＊障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝
ここからはSadler's Wellsの小系統について記載する。
＊In the Wings系
Sadler's Wells (USA) 1981 (Flat)
｜In the Wings (GB) 1986 (Flat)
｜ ｜Stage Pass (GB) 1993 イギリス障害1勝
｜ ｜ ｜Scheherazadesdream (GB) 2007 イギリス障害5戦未勝利
｜ ｜Barney Knows (IRE) 1995 2000 River Don Novices’ Hurdle (G2)
｜ ｜Landing Light (IRE) 1995 2001 Christmas Hurdle (G1)
｜ ｜Sadlers Wings (IRE) 1998 2004 Champion Novice Hurdle (G1)
｜ ｜Inglis Drever (GB) 1999 2005-2007 World Hurdle (G1)
｜ ｜In The High Grass (IRE) 2001 2007 Shamrock Handicap Chase (Grade B)
｜ ｜Wingman (IRE) 2002 2008 Trophy Hurdle Handicap (G3)
｜ ｜Souffleur (GB) 2003 2007 Challow Novices’ Hurdle (G1)
In The Wings自身は障害種牡馬としても優秀で、その代表産駒はイギリス3マイルHurdle競走において歴代最強馬の一頭として数えられるInglis Dreverである。イングランド北東部の都市Durhamに拠点を置いていたHoward Johnson元調教師の管理馬である同馬は2006年から2008年にかけてWorld Hurdle (G1)を三連覇し、当時のイギリス3マイルHurdle路線では圧倒的な強さを示した。残念ながら同馬は故障で2009年に引退し、同年10月に疝痛で亡くなっている*1。なお、Howard Johnson元調教師は動物福祉に関する問題で4年間の調教師免許剥奪措置を受けたのち調教師を引退しており*2、残念ながらその陣営は過去のものとなっている。なお、もともと同厩舎に委託していた有力なオーナーの一人であったInglis Dreverの所有者であるGraham Wylieは、2022年現在ではアイルランドWillie Mullins厩舎に所有馬を委託しており*3、近年ではすっかりアイルランド競馬を席巻しているWillie Mullins厩舎の大活躍を支える重要な馬主となっている。
他のIn The Wingsの代表産駒としては、2001年にCoral Eurobet Championship Hurdle (G1)及びChristmas Hurdle (G1)を制したLanding Light、2007年のChallow Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬Souffleurが挙げられる。また、Stage Passというイギリス生産馬はフランスでデビューし、平地ではPrix Hocquart (G2)の3着などの実績を残したのち、1997年からイギリスHurdle戦線を走り、Novice Hurdleで1勝を挙げているのだが、この馬はどうやら種牡馬として繋養されたようで、少なくとも3頭の産駒が存在するようだ。そのうちScheherazadesdreamという牝馬がイギリスHurdle競走を5戦したものの、残念ながらさっぱり良いところはなく勝利をあげることはできなかったようだ。なお、In The Wingsの産駒は何頭か日本でもデビューしているようだが、日本障害競馬への出走歴はない。
Sadler's Wells (USA) 1981 (Flat)
｜In the Wings (GB) 1986 (Flat)
｜ ｜Singspiel (IRE) 1992 (Flat)
｜ ｜ ｜Secret Singer (FR) 1999 (Flat)
｜ ｜ ｜ ｜Lord Singer (FR) 2005 2014 Rudi Hinterberger Gedächtnis-Jagdrennen
｜ ｜ ｜ ｜Vicody (FR) 2009 2017 Cena Labe
｜ ｜ ｜ ｜Epi Sacre (FR) 2014 2018 Prix Alain Et Gilles De Goulaine
｜ ｜ ｜ ｜Gangster De Coddes (FR) 2016 2020 Corsa Siepi Dei 4 Anni (G2)
｜ ｜ ｜Lateral (GB) 2003 (Flat)
｜ ｜ ｜ ｜Little Lilly (GER) 2009 2013 Prix Allo Boissons
｜ ｜ ｜ ｜Kazoo (GER) 2010 2014 Corsa Siepi Dei 4 Anni (G2)
｜ ｜ ｜Prima Vista (GB) 2005 2011 Rathbarry & Glenview Studs Novice Hurdle (G2)
｜ ｜ ｜Irving (GB) 2008 2014, 2016 Fighting Fifth Hurdle (G1)
｜ ｜Winged Love (IRE) 1992 (Flat)
｜ ｜ ｜Aolus (GER) 1999 (Flat)
｜ ｜ ｜ ｜Krabat (IRE) 2015 アイルランド障害1勝
｜ ｜ ｜Twist Magic (FR) 2002 2010 Clarence House Chase (G1)等
｜ ｜ ｜Bostons Angel (IRE) 2004 2011 RSA Chase (G1)等
｜ ｜ ｜Magnanimity (IRE) 2004 2011 Killiney Novice Chase (G2)
｜ ｜ ｜Bless The Wings (IRE) 2005 2017 Glenfarclas Cross Country
｜ ｜ ｜Perfect Candidate (IRE) 2007 2017 BetVictor Handicap Chase (G3)
｜ ｜ ｜Josses Hill (IRE) 2008 2016 Peterborough Chase (G2)
｜ ｜ ｜Love Rory (IRE) 2008 2014 PP Hogan Memorial Cross Country
｜ ｜ ｜Some Plan (IRE) 2008 2017 Arkle Novices’ Chase (G1)
｜ ｜ ｜Baywing (IRE) 2009 2018 Eider Chase
｜ ｜ ｜Ravenhill (IRE) 2010 2020 National Hunt Challenge Cup (G2)
｜ ｜ ｜Thomas Patrick (IRE) 2012 2018 Betway Handicap Chase (G3)
｜ ｜Central Park (IRE) 1995 (Flat)
｜ ｜ ｜Corbally Ghost (GB) 2007 2011 Cork Stayers Novice Hurdle (G3)
｜ ｜ ｜Colin’s Sister (GB) 2011 2017 West Yorkshire Hurdle (G2)
｜ ｜ ｜Oldgrangewood (GB) 2011 2020 Paddy Power Handicap Chase (G3)
｜ ｜Tillerman (GB) 1996 (Flat)
｜ ｜ ｜Tillahow (IRE) 2007 2011 Punchestown Juvenile Hurdle (G3)
｜ ｜Kutub (IRE) 1997 (Flat)
｜ ｜ ｜Katachenko (IRE) 2009 2016 Red Rum Handicap Chase (G3)
｜ ｜Soldier Hollow (GB) 2000 (Flat)
｜ ｜ ｜Arctic Fire (GER) 2009 2015 Hatton’s Grace Hurdle (G1) 2017 County Hurdle (G3)
｜ ｜ ｜Pastrius (GER) 2009 (Flat)
｜ ｜ ｜ ｜Campinas (SWI) 2015 2019 Prix Roger Saint
｜ ｜ ｜Silsol (GER) 2009 2016 West Yorkshire Hurdle (G2)
｜ ｜ ｜Novalis (GER) 2012 2017 Alpine Motorenöl-Seejagdrennen
｜ ｜ ｜Saldier (FR) 2014 2019 Morgiana Hurdle (G1)
｜ ｜ ｜Bitcoin (GER) 2016 2021 Preis des Elektrohandwerks Goslar/Bad Harzburg
｜ ｜ ｜Roi D’Etoile (GER) 2016 2021 Grand Steeplechase De Lyon
｜ ｜Fracas (IRE) 2002 (Flat)
｜ ｜ ｜Historic Heart (IRE) 2017 2021 Harry E. Harris Stakes Hurdle
1996年のジャパンカップを制した*シングスピールはIn The Wingsの代表産駒の一頭で、日本でもアサクサデンエンやローエングリンの父、ロゴタイプの祖父として近年の競馬ファンにとっても馴染みがある種牡馬であるが、障害種牡馬としても2014年及び2016年のFighting Fifth Hurdle (G1)を制したIrvingを送り出している。ただし、IrvingはG1を2勝したとはいえいずれも空き巣G1のようなメンバー構成であった印象も拭えず、障害競馬において*シングスピールの産駒はさほど目立つ成績ではない。*シングスピールは後継種牡馬も複数存在するようで、その後継種牡馬としては、Secret Singerが2017年のCena Labe (Stcc L)を制したVicodyやイタリア・フランスで活躍するチェコ調教馬Gangster De Coddesを送り出しているが、本来の繋養先であるフランスでの活躍馬は2018年のPrix Maurice Gillos (G1)の2着のあるEpi Sacreが筆頭格で、上記のVicodyも翌年のVelká pardubická s Českou pojišťovnのVelký Taxisův příkopにおける落馬で亡くなっており、やや障害競馬においては全体的にもの足りない成績である。アサクサデンエン、ローエングリン、*ムーンバラッドなどの*シングスピールの後継種牡馬は日本で繋養されているが、特に目立った活躍馬は出ておらず、*ムーンバラッド産駒のアイティテイオーが障害オープン2勝を含む計3勝を挙げたのが最高のようだ。
1995年のIrish Derby勝ち馬のWinged Loveは成功した障害種牡馬で、その代表産駒はなんといっても2007年及び2009年のTingle Creek Chase (G1)、2008年のChampion Chase (G1)等を制し、イギリス16ハロンChase路線でMiaster MindedやBig Zebといった当時の最強馬たちと鎬を削ったTwist Magicだろう。一方で、16ハロンでスピードを生かしたTwist Magicとは異なり、代表産駒の中にはLove Rory、Bless The WingsといったCross Country Specialistや、Baywing、Ravenhillといった超長距離戦線で結果を残した馬の名前も散見され、産駒としてはなかなかに味のあるラインナップである。Winged Love自身は2015年に死亡しており、Winged Loveの後継種牡馬としてはドイツ生産馬のAolusという馬がアイルランドで障害種牡馬として繋養されているようだ。Aolusの産駒としてはKrabatという馬がアイルランドChase競走で1勝を挙げているようだが、Aolusの産駒数は少なく目立った活躍馬もいないようだ。
Soldier Hollowはドイツでリーディングサイアーに輝いた種牡馬で、障害馬の父としても2019年のMorgiana Hurdle (G1)等の勝ち馬で、その後故障に悩まされながらもアイルランドHurdle路線で活躍を続ける素質馬Saldier、2015年のHatton's Grace Hurdle (G1)の勝ち馬で、その後故障に悩まされながらも2017年のCounty Hurdle (G3)等を制し、引退後に再度現役復帰するなどドラマチックな現役生活を送ったArctic Fire、2019年のAlpine Motorenöl-Seejagdrennenの勝ち馬Novalisなど、なかなか多彩な活躍馬を送り出している。Soldier Hollow自身は2022年現在も現役で種牡馬活動を行っているようだが、フランスCompiegneでListed勝ちのあるスイス生産馬Campinasを送り出したPastoriusを筆頭に、Destino、Ivanhowe、Dschingis Secret等の複数の後継種牡馬が存在しており、特にIvanhoweやDestino等においては産駒にサラブレッドのみならずAQPSも含まれているようで、今後は障害競馬においてもこの系統出身馬の活躍が期待できそうだ。
