*2017年 Cheltenham Festival 旅行記
Cheltenham Festivalは合計4日間行われます。1日目は"Champion Day"、16ハロンHurdle路線の頂上決定戦であるChampion Hurdle Challenge Trophy (G1)をメインレースとして、G1競走4レースを含む計7レースが行われます。もちろん、全て障害競走。そもそもこのCheltenham競馬場、平地競争としては"National Hunt Flat"と呼ばれる障害馬専用の平地競争のみが僅かに行われるのみで、平地馬のための純然たる平地競争は一切行われていません。そしてこのCheltenham Festival、イギリス・アイルランド障害競馬においては最高のレースばかりが集中的に行われます。障害競馬ファンにとっては夢のような開催ですね。日本競馬も一日1レースとかケチなことを言わず、中山の大一番の日くらいは一日に複数の障害競走を設定してもいいと思うのですが。ジョッキーが足りない? 海外から呼べばいいじゃないですか。
この日のレース結果はこちらから。
そんなわけで第1レース、Supreme Novices' Hurdle (G1)に出走する馬たちがパドックに出てきます。これは16ハロンのNovice HurdleのG1競走。例年、この競走がCheltenham Festivalの開始を告げるレースとして設定されています。人気になっていたのはアイルランドのMelonという馬。メロンちゃん。🍈ちゃん。可愛いですね。だがしかしセン馬です。未勝利を勝ったばかりですが、未勝利戦でいい勝ち方をしたWillie Mullins厩舎の馬ということで人気を集めていたようです。写真だとなんだかたくさん人が集まっていそうな感じですが、まだこの時間帯は比較的のんびりしています。
この時間帯なら頑張って花道まで行くこともできます。カメラ目線をくれたのはNico de Boinville騎手。River Wyldeという馬に騎乗します。
が、勝ったのはLabaikという単勝25倍の馬。2016年の冬には2戦連続で発馬拒否をやらかし、2017年の2月のレースでは一応スタートはするも馬群から遥か遅れてのスタート、そのまま馬群の遥か後ろをついて回り、勝ち馬から100馬身遅れた6着に終わっていたという癖馬です。しかしながら今回はなにを思ったのか、まともに(障害を蹴り飛ばしながら)走ったようです。2016年のLeopardstownのCharity RaceではSheikh Fahad殿下を背に勝っていたり、Laytownの砂浜競馬にも出走していたり(発馬拒否)と不思議な経緯の馬ですね。Winners Enclosureの関係者は大いに盛り上がっていますが、場内は全体的に誰だこの馬? という雰囲気。
この馬、この年の4月には経験馬相手のPunchestown Champion Hurdle (G1)で僅差の4着に入りますが、その後大きな故障があり、結局レースへの復帰は叶いませんでした。とにかく波乱万丈な現役生活を送った馬で、この馬にとって最大の勲章であるこのレースを現地で観戦できたことは今となってはとても感慨深いものになりました。当時のわたしは誰だこいつ? と思っていましたが。相互フォロワーさんで一人だけこの馬の名前を挙げている方がいらしたんですよね。その慧眼には恐れ入るばかりです。
鞍上のJack Kennedy騎手にとって、これがCheltenham Festivalは初勝利となりました。その後、その勇気溢れるアグレッシブな騎乗でアイルランドのトップジョッキーへとのし上がることになります。
僅差の2着だったMelon。Ruby Walshの憮然とした表情がウケる。Melonは2021年12月現在でも元気に現役生活を続けていますが、これまでにG1において2着は5回、3着は3回と、とにかく惜しいところまで行くのですが未だに勝てていません。
かわいいメロンちゃん。しかしセン馬だ。
休む間もなく第2レース、Arkle Challenge Trophy Novices' Chase (G1)。16ハロンのNovice Chaseですね。単勝1倍台の圧倒的人気を背負うのがNicky Henderson厩舎のAltior。つい先日引退したSprinter Sacreと同じ陣営が送り出す馬で、ここまで障害競走では無敗。16ハロンChaseに適性のありそうな馬ということもあって、Sprinter Sacreの後釜として期待されていました。16ハロンの馬というと障害競馬の中では最も距離が短い部類なわけで、スピード能力も要求されることからなかなか前向きな馬も多く、2日目の朝に来ていたSprinter Sacreなどこれからレースを走るくらいの勢いでしたが、この馬は穏やかにのんびりと歩いています。むしろSprinter Sacreではなく、この馬が先日引退しましたといっても不思議ではないくらいの落ち着きっぷり。
が、レースが始まってみれば余裕綽々の勝ちっぷり。もうほんと意味わかんないくらい強い。第2レースで人も増えてきますし、しかも本命馬が勝ったとなると、やはり場内もかなり盛り上がってきます。Altiorはその後、2019年の1965 Chase (G2)にてCyrnameに敗れるまで、障害では19戦無敗とかいうわけのわからない成績を残しました。晩年は故障がちで順調に使えなかったこともあり、2021年に引退しましたが、現役生活を通じて障害23戦20勝2着3回、G1は10勝という圧倒的な成績を残しました。
で、表彰式も終わっていないにも関わらず、ぞろぞろと次のレースに出走する馬がパドックに出てきます。第3レースはUltima Handicap Chase (G3)という、25ハロンのハンデ戦ですね。全部で23頭立てとなると、さすがにパドックも混みあいます。写真は中の人イチオシのVintage Clouds。Chaseは未勝利でNoviceの身ですが、瞬間的な脚の早さよりももこもことしたストライドから繰り出されるスピードの持続性能に優れた馬。前走のHaydockのGrand National Trial (G3)で経験馬相手に3着に入った勢いで勝利を狙います。
Vintage Cloudsくんは勝負どころから脱落し悲しみの落馬に終わりました。勝ったのはトップハンデのUn Temps Pour Tout。11st12lb(75.3kg)のトップハンデを背負っていた馬ですが、10st13lb(69.4kg)のSinglefarmpaymentとの叩き合いを制して勝利しました。このレースでの最軽量が10st5lb(65.8kg)のVintage Cloudsなので、もはや10kg近い斤量差があったことになります。日本の平地競争からは考えられないようなハンデ差ですが、イギリス・アイルランド障害競馬のハンデ戦としてはごく普通のハンデ差です。Un Temps Pour Toutは2015年にはイギリス調教馬としてフランスGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)を勝った名馬ですね。これでこのレースは連覇。その後は順調に使えず引退となってしまったそうで、これがこの馬にとって最後の勝利となりました。
ちなみにVintage Cloudsはこのレースにはその後5年連続で出走し、2021年にはついに悲願の勝利をあげることになります。
勝ったTom Scudamore騎手とDavid Pipe調教師。
いよいよ第4レース、本日のメインレースであるChampion Hurdle Challenge Trophy (G1)に出走する馬たちが出てきます。どうにもこのシーズンの16ハロンHurdle路線は混戦で、絶対王者Faugheenの離脱、昨年の勝ち馬Annie Powerの引退もあり主役不在といったところで、KemptonのChristmas Hurdle (G1)を快勝したYanworthが押し出されるような人気になっていました。写真はFootpadとWicklow BraveのWillie Mullins厩舎の2頭。Wicklow Braveは2016年のIrish St. Leger (G1)の勝ち馬ですね。残念ながら2019年のアメリカGrand National Hurdle (G1)での落馬で亡くなってしまうのですが、平地、Hurdle、Chaseの全てで重賞勝利を挙げた馬です。
アイルランドのPetit Mouchoir。今シーズンに入ってアイルランドのG1を連勝してきたのですが、単勝7倍とあまり評価は高くなかったようです。パドックで暴れてひっくり返ったこともあるくらい気性の難しい馬だそうで。
人気を背負っていたYanworthとMark Walsh騎手。なんかMark Walsh騎手はアイルランドでよく詰まっている印象があるのですが。このレースくらい騎手が乗るところを見ようと思って粘っていたらスタンドが激混みで悲しい思いをしました。
が、そんな混戦を絶つ快勝を見せてくれたのがイギリスのBuveur D'Air。このシーズンの序盤はなぜかChaseに挑戦していたのですが、その後Hurdleに戻ってとても強い競馬を見せてくれました。Buveur D'Airは、その後Champion Hurdle (G1)を2018年も連覇。2020年以降は故障で順調に使えていませんが、2019年までにG1を計8勝し、16ハロンHurdle路線の王者として君臨しました。
2~4着のひとたち。手前がMy Tent Or Yours。当時10歳とかなり年齢は重ねていましたが、とにかく堅実な走りで2018年まで現役を続けました。葦毛のPetit Mouchoirは逃げて3着。さすがに2017年当時の力はないようですが、2021年現在も現役で16ハロンHurdle路線で頑張っています。一番奥にいるFootpadはその後Chaseへと転向し、2017/2018シーズンにおける16ハロンNovice Chase路線では圧倒的なパフォーマンスでG1を4勝することになります。その後は故障もあってかぱっとせず、2021年からはアメリカに移籍したようです。
勝ったNoel Fehily騎手とNicky Henderson調教師。嬉しそう。
で、表彰式をやっているのに例によって次のレースに出走する馬たちがパドックに出てきます。第5レースはOLBG Mares' Hurdle (G1)という牝馬限定戦。写真の馬はBon Chicという単勝250倍の馬。なんかこっちを見ています。
下馬評としてはVroum Vroum MagとLiminiのWillie Mullins厩舎の2頭が人気になっていました。Vroum Vroum Magはここまでイギリス・アイルランド障害競馬では13戦12勝、G1は2勝という実に素晴らしい成績を残している馬。その内容も16~24ハロン、Hurdle又はChaseと条件不問で勝ちまくっていたようです。一方のLiminiはNovice上りとなる馬で、PunchestownのQuevega Mares Hurdle (Listed)を勝ってここに挑んできた上り馬でした。
なぜか撮っていたパドックに設置されたITVのスタジオ。どこかで見たような顔が並んでいます。とりあえずITVはレース中に解説者が喋り出すのをやめて欲しいのですが。時間も限られているせいで誰でもわかるようなことしか言ってないですし、気が散って仕方がありません。
Winners Enclosureでは相変わらず表彰式が続いています。そしてその周りをぐるぐると馬が回っています。日本人的にはなんともカオスな光景に見えるのですが、彼らにとっては普通なのかもしれません。
そうこうしているうちにレースの時間になります。Vroum Vroum Mag、Liminiとの叩き合いを制して勝利したのはアイルランドのApple's Jade。当時は5歳でJuvenile Hurdleからの上り馬でしたが、ここでは年上の馬相手に結果を残しました。Apple's Jadeはその後、2020年の春まで現役生活を続けましたが、その中でG1を計11勝。特に2018年の冬にかけては圧倒的なパフォーマンスでアイルランドのG1を3連勝するなど、イギリス・アイルランド障害競馬の歴史に残る名牝となりました。Juvenile Hurdleではかなり強い競馬を見せていたので勝ってくれて嬉しかった覚えがあるのですが、当時ここまで活躍する馬になるとは思ってもいませんでした。
目が合いましたね。
さて、残りはNoviceの重賞競走2レース。やはりG1競走も終わり、夕方になって寒くなってきたこともあり、観客も温かい場所に移動したりしたのか、場内はやや寂しくなってきます。
第6レースはJT McNamara National Hunt Challenge Cup Amateur Riders' Novices' Chase (G2)。アマチュア騎手限定、Novice競走、しかも距離は3m7f170yと異例の長距離というレースです。2021年現在は様々な経緯もあってもう少し距離は短くなったのですが、Novice馬の中でも特に高い飛越技術とスタミナを有する馬を探し出すためのレースであることは変わりはないでしょう。G1路線でどうこうというよりは、むしろGrand Nationalのような超長距離のハンデ戦を目指す馬を見つけ出すようなレースです。
ちょうど調教師デビューしたてのJoseph O'Brien調教師の管理するEdwulfが直線で故障を発生、競争中止したので心配して何度も見に行った記憶があるのですが、どうやら写真を見返すと一度はパドックに取って返していたようです。Edwulfは幸い大事には至らず、その後長い休養を経て2018年のIrish Gold Cup (G1)を勝利する奇跡の復活劇を遂げた馬です。
レースに勝ったのはTiger Roll。特に印象に残らないような小さくてとても大人しい馬ですね。元々2014年のTriumph Hurdle (G1)を勝った馬なのですが、それからG1戦線ではだいぶ苦労していたようで、このシーズンは夏場から精力的にNovice Chase競走に出走し、2016年のMunster National (Grade A)を始め、ようやく結果を残してくれたので嬉しかった記憶があります。
が、Tiger Rollとは誰もが知っているTiger Roll。後にAintree競馬場のGrand National (G3)を2018、2019年と連覇することになるあの馬です。2020年はGrand National自体が中止、2021年は斤量を"unfair"と判断して回避といまいちツキがないのですが、2022年には陣営が納得する条件で、この馬がNational Courseに挑む姿を見たいものです。
水も滴るいい男(?)
勝ったLisa O'Neill騎手。
最終レースはClose Brothers Novices' Handicap Chase (Listed)。この時間になるとかなり冷えてきますし、場内の人もだいぶまばらになってきます。おそらく屋内を始め温かいところに避難したり、混雑を避けるために早めに競馬場を後にしたりしたものと思われますが、酔っ払っているせいで外に残っている一人一人はものすごく元気です。
そして写真がブレる。
勝ったのはTully Eastというアイルランド調教馬。アイルランドの馬が勝利したときはかなりの頻度で騎手がこのようにアイルランド国旗を掲げます。同馬は2020年まで現役を続けたようですが、このレースが最大の勲章となりました。
帰り支度をする馬。競馬が終わったので帰ります。ただ、競馬場では夜までなにやらコンサート等のイベントをやっているらしく、この時間になってもたくさんの人が残っていました。
夜ご飯。前日に散々イギリスらしいご飯を食べてお腹いっぱいになったので、日本料理がどう魔改造されているか楽しみに日本料理屋に入ったのですが、料理はこれが意外と美味しかったです。ただ、壁にデカデカとポケットモンスターの絵が飾られていました。日本といえばポケモンなのでしょうか。ポケモンは子供時代に触らせてもらえなかったのであまり馴染みがないのですが、サン&ムーンだけは観たいんですよね*1。