性はありそうだ。なお、前走のCheltenhamのPertemps Handicap Hurdle Final (Premier Handicap)は途中棄権に終わっているが、11st7lbと斤量的にも厳しかったことを考えるとさすがに度外視していいだろう。

 

15 Eldorado Allen (FR) (AQPS), 11st0lb J: Brendan Powell T: Joe Tizzard

- 10yo gelding Khalkevi - Hesmeralda (Royal Charter)

父Khalkevi自身は日本でもお馴染み*イルドブルボンを祖父に持つ馬で、その父KahyasiKahyasiというイギリスダービー等を制したアイルランド生産馬である。Khalkeviはフランスにて繋養され、その産駒にはGrosser Preis Des Kantons Aargauの勝ち馬MemberofやGrosser Preis Des Cross-Club Maienfeldの勝ち馬Beaumarといったスイスの強豪も複数含まれる。Ile De Bourbonは元々イギリスで繋養され多数の活躍馬を送り出したようだが、日本での活躍馬としては京都大障害を制したイチバンリュウが目立つ程度で、1996年に用途変更となっている。Kahyasi種牡馬としては複数の重賞勝ち馬を送り出しているが、Ile De Bourbonの子孫として近年の障害競馬での活躍馬を送り出している種牡馬はこのKahyasiの子孫に限られており、このKhalkeviの他にはSilver Cross程度である。母HesmeraldaはPompadourのGrand Crossをはじめフランスで計9勝をあげた活躍馬で、Eldorado Allenの他Prix Sytaj (G3)を勝利したUne Epoqueを送り出した。

Excellent ELDORADO ALLEN powers to Denman Chase success at Newbury - Racing TV (Youtube)

Eldorado Allenは元々16f ChaseでHaldon Gold Cup (G2)勝ちなど結果を残してきた馬だが、年齢を重ねるに伴って近年は少しずつ距離を伸ばしてきており、2022年の2月にはDenman Chase (G2)を勝利する等結果を残している。今シーズンもSodexo Gold Cup (Premier Handicap)は3着、Coral Gold Cup (Premier Handicap)は4着とそれなりに元気なようだ。前走のUltima Handicap (Premier Handicap)では途中棄権となっているが、おそらくこれはHeavyと11st9lbの斤量が堪えたもので、今年の冬に一度Wind Surgeryを行っていることを考えると上積みには期待できる一頭だろう。どちらかというとワンペース型の馬でトップスピードに秀でたタイプではないだけに勝ち切れないところもあるのだが、レース条件的には浮上してくる可能性はありそうだ。ただしJoe Tizzard調教師としては馬場がある程度良くなることを期待しているようで*44、当日の馬場状態には注意しておきたい。

 

16 Ain't That A Shame (IRE), 10st13lb J: Mr David Maxwell T: Henry de Bromhead (IRE)

- 10yo gelding Jeremy - Castletown Girl (Bob Back)

AIN’T THAT A SHAME is too good in the 2024 Goffs Thyestes Chase at Gowran Park (Youtube)

上記Jeremyの産駒。このレースは昨年に引き続いての2度目の出走となる。今シーズンのKerry National Handicap Chase (G3)やTroytown Chase (G3)ではさっぱりいいところがなかったが、1月のThyestes Chase (G3)を勝利してここに挑んで来た。Rachael Blackmoreが騎乗するということで人気を集めた昨年はあまりいいところはなかったのだが、とはいえ基本的には重い馬場の24f超の競争ならではの馬ということを考えるとあまり気にしなくていいだろう。やや案外な結果に終わったシーズン序盤と異なりここに来て調子を上げてきたというのは歓迎すべき材料で、昨年の大敗ののちもRachael Blackmoreとコンビを組んでいることを考えると、なかなか面白い存在になるかもしれない。レース運びとしては基本的に後方から押し上げるよりも好位でリズムよく運んだ方がよさそうな感がある。どうやら直近でアマチュア騎手等として活躍するDavid Maxwellに購入されたようで、同騎手がそのまま騎乗する予定だそうだ*45*46

 

17 Vanillier (FR), 10st12lb J: Sean Flanagan T: Gavin Cromwell (IRE)

- 9yo gelding Martaline - Virgata (Turgeon)

父MartalineはLyphard - Bellypha - Mendez - Linamixと連なる父系出身の種牡馬で、2005年から種牡馬入りすると2017~2018年、2020~2022年と計5回ものリーディングサイアーに輝いた。その産駒には2014年のRyanair Chase (G1)などG1を2勝したDynaste、Ladbrokes Novice Chase (G1)などG1を4勝した悲運の名馬Mighty Potter、2017年のPrix Ferdinand Dufaure (G1)の勝ち馬Stelighonn、4連勝で2023年のPrix Ferdinand Dufaure (G1)を圧勝したAQPSのJuntos Ganamos、Grande Course De Haies D'Auteuil (G1)でL'Autonomieを破ったPaul's Saga、Grande Steeplechase D'Europa (G1)を圧勝した快速馬Styline等、多数の活躍馬が含まれている。面白いところでは、Snow Leopardessという牝馬は故障及び出産による休養を経て現役に復帰、AintreeのNational Courseを使用するBecher Chase (G3)を制すなど記憶に残る活躍を見せた。Martalineには複数の後継種牡馬が存在しており、その中には2018年のPrix Cambaceres (G1)の勝ち馬Beaumec De Houelleを筆頭に、Moises Has、Nirvana Du Berlais、King Edward等、次世代の欧州競馬を担う可能性がある種牡馬が含まれており、このあたりの種牡馬から一介のflat horseとは一線を画す本格的な障害血統が発展することを期待したい*47。特にBeaumec De Houelleの産駒は2024年の3歳世代において多数の牡馬が存在していることは特徴的だろう。面白いところではAnglo-Arabe de complémentであるChamakoというMartalineの産駒も種牡馬入りしたそうだ。Vanillierの半兄Vif ArdentはフランスのCross Country Specialistで、昨年のGrand Cross de Pertre等を制している。

Gavin Cromwell: My team for the 2024 Cheltenham Festival, inc update on Grand National fav Vanillier (Youtube)

Vanillierは昨年の2着馬である。元々はCheltenhamのAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)を勝って頭角を現した馬だが、一方でChase入り直後はしばらく飛越に不安を抱えておりいまいちな結果に終わっていた。昨年のGrand National (Premier Handicap)では低評価であったものの、ようやくここに来て安定してきた飛越を繰り出し、Corach Ramblerから2馬身差の2着と好勝負を演じてみせた。一方で今年は12月は16f ChaseとHurdleを叩いたのち、2月はBobbyjo Chase (G3)への参戦と明らかにここに向けてのローテーションを組んでいる。21f戦であるO'Driscolls Irish Whiskey Leopardstown Handicap Chase (G3)は大敗に終わっているが、馬場も軽く距離も不足しているという明らかに勝負気配のないレースで度外視してよいだろう。この馬が元々持っていた能力とようやくここに来て上向いてきた飛越技術を考えれば最有力候補の一頭だろう。ただし馬場的には昨年よりも重くなった方がこの馬にとっては有利に運ぶものと思われる。Vanillierの調教師Gavin CromwellはI Am Maximusを当面の相手に挙げているようだ*48

 

18 Mr Incredible (IRE), 10st11lb J: Brian Hayes T: Willie Mullins (IRE)

- 8yo gelding Westerner - Bartlemy Bell (Kalanisi)

父WesternerはDanehillの産駒で、代表産駒としてはWorld Hurdle (G1)で軽快な逃走劇を見せたCole HardenやArkle Challenge Trophy (G1)の勝ち馬Western Warhorse、EBF Mares Novice Hurdle Championship (G1)の勝ち馬Skyace等が挙げられる。また、2020年のChampion Bumper (G1)の勝ち馬Ferny Hollowはその素質を非常に高く評価されており、2021年にはRacing Post Novice Chase (G1)を勝利しているほか、2024年には791日ぶりの実戦でNaasのNewlands Chase (G3)を勝利しているが、残念ながら故障がちで順調にレースに出走することが叶わず、上記Newlands Chase (G3)の勝利ののちも再度故障が見つかったとのことで、そのポテンシャルを発揮できていないことは残念である。

INCREDIBLE PERFORMANCE! Beauport wins the Midlands Grand National at Uttoxeter! (Youtube)

Mr Incredibleは昨年に引き続きの参戦となる。昨年は2周目のCanal Turnで鞍が滑っての落馬に終わっているが、Classic Chase (Premier Handicap)やFulke Walwyn Kim Muir Challenge Cupといった超長距離戦にて好走しており、その実力は確かなものがある。今シーズンはUttoxeterのMidlands Grand National (Premier Handicap)で2着に入っての参戦となる。前走はHeavyの馬場で12st0lbを背負って勝ったBeauportがから僅差の2着と素晴らしい内容で、改めてこの馬のマラソンレースへの適性を示す内容であった。昨年もまともであればもう少しやれていたであろうということを考えると、今年は改めて期待したい一頭である。馬場はおそらく重くなった方が実績的には良さそうだが、とはいえさほど守備範囲としては狭くないように思われる。

 

19 Run Wild Fred (IRE), 10st10lb J: Mr Tom Hamilton  T: Gordon Elliott (IRE)

- 10yo gelding Shantou - Talkin Madam (Talkin Man)

Hoist The FlagRibot、さらにはSt Simonに連なる父系はFlemensfirth、Astarabad、Japeを始め、成功した種牡馬を多数輩出している重要な系統であるが、Shantouはその一角として、G1競走の勝ち馬だけでもBriar Hill、Airlie Beach、Death Duty、The Storyteller、Shan Blue、Stay Away Fay、Stellar Storyといった多数の活躍馬を送り出している。1993年生まれのShantouは2019年までアイルランド種牡馬として活躍し、残念ながら2021年に28歳で亡くなっているものの*49、2024年のCheltenham FestivalでもStellar StoryがAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)を制すなどその産駒は欧州競馬において未だに大きな存在感を示している。ただしアイルランドで繋養されていた種牡馬の例に漏れず後継種牡馬には恵まれていないようだ。Hoist The Flagの系統としてJapeの産駒であるAge of JapeはGran Corsa Siepi D'Italia (G1)を制したほか、2009年のチェコダービー及びスロバキアダービー等を制し平地クラシック3冠を獲得したチェコの名馬で、2015年からチェコにて期待されて種牡馬入りしているが、残念ながら2022年の12月に早逝している。残された産駒のうちDařbujánが2023年のWieka Partynickaを制しており、なんとか頑張って欲しいところである。母Talkin Madamはpointerである。

RUN WILD FRED and Davy Russell combine for 2021 Troytown Chase triumph - Racing TV (Youtube)

Run Wild Fredは元々2021年のTroytown Chase (Grade B)を制すなどアイルランドの24f超のHandicap Chaseの常連として頑張っていた馬で、このAintreeのGrand NationalはCanal Turnで落馬に終わった2022年以来の参戦となる。当時は上記Troytown Chase (Grade B)の勝利のほか、National Hunt Challenge Cup (G2)やNeville Hotels Novice Chase (G1)の2着といった良績を引っ提げての参戦であったが、一方で約1年間の休養を経て復帰した今シーズンはMunster National (G3)にてGevreyから5馬身差の5着に入ったのが最高で、前走のUltima Handicap Chase (Premier Handicap)も途中棄権とどうにも元気がない。元々は馬場不問でだらだらとしたマラソンレースでしぶとさを生かすタイプであり、G1競走でも好走していた影響でやや不当に高く割り当てられたレーティングに苦労していた馬だけにここに来て斤量が俄然楽になるということはプラス材料だが、一方で長期の休養を経て復帰した以降の良績がさっぱりというのはさすがにマイナスで、10歳という年齢も考えると不安材料の方が大きいというところが現状だろう。

 

20 Latenightpass (GB), 10st10lb J: Miss Gina Andrews T: Tom Ellis

- 11yo gelding Passing Glance - Latenightdip (Midnight Legend)

父Passing GlanceはNureyevを祖父に有する種牡馬で、Ascot Chase (G1)の勝ち馬Dashel Drasher、Manifesto Novices' Chase (G1)の勝ち馬Millers Bankが代表産駒として挙げられる。Nureyevの子孫はその繁栄もあってさすがに役者は多く、2024年のCheltenham FestivalでもArakanの産駒であるCaptain GuinnessがQueen Mother Champion Chase (G1)を制すなど結果を残しているが、比較的種牡馬として目立つのはMidlands Grand National (Premier Handicap)の勝ち馬BeauportやPrix Renaud Du Vivier (G1)等を制した快速馬Blue Dragon、PauのCross Country SpecialistのSaying Againなどを送り出したCalifetだろうか。面白いところではGran Corsa Di Siepi D'Roma (G1)等を制したFrammassoneは驚くべきことに引退後はイギリスで繋養され、アラブ血量として14.060%を有するAnglo-Arabe de complémentであるMille Et Une Nuitsを母に持つGabbys CrossがBetVictor Novice Handicap Chase (Grade B)を制すなど結果を残している*50。Latenightpassの母LatenightdipはTom Ellis厩舎で現役生活を送ったイギリスのPointerで、Point-to-PointでTom Ellisを背に計3勝を挙げている。

Grand National: A fairytale win for Latenightpass? Tom Ellis and Gina Andrews on Luck On Sunday (Youtube)

Latenightpassは元々はTom Ellis厩舎の所属馬としてPoint-to-Pointを走っていた馬で、AintreeのFoxhunters' Open Hunters' Chaseは2022年にMiss Gina Andrews騎手を背に勝利、2021年は2着、2023年は4着に入っている。今シーズンはTom Ellisの妻であるGina AndrewsとともにCheltenhamのCross Countryに挑むべくTom Ellisの親友で近郊のDan Skelton厩舎に移籍し、12月のCrystal CupではFrancky Du Berlaisを破って勝利した。このレースは今年の2月にAlbert Bartlett Prestige Novices' Hurdle (G2)を叩いての参戦となる。小柄な馬ということで比較的軽い斤量で挑むことが出来るのはこの馬にとっては利点であり、National Fenceへの経験値やCross Countryで見せた飛越技術を考えれば当然面白い一頭だが、一方で24f超のHandicap Chaseの重賞競走への経験がないことは明らかな懸念材料で、スピード面でどこまで対応可能であるかということには注意しておきたい。Tom Ellis調教師はPoint-to-Pointでチャンピオントレーナーに輝いている実績のある調教師であるが、このLatenightpassの参戦のためにプロライセンスを所得するそうだ。これはイギリスPoint-to-Pointの制度上、同調教師はPoint-to-Pointから離れることを意味しており、同調教師にとって非常に大きな決断であることは言うまでもないだろう。加えて騎乗するのはTom Ellis調教師の妻で、Point-to-Pointで実績のあるGina Andrews騎手、LatenightpassはTom Ellisの母であるPippa Ellisが生産し所有している馬ということで*51*52*53、なんとも夢のある挑戦となりそうだ。

 

21 Minella Crooner (IRE), 10st10lb J: Kevin Sexton T: Gordon Elliott (IRE)

- 8yo gelding Shantou - Laren (Monsun)

DANNY MULLINS and MINELLA COCOONER gallop their rivals into submission - Racing TV (Youtube)

上記Shantouの産駒。母Larenはドイツ生産馬だが、Stall Jenny Cup FinaleというMünchenのHürdenrennenのListenrennenを勝利した馬である*54。Minella Croonerの曾祖母Lititiaはルーマニア生産馬となかなか味わい深い系統のようだ。Minella CroonerはDublin Festivalにおけるとても名前の長い22fのNovice HurdleのG1競走にて、Minella Croonerと名前の似ている同い年のMinella Cocoonerの2着に入った馬で、2022年の秋からChaseに転向している。ただしどうにももたもたと走るところがあるようで、ここまでの実績としてはWexfordのM.W. Hickey Memorial Chase (Listed)勝ち程度に留まっている。TramoreのSavills New Year's Chase (G3)では早々に置いて行かれるも最後猛然と差を詰めて勝ったJungle Boogieから僅差の3着に入っていたりと能力はあるようで、過去には栄華を誇ったドイツ競馬*55の忘れ形見のような存在がこのAintreeのGrand National (Premier Handicap)に出走していることはなかなかに面白い挑戦になるのだが、ここまでの戦績としてはどうにも信用ができないというのが正直なところだろう。なお、上記Minella Cocoonerとは名前は似ているものの馬主や厩舎、血統的には全く異なる存在であり、上記Dublin Festivalのすごく名前の長いG1競走に加えて同年のPunchestown FestivalのIrish Mirror Novice Hurdle (G1)で戦った以降(Minella Crooner:途中棄権、Minella Cocooner:2着)、残念ながら同じレースでの出走はない。

 

22 Adamantly Chosen (IRE), 10st9lb J: Sean O'Keeffe T: Willie Mullins (IRE)

- 7yo gelding Well Chosen - Sher's Adamant (Shernazar)

父Well ChosenはSadler's Wellsの産駒で、ここまでアメリカGrand National Hurdle (G1)を制したJury Dutyを筆頭に、Thyestes Handicap Chase (Grade A)の勝ち馬Carefully Selected、Grand Annual Challenge Cup (G3)の勝ち馬Chosen Mate、Shamrock Handicap Chase (Grade B)の勝ち馬Goulane Chosen等複数の活躍馬を送り出している。Adamantly Chosenの半兄でGold Wellの産駒KylecrueはアイルランドのHandicap競走を中心に81戦12勝(PtPで1勝)という立派な成績を収めた馬である。Adamantly Chosenの全弟で2018年生まれのUncle Patという馬は2023年8月にWillie Mullins厩舎の一員としてNHFを制しているが、それ以降出走はないようだ。

Adamantly Chosen survives early blunder to win at Punchestown - Racing TV (Youtube)

Adamantly Chosen自身は元々20~24f Novice ChaseのG1戦線を走っていた馬で、Faugheen Novice Chase (G1)やLadbrokes Novice Chase (G1)の2着の実績がある。ただし2022-23シーズンの後半の成績は尻すぼみに終わっており、20~24fのHandicap Chase戦線に参戦した今シーズンもあまりいい結果が出せていない。ひとまずDown RoyalのBluegrass Stamm 30 Chaseを快勝してここに挑んできた。ただし前走は人気になっていたClassic Getawayが凡走し、トップスピードに秀でたわけではないRoi Mageが2着と、14馬身差と数字面では立派なのだがあまり着差を信用しにくいところがある。距離延長がいい方向に出るのであれば面白いのだが、とはいえ昨シーズンも結局殆ど20fを使われていたように24f超への適性についても未知数で、いまいち信用しにくいというのが正直なところである。Sean O'Keeffeによるとある程度早い馬場の方がこの馬には向くとのことだ*56

 

23 Mac Tottie (GB), 10st9lb J: James Bowen T: Peter Bowen

- 11yo gelding Midnight Legend - Tot Of The Knar (Kayf Tara)

父Midnight Legendは元々平地馬として活躍した馬であるが、キャリアの後半はHurdle競走に参戦し、1997年のTop Novices' Hurdle (G2)等重賞競走を2勝したほか、1999年のAintree Hurdle (G1)ではあのIstabraqの2着に入っている。近年ではすっかり見なくなったイギリスのDual Purpose Horseからの種牡馬として活躍したMidnight Legendは残念ながら2016年に亡くなっているが、種牡馬としてはCheltenham Gold Cup (G1)等の勝ち馬Sizing Johnを筆頭に、Welsh Grand National (Premier Handicap)の勝ち馬The Two Amigos、Mignight Maestro、Sky Pirate等複数の活躍馬を送り出すことに成功した。近年でもイギリス・アイルランドにおいてはex-flat horseは一定の存在感を示しているが、一方で残念ながらそれらはほぼセン馬であり、Capriの全弟であるBrazilもBoodles Juvenile Hurdleを制した当初は未去勢であったものの結局は去勢されるなど、やはりステイヤーとしてのポテンシャルを示すことに成功したMidlight Legendのような存在が現れることを期待したいところである。Night Shiftの子孫としては他には日本でもお馴染みの*タートルボウルがChampion Four Year Old Hurdle (G1)の勝ち馬Bapaumeを送り出しているほか、AzamourがGrand National Hurdle (G1)等の勝ち馬RawnaqやZarkandar、Dawalan、Wrestler、Double Bluff等の活躍馬を送り出している。

Mac Tottie wins the wins the 2021 Betway Grand Sefton Chase over the famous Grand National fences (Youtube)

Mac TottieはNational Specialistの一頭で、2021年のGrand Sefton Chase及び2022年のTopham Chase (G3)を勝利している。今シーズンは12月のMiddle Distance Series Veterans' Chase (Class2)を勝ったのち、Hurdle戦及びAscotのVeterans' Chaseを叩いてここに挑んで来た。National Fenceへの経験値としては明らかにここでは上位の実績を持つ馬で、前走も7着と着順は悪いものの勝ったSam Brownから11st12lbを背負って18馬身差とさほど負けていないことを考えると、11歳という年齢的なものによる力落ちはなさそうだ。馬場不問で結果を残していることも有利な材料だろう。一方で2021年のWelsh Grand National (G3)は途中棄権に終わっていたりと24f超の競争での実績があるわけではなく、加えて21fのTopham Chase (G3)を勝利したのは2022年と、2024年現在において重賞クラスのペースに対応するだけのスピードを持っているかどうかは少し慎重に考えた方がいいかもしれない。

 

24 Chemical Energy (IRE), 10st9lb J: Danny Gilligan T: Gordon Elliott (IRE)

- 8yo gelding Well Chosen - Meadstown Miss (Flemensfirth)

Grand National contender? Desertmore House captures €200,000 Kerry National (Youtube)

上記Well Chosenの産駒。元々はChampion Bumper (G1)にも参戦した素質馬であるが、Novice Chaseに参戦した昨シーズンはG1戦線には向かわず、Cheltenham FestivalのNational Hunt Challenge Cup (G2)では最後Gaillard Du Mesnilに捕まって2着に終わっている。今シーズンは9月のKerry National (G3)で6着に入ってここに挑んで来た。Kerry National (G3)では11st4lbを背負って前々で運ぶも終盤に捕まっての敗戦ではあったが、勝ったDesertmore Houseから10馬身差とさほど負けているわけではなく、レース運びを考えれば立派な内容だろう。おそらく能力的には長い距離のレースを淡々と運んでいくタイプと想定され、今シーズンはここまでKerry National (G3)を1走したのみと余力がありそうなのは歓迎材料だが、とはいえこれが206日ぶりの実戦というのは少々休み過ぎな感もあり、National Hunt Challenge Cup (G2)での好走もMahler Missionの落馬に助けられた上に最後苦しくなって捕まっていることも踏まえると、24f超の競争に対する適性という点でも強調材料に欠ける。

 

25 Limerick Lace (IRE), 10st8lb J: Mark Walsh T: Gavin Cromwell (IRE)

- 7yo mare Walk In The Park - Sway (Califet) 

父Walk In The ParkはMontjeuの産駒として近年最も成功した種牡馬の一頭であり、その産駒にはDouvan、Min、Jonbon、Facile Vegaといった高いトップスピードとその持続性能を武器に各路線のチャンピオンホースとして君臨した一流馬が多数含まれる。面白いところではVirginia Gold CupやMiddleburg Hunt Cup等を制し、アメリカTimber路線において活躍したAndi'amuや、Grand Cross Country De Durtal等Trophée National du Crossで活躍したBorn To Be A QueenもまたWalk In The Parkの産駒である。直近でもFairyhouseのEaster FestivalにおいてSpillane's TowerがWillowWarm Gold Cup (G1)を制しており、現代欧州競馬において最も勢いのある種牡馬の一頭と言っていいだろう。現在はアイルランドで繋養されているようだが、上記Jonbonの全弟で未出走馬であるHerostarがフランスHaras de la Vallee Verteで種牡馬入りしたそうで、その活躍には大いに期待がかかる*57。母SwayはフランスAuteuilで3歳牝馬限定Listed競走を3勝した馬であるが、その産駒としてInothewayurthinkinが2024年のKim Muir Challenge Cupを制し、Ilikedwayurthinkinが2022年のMayo National (Grade B)で2着に入るなど、なかなか活躍の一族である。

LIMERICK LACE leads home McManus 1-2 in Mares' Chase (Youtube)

Limerick Laceは2023年には主にBarberstown Castle Novice Handicap Chase (Grade B)を勝利するなどNoviceの20f Handicap Chase路線で走っていた馬だが、今シーズンは主に牝馬限定戦を使っているようで、Cheltenhamでは近年新設された牝馬Chase重賞であるMrs Paddy Power Mares' Chase (G2)を勝利している。とはいえ単なる牝馬限定戦のSpecialistというわけではなさそうで、11月のTroytown Chase (G3)ではCoko Beachの2着に入るなど結果を残している。前走のCheltenhamは20fといえど直前に強い雨が降り始めていた影響等により24f戦への適性が強く必要とされた競走で、昨年末のPaddy's Rewards Club Chase (G1)を圧勝したDinoblueを抑えての勝利と、牝馬が相手とはいえ改めてこの馬の強さを示す内容であった。加えて牝馬限定戦が主とはいえ比較的ここまで崩れずに走っていることはなかなか興味深い戦績で、24f超への競争の出走経験はないとはいえ、National Fence及び距離を克服できれば実績以上の着順を残す可能性もありそうだ。

 

26 Meetingofthewaters (IRE), 10st8lb J: Danny Mullins T: Willie Mullins (IRE)

- 7yo gelding  Court Cave - Maisy Daisy (Luso)

父Court CaveはSadler's Wells産駒の未出走馬だが、Beat Hollowの全弟、母はアイルランドオークスの勝ち馬という良血馬で、アイルランドにて種牡馬入りしたそうだ。その代表産駒としては2019年のBallymore Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬City Islandや、2017年のNeptune Investment Management Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬Willoughby Courtなどが目立つところだが、今年に入ってもJpr OneがLightning Novices' Chase (G2)を制すなど一定の存在感を示している。

CHIANTI CLASSICO tastes Ultima success for Bass & Bailey (Youtube)

Meetingofthewatersは元々Eugene O'Sullivan厩舎に所属していた馬だが、昨年からはWillie Mullins厩舎に転厩している。前厩舎ではCorkのHandicap Hurdleを勝った程度であまり目立った成績を残していないものの、今シーズンは12月のLeopardstownのPaddy Power Chase (Listed)を制し、CheltenhamのUltima Handicap Chase (Premier Handicap)にて11st8lbの斤量を背負いながらも3着に入るなど結果を残している。特にUltima Handicap Chase (Premier Handicap)は勝ったChianti Classicoから5馬身差と斤量差を考えれば勝ちに等しい内容で、同レースの直前に同馬の能力を評価されアイルランドの一大馬主であるJP McManusに購入されたという経緯を考えると、この馬の持っている能力には注意しなければならないだろう。Willie Mullinsも次のシーズンにはGold CupやIrish Nationalに出走する可能性を示唆しており*58、7歳という上積みのある年齢を考えれば実に興味深い一頭である。

 

27 The Goffer (IRE), 10st8lb J: Sean Bowen T: Gordon Elliott (IRE)

- 7yo gelding Yeats - Ballylough Lady (Mister Lord)

Derek Fox does it again as CORACH RAMBLER goes back to back in the Ultima Chase (Youtube)

上記Yeatsの産駒。主な勝ち鞍としては2023年のBulmers Leopardstown Handicap Chase (Grade A)が挙げられるが、その後も24fクラスのHandicap Chaseでコンスタントに結果を残しており、昨シーズンはUltima Handicap Chase (Premier Handicap)やbet365 Gold Cup (Premier Handicap)で4着に入っている。ただし今シーズンはPunchestownの平地競争を勝ったのみで、直前のUltima Handicap Chase (Premier Handicap)では前から離れた5着とどうにもいまいちである。比較的フレッシュなNovice馬として活躍した昨シーズンの戦績を考えれば、一度平地競争を叩いたのちUltima Handicap Chase (Premier Handicap)を経て調子を上げていれば面白い存在にはなりそうで、陣営の下馬評には注意した方がいいかもしれない。ただし馬場状態としてはあまり重くならない方がよさそうな印象がある。

 

28 Roi Mage (FR), 10st8lb J: James Reveley T: Patrick Griffin (IRE)

- 12yo gelding Poliglote - Royale Majesty (Nikos)

お馴染みSadler's Wellsの直系であるPoligloteの産駒。イギリスでJLT Melling Chase (G1)、Tingle Creek Chase (G1)を勝利した芦毛のPolitologueに加え、Velka Pardubickaを制したTzigane Du Berlaisや、2015~2016年とGrand Steeplechase de Paris (G1)を制したSo French、2023年Stayers' Hurdle (G1)で大穴を開けたSire Du Berlais、更にはLingo、Butler's Cabin、Kiko、Policalente、Prince Oui Oui、Sant Du Chenet、Tanais Du Chenet、Hinterland、Don Poli、Fleur D'Ainay、Poly Grandchamp、Hermes Allen、これらは全てPoligloteの産駒であるG1馬の名前である。2024年のCheltenham FestivalでもFact To FileがBrown Advisory Novices' Chase (G1)を制しており、Poliglote自身は2018年に亡くなっているとはいえ、欧州障害競走におけるその影響力は未だに絶大である。Roi Mageの母Royale Majestyはフランス障害馬で、Haies及びSteeplechaseでそれぞれ1勝をあげている。

GRAND STEEPLE CHASE DE PARIS 2019 | Carriacou, le triomphe ! | Auteuil | Groupe 1 (Youtube)

Roi Mage自身は元々Prix Romati (G3)等フランスのSteeplechaseで長く活躍した馬で、Grand Steeplechase De Paris (G1)にも複数回の参戦歴がある。2022年から現Patrick Griffin厩舎に移籍しこのAintreeのGrand National (Premier Handicap)を目指してレースに使っており、2022年は残念ながらレーティングの関係で除外となったものの、2023年にはフランスリーディングジョッキーにも輝いたFelix de Giles騎手を背に7着に入っている。同レースでFelix De Giles騎手が道中同馬の飛越を讃える仕草はちょっとした話題になったようだ*59。その後も11月のGrand Cross Country De CompiegneをJames Reveley騎手を背に勝利するなど元気なようで、Down RoyalのBluegrass Stamm 30 Chaseを叩いてここに向かってきた。フランスCross Countryにも対応ができるだけの高い飛越技術が武器の馬で、前走はAdamantly Chosenからやや離されたとはいえ、トップスピードに秀でた馬ではないだけに気にしなくていいだろう。昨年は良馬場でスピードが生きる条件においてやや強気に運び過ぎた感があるだけに馬場が重くなる見込みがあることは明らかにプラス材料で、これまでに3回のフランスリーディングジョッキーのタイトルを獲得したJames Reveley騎手とはCompiegneに続いてコンビを組むことも興味深い要素である*60*61ブックメーカーでのオッズでは低評価のようだが、イギリス系のブックメーカーではフランス関連馬を過小評価する傾向にあり、ブックメーカーの評価以上に今年で82歳になるPatrick Griffin調教師が送り出すベテランによる挑戦に期待したい。

 

29 Glengouly (FR) (AQPS), 10st7lb J: Michael O'Sullivan T: Willie Mullins (IRE)

- 8yo gelding Coastal Path - Roulmapoule (Agent Bleu)

父Coastal PathはSharpen Upの末裔で、平地のステイヤーとして活躍したのちフランスで種牡馬入りした。その代表産駒としては芦毛のAsterion Forlongeが挙げられる。King George VI Chase (G1)では勝負圏内で踏ん張るも最終障害で落馬したりとどうにも結果を残し切れていない同馬であるが、とはいえ能力的には素晴らしいものを持っていることは確かであろう。Coastal Pathは他にもBacardys、Franco De Port、Saint Roiなど複数の主要競走勝ち馬を送り出している。Sharpen Upの末裔としてはこのHalling - Coastal Pathのほか、Muhtathir - Doctor Dinoが特に有力な系統であり、Muhtathirは自身もTwinlightやSalder Roque、Envoi Allen、StatuaireやJames Du Berlaisといった活躍馬を送り出しているほか、その後継種牡馬であるDoctor DinoがLa Bague Au Roi、Sceau Royal、Docteur De Ballon、Sharjah、Master Dino、Dinoblue、State Man、Jade De Grugy等多数の活躍馬を輩出し、近年で最も勢いのある種牡馬の一頭となっている。日本からフランスに輸出されたAuthorized産駒のBandeはDoctor Dinoの半弟で、このような血統背景を考えるとBandeの種牡馬としてのポテンシャルには期待せざるを得ない。

AIN’T THAT A SHAME is too good in the 2024 Goffs Thyestes Chase at Gowran Park (Youtube)

GlengoulyはNovice Chaseに参戦した昨シーズンはあまり上手くいかなかったようだが、今シーズンからHandicap Chase路線に参戦している馬で、Tim Duggan Memorial (Listed)では11st12lbを背負って2着、続くThyestes Chase (G3)もAin't That A Shameの2着と頑張っている。前走のCheltenham FestivalのTrustTrade Plate (Premier Handicap)は前に行くも脱落し大敗に終わっているが、おそらくNovice Chaseでも結果を残せなかったように重い馬場である程度ゆったりと走るマラソンレースにて適性を示せすタイプであること、さらに11st8lbというそれなりに厳しい斤量も考慮するとあまり気にしなくてよさそうだ。おそらく前走の20fから距離が延びること自体は歓迎材料だろう。今シーズンになって馬が良くなってきた可能性に期待しつつ、軽量を生かして気楽にどこまでといったところだろうか。

 

30 Galia Des Liteaux (FR), 10st7lb J: Harry Skelton T: Dan Skelton

- 8yo mare Saddler Maker - Serie Love (Agent Bleu) 

父Saddler Makerは未勝利馬ながら種牡馬として高いポテンシャルを示した馬で、その代表産駒としてはHaydock競馬場のSpecialistとして名を馳せた芦毛のBristol De MaiやG1競走を計11勝した名牝Apple's Jadeを筆頭に、Messire Des Obeaux、Gerri Colombe、Crambo等、多数の活躍馬を送り出している。Saddler Maker自身は残念ながら2016年の5月に亡くなっており、不良馬場にて特異な強さを示す産駒の活躍を目にすることができる期間はそう長くない。2022年の中山グランドジャンプに予備登録を行ったアイルランドのGevreyもこのSaddler Makerの産駒である。母Serie Loveはフランス障害競走で19戦未勝利という成績に終わった馬である。

MY SILVER LINING provides family success in Classic Chase at Warwick (Youtube)

Galia De Liteauxは今年のClassic Handicap Chase (Premier Handicap)でMy Silver Liningから僅差の2着に入った馬であるが、当時はMy Silver Liningの10st4lbに対してこの馬は11st10lbを背負っており、実質的にはこちらを上に取るべきだろう。ここへは2月のExterの牝馬限定Listed競走を叩いてここに向かってきた。11月のGood to SoftのMarket Rasenで行われた牝馬限定Listed競走での勝ち鞍はあるのだが、基本的にはSaddler Makerの産駒らしく極めて重い馬場でのマラソンレースで強さを発揮するタイプの馬で、今シーズンは牝馬限定戦での出走が主とはいえ、当日のレース条件次第では浮上する可能性はありそうだ。それにしても、Warwickの伝統の29f戦で11st10lbを背負って2着に入った馬がここでは最軽量に近い評価となるということは少々考えさせるものがある。

 

31 Panda Boy (IRE), 10st7lb J: James Slevin T: Martin Brassil (IRE)

- 8yo gelding Valirann - Ballymartintheatre (King's Theatre)

父ValirannはMr. Prospector - Gulch - Nayefのラインの出身で、どうやらフランス15fの平地重賞を勝利したのちに早々に種牡馬入りしたようだ。代表産駒としては2024年のCoral Trophy (Premier Handicap)を勝利したForward Planや2022年のElite Hurdle (G2)を勝利したKnappers Hillが目立つところだろうか。イーグルカフェ等の存在で日本でもそれなりに知られているGulchの子孫はあまり現代障害競馬ではなじみがなく、Thunder Gulchの産駒Spy In The Skyが2012年のA. P. Smithwick Memorial Steeplechase (G1)を勝利したのが比較的大きなタイトルである。

I AM MAXIMUS powers to victory in the BoyleSports Irish Grand National - Racing TV (Youtube)

Panda BoyはChaseでは2021年の5月にBeginners Chaseを1勝したのみであるが、その後は2022年及び2023年のPaddy Power Chase (Listed)でそれぞれ3及び2着、2023年のirish Grand National (G3)で5着など、アイルランドの24f Handicap Chase路線では常連として頑張っている。今回は2月のLeopardstownのListed Hurdleを叩いてここに向かってきた。比較的重い馬場と24f超の長い距離でも対応してきた実績と、完全にここへ目標を定めてきた参戦過程、さらに今シーズンの実績を考えればここでも有力視できる一頭で、前走のLeopardstownのListed Hurdleでも勝負気配としては微妙だったとはいえ11st9lbを背負って勝ち馬から僅差の4着に頑張っているのは素晴らしい内容だろう。8歳と勢いのあるこの年においてほぼ最軽量のレーティングで滑り込んで来たというのはこの馬にとっては僥倖で、非常に楽しみになる出走馬である。

 

32 Eklat De Rire (FR) (AQPS), 10st7lb J: Darragh O'Keeffe T: Henry de Bromhead (IRE)

- 10yo gelding Saddex - Rochdale (Video Rock)

父SaddexはSadler's Wellsの産駒で、主にドイツ及びイタリアの平地競争で活躍した。その代表産駒としてはGary Moore厩舎の所属馬としてNiall Houlihan騎手とのコンビで独特の逃げ足を武器に2023年のClarence House Chase (G1)等を制したEditeur Du Giteが挙げられる。Eklat De Rireの母Rochdaleは2009年のPrix Renaud Du Vivier (G1)にて5着に入るなどフランス障害競走で計3勝をあげたAnglo-Arabe de complémentであるが、Eklat De Rireの母母母母父にあたる1963年生まれのLe Verglasという馬がAnglo-Arabianである。Eklat De Rireはアラブ血量として0.780%を有するAQPSである。

CHIANTI CLASSICO tastes Ultima success for Bass & Bailey (Youtube)

Eklat De Rireは2021年にNaasのNaas Racecourse Buisiness Club Novice Chase (G3)を制した馬であるが、それなりに期待されて挑んだその後のBrown Advisory Novices' Chase (G1)では第12障害で落馬に終わっている。翌シーズンのM.W. Hickey Memorial Chase (Listed)ではConflated相手に快勝したものの、その後のLadbrokes Trophy (G3)は早々に途中棄権に終わり、その後はさっぱりいいところがない。今シーズンはFairyhouseのRated ChaseでVelvet Elvisの2着に入っているようだが、同レースは人気を集めたCorbetts CrossやRun Wild Fredが落馬に終わったという棚ぼたもあってのもので、その後のUltima Handicap Chase (Premier Handicap)も終盤で脱落して途中棄権といまいちである。おそらくかなり重い馬場の長い距離をゆったりと進むタイプの馬と想定され、馬場状態及び展開次第で浮上してくる可能性はありそうだが、とはいえさすがに馬の状態として不安が残るというのが現状だろう。

 

33 Chambard (FR) (AQPS), 10st7lb J: Miss Lucy Turner T: Venetia Williams

- 12yo gelding Gris De Gris - Regina Park (Cadoudal) 

父Gris De GrisはBellypha - Mendez - Linamixという現代障害競馬の中でも最も勢いのある系統の出身であるが*62、現役時代は平地競争馬として活躍したGris De Gris自身はLinamixを父にもつSlicklyの産駒であり、種牡馬としてはLinamixの子孫の中では比較的マイナーな存在である。引退後はフランスで種牡馬入りしたようで、ChambardはGris De Grisにとっては代表産駒となる。Gris De Gris自身は2016~2018年頃に年間で80~100頭近い繁殖牝馬を集めたのが最高のようで、このあたりの世代から活躍馬が出て欲しいところである*63

WHAT A BRAVE WIN! CHAMBARD WINS THE BOYLESPORTS BECHER CHASE (Youtube)

Chambardは昨年のBecher Chase (Premier Handicap)の勝ち馬である。元々は2022年のFulke Walwyn Kim Muir Challenge Chpを勝ってきた馬であるが、それ以降はClass2のHandicap Chaseを主に使っており、Becher Chase (Premier Handicap)は初のNational Courseで結果を残すものであった。ただしその後のWelsh Grand National (Premier Handicap)やGrand National Trial Handicap Chase (Premier Handicap)、Ultima Handicap Chase (Premier Handicap)ではいずれもいいところなく終わっている。National Fenceでの実績のある経験馬の技術には期待したいが、とはいえBecher Chase (Premier Handicap)は10st1lbと裸同然の軽量での勝利で、ここまで重賞クラスでの実績がないことを考えるとシンプルにスピード面で足りない可能性はありそうだ。馬場がとにかく重くなってどこまでといったところだろう。

 

34 Kitty's Light (GB), 10st7lb J: Jack Tudor T: Christian Williams

- 8yo gelding Nathaniel - Daraiyna (Refuse To Bend)

NathanielはSadler's Wells - Galileo一派の一角としてどちらかというと平地色の強い種牡馬であるが、障害馬の父としてもTriumph Hurdle (G1)の勝ち馬Burning VictoryやZanahiy、Concertistaといった活躍馬を送り出している。Kitty's LightはNathanielの代表産駒である。

Kitty's Lightは可愛い名前だがセン馬である。元々春先の超長距離ハンデ戦で結果を残してきたタイプであるが、2023年の春にはNewcastle伝統の33f戦であるEider Handicap ChaseからAyrのScottish Grand National (Premier Handicap)、さらにSandownのbet365 Gold Cup (Premier Handicap)と、春先の名物超長距離競走にて驚くべき3連勝を達成した。ただし今シーズンはNewburyのCoral Gold Cup (Premier Handicap)やUltima Handicap Chase (Premier Handicap)を含め5戦するもいずれも大敗といいところがない。どうやらここまでのレースは全てGrand Nationalを目指してのものであったようで*64、馬場が良くなる春先に調子を上げてくるタイプであること、この馬が昨シーズン示してきた素晴らしい能力を考えると興味深い存在ではあるのだが、とはいえ昨シーズン後半の厳しいレースの数々による反動が心配なところで、重馬場が想定される当日のコンディションも懸念材料ではある。

*1:23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Result - にげうまメモ

*2:22/04/09 National Hunt Racing - Grand National Result - にげうまメモ

*3:21/04/10 National Hunt Racing - Grand National Result - - にげうまメモ

*4:THE JOCKEY CLUB ANNOUNCES CHANGES TO THE RANDOX GRAND NATIONAL AS PART OF RELENTLESS FOCUS ON HORSE WELFARE

*5:https://twitter.com/itvracing/status/1777290813606625323

*6:Leading Sires | Thoroughbred Stallion Guide

*7:Yeats | Stallions - Coolmore National Hunt

*8:22/06/17 障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝 ⑮ - その他 - - にげうまメモ

*9:Gordon Elliott insists Conflated should run in the Grand National

*10:irishracing.com | News - Kitty’s Light on track for National, with Conflated set for Melling Chase

*11:22/04/09 National Hunt Racing - Grand National Result - にげうまメモ

*12:Dream Well Horse Pedigree

*13:22/06/14 障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝 ⑫ - その他 - - にげうまメモ

*14:Nassalam trainer buoyed by forecast rain with National course heavy in places > Australia and International Horse Racing news updated daily

*15:irishracing.com | News - Moore praying for rain ahead of Nassalam Grand National bid

*16:Nassalam on course for Grand National but Gary Moore questions the handicapper's assessment after Gold Cup defeat | Racing Post

*17:https://lycoris-recoil.com/cafe_lyco_reco/

*18:23/10/04 現代障害競馬における主流血統 ③ - Mill Reef - - にげうまメモ

*19:23/11/25 現代障害競馬における主流血統 ④ - Königsstuhl - - にげうまメモ

*20:Manduro Horse Pedigree

*21:22/06/07 障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝 ⑦ - Montjeu - - にげうまメモ

*22:La valeur sûre Authorized quitte la Turquie pour revenir en Irlande - France sire

*23:22/06/14 障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝 ⑫ - その他 - - にげうまメモ

*24:2022/12/24 Japanese Racing - The Nakayama Daishogai / 中山大障害 - にげうまメモ

*25:Jeremy Horse Pedigree

*26:Kool Kompany relocates to Clongiffen Stud for the 2022 season | Racing Post

*27:Black City Horse Pedigree

*28:23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Result - にげうまメモ

*29:Lucinda Russell plays down fears that the prospect of heavy ground could hinder Grand National favourite Corach Rambler | Daily Mail Online

*30:ワールズエンドクラブ【World's End Club】キャラクターPV れいちょ(CV:上田麗奈) Reycho(Voice: Reina Ueda) - YouTube

*31:23/10/04 現代障害競馬における主流血統 ③ - Mill Reef - - にげうまメモ

*32:Stowaway Horse Pedigree

*33:22/06/09 障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝 ⑧ - Galileo - - にげうまメモ

*34:22/08/07 Weekly National Hunt / Jump racing - にげうまメモ

*35:23/03/14 National Hunt Racing - Cheltenham Festival - - にげうまメモ

*36:https://www.racingtv.com/news/mcconnell-on-national-mission-with-mahler

*37:23/11/25 現代障害競馬における主流血統 ④ - Königsstuhl - - にげうまメモ

*38:24/03/08 障害競馬入門⑱ - AQPS - - にげうまメモ

*39:22/06/07 障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝 ⑦ - Montjeu - - にげうまメモ

*40:Fame And Glory Horse Pedigree

*41:https://www.racingtv.com/news/mouse-morris-dreaming-of-more-grand-national-glory-with-foxy-jacks

*42:Mouse Morris dreaming of more Grand National glory with Foxy Jacks | Grand National Festival | At The Races & Sky Sports Racing

*43:23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Result - にげうまメモ

*44:Eldorado Allen primed for Grand National challenge | At The Races

*45:irishracing.com | News - Maxwell living his dream with Grand National ride on Ain't That A Shame

*46:https://www.dailystar.co.uk/sport/horse-racing/david-maxwell-horse-grand-national-32293690

*47:23/09/23 現代障害競馬における主流血統 ② - Linamix - - にげうまメモ

*48:irishracing.com | News - Cromwell hoping Vanillier can go one place better in National

*49:Shantou Horse Pedigree

*50:23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Entries - にげうまメモ

*51:Champion turns pro to train home-bred Latenightpass for Grand National

*52:Tom Ellis to train Latenightpass for the Grand National, Weatherbys Point-to-Point, Weatherbys Point-to-Point

*53:Lure of National chance too good for Ellis to Pass up

*54:https://www.deutscher-galopp.de/gr/pferd/7956216/

*55:23/04/28 ドイツ障害競馬 ① - 概要 - - にげうまメモ

*56:Adamantly Chosen halves in price for National with Down Royal win | Grand National Festival | At The Races & Sky Sports Racing

*57:Holding out for a hero - full-brother to Douvan and Jonbon launches new stud onto the map | Racing Post

*58:McManus snaps up leading fancies Meetingofthewaters and Its On The Line > Australia and International Horse Racing news updated daily

*59:Felix De Giles shows his love for Roi Mage (watch the yellow and blue silks) - YouTube

*60:Grand National 2024: 82-year-old trainer and 80-1 shot aiming to 'give punters run for their money' - Mirror Online

*61:Roi Mage camp believe 66-1 shot is being overlooked in Grand National market with James Reveley booked to ride | Racing Post

*62:23/09/23 現代障害競馬における主流血統 ② - Linamix - - にげうまメモ

*63:Breeding review of GRIS DE GRIS - Breeding informations

*64:'What he brought to the family was incredible' - Christian Williams has faith in 'very special' Kitty's Light for Grand National | Racing Post