にげうまメモ

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22/08/07 フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬 ⑨

*フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬

引き続き、1994年以降に産駒が障害競馬にて1勝以上を上げたArabe (AR)、Anglo-Arabian(AA)及びAnglo-Arabe de complément(AC)種牡馬のうち、サイアーラインを辿ると純血アラブに行きつく系統について記載する。以下、便宜的に分類する。

 

*Nazeer

Nazeer (EGY) (AR) 1934
 |Aswan (EGY) (AR) 1957
 | |Plakat (SU) (AR) 1970
 | | |Warandes Pascha (HOL) (AR) 1980
 | | | |Azziz De Gargassan (FR) (AR) 1988

France Galopで遡ることが可能であるのがエジプト生産馬であるNazeer(AR)までなので、ここでは便宜的にNazeer(AR)で一括りにする。さらに父系を遡ると、どうやらRuwalahにより生産されエジプトへと送られたSaklawi Iという馬に辿り着くようだ*1。Nazeer(AR)はアラブ系統において重要なエジプト系種牡馬であるが*2、このNazeer(AR)の母父父SotammがいわゆるCrabbet Arabian Stud出身の馬で*3、ここにも現在存続しているアラブ馬の90%に存在するされるCrabbet Arabianの影響を垣間見ることができる*4。このNazeer(AR)の産駒であるAswan(AR)という馬がソ連に輸出されたようで*5、その産駒であるPlakat(AR)は1974年にオランダに輸出され、馬術競技において多数の世界チャンピオンを送り出した優れた種牡馬であったそうだ*6*7。Azziz De Gargassan(AR)はおそらく未出走馬で馬術競技用途の馬と思われるが*8、母にUse Joyというサラブレッドを持つAzziz De Gargassan(AR)の産駒であるMister Twist(AA)という馬がフランス障害競馬で2勝をあげたようで、なんとも欧州障害競馬の奥深さを感じさせる存在である。Azziz De Gargassan(AR)はifceのデータベースによればこれまでになんと607頭もの産駒がいるようで、そのほとんどが馬術競技用途と思われるが、なんと2022年も種付けを行っているようだ。

 

*Sumeyr

Sumeyr (TUN) (AR) 1948
 |Jacinto (FR) (AA) 1961
 | |Florestan II (FR) (AA) 1966
 | | |Filingt (FR) (AA) 1975
 | | |Oder D'Escages (FR) (AA) 1980

ここでもFrance Galopで辿ることが可能であるのがSumeyr(AR)までで、その父Bango(AR)は生産年が明らかに誤っていたりと信頼性に乏しいため採用しなかった。どうやらBango(AR)はShammarの生まれのようで*9、その産駒Sumeyr(AR)がフランスに輸入されたそうだ*10。Jacinto(AA)はそのSumeyr(AR)とAnglo-ArabianであるCallistaの産駒で、Jacinto(AA)の母父Elseneurは遡るとBend Or - Radiumに辿り着くサラブレッドである。そのJacinto(AA)の産駒であるFlorestan II(AA)はAnglo-Arabian種牡馬として成功したFayriland II(AA)の半兄で、この馬自身も複数の後継種牡馬を送り出した。母にFloranise(AA)を持つFilingt(AA)は現役生活において平地競争を1勝し、種牡馬としては主にCross Countryで勝ち星を重ねた牝馬Unforme(AA)を送り出した。Oder D'Escages(AA)はShow Jumping等の馬術競技で活躍した馬のようで、France Galopに登録されている産駒は計3頭と少ないのだが、そのうちBrule Tout(AC)という馬がフランス障害競馬で3勝をあげたようだ。ただし、例によってFilingt(AA)及びOder D'Escages(AA)ともにifceのデータベースによれば200頭以上の産駒が存在するようで、France Galopにおいて辿ることができるのはこれらの種牡馬が残した足跡の氷山の一角に過ぎないのだろう。

 

*Baroud II

Baroud II (FR) (AR) 1926
 |Saint Laurent (FR) (AR) 1948
 | |Manganate (FR) (AR) 1972
 | | |Mangarose (FR) (AA) 1983
 | | |Djelfor (FR) (AR) 1984
 | | | |Kairouan De Jos (FR) (AR) 1992
 | | |Dormane (FR) (AR) 1984
 | | | |Darike (FR) (AR) 1991
 | | |Duc Du Paon (FR) (AA) 1991
 | | |Far West De Romas (FR) (AA) 1993

Baroud II(AR)の祖父Latifは元々エジプト生産馬で、その後フランスに輸入されたようだ。その子孫であるManganate(AR)は純血アラブとして成功した種牡馬で、純血アラブ及びAnglo-Arabianともに多数の後継種牡馬を送り出した。なお、Manganate(AR)の後継種牡馬としては、ここに記載した以外にも、例えばUAEへと輸出されたPrince D'Orient(AR)などの種牡馬も存在するようだ。後継種牡馬の中で目立つのは平地競争で5戦4勝という成績を残したMangarose(AA)で、この馬は母父にサラブレッドであるRoyal Ascotを持つほか、母方の牝系も遡ればF31号族に属するサラブレッドである。ただし、Mangarose(AA)の産駒の多くは平地用途で、障害競馬においては目立った産駒は送り出していない。Mangarose(AA)にはFrance Galop上においてQuartz De Roches(AA)及びFreeleua(AA)の2頭の後継種牡馬が存在し、うちQuartz De Roches(AA)の産駒であるU Palatinu(AA)というセン馬はフランス平地競馬で4勝をあげ、2022年7月現在でも現役のようだ。また、Mangarose(AA)の産駒であるErotissimo(AA)という馬は種牡馬として日本に輸出され、その産駒であるリジェンシーという牝馬地方競馬で6勝をあげたようだ。Duc Du Paon(AA)の代表産駒としては、フランスCross Countryで未勝利ながらも67走もしたFils De Duc(AA)というセン馬が挙げられる。Far West De Romas(AA)はフランスHaiesで1勝をあげたのちに種牡馬入りし、その産駒においてはAlphonse(AA)というセン馬がフランス障害競走においてアラブ馬限定競走を中心に34戦21勝という素晴らしい成績を残した。

純血アラブの系統としては、Manganate - Djelfor - Kairouan De Josのラインが存在し、Kairousan De Jos(AR)の産駒であるLahib(AR)という牡馬が純血アラブ馬限定のG3競走を勝っているようだが、その後UAEに輸出されたようで、少なくともFrance GalopにおいてKairousan De Jos(AR)の後継種牡馬として産駒を残した馬は確認できない。一方で、Manganate - Dormane - Darikeのラインにおいて、Darike(AR)にはBaltik Armor(AR)、Tumai Des Graves(AR)、Maerl Du Cassou(AR)、Banjo Du Loup(AR)といった複数の後継種牡馬がいるようで、例えばDarike(AR)の産駒であるAzadi(AR)はQuatar Derby Des Pur-Sang Arabe De 4 Ans (G1)にて2着のあるArtemis(AR)という牝馬を送り出している。ただし、産駒の殆どは純血アラブ、かつ平地用途で、それもアラブ馬限定戦のようだ。なお、これらの純血アラブ産駒の多くは中東をはじめ、ロシアやドイツ、ベルギーなど国外に輸出されているようで、それらの国においてもこの馬たちの子孫が生き残っているかもしれない。

 

Djebel Mousa

Djebel Mousa (FR) (AR) 1915
 |Norniz (FR) (AR) 1922
 | |Dragon (FR) (AR) 1939
 | | |Djerba Oua (FR) (AR) 1946
 | | | |Gosse Du Bearn (FR) (AR) 1953
 | | | | |Volcan II (FR) (AA) 1965
 | | | | | |Conquistador (FR) (AA) 1976
 | | | | |Flipper (FR) (AR) 1968
 | | | | | |Tidjani (FR) (AR) 1979
 | | | |Thalian (FR) (AA) 1960
 | | | | |Perdalian (FR) (AA) 1966
 | | | | | |Fremir (FR) (AA) 1984
 | | | | |Corthal (FR) (AA) 1975
 | | | | | |Raly Du Rieux (FR) (AA) 1983
 | | | | |Kalyan (FR) (AA) 1976
 | | | | | |Ramouncho (FR) (AA) 1983
 | | | | | | |Le Pigeon (FR) (AA) 1988
 | | | | | | |Freeland (FR) (AA) 1993
 | | | | | | | |Fairplay Du Pecos (FR) (AA) 2006
 | | | | | | |Damcho (FR) (AA) 1998
 | | | | | | |Zamouncho (FR) (AA) 2002
 | | | | | | | |Don Tirso (FR) (AA) 2012
 | | | |Thailand (FR) (AA) 1964
 | | | | |Fayriland II (FR) (AA) 1969
 | | | | | |Roseau D’Or (FR) (AA) 1980
 | | | | | | |L'Escalator (FR) (AA) 1990
 | | | | | | |L'Estragon (FR) (AA) 1992
 | | | | | | | |El Triunfo (FR) (AA) 2001
 | | | | | | |Rosy Fast (FR) (AA) 1992
 | | | | | | | |Annapolis (FR) (AA) 2002
 | | | | | |Styx De Brejoux (FR) (AA) 1984
 | | | | | |Blue Boy (FR) (AA) 1986
 | | | | | |David De La Brunie (FR) (AA) 1990
 | | | |Cacique (FR) (AA) 1969
 | | | | |Simarouba (FR) (AA) 1980
 | | | |Floid (FR) (AA) 1969
 | | | |Rigolo IV (FR) (AA) 1971
 | | | |Couca (FR) (AA) 1973
 | | | | |Fastueux (FR) (AA) 1980
 | | | | | |Donald Duck (FR) (AA) 1985
 | | | | |Plouk Vergoignan (FR) (AA) 1981
 |Duc II (FR) (AR) 1931
 | |Ourour (TUN) (AR) 1946
 | | |Moustafa (FR) (AA) 1970
 | | | |Maalem (FR) (AA) 1978
 | | | | |Faalem (FR) (AA) 1990

France Galop上には登録されていないのだが、遡るとDjebel Mousaという純血アラブに辿り着くためここで一括りにした。Dragon(AR)は3歳にして5勝をあげ、そのうち2勝は汗をかかずに勝利したとも言われている優秀な競走馬であった。Dragon(AR)はフランスPauにおいて種牡馬として繋養され、その産駒Djerba Oua(AR)もまたトップクラスの競走馬及び種牡馬として活躍した*11。Djerba Oua(AR)の純血アラブの産駒に加え、多数のAnglo-Arabianの産駒を残し、Anglo-Arabianの一大系統を築き上げた大種牡馬として成功し、現在でもフランスにおいてその名前を冠した競走が残っている。また、Djerba Oua(AR)の子孫の一部は日本にも輸入されている。

Tidjani(AR)はフランスのアラブ馬限定平地競争において5戦5勝という成績を残したのちに引退し種牡馬入りした。その産駒には多数の純血アラブ及びアングロアラブが含まれており、アラブ馬限定平地競争であるPrix De Carthage (G3)を勝ったBadad(AR)などの活躍馬も含まれている。中には種牡馬入りした馬も存在し、UAEカタールといったフランス国外に輸出された馬もいるようで、おそらくその産駒はどこかで生き残っているものと思われる。

Djerba Oua(AR)の系統のうち重要な役割を果たしているのがThalian(AA)とThailand(AA)の兄弟で、いずれも複数の後継種牡馬を送り出した。いずれも母父MicipsaはTourbillon産駒のサラブレッドで、母系もまた元をたどればサラブレッドである。Djerba Oua(AR)も交配相手にサラブレッドの牝馬も選ばれたようだが、過去はそのようなタイプの交配も頻繁に行われていたのだろう。Thalian(AA)の系統のうち比較的目立つのがRamouncho(AA)で、主にCross Countryにて計13勝をあげたProctor(AA)、平地競争で25勝をあげた牝馬Fardana(AA)といった活躍馬を送り出した。Ramouncho(AA)の子孫であるFairplay Du Pecos(AA)やDon Tirso(AA)の産駒には、Calife De Paulhac(AA)という2022年7月現在フランス平地競争で16戦12勝という優秀な成績を残しているDon Tirso(AA)の産駒をはじめ、多数の現役馬が残っているほか、Fairplay Du Pecos(AA)の産駒であるCroucracq(AA)という平地競争で6勝をあげた馬が2021年から種牡馬入りしているようだ。

Thailand(AA)の産駒であるFayriland II(AA)は近年のフランスAnglo-Arabianにおいて重要な種牡馬で、この馬もまた複数の後継種牡馬を送り出した。Roseau D'Or(AA)の産駒であるL'Escalator(AA)は平地競争馬だが、その産駒Nabucco De Brejoux(AA)はEnghien-SoisyのSteeplechase National Des Anglo Arabesを2007年、2008年と連覇するなど活躍した。また、その全弟L'Estragon(AA)も種牡馬入りしている。残念ながらL'Escalator(AA)の後継種牡馬はFrance Galop上では確認できなかったが、L'Estragon(AA)の産駒であるEl Triunfo(AA)という馬が後継種牡馬として存在するようで、どうやら2022年現在も現役で種付けを行っているようだ。

上記Djebel MousaからNorniz - Dragon - Djebel Ouaを介さない系統の末裔としてFaalem(AA)という馬が存在した。この祖父Moustafa(AA)からAnglo-Arabianになるのだが、どうやらこの牝系がAnglo-Arabianというパターンのようで、Moustafa(AA)の母母父父はサラブレッドEx Votoの産駒であるVelox(AA)であるほか、Moustafa(AA)の母父Karikal IV(AA)は純血アラブ由来の父系出身の種牡馬Nid Dor(AA)とサラブレッドである牝馬Olmedaの産駒である。Faalem(AA)の産駒数は少ないが、その中には平地競争を8勝したLaghouat Du Barp(AA)という牝馬が存在し、その産駒であるIllusion Sauvage(AA)というセン馬はフランス平地競争で29勝をあげたようだ。