にげうまメモ

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23/12/15 アメリカ障害競馬 ④ - 出走馬 -

アメリカ障害競馬

2023年アメリカ障害競馬における1競走あたりの平均出走頭数はNational Fence(Hurdle)が7.00頭、Timberが5.05頭、その中央値はそれぞれ7頭、4頭であった。各カテゴリーにおける出走頭数を以下に示す。カッコ内はレース数である。全体的にNational Fence(Hurdle)と比較して、Timber競走は小頭数で行われていることがわかる。

  National Fence  Timber 
Maiden 7.42 (33) 6.25 (12) 
Maiden Starter 6.67 (6)  
Maiden Claiming  6.77 (13)  
Claiming 4.00 (1)  
Allowance 8.00 (6) 4.20 (17)
Handicap 7.36 (22)  
Stakes 6.29 (28) 4.92 (14)

なお、前述のとおりアメリカ障害競馬の夏シーズンにはSaratoga、Colonial Donws及びBelmont ParkにてStakesを含む比較的高い賞金額が設定された競走が行われた。この開催の平均出走頭数は7.52頭であり、National Fence(Hurdle)競走全体よりも多くの出走馬を集める傾向にあった。この開催において6頭以下の出走馬となった競走は全てがStakes競走以外(Maiden、Handicap、Allowance)であり、特にこの開催で多く行われたStakes競走が多数の出走馬を集めていたと言えよう。また、上記夏シーズンを除くNational Fence(Hurdle)競走全体(すなわち春及び秋シーズンの当該カテゴリーの競争全体)の出走頭数の平均は6.63頭であり、高い賞金額が設定された夏シーズンの競争が全体の出走頭数を押し上げていたことが想定される。

 

以下に生産国別の延べ出走頭数を示す。なお、当該統計は延べ出走頭数を示しており、1頭の馬が複数の競争の出走している場合、出走回数に応じて複数回カウントしていることに留意されたい。かっこ内は全体の中の割合(%)を示す。equibaseのデータベースはアメリカ生産馬については生産州を記載しているようだが、今般の調査では一律にアメリカ生産馬としてカウントした。

  USA  IRE  GB FR  GER  CAN 
National Fence  451 (59.11)  199 (26.08)  49 (6.42)  58 (7.60)  3 (0.39)  3 (0.39) 
Timber 102 (51.78) 60 (30.46) 20 (10.15)  15 (7.61) 0 (0.00) 0 (0.00)
Total 553 (57.60) 259 (26.98) 69 (7.19) 73 (7.60) 3 (0.31) 3 (0.31)

2023年アメリカ障害競馬の出走馬はその6割近くをアメリカ生産馬が占めたが、アイルランドに代表される欧州からの輸入馬も多くを占めた。フランス生産馬もある程度存在したが、フランス競馬では数多く認められるAQPSの出走はなかっった。オセアニアや日本を含むアジアからの輸入馬は残念ながら認められなかった。かっこ内は全体の中の割合(%)を示す。なお、近年の障害競馬でカナダ生産馬を目にすることは極めて珍しいが、2023年の3回の出走は全てRiptide Rockという馬によるもので、この馬はどうやら2021年WoodbineのOntario Derbyなる競走の2着馬のようだ*1

 

National Fence  USA IRE GB  FR GER CAN 
Maiden 150 (61.22)  54 (22.04)  8 (3.27) 30 (12.24) 0 (0.00) 3 (1.22)
Maiden Starter 38 (95.00) 1 (2.50) 1 (2.50) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00)
Maiden Claiming 76 (86.36) 9 (10.23) 3 (3.41) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00)
Claiming 2 (50.00) 1 (25.00) 1 (25.00)  0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00)
Allowance 26 (54.17) 16 (33.33) 2 (4.17) 4 (8.33) 0 (0.00) 0 (0.00)
Handicap 97 (59.88) 46 (28.40) 10 (6.17) 7 (4.32) 2 (1.23)  0 (0.00) 
Stakes 62 (35.23) 72 (40.91) 24 (13.64) 17 (9.66)  1 (0.57) 0 (0.00)

 

Timber USA IRE  GB  FR GER CAN 
Maiden 47 (62.67) 21 (28.00) 6 (8.00) 1 (1.33) 0 (0.00) 0 (0.00)
Allowance  30 (47.62)  15 (23.81)  11 (17.46)  7 (11.11)  0 (0.00)  0 (0.00) 
Stakes 25 (42.37) 24 (40.68) 3 (5.08) 7 (11.86) 0 (0.00) 0 (0.00)

一方で、生産国別延べ出走頭数を細かく分類していくと興味深いデータが見えてくる。MaidenやAllowance、Handicapクラスにおいては比較的全体の傾向と同様の傾向が認められる一方で、Stakesクラスではアメリカ生産馬の割合が減少する一方で、アイルランドをはじめとする欧州からの輸入馬の割合が増加する。

 

  USA  IRE  GB  FR  GER  CAN 
National Fence  60 (55.05)  34 (31.19)  6 (5.50) 9 (8.26) 0 (0.00) 0 (0.00)
Timber 18 (46.15) 12 (30.77) 4 (10.26)  5 (12.82)  0 (0.00)  0 (0.00) 

上記に各生産国別の累計勝利数を示す。概ね各カテゴリー全体の延べ出走頭数と相関した数値であるものと思われる。

National Fence  USA IRE GB FR GER CAN
Maiden 17 (51.52) 11 (33.33) 0 (0.00) 5 (15.15) 0 (0.00) 0 (0.00)
Maiden Starter 6 (100.00) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00)
Maiden Claiming  11 (84.62) 2 (15.38) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00)
Claiming 1 (100.00) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00) 0 (0.00)
Allowance 2 (33.33) 3 (50.00) 0 (0.00) 1 (16.67)  0 (0.00)  0 (0.00) 
Handicap 15 (68.18)  4 (18.18) 2 (9.09) 1 (4.55) 0 (0.00) 0 (0.00)
Stakes 8 (28.57) 14 (50.00)  4 (14.29)  2 (7.14) 0 (0.00) 0 (0.00)

 

Timber USA IRE GB FR GER CAN
Maiden 7 (58.33) 2 (16.67) 2 (16.67)  1 (8.33) 0 (0.00) 0 (0.00)
Allowance  6 (40.00)  6 (40.00)  1 (6.67) 2 (13.33)  0 (0.00)  0 (0.00) 
Stakes 5 (41.67) 4 (33.33) 1 (8.33) 2 (16.67) 0 (0.00) 0 (0.00)

上記延べ出走頭数と同様の傾向は各カテゴリーにおける累計勝利数にも認められる。いずれにせよ、Stakes競走に限ると比較的欧州勢の存在感が強いということは強調すべきだろう。例えば、American Grand National (G1)はここ最近HewickやBrain Power、Jury Dutyといったイギリス又はアイルランドからの参戦馬が結果を残しており、今年勝利したのもアメリカ調教馬とはいえ、元々はイギリスHurdle競走でレース経験のあるアイルランド生産馬Noah And The Arkであった。American Grand National (G1)におけるアメリカ生産馬の勝利は2017年のMr. Hot Stuffまで遡る*2アメリカ障害競馬にはデビュー前に欧州から輸入された馬に加え、数多くの欧州(イギリス・アイルランド)障害競馬からの移籍馬が存在しており、その出自とアメリカ障害競馬における成績の関連性は今後興味深い調査課題となるだろう。

 

2023年アメリカ障害競馬におけるG1計5競走のうち4競走はアイルランド生産馬が勝利したが、その中で唯一Jonathan Sheppard Hurdle (G1)はアメリカ生産馬のAwakenedが勝利した。このレースは出走馬10頭中8頭を欧州生産馬が占めたが、アメリカ生産馬であるAwakenedとJimmy Pが1、2着に入るという結果となった*3。Awakened (KY)はCurlinの産駒で、元々はアメリカの平地競争でMaiden勝ちがある。2022年からHurdle路線に移行しているようで*4、喜ばしいことにアメリカ生え抜きの障害馬によるG1制覇となった。

同じくアメリカ障害競馬で活躍するアメリカ生産馬として、Snap Decision (KY)には触れなければならないだろう。Hard Spunの産駒であるこの馬は元々アメリカ平地競争にてPalm Beach Stakesで3着に入る実績を残していたようだが、2019年あたりから障害に転向すると、MaidenからIroquois Hurdle (G1)まで一気の9連勝を飾った*5。特に2022年のJonathan Sheppard Hurdle (G1)は圧巻で、2着のGoing Countryの負担重量が140lbに対してこの馬は164lb、出走馬の殆どに対して20lb近く重い斤量を背負っていたにも関わらず、そのGoing Countryに13馬身差をつける圧勝劇を見せている*6。2023年11月までにG1及びG1競走をそれぞれ計3勝と素晴らしい実績を残している馬である。

なお、2023年のFoxbrook Champion Hurdleではアメリカ生産馬でWill Take Charge産駒のAbaan (KY)がThe Hero Next Doorを破って勝利した。この馬は元々アメリカの平地競争馬で、W.L. McKnight StakesなるG3競走を勝利したほか、Man o'War StakesなるG1競走で5着に入っている*7。3着に入ったL'Imperatorはフランス生産馬だが、平地競争ではFort Marcy Stakesを勝利しているほか、Hurdle路線でもLonesome Glory Handicap (G1)で2着に入っているようで、Foxbrook Champion Hurdleの水準はなかなか高かったものと想定される。Abaanには生え抜きのアメリカ障害馬として期待がかかるところである。

一方で、イギリス・アイルランドからは障害競馬で実績のある馬のアメリカ移籍例も数多く存在する。2017-2018シーズンの16f Novice Chaseで無敵を誇ったFootpadは2021年からアメリカJack Fisher厩舎に移籍した*8。2021年のTop Novices' Hurdle (G1)を勝ったBelfast Banterは2022年からアメリカに移籍しており、アメリカ障害競馬で実績を残すまでに時間はかかったが、ついに2023年のA.P. Smithwick Memorial (G1)を勝利している。他にもRashaanやSong For Someone、Rediceanなど、イギリス・アイルランド障害競馬の実績馬がアメリカへ移籍する例は複数存在するようだ。

 

2023 Virginia Gold Cup (Vimeo)

一方で、Timber競走では高齢馬の活躍が目立つ。2023年のVirginia Gold Cupを勝利したMystic Strike (FL)はSmart Strike産駒の2009年生まれの14歳馬で、Timber競走には2017年から参戦している。その後はRadnor Hunt Cup、My Lady's Monor、Pennsylvania Hunt Cup、Middleburg Hunt Cup等多数のStakes競走を制しており*9、いくら障害競馬は平地競争と比べると高齢馬が活躍しやすい素地があるとはいえ、これ程の高齢馬が一戦級でここまで戦い続けている障害競馬は世界中に他に類を見ない。同レースで2着に入ったWalk In The Park産駒のフランス生産馬Andi'amuも13歳馬で、2022年にはVirginia Gold Cup、International Gold Cupを制し、今年もMiddleburg Hunt Cupを勝利するなど、10歳を超える高齢馬でありながらアメリカTimber路線のチャンピオンホースとして活躍した*10

2023 International Gold Cup (Vimeo)

2023年のInternational Gold Cupを制したSchoodicはTiznow産駒の13歳馬である。元々はアメリカの平地競争でデビューした同馬は2014年のMichael G. Walsh Novice Stakesを勝利し、翌年のNew York Turf Writers Cup (現Jonathan Sheppard Handicap) (G1)で2着に入るなどNational Fence(Hurdle)路線で活躍。Timber路線でも2019年のInternational Gold Cupや2021年のVirginia Gold Cup等を制すなど、非常に息の長い活躍を見せている*11

2021 Maryland Hunt Cup (Vimeo)

2022 Maryland Hunt Cup (Vimeo)

2009年生まれのVintage VinnieはVinnie Roe産駒のアイルランド生産馬である。同馬の活躍としてやはり特筆すべきはMaryland Hunt Cupで、速いペースで引っ張って映像で視認できないほどの圧倒的リードを取って後続を突き放した結果、2021年は2着に96馬身、2022年は2着に54馬身という大差で勝利したレースは21世紀の全世界の競馬の中でも1、2を争う衝撃的なレースであった*12。3連覇を狙った2023年は残念ながら重馬場の影響もあってか途中で捕まって途中棄権となったが、コースレコードを樹立した2022年のレースは13歳馬のレースとは思えないものであった。Vintage Vinnie自身は元々イギリス・アイルランドで走っていた馬で、2016年にはMarket RasenでListed Chaseを勝利しているほか、AintreeのNational Courseでの出走経験も有している*13