にげうまメモ

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22/01/03 2017年 Cheltenham Festival 旅行記 ⑦ - Ladies Day -

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*2017年 Cheltenham Festival 旅行記

Cheltenham Festival2日目。2日目は"Ladies Day"と呼ばれ、16ハロンChase路線の頂上決戦であるQueen Mother Champion Chase (G1)をメインレースとして、合計7レースが行われます。うちG1競走はNational Hunt FlatであるChampion Bumper (G1)を含め計4レース。この日は場内で女性を対象としたファッションショーも行われ、綺麗に着飾ったご婦人方が多数場内を練り歩き、とても華やかな雰囲気に包まれます。ちょうど2017年のこの日は4日間のうち唯一の晴天に恵まれた日でもあり、3月のイギリスとしては最高の競馬日和となりました。

なお、Champion Bumper (G1)はコース上に障害物が設置されていない平地競争ですが、"National Hunt Flat"とは将来的に障害馬を目指す若齢馬を対象とした平地競争で、斤量や距離は全て障害競走並みの条件で行われます。出走は4~6歳馬に限定されていることからもわかるように、これは「将来的に障害競走を使う馬のためのレース」。こんな辺境ブログにいらしてくださる方は既に重々ご存知かと思いますが、いわゆる「障害馬」がわざわざ"National Hunt Flat"を目指してレースに出走してくることはありません。

この日のレース結果はこちらから。

 

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早速第1レース。Neptune Investment Management Novices' Hurdle (G1)。カタカナにするとネプチューンインヴェストメントマネージメントノーヴィシィスハードル。長い。が、netkeibaとかの記事を見る限り、大方の日本人にとってはアルファベットの羅列よりカタカナの羅列にした方が読みやすいのでしょうか。このレースは2マイル5ハロンのNovice HurdleのG1競走です。ここではHaydock競馬場のSupreme Trial Novices' Hurdle (G2)を快勝したイギリスのNeon Wolfが人気になっていました。写真はそのNeon Wolf。晴天で光量が多いと少し綺麗に撮ることができます(当社比)。対するはアイルランドでDeloitte Novice' Hurdle (G1)を勝ってきたBacardys。Willie Mullins厩舎とRuby Walshの黄金コンビの馬ですね。

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が、勝ったのは人気薄のWilloughby Court。Neon Wolfとの叩き合いを制してまさかの逃げ切り勝ちを収めました。鞍上のDavid Bass騎手も嬉しそうです。これがBen Pauling厩舎にとっては初のCheltenham Festivalの勝ち馬だったそうです。

この上位2頭は残念ながらあまりその後幸せな馬生を送ることはできなかったようで、Willoughby Courtは翌2017/2018シーズンはChaseに転向し、Berkshire Novices' Chase (G2)を勝利するもの、2019年1月に骨感染症が原因で亡くなったそうです*1。また、2着のNeon Wolfも2017年の8月に厩舎での事故で亡くなり*2、僅差の3着に入ったMessire Des Obeauxもその後故障で3年ほどの休養を余儀なくされたそうです。しかしながらその長期の休養を乗り越えたMessire Des Obeauxは2021年にDipper Novices' Chase (G2)を勝利していたり、5着のKemboyはのちにアイルランドを中心にG1を4勝する名馬となったり、途中棄権に終わった人気のBacardysもその後2017年4月のChampion Novice Hurdle (G1)を制したり、Liveloveloughという馬が2021年にAintree競馬場のNational Courseを使用するTopham Chase (G3)を派手に逃げ切ったりと、このレースの出身馬はあちこちで頑張っているようです。出走馬のその後を追いかけてみると、そのレースではぱっとしなかった馬でも色々なところで活躍しているのがCheltenham Festivalの良いところです。

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Kemboy。当時は特に人気にもなっておらず、レースも後方からじわじわ伸びて5着と目立つものではなかったのですが、このレースの出走馬としては最も成功した馬になりました。2022年1月現在もアイルランド24ハロンChase路線のトップホースの一頭として頑張っています。

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途中棄権して帰って行くBacardys。

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Winners EnclosureのMessire Des Obeaux。このシーズンはChallow Novices' Hurdle (G1)を勝っており、ここでも人気になっていました。

 

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休む間もなく次レース。第2レースはRSA Chase (G1)。24ハロンのNovice ChaseのG1競走です。Noviceと付いていないので勘違いされるのですが、れっきとしたNovice競走です。ここではイギリスのMight Biteという馬が人気になっていましたが、どうにも信用しきれないという感じのオッズ。それもそのはず、Ffos LasのChaseデビュー戦ではいい感じで回ってくるも、最終障害をミスして2着。DoncasterのChase2戦目ではとりあえず勝利するも、残り2障害で大きなミス。続けて挑んだKauto Star Novices' Chase (G1)では、持ったままで後続をぶっちぎり、直線で圧倒的なリードをつけるも最終障害で落馬。仕切り直しとなったDoncasterでは対抗馬が早々に落馬したこともあってとりあえず勝利と、どうにも破天荒なレースばかりが目立っていた馬でした。

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そんなMight Biteは期待通りにやらかしてくれました。残り2障害で後続に10馬身以上の差をつけるも、最終障害でミス、そしてそのまま馬が厩舎に帰ろうとしたのか、よろよろと右方向に歩きだします。場内から沸きあがる悲鳴、焦るNico de Boinville騎手、番手に居たWhisperが必死に差を詰めて来ます。そのWhisperがMight Biteを捉えたところで、馬がなにかを思い出したのかもう一度走り出します。そして必死で逃げ込みを図るWhisperを、Might Biteがもう一度交わしたところがゴールでした。

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勝ったMight Bite。そんなMight Biteですが、その後は2017年のKing George VI Chase (G1)を始め、現役生活において通算でG1を4勝することになります。大きな馬体から繰り出されるダイナミックな飛越が魅力的な馬でした。2018年の冬以降は気持ちが切れたようなレースを続け、2020年の時点で引退したのですが、それでも破天荒で強いMight Biteのレースを見ることができたのは良い思い出になりました。一方のWhisperは次走のAintreeのMildmay Novices' Chase (G1)でも引き続きMight Biteの後塵を拝すことになり、2017年12月を最後に故障で長期の休養を余儀なくされ、結局残念ながらChaseのG1競走を勝つことはできませんでした。

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そんな2着のWhisper。HurdleではAintreeのLiverpool Hurdle (G1)を連覇した実績のある馬。

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ちなみに、上記Kauto Star Novices' Chase (G1)でMight Biteの落馬のおこぼれでG1勝ち馬となったRoyal Vacationも出走していました。さすがにG1クラスのスピード勝負では厳しかったようで、特に良いところなく途中棄権に終わったようですが、その後はG1戦線ではなく主に24ハロン以上の超長距離のハンデ戦に出走し、2019年にはTauntonのPortman Cup Chaseを勝利しました。

 

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第3レースのCoral Cup Handicap Hurdle (G3)を勝ったのはアイルランドのSupasundae。20ハロンのハンデキャップ競走ですね。当時はアイルランドの平場戦を勝った程度の馬であまり人気にもなっていなかったのですが、これがこの馬にとっては大きな転機となる競走となりました。続くLiverpool Hurdle (G1)ではYanworth相手に2着に入ると、翌2018/2019シーズンからはG1戦線に参戦、Irish Champion Hurdle (G1)を含むG1競走2勝を挙げます。さすがに2020年冬には気持ちも切れていたのか大敗が続き引退しましたが、Robbie Power騎手とのコンビで現役を通じてG1を3勝した名馬です。大きな馬体とパワー溢れるしぶといロングスパート能力を武器に、Galileoとしても代表産駒の一頭となりました。

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2着に入ったTaquin Du Seuil。2014年のJLT Novices' Chase (G1)の勝ち馬ですね。その後はG1戦線を転戦するもどうにも太刀打ちできなかったようで、ここでは久しぶりのHurdle競走への出走となりました。続くLiverpool Hurdle (G1)でもYanworthの4着に頑張りましたが、残念ながら2018年のHuntingdonでの落馬で亡くなったそうです。

 

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いよいよ第4レース、本日のメインレースであるQueen Mother Champion Chase (G1)の出走馬がパドックに出てきます。ちなみに"Champion Chase"というとアイルランドに複数似たような名前のレースがあるのでご注意ください。ここで圧倒的な人気を集めていたのがアイルランドのDouvan。ここまで障害競走では12戦無敗、うちG1は8勝というわけのわからない成績を収めていました。2016/2017シーズンまではNoviceクラスを使っていた馬なのですが、2017/2018シーズンは経験馬を相手に3連勝。12月にはPaddy Power Chase (G1)を快勝し、前走のBoylesports Tied Cottage Chase (G2)も危なげない勝利と素晴らしい成績。パドックでは16ハロンの馬らしい前向きな気性を見せていたのですが、なんか目を剥いて怖い馬だなと思った記憶があります。

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うーむ、やっぱりちょっと怖い。

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迎え撃つのはイギリスのGod's Own。2014年のRyanair Novice Chase (G1)や2016年のMelling Chase (G1)、PunchestownのChampion Chase (G1)などを勝利していた馬ですが、2016/2017シーズンはここまで3戦していずれも惜敗と、やや人気を落としていました。

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騎手が騎乗した出走馬が本馬場に出てきます。メインレースだけはこのスタンド前でしばらく周回していた記憶。おそらく出走馬の紹介とかあったのかもしれませんが、いかんせん中の人は鶏頭なので2017年のことなど覚えているはずがなく、既に記憶はぼんやりとしています。

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レースは予想外の結果に終わりました。人気を背負ったDouvanは最終コーナーから手ごたえが悪くなり馬群から脱落。逃げたSpecial Tiaraがそのまま逃げ足を伸ばすと、最後猛然と追いこんできたFor Nortonを凌いで勝利しました。

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Special Tiaraは2013年のMughull Novices' Chase (G1)の勝ち馬ですが、その後はいまいち低迷、2014年のDesert Orchid Chase (G2)にて暴走気味のペースで引っ張ることで久しぶりの勝ち星を収めると、この暴走気味のペースで逃げる戦術を武器に、2015年のQueen Mother Champion Chase (G1)ではDodging Bulletsの3着、2015年のCelebration Chase (G1)を勝利と、一躍16ハロン路線の中心的な一頭へと躍り出ました。2016年のQueen Mother Champion Chase (G1)ではSprinter Sacreの感動的な復活劇を前に3着に敗れましたが、それでも2着のアイルランドの快速馬Un De Sceauxとは延々と壮絶な叩き合いを演じていました。起伏の多い競馬場や重馬場を不得手とする馬だったようで、どうしてもストライクゾーンは狭くあっさりと負けることも多かったのですが、それでもハマったときの破壊力は素晴らしいものを持っていました。12歳となったDublin Chase (G1)のスタート直後の故障で亡くなるまで、ひたすらアグレッシブな逃亡劇を魅せる唯一無二の名馬として数多くのファンを集めた名馬です。

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Winners Enclosureでは延々うるさくしていて、結局優勝馬レイを掛けてもらえませんでした。これもSpecial Tiaraらしいといえばらしいのですが。

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2着のFox Norton。このシーズンはその後Melling Chase (G1)、PunchestownのChampion Chase (G1)を制し16ハロンの中心的な一頭であることをアピールしますが、その後は故障もあったりとどうにも順調に使えず、2017年のShloer Chase (G2)勝ちのみに留まりました。圧倒的人気を背負っていたDouvanはどうやらレース中の故障もあったらしく、その後は故障で順調にレースに使えなかったようで、残念ながらその後は現役通じて計3戦、2019年にClonmel Oil Chase (G2)を1勝したのみに留まりました。

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ちなみにここでは9着と全くいいところはなかったのですが、Simply Nedという馬も出ていました。その後の2017年のPaddy's Rewards Club Chase (G1)ではMinに対して繰り上がりの優勝、2018年の同レースではFootpad相手に驚きの勝利と、2018年当時は11歳の高齢ながらも大きな仕事をやってのけました。

 

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さて、メインレースも終わり少しずつ日も傾いてきます。ピントがズレた写真も増えてきます。第5レースはGlenfarclas Cross Country Chase。Cheltenham Festival4日間の中で唯一のCross Country競走ですね。Cross Country競走はフランス、チェコ、イタリアなどでは盛んですが、イギリスでは少なく、このCheltenham競馬場にて年間数えるほどしか行われていません。しかしながら多彩な障害を使用するこの競走はCheltenhamの名物競走として人気を集めており、出走馬としても経験豊富な高齢馬が多数出走します。ここで人気を背負っていたのが写真のCuase of Causes。2015年のNational Hunt Chase (Listed)の勝ち馬で、昨年のCheltenham FestivalではKim Muir Challenge Cupを制し、3度目のCheltenham Festivalでの勝利を狙います。

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Cross Country競走にはフランス調教馬も頻繁に参戦します。写真はこのとき参戦していたAmazing Comedy。PauのCross Countryで結果を残してきた馬ですね。厩務員さんの服装がひときわお洒落。

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12歳のFirst Lieutenant。ここまで2013年のBowl Chase (G1)を始めG1競走は3勝したアイルランドの名馬ですが、特筆すべきはその入着の多さ。G1競走において、2着は7回、3着は4回と、実に惜敗が目立っていました。さすがに2016年以降はかつての勢いはなかったようで、このシーズンはPoint to PointやCross Countryを走っていたようです。

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出走馬中最高齢の14歳馬Any Currency。いわゆる"Course Specialist"というやつで、2016年のこのレースは1位に入線するも、後に禁止薬物が検出されたとかで失格になっていました。

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障害を下見する出走馬たち。

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写真の通り、このCross Country競走に際しては観客が内馬場へと入ることが出来るようで、Cross Countryで使用する障害の脇に多数の観客がいました。いまいちどのチケットを持っていればよいのか等はわからなかったのですが、次に行く機会があれば障害脇での観戦をしてみたいですね。

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勝ったのは人気のCause of Causes。この馬にとってこのシーズンは続くGrand National (G3)でも2着に入り、キャリアハイのシーズンとなりました。もっとも、2017/2018シーズンは2戦しいずれも大敗、その後故障もあり引退したそうです。残念ながら2021年の4月に心臓発作で亡くなったとのことで*3、もっとこの馬の走りをCross Countryで見てみたかったですね。

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2着のBless The Wings。この馬もいわゆる"Course Specialist"というやつで、いつ走るのか全くわからない馬だったのですが、13歳となった2018年のGrand National (G3)では人気薄ながら3着に入り波乱を演出しました。14歳となった2019年にもGrand National (G3)に参戦し、さすがに良馬場のスピード勝負にはついていけず13着と大敗したようですが、地味に終盤の障害で他の馬を突き飛ばすなど元気一杯の走りを見せていました。

なお、フランスのAmazing Comedyは5着。当時はフランスでも無名の一頭でしたが、2018年にはGrand Cross Country Chase De Compiegneを勝利、さらの2019年にはAnjou-Loire Challengeを勝利し、フランスCross Countryにおける主要競走を複数制す馬となりました。

 

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いくら晴れていたとはいえ、夕方になってくると寒くなってきます。第6レースのFred Winter Juvenile Handicap Hurdle (G3)を勝利したのはFlying Tiger単勝34倍の大波乱でした。"Juvenile Hurdle"としてはCheltenham Festival4日目にTriumph Hurdle (G1)があるので、基本的にG1戦線で勝負になりそうな馬はTriumph Hurdle (G1)に行くようです。Flying Tiger自身はその後はHurdleの重賞戦線に参戦、2017年のFighting Fifth Hurdle (G1)でBuveur D'Air相手の3着に頑張りますが、結局その後は勝ち星を挙げることはできなかったようです。

 

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最終レースはChampion Bumper (G1)。National Hunt Flatは基本的に最終レースに行われることが多く、このG1であっても例外ではありません。"National Hunt Flat"の障害競馬における立ち位置はこの辺りからも想像がつくのではないでしょうか。勝ったのはアイルランドのFayonagh。その後PunchestownのChampion I.N.H Flat Race (G1)も勝利し、Hurdle初戦となった2017年の未勝利戦も勝利しますが、残念ながら2017年の10月に調教中の事故で死亡、その走りを障害競走の大舞台で見ることは叶いませんでした*4

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Champion Bumper自体はNational Hunt Flatですが、出世レースとしては非常に重要なレースであり、この年では4着に入ったNext Destinationがその後HurdleでLawlor's of Naas Novice Hurdle (G1)、及びIrish Daily Mirror Novice Hurdle (G1)を勝利し頑張っているようです。その後故障で920日間の休養を挟み、しかもWillie Mullins厩舎からPaul Nicholls厩舎への転厩もあったようですが、ChaseでもNational Hunt Challenge Cup (G2)にてGalvinの2着に入るなど、長期の休養を乗り越えて頑張っています。