にげうまメモ

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23/12/13 アメリカ障害競馬 ③ - 概要 -

アメリカ障害競馬

2023年にアメリカ障害競馬で行われた"Stakes"計40競走のうち、Timber計12競走を下表に示す。

Month Racecourse Race Condition  Distance  Purse
April Monkton My Lady's Manor 5yo+ 3 50000
April Grand National Grand National Timber Stakes 5yo+ 3 1/4 30000
April Glenwood Park at Middleburg  Middleburg Hunt Cup 5yo+ 3 1/4 25000
April Glyndon Maryland Hunt Cup 5yo+ 4 100000 
May Great Meadow Steeplethon 5yo+ 3 30000
May Great Meadow Virginia Gold Cup 5yo+ 4 100000
May Willowdale Steeplechase  Buttonwood/Sycamore Farm Willowdale Steeplechase  5yo+ 3 1/2 35000
September Shawan Downs Brown Advisory Timber Stakes 4yo+ 3 1/8 35000
October Genesee Valley Genesee Valley Hunt Cup 4yo+ 3 1/2 25000
October Great Meadow Steeplethon 5yo+ 3 30000
October Great Meadow International Gold Cup 4yo+ 3 1/2 75000
November  Pennsylvania Hunt Cup Pennsylvania Hunt Cup 5yo+ 4 35000

前述のとおり、アメリカTimber競走は夏には行われず、全てが春及び秋に行われている。殆どが2~2.5マイル程度の距離で行われたNational Fence(Hurdle)と異なり、2023年のアメリカTimber競走はその全てが3マイル以上の距離で行われた。equibaseのデータベース上、2023年アメリカTimber競走として最も長い距離を誇るのがMaryland Hunt Cup、Virginia Gold Cup、及びPennsylvania Hunt Cupであり、そのいずれもが4マイルの距離が設定されている。そのMaryland Hunt Cup及びVirginia Gold CupはアメリカTimber競走としては最も高い賞金額が設定されており、2023年の1着賞金は$60,000であった*1*2。一方、Virginia Gold Cupと同じくGreat Meadow競馬場で行われるInternational Gold Cupは秋の一大イベントとして機能しており、その1着賞金は$45,000であった*3。なお、意外にも"Grand National Timber Stakes"は3 1/4マイルとアメリカTimberの中では比較的短い距離が設定されており、その賞金額もStakes競走の中では抜けたものではないようだ。

Maryland Hunt Cupは現存する最古のアメリカ障害競馬と言われており、その第1回は1894年と歴史あるもので、1922年以降は現在のコースで実施されている*4*5。"The Sun"の有名な記者であるBob Maiselにより"as typically Maryland as the crab cake, the oyster, and the hard crab."と評されたこの名物競争は*6、現在でも世界最難関障害競争の一つと言われ、起伏のある4マイルのコースに設置された第3障害(高さ4フィート6インチ = 約137センチ)及び第16障害(高さ4フィート10インチ = 約147センチ)に代表される計22の巨大なTimber Fenceが出走馬を待ち受けている。この開催は年に1度、Maryland Hunt Cupただ1競走のために競馬開催が行われ、決まったスタンドはおろか食べ物等の販売もないようだが*7、レース映像からはこの伝統あるレースを見ようと集まった多数の観客を認めることが可能である。

Great Meadowは1980年代にArthur W. Arundelが購入した土地に建設され、1985年から現在の場所で競馬開催が行われている。Virginia Gold Cupの第1回競争は1922年にWarrentonで行われた*8。2023年現在はGreat Meadowで行われている同競争であるが、これは元々競馬開催が行われていたBroadviewにおいて土地の開発が進行しており、土地の確保に関する問題が生じていたことが移転が生じた理由らしい。このレースの重要性は国際的にも認知されており、1993年には英国Jockey ClubがVelka Pardubicka、Maryland Hunt Cupに続いてVirginia Gold Cupの勝ち馬にもAintreeのGrand Nationalの出走権を与えるという決定を下したそうだ*9。なお、春のTimber競走の一大イベントとして機能しているVirginia Gold CupとMaryland Hunt Cupであるが、その開催時期や開催場所等の影響か意外にもその関連性は低く、双方を同年に制した馬は1926年のBilly Bartonのみである*10。International Gold CupはVirginia Gold Cupと同じくGreat Meadowにて秋に行われる競走であるが、その前身はAintree競馬場を模して造られたTennesseeのGrasslands DownsのBrush Courseにて1930年に行われたもので、イギリス・アイルランド・フランスの馬が参戦したことで現在の競走名となったそうだ。その後同レースはRolling Rock Huntに移され、同競馬場が土地開発によって消滅したため、1983年からGreat Meadowで行われているそうだ*11

Timber競走で使用する障害は木製の柵であるが、その構造及びサイズ等には多様性があり、同じ競馬場の中でも一様でない場合もある。加えて、Willowdale SteeplechaseではTimber競走の中で生垣障害及び水郷障害も併せて使用するほか*12、Genesee Vallyでは通常のTimber Courseとは異なる"Modified Timber Course"を使用する競走も行われる*13。さらに面白いのが"Steeplethon"で、この競走では通常のTimberやNational Fenceに加え、生垣障害や水壕障害等、欧州のCross Countryを彷彿とさせる非常に多様な障害を使用する。自然の地形を生かした緑豊かな競馬場の中で、Cross Countryに類似した美しく整備された障害を飛越していく競走は一見の価値がある。この類の競争としては春と秋にそれぞれStakesが1競走ずつ行われるGreat Meadowが代表的であるが*14、他にもMiddleburg、Pine Mountainでも同様の競争がわずかに行われている*15*16

 

  National Fence  Timber 
Maiden 33 12
Maiden Starter 6 0
Maiden Claiming  13 0
Claiming 1 0
Allowance 6 15
Handicap 22 0
Stakes 28 12
Total 109 39

2023年アメリカ障害競馬のレース数の内訳を上に示す。2023年にはNational Fence(Hurdle)は計109競走、Timber(Steeplethonを含む)は計39競走が行われた。National Fence(Hurdle)ではMaiden競走の中でも特に経験の少ない馬が多く集まるStarterや(獲得賞金額で制限が設けられている*17)、特定のレーティング(110、115、120等)以下の馬を主な対象としたHandicap競走も多く行われており、年齢指定競争や牝馬限定戦等の存在も踏まえると、アメリカ障害競馬に参入する競争馬にとって様々な形のステップアップ及び活躍の機会が用意されているといえよう。一方のTimberのレース構成はシンプルであり、Maiden及びStakesに加えAllowance競走のみで構成され、Allowanceは主にStakes未勝利馬等を対象としたレースとして行われた。Timber競走において年齢指定競争や牝馬限定戦は特段確認されていない。一方で、Timber競走ではAmateur Rider及びApprentice Rider(見習い騎手)を対象とした競走が数多く行われており、Grand National Timber Stakesをはじめ*18、Amateur Riderのみを対象としたStakes競走も複数行われている。

上記のとおり、アメリカ障害競馬においてはNational Fence(Hurdle)がTimber競走の約2.5倍以上の競争数を有する。また、American Grand National (G1)の賞金総額が$250,000であるのに対して、Maryland Hunt Cupの賞金総額は$100,000であり、これはNational Fence(Hurdle)競走におけるTemple Gwathmey (G2)やFoxbrook Champion Hurdle等と同額である。トップクラスの競争のみならず全体的な傾向としても同様であり、National Fence(Hurdle)におけるMaiden競走の賞金総額は$15,000~40,000である一方、TimberのMaiden競走の総賞金額は$10,000~20,000であり、全体的にTimberと比較してNational Fence(Hurdle)では総賞金額が高い傾向にあると言えるだろう。なお、特に夏場にColonial Downsで行われたMaidenクラスの競走の賞金総額は、Maiden Starter競走では$30,000、Maiden競走ではいずれも$40,000と、Maiden競走の中でも比較的高い水準を誇った。夏シーズンにColonial Downsで行われたNatinal Fence(Hurdle)のMaiden競走は他のカテゴリーと比較しても特異に高い賞金額を有しており、当該開催におけるHandicap競走(rated < 110 or 115)の総賞金額は$30,000~35,000と、Maiden競走の総賞金額がHandicap競走を上回った。このColonial DownsのMaiden競走と同額の総賞金額が設定された他開催におけるMaiden競走は5月のGreat Meadowで行われた競走のみである。ちなみに、SaratogaではNational Fence(Hurdle)計4競走が行われたが、このうち唯一Stakesクラスではない7月26日のAllowance競走(2勝未満の馬を対象にした競走)の総賞金額は$70,000と、Stakes競走に匹敵する金額が設定されていたようだ。アメリカ障害競馬の多くは非営利団体によって運営されているが、SaratogaやColonial Donwsといったアメリカ平地競争の主要競馬場において開催される競走はやや様相を異にしていると考えていいだろう。National Fence(Hurdle)のAllowance及びHandicap競走の総賞金額は$10,000~70,000と広範囲であったが、その殆どが$20,000~35,000程度の賞金額が設定されている。各カテゴリーの総賞金額の平均値(最低金額 / 最高金額)($)は以下のとおりである。

  National Fence  Timber
Maiden 31515.15(25000 / 40000) 16041.67(10000 / 20000)
Maiden Starter 20833.33(10000 / 30000)  
Maiden Claiming  20000.00(15000 / 25000)  
Claiming 20000.00   
Allowance 41666.67(30000 / 70000) 15966.67(7000 / 25000)
Handicap 27272.73(10000 / 35000)  
Stakes 85357.14(35000 / 250000) 47500.00(25000 / 100000)