にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

21/09/17 障害競馬入門⑤ - レース分類 -

f:id:virgos2g:20210917114508p:plain

海外障害競馬においては、日本競馬には見られないレースのクラス分類が存在することがあります。ここでは代表的な単語と、レース分類について概説します。

 

*ノービス(Novice)

f:id:virgos2g:20210917115415j:plain

主にイギリス・アイルランドにおいては、日本では見られないNoviceというカテゴリーが存在します。ここではイギリス・アイルランドに限って記載します。イギリス・アイルランドの障害競馬シーズンは10月から始まり4月(又は5月上旬)に終わるため、シーズンの表記方法としては例えば2016-17シーズンという形になります。当該シーズン以前に当該カテゴリー(Hurdle / Chase)にて未勝利であった馬(出走の有無は問わず)は当該カテゴリーにおいてNovice馬という扱いになります。例えば2016-2017シーズン以前にHurdle競走では1勝以上を上げた一方でChase競走では未勝利だった馬は、2016-17シーズンではChaseではNoviceクラスに該当しますが、HurdleではNovice競走に出走することはできません。Noviceクラスはシーズン中は資格が維持されており、この馬の場合、2016-17シーズン中にChaseを何勝してもシーズン中であればNovice競走に出走できます。ただし、直前のシーズンの最後の数カ月以内にレースに初めて勝利した場合は、次のシーズンの序盤はNoviceクラスに出走可能です。例えば、2020/2021シーズンでは「Novice馬」は以下のように定義されます*1

  • Hurdle競走の場合、2020年4月26日までにHurdle競走で勝ったことがない馬
  • Hunter Chaseを除くChase競走の場合、2020年4月26日までにChase競走で勝ったことがない馬
  • なお、2021年3月1日~2021年4月24日の間に初めてHurdle競走またはChase競走を勝利した馬は、2021年10月31日まで当該カテゴリーにおいてNovice馬とする
  • 2021年の間、Hunter Chaseの場合、2020年5月30日以前にChase競走で勝ったことがない馬

なお、Noviceと対比させるクラスとして、Novice戦を勝ち上がった馬をSeniorということがありますが、Noviceという単語と比べるとさほど使われません。

Novice馬がSeniorクラスに出走することも多くあり、これは馬の適性や能力を踏まえて出走する競走が決定されるようです。例えば、Novice競走ではレースを慎重に進めることから比較的ゆったりとレースが進行し、終盤のスピードが重要となる傾向があることから、瞬間的なトップスピードよりもスピードの持続性能に優れた馬にとっては、Novice競走はかえって適性が低い場合が往々にしてあります。その逆もまた然りで、Novice競走からステップアップしてきた馬にとって、Novice競走とは異なるレースの性質が障壁となることは多いようです。Seniorクラスの重賞競走において、レース経験に乏しいNovice馬が制することはやはり稀であり、Novice馬が主要競走を勝利した例として、有名なところでは、2015年のCheltenham Gold Cup (G1)の覇者Coneygree(1974年のCaptain Christy以来)、2016年のKing George VI Chase (G1)のThistlecrack(Novice馬として史上初)、2016年のGrand National (G3)のRule The World(Chase未勝利馬)が挙げられます。

Novice競走はイギリス、アイルランドでは非常に多く存在し、短距離・中距離・長距離Hurdle / Chaseに付随した路線として整備されています。アメリカのHurdle競走でもNovice路線が整備されており、将来のチャンピオンホースを目指す重要な出世レースとなっています。Novice競走はイタリアやオーストラリア、ニュージーランド等でもわずかに開催されています。

 

*重賞競走

f:id:virgos2g:20210917120056j:plain

世界各国において、平地競争と同様に障害競馬にも重賞競走が整備されていますが、その性質は国によって若干異なります。イギリス障害競馬においては、G1競走は定量戦、G2競走は比較的斤量差を抑えたLimited Handicap競走、G3競走はHandicap競走となっていますが、アイルランド障害競馬においては、ハンデキャップ重賞はGrade A~Cと、G1~3とは別に設定されています。日本でも良く知られているとおり、例えG3競走と設定されていても殆ど全てのG1競走よりも高い賞金額や権威等を誇る場合も多くあり、その一例としてイギリスAintree競馬場で行われるGrand Nationalが挙げられます。イギリス・アイルランドにおいては距離別、Novice / Senior、Hurdle / Chaseにおいてそれぞれ重賞競走が設定されており、その他に牝馬限定Hurdle路線、Juvenile Hurdle(3~4歳限定)路線における重賞競走が存在しています。

フランス・イタリア・アメリカHurdle競走・日本でも同様にG1~G3という格付けを使用します。ただし、フランス・イタリアではイギリス・アイルランドと異なり距離別の重賞競走は設定されておらず、Hurdle及びSteeplechaseに加えて年齢別の路線が整備されています。例えばフランスSteeplechaseでは年に2回のG1競走、すなわち春にGrand Steeplechase De Paris、及び、秋にPrix La Haye JousselinがいずれもAuteuil競馬場において行われますが、それぞれの距離は6000メートル及び5500メートルと設定されています。一方で、5歳以上Steeplechase競走における殆どの重賞競走は4000メートル台となっており、特に初めてこれらのG1競走に挑戦する馬にとっては、G1競走における一気の距離延長が課題となります。この傾向は日本障害競馬と類似していると言えるかもしれません。ただし、フランス障害競走における重賞競走は殆どがAuteuil競馬場で行われますので、中山グランドジャンプ及び中山大障害と異なり、フランスSteeplechaseにおいてはG1競走が施行されるAuteuil競馬場における難易度の高い障害が障壁となることはありません。ちなみに、障害競馬開催国の中には主要競走が一部の競馬場に集中して施行されることが多くありますが、日本では福島競馬場(及び平地専用競馬場)を除く全ての競馬場で重賞競走が実施されていることが特徴ですね。

チェコでは"Velká Pardubická"(ヴェルカ・パルドゥビツカ)を始めとする幾つかの主要競走がListedの格付けとなっている他、Velká Pardubickáに向けたQualification Raceを始めとした主要競走がチェコ・スロバキア調教馬に限定したNational Listedの格付けとなっています。オーストラリアではこのような主要競走に関する明確な格付けはありませんが、ニュージーランド障害競馬における主要競走は"Prestige Jumping Race(PJR)"と呼ばれています。