にげうまメモ

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22/04/02 Grand National ② - レース条件 -

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Grand National(2019年)のレース条件は以下のとおりです。*1*2*3

  • 距離:4m2f74y(4マイル2ハロン74ヤード、約6907メートル)
  • 斤量:ハンデキャップ(最高斤量:11st10lb、最低斤量:10st0lb)*4
  • 年齢:7歳以上
  • 障害飛越数:30
  • 総賞金額:£1,000,000.00
  • 一着賞金:£500,000.00
  • 出走条件:同年3月までに以下の条件を満たすこと。① 当該シーズン中にChase競走に出走すること ② 出走馬の現役生活において2m7f74y以上のChase競走にて1~4着に入ること ③ BHAのハンデキャッパーにより125以上のレーティングを獲得していること。なお、イギリス又はアイルランドのレーティングを獲得していない馬の場合、BHAのハンデキャッパーが同年2月10日までに125以上のレーティングに達していると判断される場合においてのみハンデキャップ評価の対象となる。ハンデキャップ評価の対象となるには馬は公認競馬組織の競馬規則に基づいて行われるChase競走にて最低3回以上の出走が必要である。
  • 騎手条件:同年4月4日までにイギリス又はアイルランドにおける"Under Rules"又はIrish National Hunt Steeplechase Committee(INHSC)*5の主催するHurdle競走又はChase競走において15回以上の勝利、及びChase競走において10回以上の勝利
  • 出走頭数:最大40頭(これに加えて4頭の"Reserve"と呼ばれる予備出走馬)

 

*距離

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距離は4m2f74yとイギリス障害競馬における最長距離を誇りますが、近年スタート位置の変更等に伴い、若干以前よりも距離が短くなりました。イギリス障害競馬においてこの距離に次ぐ長距離が設定されているレースの例としては、Uttoxeter競馬場におけるMidlands Grand National (Listed)が4m2f8y*6、Newcastle競馬場のEider Chaseが4m122y*7、Ayr競馬場で行われるスコットランド地方最大の競走であるScottish Grand National (G3)が3m7f176y、Welsh Grand National (G3)が3m6f130y、Cheltenham Festivalのアマチュア騎手・Novice馬を対象とした名物競走National Hunt Challenge Cup (G2)が3m5f201y、Warwick競馬場で行われる名物競走でこのGrand National (G3)に向けての前哨戦としても重要なClassic Chase (G3)が3m5f54y*8といったところでしょうか。

イギリス各地の"Grand National"の例を以下に示します*9

Race Racecourse Distance
Grand National (G3) (National) Aintree 4m2f74y
Scottish Grand National (G3) Ayr 3m7f176y
Welsh Grand National (G3) Chepstow 3m6f130y
Classic Chase (G3)*10 Warwick 3m5f54y
Grand National Trial (G3) Haydock 3m4f97y
Midlands Grand National (Listed) Uttoxeter 4m2f8y
Eider Chase (Class2)*11 Newcastle 4m1f56y
Edinburgh National (Class2) Musselburgh 3m7f108y
Durham National (Class2) Sedgefield 3m5f48y
London National (Class2) Sandown 3m4f166y
Scottish Borders National (Class3) Kelso 4m90y
Devon National (Class3) Exeter 3m6f153y
Highland National (Class3) Perth 3m6f121y
Cambridgeshire National (Class3) Huntingdon 3m6f162y
North Yorkshire Grand National (Class3) Catterick 3m5f214y
Sussex National (Class3) Plumpton 3m5f102y
Norfolk National (Class3) Fakenham 3m5f24y
Surrey National (Class3) Lingfield 3m4f178y
West Wales National (Class3) Ffos Las 3m3f208y
Southern National (Class3) Fontwell 3m3f149y
Lincolnshire National (Class3) Market Rasen 3m3f123y
Somerset National (Class3) Wincanton 3m2f162y
Bk Racing Grand National (Class4) Hexham 3m7f199y

なお、世界的には7300メートルの距離が設定されているフランスのAnjou-Loire Challenge (Listed)が最長距離を誇る障害競走ですが、この競走は"Cross Country"と呼ばれる類のもので、"Chase競走"という観点ではこのAintree競馬場のGrand National (G3)がおそらく世界最長でしょう。各国の"Grand National"としては、フランスGrand Steeplechase De Paris (G1)が6000メートル、アイルランドIrish Grand National (Grade A)が3m5f(5834メートル)、イタリアGran Premio Merano (G1)が5000メートル、ポーランドWielka Wrocławskaが5000メートル、スウェーデンSvenskt Grand Nationalが4200メートルといったところです。2019年にBad Harzburgで行われたドイツ"German Grand National"という名の競争は4800メートルの距離が設定されていたほか*12、2000年台まで行われていたノルウェーのNorsk Grand Nationalは4200メートルの距離が設定されていたようです。オセアニアに目を向けると、オーストラリアVIC州Grand National Steeplechaseは4500メートル、ニュージーランドGrand National Steeplechaseは5600メートルが設定されていますが、オーストラリアGrand Annual Steeplechaseが5500メートル、ニュージーランドGreat Northern Steeplechaseが6400メートルと*13オセアニアには"Grand National"よりも長距離が設定された競走が存在しています。

ちなみに、アメリカTimber競走として世界最難関の競争の一つと言われているMaryland Hunt Cupは4マイル(約6437メートル)の距離が設定されています。

ちなみにチェコVelká Pardubickáは6900メートルと、ほぼGrand National (G3)と同様の距離が設定されていますが、Good to Softで行われた2021年のGrand National (G3)の勝ち時計は9分15秒42、stav dráhy: 3.4 (dobrá / Good)で行われた2021年のVelká Pardubickáの勝ち時計は9分12秒79と、これらのレースで設定されているコースも障害も全く異なるにも関わらず、意外にも同じような勝ち時計が計測されています。このような比較のためにサンプル数を増やしてみても面白いかもしれませんね。

欧州主要Cross Country競走については以下の記事を参照してください。

21/09/17 障害競馬入門⑦ - Crystal Cup -  (にげうまメモ)

22/01/23 障害競馬入門⑫ - Trophée National du Cross -  (にげうまメモ)

 

*出走馬・騎手

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出走馬は各国の障害競馬と同様にセン馬がほとんどであり、牡馬はまず出走しません。遡れば、アメリカGrand National(1934年)とイギリスGrand National(1938年)の双方を勝利した唯一の存在であるBattleshipはその後種牡馬としても活躍したそうです*14牝馬も毎年数頭が出走しており、これまでに計13頭の牝馬がこのレースを制しているそうで、2019年にはMagic of Lightが2着に頑張りましたが、1951年のNickel Coin以来勝ち星はありません*15

過去には5歳馬の勝利(1880年のEmpressや1909年のLutteur III等)もありましたが、現在では出走馬は2012年以降は7歳以上に限定されており、高齢馬としては概ね13歳程度までとなります。これまでの最高齢勝利は1853年のPeter Simple(15歳)です。近年の高齢馬の活躍としては、2016年の当時13歳のVics Canvas(3着)、2018年の当時13歳のBless The Wings(3着)が挙げられます。このBless The Wingsは14歳となった2019年にも出走し、さすがに13着と苦しかったようですが、残り2障害地点ではバテて下がってきた他馬を弾き飛ばす根性溢れる走りを見せました。ただし、15歳以上の出走馬は1947年のMacMoffat(落馬)が最後の出走例となっています*16*17

ちなみにNovice馬も上記の出走資格を満たせば出走可能であり、2016年の勝ち馬Rule the WorldはこれがSteeplechase初勝利となりました。ただし、Rule The World自身はこれがChaseは14戦目とそれなりに経験を積んでおり、どちらかというと勝ち味に遅いタイプだったようです。

近年の出走馬はイギリス及びアイルランド調教馬がほとんどを占めます。フランス調教馬を始め、イギリス・アイルランド以外の国の調教馬が参戦することもありますが(例:2015年のフランスのRiver Choice、2000年のノルウェーのTrinitro、1993-1994年のスロバキアのQuirinus*18、1991年のチェコのFraze*19等)、フランス調教馬である1867年のCortolvin以来勝ち星はありません。チェコ・スロバキア調教馬としては、1980年台にEssex*20、上記の通り1990年台にはFrazeやQuirinusが参戦したこともありますが、いずれも途中棄権に終わっており、1994年のQuirinusが最後の参戦例となっています*21ハンガリー調教馬としては1868年にBuszkeが、旧ソ連調教馬としては1961年にReljefとGrifelが出走していますが、いずれも途中棄権に終わっています*22。なお、この時は旧ソ連当局としては1957年から1959年にかけてVelka Pardubickaを3連覇したソ連の歴史的な名馬Epigraf II*23を含めた3頭の馬を送り込んだようですが、残念ながらEpigraf IIは体調面を考慮して直前でレースを回避したようです*24*25

なお、出走馬としては多くをサラブレッドが占めますが、一般的なイギリス障害競馬と同様に"AQPS"("Autre Que Pur-Sang")と呼ばれる馬も多く出走します。近年では、例えば2009年の勝ち馬Mon Momeや2014年の勝ち馬Pineau De Re*26がAQPSの例として挙げられます。近年の出走馬は殆どが障害競馬大国であるイギリス・アイルランド・フランス生産馬のみで構成されていますが、それ以外の国における生産馬としては、例えば2017年の2着馬Cause of Causes (USA)、2016年及び2014年に出走したKruzhlinin (GER)、1994年のQuirinus (CZE)*27、2013年のLost Glory (NZ)等が挙げられます。1997年のGrand National (G3)勝ち馬のLord Gylleneは元々ニュージーランド障害競馬でデビューしたニュージーランド生産馬ですね。アメリカ生産馬やドイツ生産馬は現在のイギリス障害競馬でもしばしば目にしますが、ニュージーランド生産馬は2010年台の前半まではちらほらと存在していたものの、近年のイギリス障害競馬ではさっぱり目にすることはありません。2017年のCheltenham Festivalには、元々オーストラリア障害競馬でHiskens Steeplechase、Grand National Steeplechase等の主要競走を制し、2010年のペガサスジャンプステークスにも出走したニュージーランド生産馬Pentifficがイギリス調教馬として出走していましたが、近年では非常に稀な例です*28

Grand National (G3)には一般的なイギリス障害競馬と同様にアマチュア騎手が参戦することもあります(例、2017年のMr Jamie Codd:2着、2021年のMr Patrick Mullins:4着)。近年イギリス・アイルランド障害競馬において活躍が目立つ女性騎手は毎年のように参戦しており、2020年までは2012年のSeabassで3着に入ったKatie Walshが最高でしたが、イギリスのBryony Frost及びTabitha Worsley*29、及びアイルランドのRachael Blackmoreの3人が参戦した2021年、ついにRachael Blackmoreが女性騎手として初のGrand National (G3)制覇を成し遂げました。なお、日本人騎手として唯一の挑戦としては田中剛元騎手が1995年にThe Committeeに騎乗しましたが、第1障害で落馬に終わりました*30

これまでにGrand National (G3)を優勝した最年長騎手は1982年のGrittarに騎乗したDick Saunders騎手(48歳)、最年少騎手は1938年のBattleshipに騎乗したBruce Hobbs騎手(17歳)です。

 

*斤量

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斤量はかつては12st台(76kg~)を背負うこともあり、12st7lb(約79.4kg)という現代障害競馬では考えられないような斤量を背負って勝利した馬として、1919年のPoethlyn、1912年のJerry M、1899年のManifesto、1983年のCloisterが挙げられます*31。その後最高斤量は少しずつ引き下げられ、2009年以降は最高で11st10lb(=74.4kg)に設定されています。レーティングで斤量が決定するハンデキャップ競走となっており、レーティング上位から順に最大で40頭の出走が可能です。そのため最軽量は必ずしも一定ではなく、2014年は10st1lbのSwing Billが最軽量、2013年は10st0lbのSollが最軽量でした。1856年にはFreetraderが9st6lbを背負って勝利していますが、現在ではこの斤量での出走は不可能であり、レーティングを踏まえて10st0lbの最軽量よりも軽い斤量が割り当てられた馬が出走可能となった場合、当該出走馬の斤量は自動的に10st0lbまで引き上げられます。これはイギリス競馬では"Long Handicap"、又は"out of the handicap"と呼ばれるシステムです*32。この事象はしばしばハンデキャップ競走で認められ、特にハンデキャップ競走に飛び抜けた実績馬が出走した際には頻繁に発生します。

ちなみに、Brexitの直後の2017年のGrand Nationalでは、主にアイルランド調教馬のレーティングが高めに設定されたことでひと悶着ありました。

なお、レーティング41~44番目の馬は"Reserve"と呼ばれ、上位馬が出走取消になった場合は"Reserve"の中のレーティング上位馬から順に出走可能になります。このシステムは2000年に開始され、これまでに10頭の"Reserve"が出走しましたが、まだ勝利した馬はいないようです。

 

*障害数

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障害数はNational Courseに設置されたNational Fenceを計30回飛越します。スタンド前に存在するThe ChairとThe Waterは各1回、その他の障害は計2回飛越します。ただし、様々な理由で障害の迂回が行われる可能性があるため、必ずしも30回の飛越を行うわけではありません。 障害については次回の記事で簡単に紹介します。

*1:Aintree Sat 09 Apr

*2:The Jockey Club Grand National (pdf)

*3:The 2021 Randox Grand National: Facts and figures, statistics plus replays

*4:ストーン・ポンド / ポンド / キログラム換算表

*5:要するにIrish Point to Point Racing、Irish National Hunt Steeplechase Committee announce Spring 2022 Point to Point Fixture List

*6:Midlands Grand National

*7:Eider Chase

*8:Classic Chase

*9:ただし、手作業で検索を掛けているので、抜けがある可能性に留意してください

*10:元々"Warwick National"や"Brooke Bondo Oxo National"と呼ばれていた競走が存在したようです

*11:参考までに

*12:Favorit Serienlohn gewinnt das German Grand National

*13:2019年のEllerslie競馬場におけるレース条件

*14:BATTLESHIP: THE PONY WHO CONQUERED AINTREE

*15:1951 Grand National

*16:1947 Grand National

*17:WWII以前の出走馬の情報がwikipediaにはないので、WWII以前の状況は調べられていません。もしかすると過去には更なる高齢馬の出走実績もあるかもしれません。

*18:A-Z of the Grand National

*19:1990年のVelka Pardubickaの2着馬

*20:騎乗していたVaclav Chalupka騎手は英語が話せなかったそうですが、なんとかコミュニケーションを取ることに成功したそうです

*21:The Velká Pardubická and the Grand National: the story of two horse races

*22:Grand National Stats, Facts & Figures

*23:Dostihový spolek » 1959

*24:1961: The Russians invade Aintree.

*25:Bumping into an old comrade at Becher's Brook

*26:Pineau de Re

*27:なんとスロバキアLadislav Kubišta厩舎の管理馬。1993年に引き続いての参戦でした。システム上の問題で11st10lbを背負っていて気の毒としか言いようがないのですが、同年のメンバーを見るとあのThe Fellowがいたりと、なかなか凄いメンバーです。

*28:22/01/05 2017年 Cheltenham Festival 旅行記 ⑨ - Gold Cup Day - 

*29:Tabitha Worsley | My First Grand National ride

*30:1995 Grand National

*31:Grand National 2021 – Facts & Figures

*32:Handicaps in Horse Racing Explained