*完走率に基づく各国主要障害競馬の性質
単純に障害競馬と言っても、設置されている障害の特性や馬場の傾向等、様々な要因の存在により世界各国でその性質は多様なものとなっています。結果として障害競走において検出される馬の能力は平地競争のそれとは大幅に異なるスペクトラムとなっており、競争馬を用いる競技における障害競馬の文化・スポーツとしての価値を高めています。海外障害競馬では日本のそれと比較して完走率の低さが特徴として挙げられることが多くありますが、その性質は各国主要障害競走において大きく異なっており、単純に「海外障害競馬」と一括りにできるものではありません。ここでは完走率及び競争中止の内訳により、各国主要障害競馬の特性を比較することを試みました。
・データソース
・データ集計方法
出走馬をそれぞれ、完走馬、落馬競争中止、途中棄権、及びその他の競争中止に分類しました。Unseated Rider(Lost Rider)及びFallは落馬競争中止として集計しました。その他の競争中止として、Run Out、Carried Out、Brought Down、飛越拒否、滑って転倒といった事象はその他の競争中止理由に、失格は完走馬に含めています。なお、発馬拒否は出走馬に含めていません。
・データ解析方法
2008~2018年のデータを使用し、完走率、落馬競争中止率、途中棄権率はそれぞれの頭数を出走馬数で割ることで算出しました。なお、上記のとおり一部の競走は2000年以降のデータを集めていますが、比較のため2000~2008年のデータは省いています。
・対象競走
主に以下の競争を対象としました。なお、Crystal Cupにおける各競走の詳細はこちらの記事をご覧ください。
【イギリス】
・Grand National (G3) 4m2f74y
言わずと知れた世界最高峰の障害競走。リンク先は2018年のTiger Rollの勝ったレースですが、この年は中の人も現地に居ました。障害は通常のChaseで使用されるものではなく、Aintree競馬場のNational Courseのみ*1に設置されている特殊な障害(National Fence)を使用します。
・Welsh Grand National (G3) 3m5f110y
Chepstow競馬場で行われるウェールズ地方の一大レース。イギリスのG3競走なのでGrand Nationalと同じくハンデキャップ競走ですね。年末の大一番ですが何かと競馬場が浸水して延期になります。リンク先の年の勝ち馬は当時13歳のRaz De Maree。
・Scottish Grand National (G3) 3m7f176y
Ayr競馬場で行われるスコットランドの一大レース。障害競馬シーズンも終盤に差し掛かった4月の陽気の中で行われます。ちなみにこの類のなんとかナショナルなる名前のレースは各地に存在し、いずれも超長距離のハンデキャップChase競走となっています。
・Ladbrokes Trophy (G3) 3m1f214y
もともとはHennessey Gold Cupと呼ばれていたNewbury競馬場で行われるレース。Denman、Bobs Worth、Many Cloudsなど、数々の名馬が勝ち馬に名を連ねる権威あるハンデキャップ重賞です。
・Champion Hurdle (G1) 2m87y
Cheltenham Festival初日に行われる16ハロンHurdle路線の最高峰の競争。G1なので上記4レースと異なり定量戦です。斤量的にはハンデキャップ競走におけるトップハンデに相当する斤量を背負います。短い距離のHurdleともなるとスピード感溢れる緊迫したレースが展開されますね。
・Queen Mother Champion Chase (G1) 1m7f199y
Cheltenham Festival2日目に行われる16ハロンChase路線の最高峰の競争。毎年スピード自慢の強豪が揃います。それにしてもAltior意味わかんないくらい強い。
・Stayers' Hurdle (G1) 2m7f213y
Cheltenham Festival3日目に行われる24ハロンHurdle路線の最高峰の競争。Champion Hurdleと比べると、距離が1マイル伸びた結果、レースの性質としてだいぶ様相が違います。
・Cheltenham Gold Cup (G1) 3m2f70y
Cheltenham Festival最終日に行われる24ハロンChase路線の最高峰の競争。毎年のようにタフで激しい競馬が展開されます。ちなみに、この日は微妙に他の日と比べるとドレスコードがうるさくなります。雑な海外競馬知識として、イギリスでGold Cupと付いていると格調高いなと思っておけばOK。
・Glenfarclas Cross Country 3m6f37y
イギリスで唯一Cross Country Couseが設置されているCheltenham競馬場で開催される、Crystal Cupの一環としての競走です。Glenfarclasはウィスキーの銘柄。ところでリンク先の年はチェコの歴史的な名馬が一頭混ざっていたのですが、気が付いた方はいらっしゃるでしょうか。
【アイルランド】
・Irish Grand National (Grade A) 3m5f
イースターのFairyhouse競馬場で開催されるアイルランドの一大レース。アイルランドはハンデキャップ重賞はGrade A/B/Cとして格付けされ、通常のG1/G2/G3とは別になっています。リンク先の年について、イースターと言えば春の陽気と明るい陽射しなのです、が。
・La Touche Cup 4m1f
アイルランドにて唯一Cross Country Courseが設置されているPunchestown競馬場で行われるCross Country競走。アイルランド障害競馬シーズンを締めくくるPunchestown Festivalで行われます。もともとはCrystal Cupのメンバーでした。
【フランス】
・Grande Course de Haies d'Auteuil (G1) 5100m
Auteuil競馬場で行われるフランスHaies(Hurdle)の最高峰。日本ではお馴染みのクリストフ・スミヨンが逃げ切ったこともあります。De Bon Coeur超強い。ちなみに武蔵小山にDe Bon Coeurなるパティスリーがあるらしいんですけれど、どうなんですかね。
・Grand Steeplechase de Paris (G1) 6000m
Auteuil競馬場で行われるフランスSteeplechaseの最高峰。フランス国外の馬も活躍するGrande Course de Haies d'Auteuilと異なり、フランスSteeplechaseの層は厚く、このレースでは国外からの参戦馬は近年全くいいところがありません。
・Grand Cross de Pau 6200m
2月上旬にフランス南部のPau競馬場で行われるCross Country。時期的に往々にして不良馬場で行われます。ダイナミックな飛越を要求されるPassage de Routeは必見。
・Anjou-Loire Challenge 7300m
5月にLion-D'Angers競馬場で行われます。世界最長距離、計50の障害を越えることで有名なCross Country競走。
【チェコ】
・Velká pardubická 6900m
いわゆるチェコのアレ。日本人には名前が覚えにくいアレですが、ヴェルカー・パルドゥビツカー、みたいな読み方です。要するにグレート・パルドゥビチェ。パルドゥビチェは町の名前です。第4障害のVelký Taxisův příkop(Taxis Ditch)は世界最難関クラスの障害。
【イタリア】
・Gran Corsa Siepi di Merano (G1) 4000m
映像の画質が急にしょぼくなったのはイタリアクオリティなので勘弁してください。北イタリアの観光地Meranoに位置するMerano競馬場で行われるイタリアSiepi(Hurdle)の最高峰の競争。どこか日本の障害を思い起こさせるような生垣障害を使用します。
・Gran Premio Merano (G1) 5000m
Merano競馬場で行われるイタリアSteeplechaseの最高峰。リンク先はフランスから参戦したLe Costaudがぶっ飛ばした年ですね。巨大な生垣障害が特徴的なこのMerano競馬場のコースは非常に複雑で、ときどきコースを間違える人もいます。
・Premio Delle Nazioni (G2) 6000m
Merano競馬場で行われるCross Country競走。3連続生垣障害など、他の競馬場には存在しない独特の障害を多用します。Crystal Cupのメンバーですが、とにかく障害が超難しいです、このコース。
【オーストラリア】
・VIC Grand National Hurdle 4200m
ビクトリア州のGrand National Hurdle。オーストラリアHurdleは比較的イギリス・アイルランドHurdleに様相が似ていますが、距離はかなり短く、4200mはオーストラリアHurdle競走としては最長距離となります。
・VIC Grand National Steeplechase 4500m
ビクトリア州のGrand National Steeplechase。ビクトリア州最長距離のGrand Annual Steepleが5500mであることを考慮しても、欧州のSteeplechaseと比較するとだいぶ距離は抑え目ですね。障害はオーストラリアSteeplechaseとしては一般的なものを使用します。
【ニュージーランド】
・Great Northern Hurdle 4200m
ニュージーランドGrand National HurdleもGreat Northern Hurdleと同じく4200mですが、Grand National Hurdleが総賞金$75,000であるのに対して、Great Northern Hurdleは$125,000となっています。メンバー的にもGreat Northern Hurdleの方が比較的強力な馬が集まります。
・Great Northern Steeplechase 6400m
ニュージーランドGrand National Steeplechaseが5600mであるのに対し、こちらは6400m、しかもElleslie Hillを3回昇り降りするタフなコースとなっています。Great Northern Hurdleと同様に、Grand National Steeplechaseよりも高い賞金額が設定されています。
【日本】
お馴染みの中山のJG1競走です。中山競馬場は日本の障害コースの中でもひときわタフなコースとなっていますが、その中でも大障害コースを用いるハードな条件が設定されています。急な下り坂と上り坂が連続する谷のようなコース形態は、世界中を見ても中山競馬場にしか存在しません。
*1:正確には、Cheltenham競馬場のCross Countryにも1つだけ設置されています