にげうまメモ

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22/10/21 ニュージーランド障害競馬 ① - 概要 -

ニュージーランド障害競馬

ニュージーランド障害競馬の歴史は長く、1841年1月25日にはWellingtonの入植1周年を記念してTe Aroにて木製の柵を用いるHurdle競走が行われている*1*2*3。その歴史的な重要性は高く、特に1世紀以上もの長期にわたって、1885年に始まったGreat Northen Steeplechaseはクイーンズバースデー(6月の第1月曜日)に行われ、Ellerslie競馬場における重要なイベントとなっていた*4*5。過去には南半球の夏季(北半球の冬季)においてもほぼ全ての競馬開催において障害競走が行われていたが、現在では南半球の秋季及び冬季にのみ行われるようになっている。

ニュージーランド障害競馬は古くから卓越した才能を輩出している。Moifaaは元々ニュージーランドでGreat Northern Steeplechase、Wanganui Steeplechase、Hawke's Bay Steeplechaseといった多数の主要競走を制した競走馬だが、その後イギリスのSpencer Gollanに見い出され、イギリスへの長期間の船旅を経て1904年のイギリスGrand Nationalを制している。このMoifaaには不思議なストーリーがあり、イギリスに向かう途中の難破事故を生き延びたというものだが、どうやらMoifaaと同じGrand Nationalを走ったKioraの逸話と取り違えられ、Moifaa自身は特に事故等なくイギリスに到着したという説が有力のようだ*6。まるで「ラクダのような」独特の容姿で有名なMoifaaはGrand Nationalの勝利後、King Edward VIIに購入され、国王が亡くなった際には国王の棺を運ぶ車を追って空馬のままロンドンを駆けたというストーリーもある。

また、1997年のイギリスGrand National (G3)は所謂"Monday National"と呼ばれており、これはIrish Republican ArmyのAintree競馬場の爆破予告により延期されたものであるが、この年の勝ち馬Lord Gylleneは元々ニュージーランド障害競走を走っていた馬である。さらに1983年から1985年にかけてGreat Northern Steeplechaseを3連覇したニュージーランドの歴史的名馬であるHunterville*7、近年では2002年の中山グランドジャンプを制し、オーストラリア障害競馬でもチャンピオンホースとして君臨したSt Stevenをはじめ、2019年には1930年のMosstropper以来初となる同一年のVIC州Grand National Hurdle及びGrand National Steeplechaseを成し遂げ、2021年には歴史上初めてニュージーランド及びオーストラリアVIC州の"Grand National"を完全制覇するという前人未踏の大記録を成し遂げた21世紀のオセアニア最強馬Tallyho Twinkletoeもニュージーランド調教馬である*8

 

ニュージーランドHurdle競走ではオーストラリアと同様に古くには木製の柵を使用していたが*9、1990年代以降は現在のような"Brush Hurdle"に置き換えられている*10。狂信的な動物愛護団体による激しい攻撃への対抗策として最先端の知見に基づく徹底的な安全対策を敷いたことで開催を継続し、その結果として過去とは大きく異なる近代的な障害を使用することになったオーストラリア障害競馬と異なり、ニュージーランド障害競馬で使用する障害の形態は古い時代の面影を強く残している。その中には固有の名称がつけられた有名な障害が数多く存在しており、例えばGrand National Meetingを行うRiccarton Parkには"Kennels Double"、"Racecourse Hotel and Motor Lodge Brush"(どうやらスポンサーの名前が付けられているようで、過去Bunting's Brushと呼ばれていた時代もある)、"Cutts' Brush"、"Jumbo"といった大型の生垣障害が設置されている*11。これらの大型の生垣障害を使用した障害競走は、障害競走として非常に本格的かつ高度なタフネス及び飛越技術を求められるものであり、平地競争馬を転用するオセアニア・アジア地域において、そのトップクラスのSteeplechase競走のレース条件は障害競走としては別格のものが設定されている。特にその頂点となるGreat Northern Steeplechaseは、過去Ellerslie競馬場においては6400メートルに計25の障害*12、現在のTe Rapa競馬場においては6500メートルに計32の障害を飛越するコースが設定されており、オーストラリア障害競馬において最長距離及び最多障害飛越数を誇るGrand Annual Steeplechaseが5500メートルの距離に計33の障害であることを踏まえると、そのレース条件が如何に障害競馬として高度なものであるかは一目瞭然である*13。このGreat Northern Steeplechaseの走行距離は世界的に見ても最長距離に近いものであり、このGreat Northern Steeplechaseを越える距離の競争としては、Anjou-Loire Challengeが7300メートル、英Grand Nationalが4m2f74y(約6907メートル)、Velká Pardubickáが6900メートルと、ごくわずかに数える程度である。

22/04/02 Grand National ② - レース条件 - (にげうまメモ)

ニュージーランド障害競馬はHurdle及びSteeplechaseに分類され、欧州で行われているCross Countryタイプの障害競走は行われていない。2022年の競争数は以下のとおりである(管理人集計)。

  • Hurdle:34
  • Steeplechase:24
  • Total:58

上記写真の1枚目及び2枚目は2019年にEllerslie競馬場で撮影したものであり、オーストラリアで導入されている"One Fit Hurdle"のようなものではなく、歴史的に木製のやや武骨なものを使用している。一方でSteeplechaseで使用する障害は多様で、上記の写真の3枚目のような生垣障害を多用しているうえに、大型の置き障害、水壕障害、二連続障害等も使用されている。従って、平地コースに障害を適宜設置する競馬場も存在する一方で、固有の障害コースを有する競馬場も多く存在する。以下は過去Ellerslie競馬場に設置されていた障害であり、類似の障害は他の競馬場にも設置されている。残念ながらその歴史ある美しく本格的な障害コースは既に失われており、そのコースの一部には実に凡庸でつまらないStrathAyr trackが建設されている*14

 

ニュージーランド競馬シーズンは南半球における冬季(5~9月)であり、2022年は以下の計17開催が行われた。その内訳を以下に示す。

 

Club Racecourse Meeting Hurdle Steeplechase
Hawke's Bay RI Hastings 2 5 4
Pakuranga Hunt Te Rapa 1 3 2
Racing Rotorua Arawa Park 1 2 1
Rangitikei RC Trentham 1 2 2
Riccarton Park - Canterbury JC Riccarton Park 3 3 2
Taumarunui RC Te Rapa 1 2 2
Waikato RC Te Rapa 3 6 4
Wanganui JC Wanganui 1 1 1
Waverley RC Waverley 1 3 1
Wellington RC Trentham 2 4 3
Woodville-Pahiatua RC Woodville 1 3 2

ニュージーランドでは同一の競馬場にて異なるRacing Clubが競馬開催を行っている場合があることから、それらは分けて表記することにした。

Hamilton北西部に位置するTe Rapa競馬場は2016年に改装され*15、スタンド前には大型の生垣障害及び二連続障害等を有する本格的なSteeplechase Courseが設置されている。Great Northern Steeplechase等のニュージーランド北島における主要競走が行われていたEllerslie競馬場が経営難のためSteeplechase Courseの敷地の一部を売却し、その障害コースを失った現在、2022年においてはGreat Northern SteeplechaseやPakuranga Hunt Cupをはじめとするニュージーランド北島の主要競走はTe Rapa競馬場で行われた。Wellington地域のUpper Huttに位置するTrentham競馬場の8字状のSteeplechase Courseは1936年にAlf McCarthy氏によって設計され、そこには水壕障害や大型の生垣障害及び二連続障害等の本格的な障害が設置されている*16。Trentham競馬場で行われるWellington Steeplechaseは5500メートルの距離が設定され、Great Northern Steeplechase(6500メートル)、Grand National Steeplechase(5600メートル)と並び、ニュージーランド障害競馬における三大主要競走として位置づけられている。なお、COVID-19の影響によりEllerslie競馬場での開催が困難となった2021年において、Great Northern MeetingはTe Aroha競馬場で行われた。現在Te Aroha競馬場は改修中であり*17、改修が終了したのちは一部の開催がTe Aroha競馬場に移設される可能性も考えられることから、障害競馬の開催場は流動的であり引き続き注視する必要がある。

Christchurchに位置するRiccarton Parkは2022年においてニュージーランド南島で唯一障害競馬開催が行われた競馬場で、この3日間の開催はいずれも8月上旬のGrand National Meetingに含まれる。Grand National Hurdle及びGrand National Steeplechaseが行われるこの開催は、それら主要競走へのプレップレースを含めて8月上旬の約1週間に渡って行われている。Riccarton Parkはその難易度の高い本格的なSteeplechase Courseで有名であり、上記のようにその主要障害にはいずれも固有の名称がつけられている。残念ながら、近年のニュージーランド南島の障害競馬は著しく衰退しており、2022年においてこのGrand National Meetingはニュージーランド南島にて唯一障害競走が行われた競馬開催となった。