にげうまメモ

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22/07/09 フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬 ②

*フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬

下図に前回記事において抽出した、1994~2021年の各年において産駒が障害競走で1勝以上をあげた種牡馬数を示す。抽出条件を以下に再掲する。

 

図1. 1994~2021年の各年において産駒が障害競走で1勝以上を上げた種牡馬

 

全体の種牡馬数は1990年代後半から2000年代の初頭こそ400頭を越えていたものの、近年は減少傾向にあり、ここ5年ほどは300~350頭程度、特に2020年には合計300頭まで落ち込んでいる。この年はCOVID-19の流行により多数の開催が中止になったことが要因として考えられるが、全体として減少傾向が認められるのは確かである。Selle Français(SF)(及びAutre Que Pur-Sang(AQPS))の種牡馬はかつては毎年10頭近くが存在していたものの、近年は減少傾向であり、ここ数年は1頭か2頭程度が存在しているのみである。また、Angro-Arabian(AA)、Anglo-Arab de Complement(AC)、Arabe(AR)の種牡馬数もやはり減少傾向にあり、1990年代後半と比べると約半数にまで落ち込んでいる。

なお、2022年現在においてAQPSとして定義されている品種は過去Selle Françaisとして登録されていたものの、2005年以降に一品種として確立され、最初のAQPSは2006年に生まれている*1。AQPSに分類される種牡馬は2021年にVoiladenuoが初の産駒の勝利を挙げている。

 

図2. 1994~2021年におけるAQPS / SF / AA / AC / AR種牡馬の産駒の年間勝利数

 

図2は1994~2021年の各年における全体及びAQPS / SF / AA / AC / ARの種牡馬の年間勝利数の合計を示したもの。2020年はCOVID-19の影響で年間レース数の減少が生じたものの、1994~2021年において全体のレース数は概ね2100前後であまり変化がないことを踏まえると*2、特にAA / AC / AR種牡馬の産駒の年間勝利数は減少傾向にあることが認められる。過去、1997年には年間13勝をあげたFast(AA)といった種牡馬をはじめ、Faucon Noir(AA)、Ramouncho(AA)、Roseau D'Or(AA)、Fayriland II(AA)といった種牡馬もなかなか頑張っていたのだが、近年は2021年に年間7勝をあげたFairplay Du Pecos(AA)や、2015年に年間7勝をあげたJebeland Pontadour(AA)が目立つ程度である。

Selle Français(SF)及びAutre Que Pur-Sang(AQPS)の種牡馬数は、図1に示したとおり、近年ではほぼ数える程度となっている。勝利数としても1996年をピークに、2000年代初頭まではThe Fellow(SF)及びAl Capone II(SF)というフランス競馬史を代表する名馬を送り出した大種牡馬Italic(SF)を筆頭に、Useful(SF)、Quitte Et Passe(SF)、Lampon(SF)といった最大で年間10勝以上をあげた種牡馬が存在していたのだが、近年は*フレンチグローリーの産駒であるNidor(SF)ただ1頭が年間10勝程度をあげて頑張っているのみである*3。Nidor(SF)以外のSelle Français(SF)及びAutre Que Pur-Sang(AQPS)の種牡馬としてはNetworkの産駒であるVoiladenuo(AQ)が2021年になってようやく登場しており、どうやらフランスではなかなか人気を集めているようで、今後の活躍に期待したい。

 

図3. 1994~2021年におけるAQPS / SF / AA / AC / AR種牡馬の産駒の獲得総賞金額(€)

 

図3には1994~2021年におけるAQPS / SF / AA / AC / AR種牡馬の産駒の獲得総賞金額(€)を示した。全体の賞金額は(少なくとも額面上は)増加傾向にあり*4、2020年こそ大幅な落ち込みこそ認められたものの、1994年当時に比べると最大約2倍程度まで増加している。しかしながら、AA / AC / AR種牡馬の産駒の獲得総賞金額は2003年頃をピークに、そこから減少傾向であることが認められるだろう。実際のところ、2021年にはFairplay Du Pecos(AA)の産駒が144,995€を獲得し全体の96位に入ったのが最高と、だいぶ寂しい状況である。AQPS / SF種牡馬の産駒の総賞金額は2000年代前半までSF種牡馬として中心的に活躍したItalic(SF)が1990年に死亡したこと等が原因で、この産駒が概ね現役生活を終えつつある2000年頃から一気に減少しているものの、そこからNidor(SF)の出現によってひとまずは持ち直している。2021年にはVoiladenuo(AQ)の産駒が合計で219,390€を獲得しており、とりあえずは幸先のよいスタートを切ったと言えるだろう。

 

図4. 1994~2021年におけるAQPS / SF / AA / AC / AR種牡馬の産駒の全体に対する勝利数及び獲得総賞金額の割合

 

図4に1994~2021年におけるAQPS / SF / AA / AC / AR種牡馬の産駒の全体に対する勝利数及び獲得賞金額の占める割合を示した。図1~3で考察したとおり、AQPSは元々便宜的にSFとして分類されていた品種であり、1994~2021年における種牡馬は2021年のVoiladenuo(AQ)ただ1頭であること、AC及びARとして分類される種牡馬は少ないことを踏まえて、図4ではAQPSとSFの合算値、及びAA / AC / ARの合算値を用いている。1990年代後半においてAA / AC / AR種牡馬の産駒は全体の3~4%程度を占めていた一方で、2000年代に入ってからは徐々にそのプレゼンスを失っていることが見て取れる。特に近年は高額の賞金が設定されている重賞競走において、AA / AC / AR種牡馬の産駒を見かけることは少ない印象があるが、これにはより詳細な出走傾向の解析が必要だろう。一方で、SF / AQPS種牡馬の勝利数及び賞金額において占める割合はやはり1990年台後半と比較すると低いものの、種牡馬数のわりには一時期と比較して持ち直しているようで、フランス障害競馬におけるAQPSの占めるシェアの高さを踏まえると、特に2021年から産駒が出走しているVoiladenuo(AQ)の動向には注目した方が良いだろう。

*1:Autre Que Pur-Sang

*2:France Sireの上記の抽出条件下で、全種牡馬の産駒の勝利数を合計した数値を用いた。2020年は1687と顕著な落ち込みが認められる。

*3:22/06/11 障害競馬におけるSadler's Wells系とその分枝 ⑩ - その他 - 

*4:France Sireの上記の抽出条件下で、全種牡馬の産駒の獲得層賞金額を合計した数値を用いた。