*2017年 Cheltenham Festival 旅行記
Cheltenham Festival4日目、Gold Cup Day。この日はCheltenham FestivalにおけるメインレースであるCheltenham Gold Cup (G1)を含め、計7レースが行われます。やはりGold Cup Dayということもあり、なんとなく場内も他3日間よりも心なしか一層華やかな雰囲気になりますね。中の人もその雰囲気に当てられて、イギリス人が美味しそうに飲んでいるMoët & Chandonのシャンパンを20ポンドも出して買ったのですが、いかんせん考えてみればここは曇りの3月のイギリスの気候、ただでさえ寒いところ、余計に冷えてつらい思いをしました。なんでイギリス人はあんなものを寒い中で元気一杯飲んでいるのでしょうか。
同日のレース結果はこちらから。
早速第1レース。JCB Triumph Hurdle (G1)という4歳馬限定のHurdle競走ですね。イギリス・アイルランドでは"Juvenile Hurdle"と呼ばれる3~4歳馬限定競走が独自の路線として行われており、このレースはその頂上決定戦として位置づけられています。人気になっていたのは写真のDefi Du Seuil。ChepstowのFuture Champions Finale Juvenile Hurdle (G1)を制し、ここまで5戦5勝と絶好調の馬でした。
レースは人気のDefi Du Seuilが最終障害手前で抜け出すと、そのまま5馬身差をつけて危なげない勝利を上げました。写真が少ないのはこのレースの直前、Pre-Parade Ringで現を抜かしていたせい。
Defi Du Seuilはその後のAintree競馬場で行われるDoom Bar Anniversary 4-Y-O Juvenile Hurdle (G1)も勝利し、このシーズンのJuvenile Hurdleのチャンピオンとしての立ち位置を盤石のものとしました。しかしながら経験馬相手のHurdle路線に参戦した翌2017/2018シーズンは苦労したようで、2018/2019シーズンはChaseに転向。Chaseでは高い素質をいかんなく発揮し、JLT Novices' Chase (G1)をはじめG1を2勝する活躍を見せると、2019/2020シーズンはClarence House Chase (G1)を含むG1を2勝し、一躍16ハロンChaseの中心的な一頭へと躍り出ます。しかしながら盤石と思われた2020年のQuen Mother Champion Chase (G1)は惨敗すると、その後はかつての走りを取り戻すことはできていません。なんとか強かった頃のDefi Du Seuilをまた見たいのですが、2021/2022シーズン初戦の1965 Chase (G2)も良いところなく終わっており、雲行きとしてはかなり怪しい状況です。
第2レースはCountry Handicap Hurdle (G3)。16ハロンのHurdle競走です。パドックの写真がないのは腹痛でトイレを必死になって探していたせい。ここを勝ったのはArctic Fire。元々2015年にHatton's Grace Hurdle (G1)を勝利した馬で、それ以外でもG1で連続で入着するなどG1路線でもかなり頑張っていた馬なのですが、2016年1月のIrish Champion Hurdle (G1)の後に1年以上の休養、ここが実に418日ぶりの復帰戦でした。しかも背負っていたのは11st12lbのトップハンデと条件的にはかなり厳しく、単勝20倍と低評価だったようですが、その前評判を覆す見事な勝利を上げました。
その後Arctic Fireはやはり故障で引退するも、案外怪我の状態が悪くはないということで2018年にDenis Cullen厩舎のもとで現役に復帰しました*1。さすがにHurdleの重賞戦線ではかなり厳しかったようですが、CorkのHurdle平場戦や平地競争を制し、Chaseにも挑戦するなど、なかなかにドラマチックな現役生活を送ったようです。
写真がないのですが、2着のL'ami Sergeにも触れておきましょう。2015年のTolworth Hurdle (G1)の勝ち馬ですが、その後Chaseに転向、Chaseではいまいち結果が残せず、2016/2017シーズンからHurdleに戻っていました。その後は2017年にGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)を勝利、さらに2018年のAintree Hurdle (G1)を勝利するなど、長きにわたって活躍を続けました。残念ながらその後は故障で順調に使えず、2021年にレース中の故障で亡くなったのですが、この馬もまた現役生活を通じてフランスHaiesの最高峰を含むG1を3勝した名馬です。
続いて第3レース、Albert Bartlett Novices' Hurdle (G1)。24ハロンのNovice Hurdleです。お腹も落ち着いたのでパドックに復帰します。人気になっていたのが写真のDeath Duty。NaasのLawlor's Hotel Novice Hurdle (G1)を始め、アイルランドでHurdleは3戦3勝という素晴らしい成績を残していました。ただし、その良績のいずれもが不良馬場での実績。この日はの馬場表示はGood。どうでしょうか。
対抗角と思われていたWillie Mullins厩舎のAugusta Kate。NaasのLawlor's Hotel Novice Hurdle (G1)ではチャンス十分かと思いきや、肝心のところで落馬に終わっていました。実質勝ちに等しいレースだったということで人気になっていたようです。
本馬場に向かうDeath Duty。
レースは思わぬ形の結末を迎えます。後方に居たPenhillがそのまま大外を回して伸びてくると、抵抗するMonaleeを差し切り勝利しました。Penhillはもともとかなり長く平地競争を走っていた馬で、前走はLimerickのGuinness Novice Hurdle (G2)を快勝していましたが、ここでは単勝17倍とあまり評価は高くなかったようです。
このPenhillはその後、約1年近い休み明けながらも2018年のStayers' Hurdle (G1)を人気薄で制し、またしてもCheltenhamに大きな衝撃を与えることになります。なんだかんだでこのCheltenhamの下り坂を利用してロングスパートをかける戦術がよかったようで、このCheltenhamのコースには高い適性を持っていたようですが、残念ながら故障がちだったこともあり順調に使えず、2019/2020シーズンはFrank Ward Memorial Hurdle (G1)にてApple's Jadeの3着など頑張りましたが、結局勝ち星を挙げることはできませんでした。
2着のMonalee。その後はChaseに転向し、2018年にはFlogas Novice Chase (G1)を制しました。Novice卒業後も20~24ハロンChase路線の常連としてコンスタントに頑張っていたようです。2020年のKing George VI Chase (G1)に挑戦するというプランがあったようで、下馬評としてはかなり高く評価されていたようですが、残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響でアイルランドからの渡航が叶わず中止、2021年の冒頭に故障でシーズンは全休という報があって以来音沙汰がありません。
なお、人気を集めていたDeath Dutyは良馬場のスピード決着についていけず最終障害で落馬。わたしの目の前でぼてっと騎手が落っこちたのをよく覚えています。その後はChaseに転向し、重馬場のDrinmore Novice Chase (G1)を制しますが、その後故障で長期の休養を余儀なくされ、その後はかつての走りを取り戻すことはできていません。Augusta Kateはここでは惨敗に終わりましたが、2017年4月のIrish Stallion Farms EBF Mares Novice Hurdle Championship (G1)を勝利しました。
7着に入ったElegant Escape。ここでは単勝100倍と全く評価されておらず、レースとしてもちっともいいところはありませんでしたが、2018年にはその重馬場でのしぶとい走りを武器に11st8lbの厳しい斤量を背負ってWelsh Grand National (G3)を勝利しました。
勝負圏内に加わるも、最終障害で無念の落馬に終わったThe Worlds End。名前の格好よさだけならどの馬にも負けません。2017年4月のDoom Bar Sefton Novices' Hurdle (G1)では落馬の悔しさを晴らす勝利。その後Chaseに転向するもいまいち飛越が怪しく結果は出ず、Hurdleに戻って2019年のLong Walk Hurdle (G1)を勝利しました。晩年はHunters' Chaseを走っていたりしたようですが、2021年の暮れに引退したそうです。
いよいよメインレース、Cheltenham Gold Cup (G1)の出走馬がパドックに姿を現します。24ハロンChase路線の頂上決戦。人気を背負っていたのはアイルランドの巨匠Willie MullinsがRuby Walshとのコンビで満を持して送り出すDjakadam。ここまでG1は2勝している馬ですが、Cheltenham Gold Cup (G1)では2年連続で2着に入っていました。その安定感のある堅実な走りは確かな実力の証です。
11歳馬Cue Card。ここまでG1は9勝を挙げているイギリスの名馬。2017年の2月にはAscot Chase (G1)を制しており、11歳となった今年も元気一杯。Cheltenham Gold Cup (G1)は2年連続となる挑戦ですが、残り3障害地点で落馬に終わった昨年の巻き返しを図ります。
Bristol De Mai。当時は2016年にScilly Isles Novices' Chase (G1)を勝ったくらいの馬で、いまいちどちらかというと脇役程度の存在でした。2017年1月にHaydock競馬場のPeter Marsh Handicap Chase (G2)を圧勝していたのですが、その後のHaydock競馬場ではないDenman Chase (G2)ではあっさり敗れており、ここでは人気を落としていました。
妙に白くて目立つ馬が出てきました。Smad Place。当時10歳の馬ですが、2015年のHennessy Gold Cup (G3)で11st4lbを背負って圧勝した馬です。ただし2016年のCheltenham Gold Cup (G1)ではG1クラスのメンバーに太刀打ちできず大敗、前走のCotswold Chase (G2)もMany Cloudsから17馬身離された3着に終わっており、ここでは人気を落としていました。Cheltenham Gold Cup (G1)はこれが3年連続の出走になります。後ろを歩いているのがBristol De Mai。
ぼちぼち馬が本馬場に出てきます。場内の熱気も最高潮。もはや歓声が凄すぎて実況音声すら聞こえません。いよいよスタートです。
勝った陣営がもみくちゃにされながら帰ってきます。
Robbie Power騎手のアツいガッツポーズ。
この幾重にもWinners Enclosureを取り囲む人の輪。たくさんの人が勝者を祝福します。歓声も凄いですが、どちらかというと多くの人は大人しく拍手をしていました。
勝ったのはアイルランドのSizing John。元々は16~20ハロンでいまいち足りないレースを繰り返していた馬なのですが、24ハロンに距離を延長して覚醒、2月にはIrish Gold Cup (G1)を勝利していました。ただしここでは実績馬が多数いたことから、やや人気の盲点となっていたようです。
Sizing Johnはその後、4月のPunchestown Gold Cup (G1)も勝利し、24ハロンChaseのチャンピオンホースとしての座を盤石のものとしました。2017年12月にもJohn Durkan Memorial Punchestown Chase (G1)を勝利しますが、残念ながらその後は故障で全く順調に使えずに引退となったそうです。
2着に入ったのはMinella Rocco。残り3障害地点ではやや後方に置かれていたのですが、そこからしぶとく伸びて2着に食い込みました。2016年のNational Hunt Chase (Listed)を勝った馬で、その後は特段良いところはなかったので人気にはなっていなかったのですが、ここでは厳しい消耗戦になったことが良かったのかもしれません。この馬もその後は同じくG1戦線やAintreeのGrand National (G3)を始めとする超長距離ハンデ戦への出走を続けていたようですが、どうにも良いところはなく、2020年からはHunter Chaseに移行したようです。
3着には二番人気のNative Riverが入りました。全て写真がブレブレでマトモな写真がないのですが、元々NoviceではMildmay Novices' Chase (G1)を勝っていた馬、このシーズンはこの馬にとって、Hennessy Gold Cup (G3)、さらにトップハンデを背負ったWelsh Grand National (G3)を勝利と、飛躍のシーズンになりました。そしてここで3着の惜敗の悔しさは、翌年のCheltenham Gold Cup (G1)でMight Biteとの一騎打ちを制して晴らすことになります。
その他、人気のDjakadamは4着。結局Cheltenham Gold Cup (G1)にはこの翌年も参戦し(5着)、その年のGrand Steeplechase De Paris (G1)の後の故障により引退したのですが、Cheltenham Gold Cup (G1)は実に4年連続の出走を果たすことになります。Cue Cardは2年連続で同じ障害で落馬。Bristol De Maiは7着に大敗しますが、同じ年の11月のBetfair Chase (G1)を57馬身差で勝利し、Haydock競馬場では異様な強さを誇る"King of Haydock"として名を馳せることになります。
続く第5レース。St. James's Place Foxhunter Challenge Cup Open Hunters' Chaseというアマチュア騎手限定競走。勝ったのはPacha Du Polderという馬で、元々Greatwood Gold Cup (G3)勝ちなど重賞戦線でも活躍していたのですが、2015年頃からHunters' Chase路線へと転向していたようです。この後もこの路線で活躍を続け、このレースは2018年にも制すことになります。
ところで2022年1月以降にこの記事をご覧になっている方ならばよく知った騎手が嬉しそうにしている様子がわかると思いますが、この騎手はアマチュア騎手時代のBryony Frost。2016年頃からPaul Nicholls厩舎の馬に騎乗し始め、2017年の7月にはプロ騎手に転向することになります。Bryony Frostにとってはこれが初のCheltenham Festivalでの勝利となりました。
このレース、Paul Nicholls調教師にとっては管理馬2頭が壮絶な叩き合いをするレースで、結果的にPacha Du PolderとWonderful Charmが1、2着に入りました。その上位2頭。Paul Nicholls調教師も嬉しそうですが、右のWonderful Charmがなにか言いたげですね。
このレース、単勝150倍の14歳馬でちっとも目立った存在ではなかったのですが、我々日本人にとっても馴染みのある馬がいました。写真のPentiffic。もともとオーストラリア障害競馬において、Classic Hurdle、Hiskens Steeplechase、Crisp Steeplechase、Grand National Steeplechaseと主要競走を悉く制した馬ですが、2010年には中山のペガサスジャンプステークスに参戦、バシケーンの5着に入っていました。残念ながら故障で中山グランドジャンプへの参戦は叶いませんでしたが、その後はイギリスに移籍、24ハロンChaseのクラス3辺りで頑張っており、2013年にはScottish Grand National (G3)にも参戦していたようです。2014年頃からはHunters Chaseに移行、2014年のAintreeのFox Hunters' Chaseにも参戦するなど、15歳になるまで現役生活を続けました。
異様なデカさを誇るこのレースのトロフィー。
第6レースはMartin Pipe Conditional Jockey's Handicap Hurdle。これも特段重賞などではなく、Conditional Jockeyのためのクラス2の競争です。勝ったのはChampagne Classic。この直後にIrish Daily Mirror Novice Hurdle (G1)を勝つ馬ですが、当時は無名の存在でした。それにしても当時の出馬表を見ると、Harry CobdonやCharlie Deutschといったその後大舞台で活躍する騎手が数多く名前を連ねています。
最終レースはJohnny Henderson Grand Annual Challenge Cup Handicap Chase (G3)。16ハロンのChase競走です。勝ったのはRock The World。このレースには2年連続の出走だったようですが、ここで嬉しい勝利となりました。
Dodging Bullets。2014/2015シーズンに一気に力をつけ、Queen Mother Champion Chase (G1)を含むG1を3勝した馬です。その後はどうにも不振が続き、この年はQueen Mother Champion Chase (G1)ではなくこちらに回っていたのですが、どうにも飛越にもミスが多く早々に脱落、途中棄権に終わりました。残念ながらこれで引退になったようですが、かつてのチャンピオンの最後の雄姿を見ることができたのは良い思い出になりました。