にげうまメモ

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21/09/17 障害競馬入門⑥ - アクシデント -

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障害競馬にアクシデントはつきもので、複雑で急カーブの多いコース設定、障害飛越、及び空馬の発生等、平地競馬と比較するとアクシデントを誘発する要因は多数存在することから、どうしてもレースに際しては多種多様なアクシデントが発生します。ここではその代表的なアクシデントについて解説します。諸外国の障害競馬において、競争中止の種類は必ず区別して表記されていますので、競争中止の種類を知ることで、レース結果からどのような事象がレース中に発生したのか推測することが可能となります。

 

競争中止

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① "Pull Up"(途中棄権)

いわゆる途中棄権です。馬の故障のほか、先頭から大きく離され明らかに勝機がなくなった場合、馬が著しく疲労した場合、騎手がアブミを落としてリカバリーが出来なかった場合など、いずれにせよなにかしらの理由で競走継続が困難となった場合に競争継続を放棄することを指します。日本障害競馬では先頭から大きく離されたり、明らかに馬が疲労して先頭を追いかける余力が無くなった場合でも、頑張って競争継続することが殆どで、結果として途中棄権の発生件数は僅かですが、諸外国の障害競馬では途中棄権は非常に多く発生します。むしろ、上記の状況において競争継続を強いることは動物福祉上問題視されています。

② ”Unseated Rider" "Fall"(落馬)

"Unseated Rider"とは、飛越時に騎手が落馬して競争中止した場合を指します。ニュージーランドでは"Lost Rider"と言われます。"Fall"とは、飛越時に馬が転倒し競争中止した場合を指します。日本障害競馬では一般的にこの2つの事象は区別されませんが、諸外国の障害競馬では区別して表記されます。

③ "Refused to Race"(発馬拒否)

ヨーロッパ及びアメリカ障害競馬はバリアスタートを使用していますが、そのためしばしば発生するスタート地点での発馬拒否のことです。これをやらかす馬はリピーターが多く、最近ではアイルランドのLabaikやイギリスのMad Mooseなどが有名どころでしょうか。Mad Mooseに関しては"#Willhestart"というタグが流行りました。

④ "Brought Down"

他の落馬した馬に躓いて馬が転倒したり、騎手が落馬した場合を指します。特に多頭数の障害競争や、Merano競馬場のように幅員が狭いコース、Aintree競馬場のCanal Turn、Pardubice競馬場のPopkovice Turn(Irish Bankの後に設置された障害)など、障害の直後に急カーブが存在するような障害に多く発生するアクシデントです。

⑤ "Slipped Up"

コーナーで滑って騎手が落馬した場合を指します。特にCross Country競走では競馬場によっては急カーブが存在するコースも多く、急カーブにおいてしばしば生じます。Cross Country競争の少ないイギリス・アイルランドではやや珍しいアクシデントですが、フランスやチェコ、イタリア等ではかなり頻繁に生じます。

⑥ "Run Out"

馬がなんらかの理由でコース外に逸走してしまった場合を指します。馬がなにかしらの理由でどこかに行ってしまった場合もありますが、障害競馬で使用されるコースは複雑なものが多いことから、騎手がコースを間違えることもあります。動画は派手にやらかした例。Gran Premio Meranoとはイタリア最大のSteeplechase競走。やらかした馬は圧倒的一番人気を背負っていた上に、このレース連覇がかかっていました。

⑦ "Carried Out"

空馬を含む他の馬に引っ掛けられてコース外に逸走してしまった場合を指します。障害競馬では頻繁に空馬が発生し、空馬が自由に走り回るためにしばしばこのような事故が起きます。

⑧ "Disqualified"

入線後に何らかの理由で失格となったケースです。主にレース後における禁止薬物の検出、走路の誤り等があります。動画は勝ち馬(Gallo's Star)が微妙に違ったコースを走ったことにより失格となった例。

 

*障害の迂回

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何らかの理由で障害飛越が困難と場合は、障害を飛越せずに迂回するケースがあります。これは例えば1周目で落馬が発生し、障害地点で馬や騎手の治療が行われている場合や、日照不足や西日の問題、障害地点における著しい馬場の悪化、障害の損傷などが理由として挙げられます。障害競馬シーズンが冬となるイギリスでは西日の問題でかなり頻繁に発生しており、同様の問題はオーストラリアでも生じることがあります。イギリスでは迂回する障害には迂回路の方向を示した矢印が描かれた看板が建てられるほか、障害前方で係員がチェッカーフラッグを振って合図をします。なお、障害の迂回を含めてもレースの継続において安全性上問題があると判断された場合は、レース中にレースの中止がアナウンスされることがあります。

例えば、2019年のイギリスSandown競馬場で行われたLondon Nationalでは"Pond Fence"と呼ばれる障害地点で事故があり、レース中止を知らせる黄旗が振られていましたが、残りの騎手はそれに気が付かなかったのか、もしくは当該障害を迂回するものと理解したのかレースを続行し、結果的に延々3マイル以上を走ることになりました。最終的に当該競走は無効とされましたが、2019年の幻の勝ち馬(Doing Fine)が2020年の同レースを勝利するという出来事もありました

Aintree競馬場のGrand Nationalでは同じコース(National Course)を概ね2周しますが、しばしば1周目に落馬が発生した関係で2周目における当該障害が迂回されることがあります。National Courseの外側には迂回路が設置されており、障害を飛越しない場合は迂回路を通ってレースを進行することが可能となっています。Grand Nationalの第20障害(1周目では第4障害)は、2011年にGrand Nationalの歴史上はじめて迂回された障害として有名です。