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21/09/19 障害競馬入門⑩ - 障害競馬の1年(7~9月) -

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障害競馬の1年と題したシリーズも3回目。第1回の1~3月、第2回の4~6月に引き続き、今回は7~9月を見ていきましょう。前回に引き続き、基本的にイギリス・アイルランド障害競馬は夏シーズンで重賞競走は比較的少なく、イギリス・アイルランド以外の国の開催が主体となります。

 

前回記載した通り、この記事で記載していることは概ね上記のラジオで話しています。

 

 

*7~9月の主要障害競走イベント一覧
イベント・レース等
7月 アイルランド Galway Festival
ニュージーランド Wellington Hurdle / Steeplechase
アメリ Saratoga開催
8月 チェコ 3rd Qualification race for Velka Pardubicka
ベルギー Waregem Koerse
オーストラリア Grand National Hurdle/Steeplechase
ニュージーランド Grand National Hurdle / Steeplechase
アメリ Saratoga開催
9月 フランス Auteuil開催
イタリア Gran Premio Merano (G1)等
チェコ 4th Qualification race for Velka Pardubicka
ポーランド Wielka Wroclawska
スイス Swiss Grand National
ニュージーランド Great Northern Hurdle / Steeplechase
アメリ Lonesome Glory Handicap Stakes (G1)

 

*7月

7月は比較的世界的に見ると主要障害競走が少ない期間となります。

アイルランドでは7月末から8月頭にかけて、Galway競馬場における最大の開催、Galway Festivalが行われます。この開催のメインレースであるGalway Plate (Grade A)は、24ハロンのハンデキャップ競走として夏季のアイルランド障害競走における最大の競走です。アイルランド障害競走のG1競走にも匹敵するかそれ以上の賞金額を誇るこの競走には、重賞勝ち馬を含む多数の実績馬が挑戦し、非常に白熱したレースを見ることが出来ます。同様にこの開催で行われるGalway Hurdle (Grade A)もまた、多額の賞金額と多数の実績馬を集める夏季アイルランド障害競馬において主要な競走です。

7月の中旬にはニュージーランドWellington競馬場でWellington Hurdle及びWellington Steeplechaseが行われます。これらのレースは、Grand National Hurdle及びSteeplechase、Great Northern Hurdle及びSteeplechaseと併せて、ニュージーランド障害競走の3大競走の1つに数えられる競走です。特にWellington Steeplechaseの距離は5500メートルと、Grand National Steeplechaseの5600メートルにも匹敵する長距離が設定されております。そもそも、ニュージーランドSteeplechaseにおいて、5000メートルを越える長距離が設定されているPrestige Jumping Raceは、このWelllington Steeplechase、Grand National Steeplechase、そして6300メートルのGreat Northern Steeplechaseの3レースのみであり、このWellington SteeplechaseではニュージーランドSteeplechase有数のタフな条件が設定されていると言えます。

アメリカでは7月からSaratoga競馬場の障害シーズンが始まります。アメリカ平地競争における一流競走を開催しているこの競馬場は、この7~8月の時期にHurdle競走を開催していますが、そのHurdle競走の中には多数のG1競走が含まれております。従って、Saratoga競馬場はアメリカHurdle路線におけるトップクラスの競争を開催する競馬場であるとも言っていいでしょう。7月にはA. P. Smithwick Memorial Steeplechase (G1)が行われます。

 

*8月

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8月はオセアニアのGrand Nationalシーズンです。オーストラリアでは8月の頭と中旬に、それぞれSandown ParkとBallarat競馬場においてGrand National Hurdle及びGrand National Steeplechaseが行われます。Sandown Park競馬場におけるGrand National Hurdleが行われる開催では、併せてオーストラリアSteeplechaseにおける主要競走の一つであるCrisp Steeplechaseも行われ、ここからGrand National Steeplechaseを目指す馬たちが多数集結します。Crispとは1960~70年台に活躍したオーストラリア出身の障害馬。オーストラリアでの活躍に留まらず、イギリスでもQueen Mother Champion Chaseの勝利や、1973年の英Grand Nationalにおける圧巻の逃走劇(2着)など、記憶に残る多数のめざましい実績を残し、その功績は今でもオーストラリア障害競馬における伝説として語り継がれています。一方のニュージーランドでは、南島Riccarton Park競馬場において8月上旬にGrand National Hurdle及びSteeplechaseが実施されます。Riccarton Parkには、"Jumbo"と呼ばれる大型の生垣障害をはじめ、ニュージーランド障害競馬の中でも有数の本格的なSteeplechase Courseが整備されています。

ベルギーでは、8月末にWaregem競馬場にて"Waregem Koerse"と呼ばれる祭典が行われます。ベルギーの障害競馬の規模は非常に小さく、毎年この"Waregem Koerse"の1日間において計3~4レースが開催されるのみとなっていますが、その内容は非常に充実しており、ING Grote Steeple Chase van Vlaanderen、"Belgian Grand National"とも呼ばれるSteeplechase競走をメインレースとして、毎年多数の観客を集め大変な盛り上がりを見せる開催です。このSteeplechase Courseで繰り広げられるレースの迫力は素晴らしいものがあります。このSteeplechase Courseには大型の生垣障害が多数設置されており、非常に難易度の高いコースとなっています。特に、"The Gaverbeek Brook"と呼ばれる大型の水壕障害はもともとWaregem競馬場の中央部を流れていた小川を利用したものですが、幅750cm(現在では500cm?)もの水壕を有しており、世界最大の水壕障害とも言われています。

チェコでは8月の上旬に、Velka Pardubickaに向けた3rd Qualification Raceが行われます。また、アメリカでは7月に引き続き、Saratoga競馬場のHurdle競走が行われ、8月中旬にはJonathan Sheppard Memorial Hurdle Stakesと呼ばれるHurdleのG1競走が行われます。このレースは2020年まではNew York Turf Writers Cupと呼ばれていた競走ですが、2020年に引退したアメリカの伝説的調教師Jonathan Sheppardの名が2021年からつくことになりました。Jonathan Sheppardはアメリカで殿堂入りを果たした調教師で、中山グランドジャンプには2000年頃のアメリカHurdle路線を代表する名馬Ninepinsを送り込んだ実績もあります。

 

*9月

9月にはヨーロッパ諸国の障害競馬において、いくつか大きなイベントがあります。ポーランド最大のSteeplechase競走であるWielka Wroclawskaが9月の上旬に開催されます。ポーランド障害競走はWroclaw競馬場を中心として行われており、そのSteeplechaseの2大競走となるのがこのWielka Wroclawskaと10月のCrystal Cupです。Wielka Wroclawska自体、Steeplechaseというカテゴリーとなってはいますが、全体的にポーランドSteeplechaseはどちらかというとCross Country的な要素を強く持つことが特徴ですね。この競走に置いて特に有名なのがスタンド前に設置されているSkok trybunowy(Grandstand Jump)と呼ばれる障害で、高さ220cm、幅140cmの生垣の後ろに深さ90cm、幅250cmの空壕が設置された巨大な障害です。ポーランドHurdle競走として、かつてはWielka Służewieckaと呼ばれる競走がWarszawa競馬場で行われていましたが、現在ポーランドHudle競走として最大のものは、Wielka Wroclawskaと同日に行われるWielka Partynickaという競走です。

9月末にはイタリアMerano競馬場で、イタリア障害競馬最大の開催が行われます。この開催は2日間に渡って行われ、イタリアSiepiの最高峰Gran Corsa Siepi Di Merano (G1)、さらにイタリアSteeplechaseの最高峰Gran Premio Merano (G1)が行われます。このGran Premio Merano (G1)にはイタリア障害競馬としては破格の賞金額が設定されており、他のG1競走を遥かに上回る賞金額となっています。また、この開催はイタリア・チェコのみならず、フランス、ドイツ、ハンガリー、スイス、アイルランド等から多数の出走馬を集めており、非常に国際色豊かな開催となることが特徴です。

また、9月はチェコでVelka Pardubickaに向けた最後のQualification Raceが行われる他、夏場はお休みとなっていたフランスAuteuil競馬場の開催が再開し、11月のG1競走に向けて多数の有力馬が始動します。スイスではAarau競馬場において、スイス最大のSteeplechase競走であるGrosser Preis der Schweiz Swisslos Sportfonds Aargau un Stadt Aarauが行われます。過去、スイスではかの有名なSt. Moritzの氷上競馬でも障害競走が行われておりましたが、現在では安全性上の問題で障害競走はなくなっており、現在ではAarau競馬場のほか、Frauenfeld、Dielsdorf等の競馬場で障害競馬が開催されています。スイス障害競馬の規模はイタリア・チェコと比べると小さく、国外遠征という意味でもちらほらとイタリアでスイス調教馬を見る程度ですが、スイス障害競馬におけるSteeplechase Courseには比較的大型の生垣障害が多数設置されており、綺麗に整備された障害の数々もあって、美しい障害競馬を見ることができます。

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ニュージーランドでは9月の上旬にEllerslie競馬場にて、ニュージーランド最大の障害競走であるGreat Northern Hurdle及びGreat Northern Steeplechaseが行われます。このレースはいずれもニュージーランド障害競走としては最高賞金額が設定されているほか、Great Northern HurdleはGrand National Hurdleと並んで4200メートル、Great Northern Steeplechaseは6300メートルと、いずれもニュージーランド障害競走の中では最長距離が設定されております。特にGreat Northern SteeplechaseはEllerslie Hillと呼ばれるEllerslie競馬場の丘を3回昇り降りするタフなコースが設定されております。ただし、Ellerslie競馬場のEllerslie Hillの区画は2021年の段階で売りに出されることが決まっており、現時点で2022年以降のレース開催については決まっておりません。

アメリカでは9月のBelmont Park競馬場において、Lonesome Glory Handicap Stakes (G1)と呼ばれるHurdleのG1競走が行われます。Lonesome Gloryとはアメリカの1990年台に活躍した障害馬で、Breeders' Cup Steeplechase、Colonial Cup等の数々のアメリカの大レースを勝利し、アメリカにおけるChampion Steeplechase Horseのタイトルを5年連続で獲得した伝説的名馬です。