にげうまメモ

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22/08/06 フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬 ⑧

*フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬

引き続き、1994年以降に産駒が障害競馬にて1勝以上を上げたAnglo-Arabian(AA)及びAnglo-Arabe de complément(AC)種牡馬のうち、サイアーラインを辿るとサラブレッドに行きつく系統について記載する。以下、便宜的に分類する。

 

Blandford

Blandford (IRE) 1919
 |Brantome (FR) 1931
 | |Vieux Manoir (FR) 1947
 | | |Mourne (FR) 1954
 | | | |Garde Coeur (FR) 1960
 | | | | |Roy De Vergoignan (FR) (AC) 1983
 | | |Val De Loir (FR) 1959
 | | | |Valdrague (FR) 1969
 | | | | |Fast (FR) (AA) 1978
 | | | | | |Forban Du Bost (FR) (AA) 1988
 | | | | | |Battant Du Bost (FR) (AA) 1989
 | | | | | |Le Fastabibi (FR) (AA) 1992
 | | | | | |Fetiche D'Estivaux (FR) (AA) 1993
 | | | | | |Jebeland Pontadour (FR) (AA) 1997
 | | | | | | |Regality (FR) (AA) 2003
 | | | | | |L'Escarfast (FR) (AA) 2000
 |Bahram (GB) 1932
 | |Persian Guld (GB) 1940
 | | |Tamerlane (GB) 1952
 | | | |Dschingis Khan (GER) 1961
 | | | | |Konigsstuhl (GER) 1976
 | | | | | |Lavirco (GER) 1993
 | | | | | | |Benevolo De Paban (FR) (AA) 2007

Blandford系は現在では主にBahramやTamerlaneを介してMonsunから発展したドイツ系統が欧州障害競馬で大きな存在感を放っているが、どうやら1960~1970年代にかけてフランスで発展したBrantomeの系統の末裔が数多く存在していたようだ。特に目立つのは母父に純血ArabianのDjerba Oua(AR)を持つFast(AA)で、同馬はアラブ馬限定平地競争を4勝したのちに種牡馬入りした。Fast(AA)はフランスCross Countryを中心に計11勝をあげたLe Feu D'Or(AA)など複数の活躍馬を送り出したと同時に、後継種牡馬にも恵まれたようだ。その中でも最も目立つ実績を残したのは、現役時代は平地競争を4勝したJebeland Pontadour(AA)で、やはりアラブ馬限定競走を中心に勝ち星を重ねた産駒を送り出すとともに、後継種牡馬としてRegality(AA)も送り出した。Regality(AA)の代表産駒は平地競争ではあるもののフランスにて80戦20勝という成績を残した牝馬Milady De L'Astree(AA)だが、どうやらFrance GalopによるとRegality(AA)の産駒としておそらく現役馬は残っていないようで、Regality(AA)の後継種牡馬もいないものと思われる。

Lavircoは障害種牡馬として成功し、その代表産駒はなんといっても2013年のGrand Steeplechase De Paris (G1)などを制したBel La Vieだろう。興味深いことに、その後継種牡馬としてフランス平地競争で12勝をあげたBenevolo De Paban(AA)が存在している。障害競馬におけるBenevolo De Paban(AA)の産駒の活躍としてはFarnese De Lagarde(AA)という牝馬がフランスで2勝をあげた程度なのだが、どうやら平地競争で11戦10勝という成績を残したPaban De France(AA)という馬が種牡馬入りしたようで、2020年は77頭の牝馬に種付けを行ったようだ。

 

*Galopin

Galopin (GB) 1872
 |Galliard (GB) 1880
 | |War Dance (FR) 1887
 | | |Perth (FR) 1896
 | | | |Alcantara (FR) 1908
 | | | | |Pinceau (FR) 1925
 | | | | | |Tetouan (FR) (AA) 1945
 | | | | | | |Teheran (FR) (AA) 1951
 | | | | | | | |Diaran (FR) (AA) 1959
 | | | | | | | | |Ulluco (FR) (AC) 1964
 | | | | | | | |Flor II (FR) (AA) 1959
 | | | | | | | | |Abidjan (FR) (AA) 1965
 | | | | | | | | | |Nabab De La Pierre (FR) (AA) 1979
 | | | | | | |Le Verglas (FR) (AA) 1963
 |St Simon (GB) 1881
 | |Florizel (GB) 1891
 | | |Doricles (GB) 1898
 | | | |Consoles (FR) 1908
 | | | | |Massine (FR) 1920
 | | | | | |Maravedis (FR) 1931
 | | | | | | |Samaritain (FR) 1941
 | | | | | | | |Dionysos II (FR) (AA) 1956
 | | | | | | | | |Le Gregol (FR) (AA) 1973
 | | | | | | | | |Le Grillon II (FR) (AA) 1974
 | | | | | | | | | |Le Chevreuil (FR) (AA) 1985
 | | | | | | | | |Cafettot (FR) (AA) 1975
 | | | | | | | | | |Clafouti (FR) (AA) 1981
 | | | | | | | | | |Le Criquet (FR) (AA) 1983
 | | | | | | | | |Krac Du Beziat (FR) (AA) 1975
 | |Rabelais (GB) 1900
 | | |Rialto (FR) 1923
 | | | |Wild Risk (FR) 1940
 | | | | |Wild Hun (FR) 1958
 | | | | | |Le Correzien (FR) (AA) 1971
 | | | | | | |Elfe Du Moulin (FR) (AA) 1978
 | | | | | | | |Vallon Du Barbe (FR) (AA) 1987

遡ればKing Fergusに辿り着くGalopinの系統としてはGalliardとSt Simonの末裔が存在していたようだ。Galliardの末裔としては面白いことに、1943年のフランスリーディングサイアーに輝いたPinceauの産駒であるTetouan(AA)から最大で5代続いたAnglo-Arabianの系統が存在した。ただし、France Galop上ではUlluco(AC)及びNabab De La Pierre(AA)の産駒数はいずれも数えるほどで、後継種牡馬も存在しない。比較的成功したのが1992年のGrand Steeplechase Cross Country Du Printempsを制したRebus(AC)を送り出したLe Verglas(AA)だが、後継種牡馬は特にいないようだ。この辺りの系統を正確に把握するにはもう少し年代を遡らないといけないのかもしれない。

St Simonの直系としてはRibotやPrince Roseの系統が知られるが、ここではFlorizelとWild Riskの子孫が存在したようだ。Florizelの子孫としてはDionysos II(AA)の後継種牡馬たちが頑張っていたようで、Le Gregol(AA)はGrand Steeplechase Cross Country des Anglo-Arabesなど、フランスCross Countryを中心に計21勝をあげたChou Farci(AA)、Le Grillon II(AA)の産駒Le Chevreuil(AA)はPompadourのCross Country SpecialistであるGrey Bird(AA)*1、Caffettot(AA)の産駒Clafouti(AA)はGrand Steeplechase De Paris (G1)まで駒を進めたChampion Veronais(AC)をそれぞれ送り出し、一定の存在感を示していたようだ。

Le Correzien(AA)は成功した種牡馬で、日本にもその産駒*タキン(AA)が種牡馬として輸入されたようだ。Le Correzien(AA)の産駒の中で特に目立つのはPompadourのPrix Basile Et Bernard Lachaud Grand Crossを制したCorezien De La Brunie(AA)で、同馬はフランス障害競走において49戦22勝という非常にタフな成績を残した。その血統は細々と繋がっていたようで、Vallon Du Berbe(AA)という母父にFlorestan II(AA)を持つ未出走馬は種牡馬として繋養され、その産駒Gracieuse Lorraine(AC)という牝馬はフランス障害競走で1勝をあげたようだ。ただ、例によってifceのデータベースによればVallon Du Berbe(AA)には100頭近い産駒がいるようで、Vallon Du Berbe(AA)の産駒の殆どはおそらく乗馬用途かなにかだと思われる。

 

*Harry On

Hurry On (GB) 1913
 |Precipitation (GB) 1933
 | |Sheshoon (GB) 1956
 | | |Sassafras (FR) 1967
 | | | |Sissoo (GB) 1972
 | | | | |Girssoo (FR) (AA) 1987

遡ればGodolphin Arabianの子孫であるMatchemに辿り着くHarry Onの末裔として、Girssoo(AA)という種牡馬が存在していたようだ。Matchemの子孫として、Harry OnやMan o'Warに繋がっていく系統と、このシリーズでも度々名前が出てくるTrotterのラインに入っていくRattlerの系統は1700年代の後半には分岐しているのだが、そこから1850年生まれのWest AustralianからMan o'Warへと連なる系統とHarry Onへと連なる系統は分岐する*2。このMatchem系の二大分岐のうち、Harry Onの系統は20世紀半ばまでは大いに繁栄したようで、その中でもPrecipitationはイギリスにおいてHurry On系の繁栄に重要な役割を果たし、そのPrecipitationの産駒であるSheshoonは1970年にフランスリーディングサイアーに輝いている。Girssoo(AA)はそのSheshoonの末裔で、フランス障害競馬において計5勝をあげたのちに種牡馬入りした。しかしながらその産駒成績はあまり振るわず、フランス障害競走にて3勝をあげたCherubini(AA)が精々といったところのようだ。

 

*Le Sancy

Le Sancy (FR) 1884
 |Ex Voto (FR) 1900
 | |Velox (FR) (AA) 1909
 | | |Farceur VIII (FR) (AA) 1928
 | | | |Mardochee (FR) (AA) 1940
 | | | | |Massondo (FR) (AA) 1955
 | | | | | |Paskado (FR) (AA) 1981

Byerley Turkを始祖とするHerod系はサラブレッドとしてはTourbillon系が細々と現存しており、近年では日本でもTourbillon系のギンザグリングラスが種牡馬入りしたことで話題を集めた。Paskado(AA)は遡ればサラブレッドとしてはLe Sancyの産駒のEx Votoに行きつく馬で、更に遡るとフランスに輸出されたAtlantic、さらにはHerod産駒のWoodpeckerまで辿り着く。Woodpeckerの子孫は1900年頃までにイギリスでは消滅し、Atlanticの子孫はフランスで存続するもその後衰退している。すなわち、サラブレッドとしては既にほぼ消滅した系統で*3、ただでさえマイナーなHerod系の中でもTourbillonすら介さないという、今となっては極めて異色の存在である*4。Paskado(AA)はそのEx Votoの産駒であるVelox(AA)から続いたAnglo-Arabianの5代目である。おそらく未出走馬と思われるPaskado(AA)はFrance Galop上では4頭の産駒が存在し、うちEpsom De Garenne(AC)というセン馬がフランス障害競馬で3勝をあげたようだ。ただ、例によってifceのデータベースによればPaskado(AA)には計174頭もの産駒がいるようで、もしかするとどこかでその子孫が今でも生き残っているのかもしれない。

*1:現役生活計41戦のうち、計38戦がPompadourであり、しかもその殆どがCross Countryである。

*2:マッチェム系 - Wikipedia

*3:ただし、どうやら北米でT F Classic Twistという馬が種牡馬として現存しているらしい

*4:ヘロド系 - Wikipedia