にげうまメモ

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21/03/18 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

Cheltenham Good to Soft

Cheltenham Festival3日目。この日から使用するコースはOld CourseからNew Courseに変更となる。特段天候の崩れはなかったようで、馬場状態は前日に引き続きGood to Softでのレースとなった。

 

Marsh Novices' Chase (G1) 2m3f166y (Replay)

1. Chantry House J: Nico de Boinville T: Nicky Henderson

F Envoi Allen J: Jack Kennedy T: Henry de Bromhead

前評判としてはアイルランドのEnvoi Allenが圧倒的な人気を背負っていた。レースはゆったりとFusil Rafflesが逃げる展開。Envoi Allenはゆったりと好位から進めるも、まさかの第4障害にて落馬。2週目からShan Blueが先頭に代わると積極的に後続を突き放す逃げを打つ。しかし残り3障害辺りから後続が接近すると、ここから抜けてきたChantry HouseがFusil Rafflesを抑えて勝利した。3着にはAsterion Forlongeが入った。

Envoi AllenはここまでChaseは3戦全勝、Hurdleでも4戦全勝、そのいずれもが楽勝と無敵を誇っていた馬だが、ここではまさかの落馬に終わった。Gordon Elliott厩舎のごたごたの影響で直前にHenry de Bromhead厩舎に移籍していたのだが、鞍上としては元々の主戦騎手Jack Kennedyを確保しており、ここに向けて出来る範囲の体勢を整えて挑んでいた。当然Jack Kennedy騎手としてもここに賭ける想いは強かったと思われるが、この無念さは1人がっくりと肩を落として帰ってくる光景に現れているだろう。ミスとしては着地の次の動作で躓いたというもので、この馬の飛越技術に問題があったわけではないのだが、どうにもCheltenhamの直線でこのようなミスをする馬がしばしば見られるのは気がかりなところである。

勝ったChantry HouseはChaseはこれで3勝目とした。HurdleではSupreme Novices’ Hurdle (G1)にてShishkinの3着の実績があるものの、Chaseではここまで重賞勝ちはなく、クラス2のJockey Club Cheltenham And SW Syndicate Novices' ChaseではFusil Rafflesから13馬身遅れた3着に終わっていた。飛越がさっぱり出来ていなかった当時と比べれば進境はあるのだが、今回も向こう正面のOpen Ditchを始めやや飛越に拙さが残っており、かえってShan Blueなどが積極的に動く展開に乗り切らず、この馬のペースでレースを進めたことが功を奏したように思われる。逆に前半から積極策を見せたのがFusil Rafflesで、展開次第で逆転は十分に可能だろう。もともとはPunchestownのChampion Four Year Old Hurdle (G1)の勝ち馬で、ややゆったりしたペースでのスピードを活かすタイプであり、前半の伸びやかな飛越はいいものを持っていた。

今年のCheltenham Festivalで大活躍のアイルランド勢で再先着を果たしたのがAsterion Forlonge。HurdleではChanelle Pharma Novice Hurdle (G1)勝ちのある実績馬だが、Chaseでは飛越がいまいちだったりと成績はぱっとせず、ここでも例によって人気を落としていた。課題であった飛越は特段問題はなかったが、最後はスピード負けしての3着であり、やはり馬場はもっと重くなったほうが良いだろう。できれば左回りよりも右回りの方がいいような印象もある。Kauto Star Novices' Chase (G1)の勝ち馬Shan Blueがこちらに回ってきた経緯は不明なのだが、途中から積極的に仕掛けるも最後息切れして5着に終わった。Kauto Star Novices' Chase (G1)のあとはSandownのScilly Isles Novices' Chase (G1)に挑戦しており、24fが長いと判断された可能性もある。昨年のChampion Hurdle (G1)にてEpatanteの3着に入ったDarver Starもいたのだが、こちらはさっぱりペースに付いていけず大敗に終わった。Chaseではどうにも飛越がいまいちでスピードに乗り切れない場面が目立っている。

 

Pertemps Network Final Handicap Hurdle (G3) 2m7f213y (Replay)

1. Mrs Milner J: Bryan Cooper T: Paul Nolan

馬群の中から抜けてきたMrs Milnerが外から進出してきたThe Bosses Oscarに5馬身差をつけて快勝した。レースとしては前半に2頭(Storm Goddess、Kansas City Chief)の落馬があり、この空馬が内から強引に抜けてきたりとなかなかにEventfulなもので、実際にこのMrs Milnerも空馬の煽りを食っているのだが、その中をすり抜けてくる脚は見事なものがあった。ここまでアイルランドでは牝馬限定Handicap Hurdleの勝ち鞍程度しかないのだが、昨年11月にCheltenhamのPaddy Power Games Handicap Hurdle (Listed)ではOn The Blind Sideを追い詰める走りを見せており、この舞台への適性を感じさせる走りであった。11st5lbを背負いながらも人気を集めていたThe Bosses Oscarが2着で、この馬自身今シーズンはeCOMM Merchant Solutions Handicap Hurdle (Grade B)の2着など調子はいいようだ。トップスピードというよりはしぶとく脚を使うハンデ戦向きのタイムで、どうしても実績的に斤量は背負うようだが、この路線では今後も楽しみな一頭だろう。

 

Ryanair Chase (G1) 2m4f127y (Replay)

1. Allaho J: Rachael Blackmore T: Willie Mullins

前評判としては上り馬Allahoが人気の中心となっていたが、連覇を目指すMinを始め多彩なメンバーが集まっていた。レースは前半からMinが前に行く構えを見せるが、これにAllahoが執拗に絡んで行き、結局Allahoがそのまま引っ張る形となる。Minはこれについて行くも途中から脱落。そのままAllahoが後続を突き放し、最後はFakir D'oudariesに12馬身差をつけ快勝した。

AllahoはこれでG1は初勝利とした。これまでHurdle、Novice ChaseでもG1路線で実績を残していたのだが勝ち切るには至らず、Noviceをを卒業した今シーズンは12月のSavills Chase (G1)にて4着に敗れたのち、20f路線に転向していた。その20f転向所詮となった1月のThurlesのHorse & Jockey Hotel Chase (G2)にて前半からハイペースで飛ばしての勝利を挙げ、20fへの適性を見せていたのだが、ここでは前評判以上の素晴らしい走りを見せた。対抗角と目されていたMinは高い運動神経を武器にスピードを活かした先行策を武器とする馬だが、これに対して真っ向から喧嘩を売り、ハイペースで飛ばしてそのまま20fを走り切るパフォーマンスは、まさにこの路線における新たなチャンピオンの誕生といっていいだろう。前半からこのペースに付いていけない馬はこのレースですら散見されており、良馬場ということでよりスピードが生きる条件であったとはいえ、その走りは圧倒的なものであった。欧州障害競馬において活躍するNo Risk At Allの産駒の一頭だが、全体的に豊富なスピードを活かした産駒が多く、この馬はその典型例として記憶しておくべきだろう。

連覇を狙ったMinは残念な結果となった。前走のDublin Chase (G1)でもRachael BlackmoreのNotebookに思いっきり喧嘩を売られてリズムを崩しており、今回は相手がAllahoとはいえ、同じRachael Blackmoreに全く同じことをされたこととなる。今シーズンはJohn Durkan Memorial Chase (G1)を勝利したりと馬自身の衰えはないのだが、ここ2戦は相手にRachael Blackmoreがいたことがこの馬にとって何よりの不幸であった。

後方から追いこんできたのがFakir D'oudaries。もともとDrinmore Novice Chase (g1)の勝ち馬で、昨年のArkle Challenge Trophy (G1)ではPut The Kettle Onの2着に入っているように、16fにも対応できるスピードを持った20fの馬である。さすがにSavilles Chase (G1)は距離が長すぎたようで大敗に終わっているが、それ以外はコンスタントに入着を繰り返している。小さな馬体を存分に動かして走る馬で、なんとかそのうちいいことがあって欲しい。もはや無欲の後方待機が嵌ったのがTornado Flyerで、上述のJohn Durkan Memorial (G1)ではMinの2着もあるのだが、本来このクラスではやや格下の馬である。この辺りは展開次第だろう。Melonは前半からさっぱりレースについていけず途中棄権。元々重馬場巧者でこのような良馬場のスピード勝負は分が悪く、さすがに度外視してよいだろう。今シーズンはSavilles Chase (G1)にて積極策で見せ場を作ったりと、9歳になっても頑張っている。24fはやや長いようで、以前の16fに対応できるスピードはそろそろないようにも思われることから、20f自体はこの馬にとっては適性のある距離だと思われる。Samcroは前半から全く馬が走る気を見せず途中棄権に終わった。前走のSavills Chase (G1)は距離が長かった可能性もあるのだが、昨シーズンのこの開催にてMarsh Novices' Chase (G1)を勝った舞台での凡戦、やや馬の状態が心配である。

 

Stayers' Hurdle (G1) 2m7f213y (Replay)

1. Flooring Porter J: Danny Mullins T: Gavin Cromwell

昨シーズンのこのレースでは心房細動のトラブルで凡走に終わったPaisley Parkが人気の中心となっていた。レースは前半からFlooring Porterが飛ばす展開。Lil Rockerfellerなどがこれについて行くも徐々に後退。第7障害にて好位にいたLisnagar Oscarが落馬。Flooring Porterはそのまま快調に飛ばすと、頑張ってじわじわと位置を上げてきたSire Du Berlais、Paisley Park以下を抑えて逃げ切り勝ちを収めた。

Flooring Porterはこれで今シーズンは3連勝とした。シーズン最初の段階ではeCOMM Merchant Solutions Handicap Hurdle (Grade B)を勝った程度の馬で、内容としても単勝23倍の逃げ切り勝ち、これまで控える競馬をしていた馬が逃げを打ったのが嵌ったといった内容だったのだが、その後のLeopardstown Christmas Hurdle (G1)でも同様の逃亡劇を演じ、一躍この路線の注目株に躍り出ていた。主戦のJoshua Mooreが怪我で騎乗できなかったのだが、今回は代役のDanny Mullins騎手がこの馬らしい積極策を演じ、ここでも大仕事をやってのけることとなった。歴代のこの路線の逃げ馬Lil Rockerfeller、Sam Spinnerなどを抑えてハナに行っての逃げ切り勝ちは、今年6歳となる新星の誕生として相応しいものだろう。個人的には、Joshua Mooreがこの馬のことを全て教えてくれたと控えめにインタビューに応えるDanny Mullins騎手の弁が印象的であった。

上り馬Sire Du Berlaisは見せ場を作った。今シーズンは11月にLismullen Hurdle (G2)を勝利し、その後はLeopardstown Christmas Hurdle (G1)では2番人気を背負ってFlooring Porterの3着に入った。昨年のCheltenham FestivalのPertemps Final (G3)では11st12lbを背負って勝利しているように力量自体は確かなものがあり、9歳とHurdle馬としてはやや年齢を重ねているものの、ようやくここにきて円熟期に入ってきた印象がある。人気を背負ったPaisley Parkはわっせわっせと押して上がっていくも3着まで。どうしてもズブいところもあるのでこのようなレース振りになるのは仕方がないのだが、今回はやや良馬場でFlooring Porterのスピードが生きてしまった感がある。もう少し馬場は渋った方がいいだろう。勝負所で延々と前が壁になっていたのが5着のThe Storytellerで、最後前が空いてもさすがに伸びきれずに終わってしまった。おそらくこのレースへの本気度という点では微妙であり、馬の調子自体は良さそうなので内容的には悪くないものと言っていいだろう。

10歳となったLil RockerfellerはさすがにFlooring Porterが相手だとスピード面で苦しかったようで、徐々に後退して途中棄権に終わった。クラス2辺りのメンバーであればまだ展開次第で何とかなるのだが、どうにもズブい馬だけにBryony Frost騎手との相性は微妙である。途中まで好位で踏ん張っていたのが最低人気のYounevercallで、ここまでSlect Hurdle (G2)の勝ち鞍しかなくその後はさっぱりなのだが、3度のWind Surgeryを経ており本来の能力を発揮できていない可能性を考えた方がよさそうだ。おそらくGrand Nationalに向かうと思われるVinndicationはこの馬のレースをした結果、大きく失速せず勝ち馬から13馬身離れた6着に終わった。スピード面では微妙ながらもバテずに走り続けるのがこの馬の武器であり、さすがにここではスピード面で厳しかったものの、この馬の出来ることは十分にやっている。連覇を狙ったLisnagar Oscarは残念ながら落馬で、馬は無事とのことなので次に期待したい。

 

Paddy Power Plate Handicap Chase (G3) 2m4f127y (Replay)

1. The Shunter J: Colin Gainford T: Emmet Mullins

好位から抜け出したThe ShunterがFarclas以下を抑えて勝利した。The Shunterはこの勝利で£100,000のボーナスを得ることとなった。The Shunter自身は元々はぱっとしない馬だったのが、Emmet Mullins厩舎に移籍してから馬が変わったように覚醒、ここまでGreatwood Hurdle (G3)勝ちを収めるなど障害馬として大成、一時はChaseに転向するもなんだかんだでHurdleと兼用で走っているようだ。8歳と障害馬としては円熟期で、16~20f程度のHurdleもしくはChaseのハンデ戦での活躍を楽しみにしたい。Conditional JockeyのColin Gainfordにとってはこれが初めてのFestival Successとなった。2018年のJCB Triumph Hurdle (G1)勝ちのあるFarclasはその後はいまいちで、ChaseでもNovice戦を3連勝するもその後はハンデ戦を使っている。その中にはGaelic Plant Hire Leopardstown Handicap Chase (Grade A)にて僅差の4着もあり、かつての素質馬の新たな活躍に期待したい。2017年のScilly Isles Novices' Chase (G1)の勝ち馬で、今年で10歳になるTop Notchが頑張って3着に来た。2度のWind Surgeryを経ておりかつての勢いを望むのは酷だろうが、なんだかんだで馬自体は元気なようだ。

 

Parnell Properties Mares' Hurdle (G2) 2m179y (Replay)

1. Telmesomethinggirl J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

後方から進出したTelmesomethinggirlがハナで頑張っていたMagic Dazeを5馬身突き放して勝利した。Rachael Blackmoreはこれで今年のCheltenham Festivalは5勝目と絶好調である。一方のイギリス調教馬は4勝と近年まれに見る残念っぷりで、イギリス調教馬がRachael Blackmore1人に負けていることになる。例年イギリスとアイルランドの勝利数は良い勝負をしているのだが、ここまでアイルランド勢がイギリス勢を圧倒する年も珍しい。Telmesomethinggirlは重賞は初勝利とした。前走はIsirh Stallion Farms EBF Paddy Mullins Mares Handicap Hurdle (Grade B)にてHeaven Help Usの3着に入るなど調子は良かったようで、ここまでほぼ牝馬限定戦か、せいぜいListed競走までの実績しかないのだが、どこまでやれるか楽しみにしたいところ。道中引っ張り通しで2着に来たのがMagic Dazeで、ここまで未勝利勝ちのみの馬だが能力はありそうだ。

 

〇 Fulke Walwyn Kim Muir Challenge Cup (C2) 3m2f (Replay)

1. Mount Ida J: Jack Kennedy T: Mrs Denise Foster

道中はもたもたと飛越し、前とは大きく離されて絶望的な位置にいたはずのMout Idaが気が付いたら復活して抜け出すと、Cloudy Glenに6馬身差をつけて勝利した。Mout Ida自身は今シーズンはKerry Group Irish EBF Mares Novice Chase (G3)勝ちのある馬だが、ここまで不良馬場での実績が多く、良馬場でのスピードに戸惑ったのだろうか。それにしても道中ここまで絶望的なレースをしている馬が復活してくるというのも珍しいことである。Jack Kennedy騎手は本日の初戦のEnvoi Allenでの落馬があったのだが、最終レースでようやくいいことがあったので少しは救われたのではないだろうか。人気薄のCloudy Glenが2着。11歳馬Shantou Flyerが3着に入った。