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22/06/10 障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝 ⑨ - High Chaparral、Sholokhov -

*障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝

引き続き、Sadler's Wellsの小系統について記載する。

 

High Chaparral

Sadler's Wells (USA) 1981 (Flat)
 |High Chaparral (IRE) 1999 (Flat)
 | |Magadan (IRE) 2005 (Flat)
 | | |Dommage Pour Toi (FR) 2013 2019 Fairyhouse Easter Festival Novice Hurdle (G2)
 | |Altior (IRE) 2006 2019 Queen Mother Champion Chase (G1)他
 | |Baccalaureate (FR) 2006 2010 Finesse Juvenile Hurdle (G2)
 | |Chaparro (NZ) 2006 2014 Grand Annual Steeplechase
 | |Redwood (GB) 2006 (Flat)
 | | |Chief Sequoyah (NZ) 2014 2021 Awapuni Hurdle
 | |So You Think (NZ) 2006 (Flat)
 | | |Evžen (GB) 2014 2020 Cena Labe
 | | |Jesse Evans (IRE) 2016 2021 Kelly Farm Modernisation Handicap Hurdle (Grade B)
 | |Hadrian’s Approach (IRE) 2007 2014 bet365 Gold Cup (G3)
 | |Hornets’ Nest (GB) 2008 2017 Kevin Lafferty Hurdle
 | |Be Positive (IRE) 2009 2014 Sean Breen Memorial Cross Country
 | |Caracci Apache (IRE) 2010 2015 Albert Bartlett Novices’ Hurdle (G2)
 | |Hawk High (IRE) 2010 2014 Fred Winter Juvenile Hurdle (G3)
 | |Beentheredonethat (FR) 2011 2019 H M Drottingens Pris
 | |High Master (IRE) 2011 2016 Premio A.S.S.I (G3)
 | |Lucques (AUS) 2011 2019 MJ Bourke Hurdle
 | |Casiraghi (AUS) 2012 2019 Classic Hurdle
 | |Landofhopeandglory (IRE) 2013 2016 Bar One Racing Juvenile Hurdle (G3)
 | |Shrubland (GB) 2013 2019 Grosse Bad Harzburger Hürden Trophy 
 | |Tower Bridge (IRE) 2013 2018 Leopardstown Novice Hurdle (G1)

 

High Chaparral種牡馬としての最高傑作は間違いなくAltiorで、2015年のChepstowにおけるHurdleデビュー戦から、2019年のAscotのChristty 1965 Chase (G2)でCyrnameに敗れるまでHurdle及びChase競走合算して19戦無敗、現役生活を通じて障害は23戦20勝2着3回、うちG1を10勝と、途方もない成績を残した。残念ながら現役生活の終盤はトラブルもあってあまり順調にレースに出走することはできなかったのだが、すらりと長い馬体を生かしたそのダイナミックな飛越と無限に加速し続ける高いエンジン性能を武器に、2016~2018年頃にかけてはイギリス16ハロンChase路線における絶対的な王者として君臨し、2010年代のイギリス競馬を代表する名馬の一頭として数えられている。

Altiorを除くとHigh Chaparralの産駒の欧州障害競馬での成績はやや微妙なのだが、High Chaparralアイルランドだけではなくニュージーランドやオーストラリアでもシャトル種牡馬として活動していたようで、2014年のGrand Annual Steeplechaseの勝ち馬Chaparro、2019年のClassic Hurdleの勝ち馬Casiraghiなど、オセアニア障害競馬における主要競走勝ち馬を複数送り出している。なお、例によって日本障害競馬へのHigh Chaparralの産駒の出走はない。

High Chaparralの後継種牡馬も複数存在するようだが、面白いのがSo You Thinkの産駒Evženで、2018年のCena ČASCH (Stcc NL)、2019年のCena Vltavy (Stcc NL)、そして2020年のCena Labe (Stcc NL)と順調にステップアップすると、満を持して挑んだ2021年のVelká pardubická (Stcc L)では10歳の古豪Talentに対して僅差の2着に頑張っている。2022年現在で8歳とまだ若い馬で、ここまでCross Countryでは11戦8勝と素晴らしい成績を残しており、次世代のチェコCross Country路線を担う馬として大いに期待されている。High Chaparralの系統は南半球で人気のようで、オセアニアが欧州障害馬の生産地として十分に機能していない現状、欧州障害競馬でどこまでその産駒の活躍を見ることが出来るかは不明だが、Sadler's Wellsから発展した一系統として引き続き注目したい。

 

*Sholokhov系

Sadler's Wells (USA) 1981 (Flat)
 |Sholokhov (IRE) 1999 (Flat)
 | |Sweet Shock (GER) 2005 2010 Brown Lad Handicap Hurdle (Grade C)
 | |Timos (GER) 2005 (Flat)
 | | |Flute Des Champs (FR) 2015 2021 Prix Bayonnet
 | | |Galopin Des Champs (FR) 2016 2021 Irish Mirror Novice Hurdle (G1)等
 | |Ole Companero (GER) 2006 2011 Prix Wiliam Head
 | |Don Cossack (GER) 2007 2016 Cheltenham Gold Cup (G1)等
 | |Kruzhlinin (GER) 2007 2016 Betfair Exchange Handicap Hurdle (G3)
 | |Esmondo (GER) 2008 2012 Prix Renaud Du Vivier (G1)
 | |Serienschock (GER) 2008 2013 Grande Course De Haies De Printemps (G3)
 | |Abakahn (GER) 2009 2016 Grand Steeple
 | |Dell’ Arca (IRE) 2009 2013 Greatwood Hurdle (G3)
 | |Descartes (GER) 2009 2015 Prix Achille-Fould
 | |Night Wish (GER) 2010 (Flat)
 | | |Odiago (FR) 2018 2021 Prix Fifrelet
 | |Loxlade (FR) 2010 2013 Prix Roger De Minvielle
 | |Dominato (GER) 2011 2016 Premio Piero e Franco Richard (G3)
 | |Invicter (FR) 2013 2016 Prix Georges de Talhouet-Roy (G2)
 | |Shishkin (IRE) 2014 2021 Arkle Challenge Trophy (G1)等
 | |Bob Olinger (IRE) 2015 2021 Ballymore Novices’ Hurdle (G1)等
 | |Best Sholo (FR) 2015 2019 Prix Marc Antony
 | |Crosshill (IRE) 2015 アイルランドHurdle競争2勝
 | |Galway Kid (IRE) 2015 2021 David Semmes Memorial (G3)
 | |Baltimore Bucko (GB) 2016 2021 A. P. Smithwick Memorial Steeplechase Stakes (G1)
 | |Heros D’Ainay (FR) 2017 2020 Prix Go Ahead
 | |Porticello (FR) 2018 2021 Finale Juvenile Hurdle (G1)

 

Sholokhovの産駒の中で目立つのは2016年のCheltenham Gold Cup (G1)を制したアイルランドのDon Cossackで、同馬は現役生活を通じてG1を6勝という素晴らしい成績を残した。同馬が3マイルChase路線で頭角を現してきたのは2015年4月のMelling Chase (G1)からであり、残念ながら同馬は2017年1月に故障で引退を余儀なくされたため、3マイルChase路線における政権としては短命に終わったのだが、全盛期に見せた安定した憎たらしいほどの強さはまさにイギリス・アイルランド3マイルChase路線のチャンピオンホースとしての走りであった。また、ShishkinはHurdleデビュー戦こそ落馬したもののそこから一気の10連勝を飾った馬で、その中にはSupreme Novices' Hurdle (G1)やArkle Challenge Trophy (G1)、さらにはClarence House Chase (G1)といった大レースにおける圧倒的なパフォーマンスも含まれており、2022年6月現在においてイギリス16ハロンChase路線のトップホースとして高く評価されている。特に、同時期・同路線におけるアイルランドの怪物として名高いEnergumeneとの(実質)無敗馬対決を制した2022年のClarence House Chase (G1)は同年のベストレースとして高く評価されており、同じくEnergumeneとの対決が期待された同年のQueen Mother Champion Chase (G1)こそ不良馬場に泣き途中棄権に終わったものの、ShishkinとEnergumeneとの対決は2022/2023シーズンの16ハロンChase路線における最大の関心事となるだろう。

Sholokhovの産駒はなかなか優秀で、他にもPrix Renaurd Du Vivier (G1)及び2011年のPrix Cambaceres (G1)を制し、同年の3~4歳フランスHaies路線のトップホースとして活躍したEsmondo、2022年のTurners Novices' Chase (G1)などG1を3勝しているBob Olinger、更にはアメリカKeri Brion調教師とともに精力的にアイルランドHurdleを戦い、A.P. Smithwick Memorial (G1)を制すも同年のWilliam Entenmann Memorial Hurdle Stakesでの落馬事故で亡くなったBaltimore Buckoなどを送り出している。産駒はイタリアでも頑張っており、2016年のGran Premio Merano (G1)の2着馬Allen Voran、2015年のGran Premio Merano (G1)の2着馬Marinas及び3着馬Ole CompaneroもSholokhovの産駒である。面白いところでは、Punchestown FestivalのLouis Fitzgerald Hotel Hurdleを制したCrosshillが2022年5月にオーストラリアAaron Percell厩舎に移籍したらしく、どうやらGrand Annual Steeplechaseを目標として購入されたようで*1、そのオセアニアでの活躍が楽しみである。

Sholokhovの後継種牡馬として面白いのがTimosで、その代表産駒Galopin Des ChampsはIrish Mirror Novice Hurdle (G1)を制して頭角を現すと、翌2021/2022シーズンの2マイル5ハロンNovice Chase路線では圧倒的なパフォーマンスでG1を2勝した。このシーズンで唯一負けたのがCheltenham FestivalのTurners Novices' Chase (G1)だが、このレースもほぼ勝ちに等しい内容で、このレース自体は同じく評判馬Bob Olingerとの対決で注目されていたのだが、終盤すっかり脚が上がったBob Olingerに対して余裕綽々で抜け出すも最終障害で落馬という内容であり、終わってみればこの馬の強さばかりが目立つレースであった。このような素晴らしいパフォーマンスから、Galopin Des Champsは2022/2023シーズンの3マイルChase路線の主役として大いに期待されている。しかしながら肝心のTimosの方がどうにも芳しい状況ではないようで、初年度こそ34頭の牝馬を集めたTimosはその後年々種付け数が減り続け、ifceのデータベースにも2019年以降のデータが掲載されておらず、2017年からHaras De Saint-Frayに移動したらしいのだが、いまどこで何をしているのかは不明である。Sholokhovの他の後継種牡馬として、Night Wishは2017年から種牡馬入りしているようだが、早速Prix Fifreletを制したOdiagoを送り出しており、その活躍に期待したい。