にげうまメモ

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21/12/19 第6回(2004)中山グランドジャンプ 海外からの参戦馬

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*第6回(2004)中山グランドジャンプ (Result)

〇 優勝馬:Blandices / ブランディス (Pedigree)

騎手:大江原隆 調教師:藤原辰雄

 

〇 8着 Oway / オーウェイ (FR) (Pedigree) (France Galop) (Hippoweb)

騎手:Fabrice Barrao 調教師:Jacques Ortet

2003年のEscort Boyと同じ陣営が送り込んできた馬です。Fabrice Barrao騎手はこれが2002年のTy Benjam、2003年のEscort Boyに続き3度目の中山グランドジャンプですね。騎手及び調教師の詳細は2002年の記事及び2003年の記事をご覧ください。フランス障害競馬はパリのAuteuil競馬場を中心に主要障害競走が行われていますが、この馬自身Auteuil競馬場での出走歴は殆どなく、冬季に競馬開催が行われる南フランスのPau競馬場を中心に各地を転戦してきました。中山グランドジャンプに至るまでの主要なタイトルとしては2003年のGrande Course De Haies De Pau (Listed)が挙げられますが、国外遠征経験として2003年にイタリアに遠征し、Corsa Siepi Di Merano (G1)にて4着に入った経験もありました。2004年はGrand Prix De Pau (G3)にて僅差の3着に入るなど好調だったようですが、やはり同レースも不良馬場での実績であったりと、良馬場のスピード勝負という点ではやや分が悪かったのかもしれません。中山遠征後も活躍を続け、2005年にはGrande Steeplechase Di Milano (G1)で4着、2005年にはGrand Steeplechase De Bordeaux (Listed)で2度目の重賞勝利を挙げました。Owayの父Lesothoは障害馬の父として、2010年のIrish Daily Mirror Handicap Chase (Grade A)の勝ち馬Polmar、2006年のGrand Prix De Pau (G3)の勝ち馬Zethoを送り出しています。また、Lesothoの後継種牡馬としては、1996年のチェコVelká cena českého turfu (G3)及びStarohájské derby (Listed)の勝ち馬で、チェコHluboká nad Vltavou競馬場(1999年が最後の競馬開催であり、その後ゴルフコースとなったそうです*1)でSteeplechase勝ちを収めているMir Sadaという馬がチェコ種牡馬入りしているそうです。Mir Sadaは目立った産駒は残しておらず、既に現役馬はいないものと思われますが、代表的なのはCross Countryでは計3勝を上げ、Cena společnosti AUTOPRODEJ DUKLA (Stcc II. kat.)勝ちを挙げたRadslavでしょうか。

 

〇 9着 Oliverdance / オリヴァーダンス (NZ) (Pedigree) (Loveracing.nz)

騎手:Brett Scott 調教師:John Wheeler

ニュージーランド調教馬。陣営としては2003年のSt Stevenと同じ顔触れですね。ニュージーランド平地競争では2002年のAvondale Gold Cup (G1)を始めとする重賞競走への参戦歴もあり、Beacon Whakatane Cup (Listed)勝ちなど活躍した馬です。2003年から障害に転向、いきなりMaidenからLindauer Fraise Hurdles (OPN)勝ちを含む3連勝をあげ、2004年の4月にはオーストラリアでSandown ParkのRedditch Steeplechaseを勝利してここに挑みましたが*2、残念ながら結果を残すことはできませんでした。比較的国外からは障害競馬でのキャリアが豊富な参戦馬が目立つ中、障害は4戦無敗、中山グランドジャンプは5戦目での挑戦という異例の若さでの挑戦でした。Oliverdanceの父Dance FloorはNasrullah - Nasram - Naskra - Star De Naskraの系統の出自で、ニュージーランドTrelawney Stud及びBlooming Hills Farmで繋養されていたそうです。障害馬としてはこのOliverdanceが最高傑作ですが、その他の活躍馬としてはニュージーランドWaikato Hurdles及びThe TV Guide Hurdlesで2着に入ったEsprit Du Nordが挙げられます。ただし、このNasramの系統自体、近年の障害競馬における存在感はかなり小さくなっており、2010年以降の主要障害競走における勝ち馬を送り出すことはできていません。

 

〇 10着 Neriette / ネリエット (GB) (Pedigree) (France Galop)

騎手:Thierry Majorcryk 調教師:Jean-Pierre Totain

フランスからやってきた5歳牝馬。海外障害競馬で牡馬は去勢されることが一般的ですが、牝馬も牡馬に交じってごく一般的に走っており、引退後は繁殖牝馬となるようです。特にヨーロッパ障害競馬においては牝馬限定戦が充実しており、イギリス・アイルランドには牝馬限定のG1競走も設定されています。ただし、障害馬としての長いキャリアを要求される性質のレースでは牝馬は比較的少なくなります。この馬は5歳と障害馬としてはかなり若齢での参戦でしたが、ヨーロッパ障害競馬では年齢指定競争が積極的に行われており、特にフランスでは3歳又は4歳限定競走が非常に活発です。このような若齢馬限定戦では後に種牡馬となることを想定されている牡馬も頻繁に出走していますね。Nerietteは2002年に障害デビュー。Pauの4歳限定戦であるPrix Antoine De Palaminy (Listed)やAuteuilのPrix Alain Et Gilles De Goulaine (Listed)を勝利して頭角を現し、のちに種牡馬として活躍するNicknameが勝利したPrix Renaud Du Vivier (G1)にも参戦するなど、2003年のフランス4歳Haies重賞戦線を戦った馬です。その後は年上の馬に交じって2004年のGrand Prix De Pau (G3)を勝利してここに挑んできました。やはり冬場のPauで結果を残した馬ということで重馬場の方がよかった感もあり、残念ながらここでは結果を残せませんでしたが、その後も2006年のPauやAuteuilの重賞戦線で活躍を続けました。Thierry Majorcryk騎手は2003年のTiger Groomにも騎乗していた人で、これが2度目の中山グランドジャンプへの参戦。調教師のJean-Pierre TotainはフランスPauに拠点を置いているベテランの調教師で*3、NerietteはJean-Pierre Totain調教師の障害馬として代表的な管理馬です。Nerietteは引退後は繁殖牝馬となり、3頭の牝馬を送り出したようです。中でもEaux Fortes(父Walk In The Park)という2009年生まれの牝馬がフランス障害競走で3勝を挙げたようですが、このEaux Fortesも既に繁殖牝馬として複数の産駒を送り出しており、2021年にはL'Eau Du Sudという馬がPauのHaiesで1勝を挙げているようで、その産駒の活躍が楽しみですね。Nerietteの父Vettoriは偉大な種牡馬Machiavellianの産駒で、障害馬の父としてはいまいちだったようですが、後継種牡馬の数は多いようで、その中ではVatoriが2017年及び2018年のスイスAarau競馬場のGrosser Preis Der Jura Cementを連覇したFabulous Valleyを送り出しています*4Machiavellianの系統はさすがに勢いのある系統ということもあり、近年の障害競馬でも存在感を示していますが、特にその中でも成功しているのがMediceanという種牡馬で、2018年のチェコZlatý pohárの勝ち馬Mustamir、2017年のアイルランドWKD Hurdle (G2)の勝ち馬でG1での無数の惜敗が目立つMelon、2020年のイギリスInternational Hurdle (G2)の勝ち馬Song For Someoneなどを送り出しています。Machiavellian系出身の大物としては、2018年のイタリアGrand Steeplechase D'Europa (G1)等を制し、当時のイタリアSteeplechaseでは手が付けられない強さを誇ったAl Bustan(父Medecis)でしょう。

 

〇 落馬 Nicobury / ニコバリー (NZ) (Pedigree) (Loveracing.nz)

騎手:Rochelle Lockett 調教師:Gary Barlow

Rochelle Lockett騎手はニュージーランドの女性騎手で、日本にも2002年、2003年と短期免許で参戦、特にギルデットエージとのコンビで結果を残しており、2002年にはギルデットエージ中山大障害を勝利しました。日本人女性騎手としてJRA重賞を制したのは2019年のカペラステークス (G3)における藤田菜七子騎手の勝利が初めてですが*5、2021年現在、JRAのG1競走での女性騎手の勝利はこのRochelle Lockett騎手のみとなっています。Nicoburyは2003年に障害デビューすると、ニュージーランドでOPN HDLを4勝し来日しました。唯一のPJR挑戦となったWellington Hurdle (PJR)では6着に敗れていますが、比較的良馬場の、3000メートル以下のHurdle競走で結果を残してきたようです。近年のニュージーランド障害競馬は5~9月に行われていますが、この馬は12月や1月のHurdle競走を勝利しており、この時代は南半球の夏季にも障害競走が行われていたようです。中山への遠征後はオーストラリアSteeplechaseにも参戦し、Australian Steeplechase、Crisp Steeplechase、VIC Grand National Steeplechaseなど、オーストラリア障害における大レースで好走しました。大レースの勝ち鞍こそありませんが、2008年頃までニュージーランド障害競馬を中心に活躍した馬です。Nicoburyの父Nicolotteはイギリス産のNight Shift産駒ですが、ニュージーランドにもシャトル種牡馬として輸出されていたらしく、Nicoburyは輸出先での産駒です。イギリスでの産駒としては2004年のアイルランドSharp Minds Betfair Novice Handicap Chase (Grade A)の勝ち馬Liscannor Ladが目立つ程度で、ニュージーランドでの産駒も含めて目立った活躍馬はいないようです。ただし、Night Shiftの系統は近年の障害競馬でも多数の活躍馬を送り出しており、自身もTop Novices' Hurdle (G2)の勝ち馬で、2017年のCheltenham Gold Cup (G1)の勝ち馬Sizing Johnを送り出したMidnight Legend、2017年のChampion Four Year Old Hurdle (G1)の勝ち馬Bapaumeを送り出し、日本にも輸入された*タートルボウル、2016年のアメリカGrand National Hurdle (G1)及びIroquois Hurdle (G1)の勝ち馬Rawnaqや、2013年Aintree Hurdle (G1)や2017年Grand Prix D'Automne (G1)を制し、名馬Zarkavaの半弟として有名なZarkanderといった活躍馬を多数送り出しているAzamourなど、成功した障害種牡馬が複数存在しています。

 

〇 落馬 Misty Weather / ミスティーウェザー (AUS) (Pedigree) (Racing.com)

騎手:Adam Trinder 調教師:Michael Trinder

オーストラリア調教馬ですが、管理するMichael Trinderはタスマニア州Devonport郊外のSpreytonに拠点を置く調教師です。Misty Weatherは2002年にタスマニア州Launceston競馬場のHurdle競走で障害デビューすると、2002年4月のタスマニア州Devonport競馬場の Qantaslink Mildura Steeplechaseで障害初勝利。そこから一気にタスマニア州Deloraine競馬場のGrand National Steeplechase*6ビクトリア州Moonee Valley競馬場のHiskens Steeplechaseを含む破竹の7連勝を飾って来日しました。当時のオーストラリア・タスマニア州障害競馬の最強馬と考えてよいでしょう。残念ながら来日後は故障もあり順調さを欠いたようで、Steeplechaseを1勝したのみに留まりました。タスマニア州Deloraine競馬場で行われていたTasmanian Grand Nationalは2005年にDeloraine競馬場自体での競馬開催が困難となり*7タスマニア州そのものでも2007年を最後に障害競馬は行われていないのですが*8*9、レース映像やGoogleの航空画像を見るとDeloraine競馬場にはオーストラリア障害競馬としては珍しく生垣障害が存在していたようです*10。このようにMisty WeatherはTasmania州障害競馬最後の最強馬であり、この馬が来日したということは今日としては歴史的な出来事となりました。Adam Trinderはメルボルンに拠点を置くオーストラリアの障害チャンピオンジョッキーで、Michael Trinderはその父だそうですが、2010年のVIC州Grand National SteeplechaseをMorsoniqueで勝利した際に引退を表明*11。現在はタスマニア州で調教師として活動しているそうで*12、133年ぶりにタスマニア州調教馬としてオーストラリアのG1競走を勝利したMistic Journeyの調教師として有名かもしれません*13。父Devon FlyerはStar Kingdom - Biscayを経る系統の出身ですが、Star Kingdomの系統の例に漏れず、この系統の近年の障害競馬における存在感は小さくなっています。