にげうまメモ

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22/08/08 フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬 ⑩

*フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬

最後に、このシリーズの趣旨からは外れるが、サムネイル画像として使用した牝馬Orphee Des Blinsについて記載する。そもそもこの写真を撮影したのはチェコPardubice競馬場でフランスではなく、しかも牡馬またはセン馬ではなく牝馬なのだが、どうかご容赦頂きたい。

 

*Orphee Des Blins (FR) (AC) 2002

Orphee Des Blins(AC)の偉業についてはもはやここでは語るまでもなく、Velká Pardubickáを2012~2014年にかけて3連覇したチェコの名牝である。特に2013年のレースは圧巻で、馬場状態がstav dráhy: 5.5 (měkká / Soft)という重馬場において、出走馬21頭中完走がたったの6頭と厳しいレースとなった中、2着のNikas(のちに2015年の同レースで1位入線を果たすも失格となった馬である)に約7秒差をつけてぶっちぎるという異次元のレースであった。なお、同馬は2014年の末に故障で引退し*1、繁殖能力に問題があったことから繁殖牝馬としては活動せず、現在は穏やかな余生を楽しんでいるそうだ*2*3

Orphee Des Blins(AC)の牝系図を以下に示す。なお、いつものデータベースでOrphee Des Blins(AC)の牝系は不明であるため*4、France Galopに基づいて記載した。

Jouvencelle (FR) (AA) (55.310%) 1952(父:Kesbeth (FR) (AA) (50.000%) 1942)
 |Scarlet (FR) (SF) (27.650%) 1962(父:Medaillon (FR) (DS) 1955)
 | |Kolombe Du Chateau (FR) (SF) (13.820%) 1976(父:Dividende (GB) 1966)
 | | |Paprika Du Vignot (FR) (AC) (6.910%) 1981(父:Beaugency (FR) 1966)
 | | | |Ving's Road (FR) (AC) (3.450%) 1987(父:King's Road (FR) 1976)
 | | | | |Orphee Des Blins (FR) (AC) (1.730%) 2002(父:Lute Antique (FR) 1985)

Orphee Des Blins(AC)の父Lute Antiqueはサラブレッドで、遡ればByerley TurkやHerodへと行きつくTourbillon - Djebelの系統の末裔である。Orphee Des Blins(AC)の祖父*ノーリュートは日本に輸入され、その代表産駒は中山大障害を制したブロードマインドだろう。Lute Antiqueはフランス障害競走で計14勝をあげたのちに種牡馬入りし、その産駒にはSelle FrancaisやAnglo-Arabe Complementが多数含まれている。Orphee Des Blins(AC)はその代表産駒だが、他のLute Antiqueの産駒として、Royal Paloisという馬は2008年のPrix La Haye Jousselin (G1)でも4着に入る活躍を見せた。その他、Lute Antiqueは欧州障害競馬において、2003年のGrand Cross Country De Craonを勝ったFujiyama(SF)、CheltenhamのWilliam Hill Trophy Chase (G3)の勝ち馬Kelami、2010年のLa Touche Cupを勝利しアイルランドのCross Country Specialistとして活躍したL'ami(SF)など、複数の活躍馬を送り出している。

Orphee Des Blins(AC)は近年の例に漏れず代々非サラブレッドの牝馬サラブレッド種牡馬が交配されてきたというパターンで、母父、母母父、母母母父であるKing's Road、Beaugency、Dividendeは全てサラブレッドである。King's RoadはHurry On - Precipitationの末裔、Beaugencyは1960~1970年代にかけてフランスで発展し、2022年現在では完全に消滅しているBrantomeの子孫、DividendeはTeddyの末裔でTantiemeの産駒と、それぞれなかなか時代がかった種牡馬ばかりで味わい深い。

ようやく非サラブレッド種牡馬が顔を出してくるのがOrphee Des Blins(AC)の4代母Scarlet(SF)の父Medaillon(DS)*5で、Medaillon(DS)の父UltimateはSwinford - Blandfordの末裔であるサラブレッドである一方、Medaillon(DS)の母Tolosa(DS)がどうやら非サラブレッド(France Galopでは"Demi-Sang")のようだ。Tolosa(DS)は1941年生まれのSelle Francaisらしく、その血統表にはSelle FrancaisやTrotterが殆どを占めており、Tolosa(DS)の父Omnium(SF)はサラブレッドであるRattlerからFrench Trotter、Anglo Norman、Selle Francaisを経て繋がってきた系統、Tolosa(DS)の母Perlie Fine(SF)の両親もIl Ca(SF)とJoyeuse(SF)と、Selle Francais同士の産駒である。なお、Tolosa(DS)の父Omnium(SF)の4代父Cerbere(SF)の母母父はHackney種*6のQualityという馬であったりと、2022年現在から考えるとその多様性は驚嘆すべきものである。21世紀にどれくらいHackney種の血を引く競走馬がいたのか正確な統計を取っているわけではないのだが、2022年4月、Rare Breeds Survival Trustが絶滅の危機に晒されている旨の声明を発表している品種の血を引く馬がチェコ障害競馬において歴史的な名馬となったことを考えるとなかなか感慨深いものがある。

Orphee Des Blins(AC)の牝系で辿ることができるのは5代母Jouvencelle(AA)までで、それ以上の祖先はFrance Galop上では不明である*7。Jouvencelle(AA)の父Kesbeth(AA)はサラブレッドであるDadjiと純血アラブのKraina(AR)の産駒である。Dadjiの祖父は大種牡馬Teddyだが、Kesbeth(AA)の産駒であるNithard(AA)は日本に輸入されアングロアラブ種牡馬として活躍した*エルシド(AA)の父として有名で、どうやらその末裔であるPancho Des Sables(AA)という種牡馬の産駒がフランス障害競走においても近年まで存在していたようだ。Kesbeth(AA)の母父Denouste(AR)は元々エジプトで生産されフランスPauへと輸入されたLatif(AR)の産駒で、どうやらこのDenouste(AR)の子孫はManganate(AR)を中心に近年でも発展したようだ。なお、このKesbeth(AA)の母が純血アラブであることから、全体のアラブ血量に基づきOrphee Des Blins(AC)の分類はAnglo-Arabe Complementとなる*8

 

参考

Od Peruána k Theophilovi aneb třináct vítězů, jejich rodokmeny a cesty do českého turfu (Fitmin& Turf Magazine)

Velká Pardubická勝ち馬の血統に関する考察記事。