にげうまメモ

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19/04/13 Japanese Racing

*Nakayama Firm(良)

Nakayama Grand Jump(中山グランドジャンプ)(JG1)4250m

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https://www.youtube.com/watch?v=Z85VYW8RrmI

オジュウチョウサン中山グランドジャンプ4連覇が掛かったレースということで、例によってオジュウチョウサンが圧倒的な一番人気に押されていた。前日発売の段階ではオジュウチョウサンの支持率が99%を超えていたという説もあるらしい。対抗角としては、昨年の中山大障害を制したニホンピロバロン、その僅差の2着に入っていたタイセイドリーム。ペガサスジャンプステークスを制して挑んできたマイネルプロンプトがやや離れた4番人気となっていた。

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好スタートを切ったマイネルプロンプトと、押して出て行ったタイセイドリームがハナを伺う展開だが、第一障害を越えたあたりから内から進出してきたミヤジタイガが先頭に。オジュウチョウサンは好位から追走し、これを見る形でニホンピロバロン、さらにはシンキングダンサーが追走。水壕障害でミヤジタイガが着地に失敗するも立て直す。バンケットを越えたあたりからオジュウチョウサンが逃げるミヤジタイガに並びかけ、これを見るようにニホンピロバロンも進出。大竹柵は特に全馬ミスなくクリア。大生垣もシンキングダンサーが小さなミスをしたのみでクリア。オジュウチョウサンニホンピロバロンの接近に抵抗していたミヤジタイガに対して、この辺りから逃げるミヤジタイガにオジュウチョウサンが並んでいくが、ミヤジタイガがさらにこれに抵抗。外回りに出たところからマイネルプロンプトが押して進出。さらにタイセイドリーム、マイネルプロンプト、ニホンピロバロンも接近。3コーナーの前からオジュウチョウサンが苦しくなったミヤジタイガを交わして前に出ると、一頭だけついてきたシンキングダンサーを最終障害を越えて振り切り勝利した。3着には3コーナーで一旦は置かれていたマイネルプロンプトが復活していたようだ。

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オジュウチョウサンはこれで、オーストラリアのKarasiの3連覇を越える中山グランドジャンプ4連覇を達成した。JG1はこれで6勝目であり、障害競走に関しては2016年4月の中山グランドジャンプから無敗街道を驀進していることになる。

レースはアップトゥデイトの不在により、やや押し出されるような格好でミヤジタイガが逃げる形になった。ミヤジタイガはスピード能力は高いものの生粋の逃げ馬ではなく、むしろできれば逃げたくなかったタイプであり、結果的に西谷騎手はかなり馬を抑えながらレースを進めている。オジュウチョウサン辺りが何度か突きには行っているものの、アップトゥデイトが激しいペースを作りだしたことで、唯一アップトゥデイトのペースについて行くことが出来たオジュウチョウサンとの一騎打ちとなった昨年のレースと比べると、今年のレースは大きく様相を異にすることになった。昨年の勝ち時計が4分43秒であったのに対し、今年は4分47秒6と、実に5秒近くも遅い時計で走っていることはその証左である。昨年はほとんどの馬が追走するだけで精一杯であったのに対して、今年は各馬が終始余裕をもって追走しており、結果的に外回りに入る辺りからマイネルプロンプトが動いたのを皮切りに、ここまで余力を持っていた有力馬が一斉に動き出すことになった。

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オジュウチョウサンは例によって危なげのないレースを見せたのだが、その実、スローで逃げたかったミヤジタイガを道中から少しずつ突いてペースを落とし切らせなかった上に、途中からマイネルプロンプトが動いてペースが上がったことで、結果的にはこの馬の土俵の上に持ち込んでいる。有馬記念では4コーナーまで好位で進め、直線で加速力に優れる一流馬に次々と抜かされたにも関わらず、最後までバテずに9着に残っているように、平地の瞬間的なトップスピードでは一流の平地馬にこそ劣るものの、この馬の本質は淡々とひたすら同じようなペースを刻んでいくステイヤーである。ここまで特異な能力を持つ馬は日本平地競馬にも存在しておらず、そういう意味でこの馬が平地競争に参戦するのであればこの能力を生かすということが唯一取り得る戦法になるのだが、残念ながら軽いスピードが重宝される現在の日本平地競馬においてこの能力を十分に生かすことが出来る舞台は殆どなく、ましてやG1クラスには存在しないというのが現状である。これは昨年の段階で明確であったことであり、平地競馬に参戦する意義はもはや皆無である。一方で、この馬に匹敵するステイヤーは現時点の日本障害競走にも存在しておらず、日本障害競走において最も激しいペースを作りだすことが出来るアップトゥデイトのペースですら追走可能ということもあって、いわゆるタフなロングスパートやタイムロスを覚悟するようなバテ合いといった障害競馬「らしい」レースにおいては、この馬を負かすシナリオはまず考えられないというのが現状である。従って、この馬を負かすとすればぎりぎりまで加速を我慢し、直線部分の瞬間的なスピード勝負に掛けるしかない。しかし、ミヤジタイガがオジュウチョウサンの度重なる挑発を我慢していたにも関わず、マイネルプロンプトその他大勢が障害競馬「らしい」ロングスパート合戦を仕掛けたことにより、結果的には完全にオジュウチョウサンの土俵の上で勝負をすることになった。このようなロングスパートを仕掛けては、前述の通り現在の日本競馬において突出した持久力を持つオジュウチョウサンに敵うはずもない。次々と迫りくるライバルを振り落としていくレース振りはこの馬がタフなステイヤーであることを示す姿であった。ただし、万が一にも前述のような平地部分だけのスプリント能力勝負になる可能性があったという意味では、オジュウチョウサンにとってはアップトゥデイトが飛ばすことで殆どの馬が付いてこれず、紛れがなくなった昨年の方がレースはしやすかったといえるだろう。

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シンキングダンサーは見せ場を作った。いつもいつも同じように踏み遅れては負ける馬なのだが、今回は珍しく積極的に運び、最終障害地点ではあわやのシーンまで作りだした。どちらかというと飛越を丁寧に行うタイプのようにも見えるので、ヨーロッパの障害騎手のように腕っぷしの強い人が乗ることで飛越において加速が掛かるため、大きく化けてくる可能性はあるのだが、現時点ではこの馬の出来ることはやり切った内容だろう。ミヤジタイガがゆったりと逃げたことで、好位を取りやすくなったことも幸いした。マイネルプロンプトは積極的に運んでの3着。残り3障害で若干のミスをしており、ここからスピードに乗り切れなかったのだが、最後は差を詰めているようにこの馬も持久力としてはかなり高いものを持っている。ヨーロッパSteeplechaseの方が良いだろう。タイセイドリームはマイネルプロンプトらと同じようなタイミングで仕掛けるも、最終コーナー地点ではだいぶ置かれていた。やはりトップスピードの面ではだいぶいまいちのようだ。ストライドの持続力を生かすタイプなだけにできれば逃げたかったのだが、年齢を重ねたせいかだいぶ馬もズブくなっているように見える。ニホンピロバロンは案外であったが、途中でオジュウチョウサンの動きについて行くような動きを見せており、おそらくこの動きによって消耗したのだろう。このような動きを何度も繰り返しながら、最後は全体のロングスパートに付き合うのだから、勝ち馬の持久力は恐るべきものがある。ミヤジタイガは本来大障害は長いようにも見えるし、そもそもロングスパート能力に長けたタイプでもない。散々オジュウチョウサンに突かれたことで、さすがに外回りに入ったあたりで苦しくなった模様。

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それにしても、勝ったオジュウチョウサンを筆頭に、日本障害競馬において長いキャリアを積み上げ、力を蓄えてきた馬が揃った一戦であった。先週のGrand National (G3)を連覇したTiger Rollもまた、アイルランド障害馬としてのキャリアを積み上げていく過程で、様々な壁にぶち当たりながらも少しずつ障害馬としての技術を身につけてきた馬であり、そのプロセスに通じるものがある。日本障害競馬は一時は故障によるチャンピオンホースの相次ぐ離脱があり、さらに現代日本競馬は昨今のスリーアウト制の導入や降級制度の廃止やらで馬の新陳代謝が促進され、長期的なキャリアの形成が難しくなっている。それこそヨーロッパの障害競走と異なり、平地で頭打ちとなった競走馬の受け皿として機能している日本障害競馬は(それを誇らしげに主張するのもどうかと思うが)、飛越技術の長期的な習熟が困難となり、その存在意義を疑われてもおかしくない状況にある。このような日本競馬において、障害馬として長いキャリアを積み上げ、そのキャリアを通じて少しずつ力をつけてきたたくさんの馬がこのような舞台に立っていたということ、デビュー当初は決して目立つ馬ではなかったにも関わらず、その長いキャリアを通じて少しずつ力をつけてきた馬が日本障害競馬史最強とすら呼ばれる名馬へと成長を遂げ、これだけ長い年月の間チャンピオンホースとして君臨し続けていること、オジュウチョウサンの4連覇という数字はもちろん素晴らしいのだが、それがこのレースの持つ日本競馬のトレンドへの強烈なまでのアンチテーゼであり、障害競馬が持ち得る本質的な存在意義を示唆する、日本障害競走の最高峰として行われたこのレースにおいて最も記憶しておかねばならないことなのではないだろうか。