にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

23/01/06 障害競馬入門⑯ - 主要競馬場(その他②) -

以下、当記事では欧州以外の各国における主要競馬場の概要を提示する。

 

*オーストラリア

Warrnambool競馬場(Mixed, Left-handed)

Warrnambool Racing Club(Country racing)

  • The Bool(May Racing Carnival)(5月)
  • Thackeray Steeplechase(7月)

オーストラリアVIC州の障害競馬はBallarat、Casterton、Coleraine、Ladbrokes Park、Pakenham等で行われているが、特に5月のWarrnambool競馬場で3日間に渡って行われる"The Bool"は多数の観客を集める人気のある祭典である。当該開催の3日目に行われるGrand Annual Steeplechaseは起伏のある八の字状のコースを利用した距離5500メートルが設定されている競走で、Ballaratで行われるGrand National Steeplechaseと並んでオーストラリア最高峰の競争として位置づけられている。Warrnamboolの広大なコースを一杯に使ったこの競走を観戦するため、観客がWarrnamboolの丘を埋め尽くす様子は圧巻である。2022年には、この"The Bool"に過去最高の観客数を集めたほか、VIC州の障害競馬における賞金額の増額、オーストラリアにおける有力な調教師や平地の実績馬の障害競馬への参戦等もあり、狂信的な動物愛護運動の影響により一時期は廃止の危機も経験したオーストラリアVIC州の障害競馬の再興は著しい。WarrnamboolはVIC州西部における最大の湾岸都市と言われており、Great Ocean Roadの美しい展望等から観光地としても有名である。

 

Casterton競馬場(Mixed, Left-handed)

Casterton Racing Club(Country Racing)

  • Winter Jumps Meeting(6月)
  • Casterton Steeplechase(7月)

VIC州Castertonは比較的SA州に近い位置に存在し、2021年の人口は1673人の小さな町である。オーストラリア特有の牧羊犬Kelpie発祥の地として有名のようで、Casterton競馬場はその中心地から南に1キロほど離れた場所に位置する。Casterton競馬場は年に3~4回ほどの競馬開催を行っているが、なによりも有名なのはその障害であり、Steeplechase Courseではオーストラリアで唯一生垣障害が設置されている。この障害はオーストラリアでは他に類を見ないものであり、この障害コースを得意とする多数のCourse Specialistが鎬を削る競走が展開される。

 

ニュージーランド

Te Rapa競馬場(Mixed, Left-handed)

Waikato Racing Club(LOVERACING.nz)

  • Waikato Steeplechase Day(6月)
  • Pakuranga Hunt Cup Day(9月)
  • Great Northern Steeplechase Day(9月)

ニュージーランドではTrentham、Hasting、Riccarton Park等で障害競馬が行われており、2022年のGreat Northern Steeplechase(及びその前哨戦となるPakuranga Hunt Cup)はTe Rapa競馬場で行われた。ニュージーランド北島Hamiltonの北西にあるTe Rapaは世界最大級の乳製品工場(Fonterra Dairy Factory)の存在で知られている*1。もともとGreat Northern SteeplechaseはEllerslie競馬場で行われていたが、Ellerslie競馬場の障害コースが諸事情により廃止になったことから*2、2022年はTe Rapa競馬場で行われた。ただし、Ellerslie競馬場の障害コースが存在した2021年はCOVID-19の影響でTe Aroha競馬場で同競争は行われており、2022年現在Te Aroha競馬場は改修中であることから、2023年の開催競馬場には注意しておきたい。

 

Riccarton Park競馬場(Mixed, Left-handed)

Canterbury Jockey Club(LOVERACING.nz)

  • Grand National Meeting(8月)

ニュージーランド南島東海岸に存在するChristchurchは南島の中心的な都市といわれ、ヴィクトリア時代の建物と無数の公園が設置された"Garden City"ともいわれる緑豊かな観光地である。Christchurchの東側に位置するRiccarton Park競馬場には"Kennels Double"、"Racecourse Hotel and Motor Lodge Brush"(どうやらスポンサーの名前が付けられているようで、過去Bunting's Brushと呼ばれていた時代もある)、"Cutts' Brush"、"Jumbo"といった固有の名称を持つヨーロッパ以外では類を見ない大型の生垣障害が多数設置されたSteeplechase Courseで有名であり、8月にはこのコースを利用してニュージーランドGrand National Meetingが行われている。ただし、2022年においてニュージーランド南島における障害競馬開催はこのGrand National Meetingのみであり、南島からの出走馬はおらず北島からの出走馬の誘致に苦労していたりと、状況としては決して芳しいものではない。ニュージーランド南島の障害競馬はここ10年で大きく衰退しており、その歴史ある本格的な障害コースの保全と復活が望まれる。

 

アメリ

Far Hills競馬場(Jump, Left-handed)

Far Hills Races

  • Far Hills Races(10月)

アメリカHurdleのG1競走はSaratoga(Belmont Park)、Percy Warner等で行われているが、American Grand National (G1)が行われるのがこのFar Hills競馬場である。New Jersey州で毎年行われるFar Hills Racesは2022年で100回を超える歴史ある開催であり*3、2021年は4万人以上が訪れるとすら言われているように、地元アメリカでは非常に高い人気を誇るようだ*4。毎年10月の中旬に行われるこの開催のメインレースはAmerican Grand National (G1)であり、2022年はアイルランド調教馬のHewickが優勝するなど、地元アメリカ勢のみならず、イギリスやアイルランド等からも参戦馬を集める国際的な競争として機能している。コースとしては全体的に平坦だが、その多数の観客の熱狂の中で行われる障害競馬は圧巻の一言である。アメリカでは2021年に初めてこのFar Hills Racesは全国テレビのFox Sportsにおいて放映されたようで、多数の観客を集める競馬開催における熱気も踏まえると、アメリカ障害競馬は更なる発展の可能性を秘めていると考えてよさそうだ。アメリカ障害競馬は上記SaratogaやBelmont Parkといった主要平地競争が行われる競馬場でも活発に主要競走が開催される一方で、下記Maryland Hunt Cupのような競馬場も多数存在し、その中には激しい起伏を有するものもあり、その多様性には驚くべきものがある。

 

Maryland Hunt Cup(Jump, Left-handed)

Maryland Hunt Cup

  • Maryland Hunt Cup(4月)

Maryland Hunt Cupは毎年4月末に行われるアメリカTimber競走の主要競争であり、4マイルの距離に計22の障害が設置されているが、その中には4フィート6インチの第3障害、4フィート10インチの第16障害も含まれており*5、その距離と障害の難易度の高さから、世界一難易度の高い障害競争の一つとして知られている。年間を通して唯一このMaryland Hunt Cupが行われるのみの競馬場であるが、そこにはスタンドらしきスタンドもなく、equibase上では"Glyndon"と表示されるもののGoogleマップには特に近くに"Belmont Farm"なる農場があるものの競馬場らしきものも見当たらないようで*6、そもそも競馬場なのかというのも怪しいところではある。しかしながら、毎年多数の観客を集める人気のある競馬開催であり、その障害競争の水準の高さは疑いようがなく、確かにそこにはハイレベルな障害競馬が存在している。

 

*日本

中山競馬場(Mixed, Right-handed)

中山競馬場JRA

我らが中山競馬場。日本の障害競馬はこの中山のみならず、東京(府中)、阪神、京都、新潟、中京、小倉、福島で開催されているが、中山競馬場は4月の中山グランドジャンプと12月の中山大障害をハイライトとして、日本における中心的な競馬場として機能している。年に2回のG1競走にしか使われない大障害コースには大竹柵及び大生垣の日本最高峰の難関障害が設置されているほか、その障害コースには特有の深い谷が存在し、このようなコース形態は2022年現在、世界に目を向けても中山競馬場にしか存在しないものである。日本障害競馬の熱心なファンも多数存在するようで、各障害の飛越時には場内から拍手が送られる等、平地競馬とは一線を画する温かい雰囲気は特筆すべきであろう。中山グランドジャンプは過去国際招待競走とされ、イギリス、アイルランド、フランス、オーストラリア、ニュージーランドアメリカからの参戦馬を集める国際的な競争として機能していたが、国外からの参戦馬は残念ながら2013年のBlackstairmountain以降例がない。