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21/09/19 障害競馬入門⑨ - 障害競馬の1年(4~6月) -

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前回は1~3月に開催される主要障害競走及び障害競馬のトレンドについて解説しました。この1~3月に開催される障害競走はほぼイギリス・アイルランドが中心でした。今回は引き続き4~6月において開催される主要障害競走について見て行きます。

 

前回記載した通り、この記事で記載することは概ね上記のラジオで話しています。喋るのが苦手な人間なのでお声掛け頂いた際はそれなりに悩んだものですが、やってみると色々とレスポンスを頂き嬉しいものです。是非ご一聴ください。

 
*4~6月の主要障害競走イベント一覧
イベント・レース等
4月 イギリス Grand National Meeting、Scottish Grand National等
アイルランド Easter Festival、Punchestown Festival(~5月)
フランス Auteuil開催
オーストラリア Great Eastern Steeplechase
アメリ Maryland Hunt Cup
日本 中山グランドジャンプ
5月 フランス Grand Steeplechase de Paris (G1)等
Anjou-Loire Challenge
イタリア Grande Steeplechase di Milano (G1)等
チェコ 1st Qualification race for Velka Pardubicka
オーストラリア "The Bool"、Australian Hurdle/Steeplechase
6月 イタリア Grande Steeplechase D'Europa (G1)等
チェコ 2nd Qualification race for Velka Pardubicka
スウェーデン Svenskt Grand National
ニュージーランド McGregor Grand Steeplechase等
アメリ Iroquois Steeplechase (G1)

 

*4月

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イギリス・アイルランドにおいて、4月は障害競馬シーズン終盤のビックイベントが連続する期間となります。イギリスではAintree競馬場のGrand Nationalをはじめ、Ayr競馬場で行われるScottish Grand National、そしてSandown競馬場のCelebration Chase (G1)等を含む開催、"Jump Finale"で障害競馬シーズンは終わりとなります。一方のアイルランドでは、4月上旬のFairyhouse競馬場において3日目のIrish Grand Nationalをメインレースとして行われるEaster Festival、そして4月下旬~5月上旬にかけて5日間の長きに渡って行われるPunchestown Festivalで障害競馬シーズンは終わりとなります。AintreeのGrand National Meeting、Fairyhouse Easter Festival、そしてPunchestown Festivalでは多数のG1競走が行われ、各国の有力馬が勢揃いする素晴らしいレースの数々が行われます。ただし、出走馬としてはイギリス・アイルランド調教馬が勢揃いするCheltenham Festivalとは異なり、全体的に開催国の調教馬が主となるようです。

4月はイギリス・アイルランドを除く各国の障害競馬シーズンが始まりつつある季節です。フランスでは3月に引き続きAuteuil競馬場の開催が継続して行われ、翌月のG1に向けて数々の重賞競走が行われます。また、オーストラリア南オーストラリア州では、3月末又は4月頭にかけてOakbank競馬場のEaster Festivalが開催され、そのメインレースとしてGreat Eastern Steeplechaseが行われます。南オーストラリア州でも"Grand National"は別途行われていますが、Great Eastern Steeplechaseは"Grand National"以上の有力馬を集め、高い賞金額を誇る競走です。このレースは長い歴史を持つこと(第1回は1877年)、"Fallen Log"と呼ばれる独特の障害が設置されたOakbank競馬場のSteeplechase Courseを使用することも特筆すべきでしょう。

アメリカ障害競馬は3月~11月にかけて行われますが、4月のこの時期は開催が本格化する季節でもあります。とくに4月の下旬にワシントン近郊で行われるMaryland Hunt Cupは、アメリカTimber競馬最大の競走であり、約4マイルの距離と計22の難易度の高い障害を飛越する、世界最難関競走の一つとして数えられる競走です。Timberとは木製の柵のような障害を指しますが、Maryland Hunt Cupで使用される障害の中には最大で147cmもの高さを誇るものがあり、その難易度はアメリカTimber競走の中でも随一のものとなっています。

(レース映像リンク)2021 Maryland Hunt Cup - Maryland Hunt Cup on Vimeo

そして言うまでもなく、日本では中山グランドジャンプの季節ですね。

 

*5月

イギリス・アイルランドにおいて、5月頭にPunchestown Festivalの期間が重なる場合はありますが、基本的に5月は平地競馬シーズンとなります。イギリス・アイルランドの「障害競馬シーズン」としては新たなシーズンが始まる時期ではありますが、基本的に5~9月にかけて行われる障害競馬は比較的小規模なものであり、有力馬も概ねがお休みとなります。もっとも、気温が上がり良馬場で行われることが多い夏季を中心にレースに出走する馬も少なからず存在しますが。


5月はフランス障害競馬におけるG1競走が行われる季節です。フランス障害競馬のG1競走は春と秋に行われ、5月には5歳以上Hurdle競走としてGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)、5歳以上のSteeplechase競走としてGrand Steeplechase De Paris (G1)、及び年齢別路線のG1競走が行われます。上記の2レースはいずれもフランスHurdle競走又はSteeplechase競走として最長距離を誇る競走ですが、特にGrand Steeplechase De Paris (G1)はフランス障害競走の中でも最高賞金額が設定されており、名実ともにフランス障害競馬最高峰の競争となっています。これらのレースには、フランス調教馬のみならず、イギリス・アイルランド調教馬も参戦します。

5月はヨーロッパ諸国における障害競馬も本格化してくる時期で、イタリアではMilano競馬場でGrande Steeplechase Di Milano (G1)、Gran Corsa Siepi Di Milano (G1)といったG1競走が行われます。これが終わるとイタリア障害競馬の舞台はMerano競馬場へと移って行きます。また、5月から始まるチェコ障害競馬では、Pardubice競馬場において1st Qualification Race for Velka Pardubicka(Velká cena města Pardubic - I. kvalifikace na Velkou Pardubickou)が行われます。10月に行われるチェコ競馬の最高峰、Velka Pardubickaに向けて、チェコ・スロバキア教馬を対象として年4回のQualification Raceが行われており、一部の例外を除いて原則、このレースのいずれかで完走することでVelka Pardubickaへの出走権を得ることが出来ます。

5月はオーストラリア障害競馬においても重要な時期です。ビクトリア州Warrnambool競馬場では、5月の上旬に"The Bool"と呼ばれる開催があり、Grand Annual Steeplechaseを始めとするオーストラリア障害競馬の主要競走が複数行われ、多数の競馬ファンを集めます。特にこのGrand Annual Steeplechaseは5500メートルと、オーストラリア競馬の中で最長距離を誇るほか、飛越する障害は計33と、あのAintree競馬場のGrand Nationalよりも多数の障害が設置されています。Warrnambool競馬場独特の起伏の多いSteeplechase Courseもあり、非常にタフなレースが展開されることが特徴です。この競走は、SA州のGreat Eastern Steeplechase、VIC州のGrand National Steeplechaseと並び、オーストラリア障害競走において最も重要な競走の一つとされています。

 

*6月

6月には引き続きフランスAuteuil競馬場の重賞競走が継続して開催されますが、障害競馬における主要競走・主要開催という意味では、どちらかというと小規模な開催国へと移っていきます。6月末にはイタリアMerano競馬場にて、Merano競馬場の上半期を締めくくる開催が行われ、ここではGrande Steeplechase D'Europa (G1)、Gran Corsa Siepi D'Italia (G1)を始めとするイタリア障害競馬における主要競走が複数行われます。イタリア北部に位置するMerano競馬場は、他の競馬場とは一線を画す多彩で巨大な生垣障害が多数設置されており、アルプスの山々を背景にした緑溢れる美しい競馬場として、イタリア障害競馬随一の競馬場となっています。特にそのSteeplechase Courseにおける障害の難易度は非常に高く、まさにイタリア障害競馬の中心と言っていいでしょう。

また、6月中旬にはスウェーデンStrömsholm競馬場にて、スウェーデン障害競馬の最高峰であるSvenskt Grand Nationalが行われます。スウェーデン障害競馬はイギリス・アイルランド・フランスと比べると遥かに、チェコやイタリアと比べてもかなり小規模ですが、緑豊かなStrömsholm競馬場で行われるSvenskt Grand Nationalは、スウェーデン国内有数の大型の生垣障害が設置された本格的な障害コースが使用されており、スウェーデン国内のみならず、ドイツやチェコといった周辺国からも多数の出走馬を集める国際的な競走となっています。チェコでは5月に引き続き、Velka Pardubickaに向けた2nd Qualification Raceが行われます。

ニュージーランド障害競馬シーズンは主に5~9月ですが、6月頃から重賞競走、すなわちPrestige Jumping Raceが始まります。ニュージーランド障害競馬において中心的なPrestige Jumping Raceはまだですが、この時期はKS Browne Hurdle、McGregor Grant Steeplechase、Manawatu Hurdle及びSteeplechaseなどが行われます。アメリカHurdle競走が本格化するのもこの時期で、Pervy Warner競馬場にてIroquois Steeplechaseと呼ばれるHurdleのG1競走が行われます。