にげうまメモ

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23/12/16 アメリカ障害競馬 ⑤ - 出走馬 -

アメリカ障害競馬

2023年アメリカ障害競馬における完走率(%)、落馬率(%)及び途中棄権率(%)は以下のとおりである。なお、完走率は延べ出走頭数に対する延べ完走頭数の割合、落馬率は延べ出走頭数に対する延べ落馬頭数(Fall及びLost Rider)の割合、途中棄権率は延べ出走頭数に対する延べ途中棄権頭数の割合を算出している。集計に際しては、equibaseのデータベース上においてレースの転帰は不明確であるため、National Steeplechase Associationの表記を参照した。カッコ内はサンプル数である。

  完走率  落馬率  途中棄権率 
National Fence  81.39 (621 / 763) 5.50 (42 / 763) 12.19 (93 / 763)
Timber 74.11 (146 / 197)  11.17 (22 / 197)  11.68 (23 / 197) 

英愛仏障害競馬調査(2021)  (note)

上記はんまー氏による統計データに基づくと、National Fence(Hurdle)における完走率はイギリス及びアイルランドのHurdle競走において、それぞれ86.8%及び88.3%となる。これらのデータ及びオーストラリアのHurdle競走(85.61%)*1と比較すると、アメリカHurdle競走における完走率は若干低く、フランスHaies(76.7%)と比較すると若干高い数値を示した。一方で、アメリカTimber競走はイギリス・アイルランド・フランスのChase競走における完走率とほぼ同等の数値を示した(それぞれ、75.6%、78.2%及び77.6%)。アメリカHurdle競走の落馬率自体は若干イギリス・アイルランドHurdle競走よりも高い感があり(イギリス:2.8%、アイルランド:3.6%)、むしろフランスHaies(6.1%)に近い印象がある。Timber競走の落馬率もイギリス・アイルランドChase競走よりも高く(イギリス:6.0%、アイルランド:8.5%)、フランスのSteeplechase(10.0%)に近い。2021/2022のPauの開催における落馬率はHaiesで6.3%、Steeplechaseで11.95%というデータも得られており、上記はんまー氏の統計データと近い数値を示していることを踏まえると、上記アメリカHurdle及びTimber競走の完走率及び落馬率に関する傾向を裏付けるものである*2。このような差異が生じた理由として、イギリス及びアイルランドにおけるHurdleの大きさは3½ feet(= 約107cm)のものと小型であるが、National Fenceは52インチ(約1.3メートル)とそれよりも大型で*3、かつイギリスのHurdle障害よりもしっかりとした飛越を必要としてることがその要因かもしれない。実際に、American Grand National (G1)に遠征したHewickやSeddonはイギリスChase競走の経験馬である*4。一方で、フランスHaiesで使用される障害は高さ1.1メートル、幅1.2メートルとイギリスのものよりも大型である*5。ただし前述のとおり、近年になって歴史あるNational Fenceの問題点を改善したEasyFix Fenceの導入が検討されており、上記の数値はその導入に伴って大なり小なり変動が生じる可能性はあるだろう。

 

National Fence 完走率  落馬率  途中棄権率 
Maiden / Claiming  78.78 (297 / 377)  6.37 (24 /377) 14.32 (54 / 377)
Allowance / Handicap  80.95 (170 / 210) 5.71 (12 / 210)   11.43 (24 / 210) 
Stakes 87.50 (154 / 176) 3.41 (6 / 176) 8.52 (15 / 176)

2023年アメリカ障害競馬におけるNational Fence(Hurdle)競走の各カテゴリーにおける完走率、落馬率及び途中棄権率を算出した。Maiden / ClaimingはMaiden、Maiden Starter、Maiden Claiming及びClaiming競走の合算値、Allowance / HandicapはAllowance及びHandicap競走の合算値である。全体的にクラスが上がるほど完走率の増加傾向、落馬率及び途中棄権率の低下傾向が認められる。これはクラスが上がるほどリスクの高い飛越を試みていることが推測されるオーストラリア障害競馬や*6ニュージーランド障害競馬とは異なる傾向が生じている可能性が推測される*7。ただし、前述のとおりアメリカ障害競馬は夏場にColonial DownsやSaratogaで比較的高額の賞金が設定されたNational Fence(Hurdle)競走が行われている。これらの競馬場の性質は平坦で最終障害からゴールまで比較的長いフラット部分を走破する必要があり、かつ天候の関係で良馬場で行われることが多い。レース条件として落馬及び途中棄権が発生しにくく、完走においては有利な条件と考えられる。実際に2023年におけるSaratoga、Colonial Donws及びBelmont Parkで行われたNational Fence(Hurdle)競走全体の完走率は96.84%、落馬率は1.27%及び途中棄権率は1.90%と、全体とは著しく異なる傾向が認められたことに留意する必要があるだろう。当該開催ではMaidenが8競走、Maiden Starterが2競走、Allowanceが1競走、Handicapが4競走、Stakesが6競走行われた。これらのStakes競走において発生した競争中止はわずかにJonathan Kiser Novice StakesにおけるRestitutionの1頭のみであり、その内訳は途中棄権であった*8

 

Timber 完走率 落馬率 途中棄権率
Maiden 66.67 (50 / 75) 13.33 (10 / 75)  18.67 (14 /75) 
Allowance  84.13 (53 / 63) 4.76 (3 / 63) 6.35 (4 / 63)
Stakes 72.88 (43 / 59)  15.25 (9 / 59) 8.47 (5 /59)

2023年アメリカ障害競馬におけるTimber競走の各カテゴリーにおける完走率、落馬率及び途中棄権率を算出した。これらの数値はサンプル数が少ないため数値には大きな誤差が生じている可能性がある。Maidenクラスの途中棄権率が高くなっているが、この半数は9月のShawan Downsの競争で生じたものである*9*10。この日のShawan DownsのMaiden Timberは合計で11頭もの出走馬を集めていたが、馬場はYieldingとやや重いもので、序盤からDon't ShoutとSalamanca Schoolの2頭が後続に大きなリードを取って逃げたことで隊列が長くなったこと等、比較的途中棄権が発生しやすい特殊な状況が生じたものと思われる。実際にこの日のShawan DownsではNational Fence(Hurdle)でも比較的多くの途中棄権が発生しており、このレースは例外的な状況と考えていいだろう。Shawan DownsはMaryland州Baltimore郊外に存在する競馬場で、毎年9月にLegacy Chaseが開催されている。過去は農地として使用されていた敷地内には大型の納屋も存在し、緑豊かで起伏のある美しいコースが設定されている*11。Stakes競走においてやや例外的な状況であったのがMaryland Hunt Cupで、このレースでは3頭の途中棄権と3頭の落馬(Fall / Lost Rider)を引き起こしている*12。このレースは出走馬8頭中2頭のみが完走と厳しい結果となったが、これはSoftの馬場に加えて前半から例によってVintage Vinnieが速いペースで引っ張ったもので、4マイルという長距離、その難易度の高さで知られる障害の数々等、競争中止が発生しやすい状況が生じていたものと思われる。