にげうまメモ

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21/03/19 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

Cheltenham Good to Soft

Cheltenham Festival最終日。ここまで大活躍のRachael Blackmoreを始めとするアイルランド勢に対して、どうにもイギリス勢の不調が目立っており、どこまで最終日にイギリス勢が盛り返すことができるかというのも一つの注目の的となっていた。天候は曇りであったが、幸いなことに雨は降らず、馬場は先日と引き続きGood to Softで行われた。

 

JCB Triumph Hurdle (G1) 2m179y (Replay)

1. Quilixios J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

8頭立てと例年と比較して小頭数となったこのレース。前半からTalking About Youが引っ張る展開も、好位にいたQuilixiosが並んでいく。残り2障害辺りからQuilixiosが先頭に立つと、外から伸びてきたAdagioを抑えて勝利した。

絶好調のRachael BlackmoreがまたもやG1を勝利した。Quilixios自身は元々Gordon Elliott厩舎に所属していた馬で、例のごたごたの件でHenry de Bromhead厩舎に移籍していた。実績的には2月のTattersalls Ireland Spring Juvenile Hurdle (G1)を含むHurdleは4戦4勝と、今シーズンのJuvenile Hurdleでは頭一つ抜けた存在である。ここではRachael Blackmore騎手がロスなく外を回す競馬で見事な走りを見せた。Rachael Blackmore騎手はこれがこの馬とは初コンビであったのだが、ここまで危なげなく乗りこなすのだから大したものである。Rachael Blackmore騎手はここまで比較的外々を不利を受けずに立ち回るレースが続いており、馬群に突っ込んで我慢をさせるPaul Townend騎手やJack Kennedy騎手とはやや違った発想での騎乗に専念しているように見える。馬としてはスピードに優れたタイプで、今回のようなスピードの出る馬場はこの馬向きであったように思われるが、レースとしてはゆったりとした流れから上り勝負というJuvenile Hurdleにありがちな展開で、例によってクラスが上がってからが正念場になるだろう。

イギリス調教馬のAdagioは2着に頑張った。この馬自身ChepstownのCoral Finale Juvenile Hurdle (G1)を勝った馬で、イギリス調教馬としてはここでは大将格だったのだが、前評判としては単勝11倍とやや軽視されていた。走法としてはややパワーに勝ったタイプで、今回のようなスピードの出る馬場は合わなかった可能性がある。これがイギリス・アイルランド初戦となるHaut En Couleursは見せ場十分の3着。もともとフランスで不良馬場のHurdle競走を1走しただけの馬で、それでここまで戦えるのだから大したものである。レースとしても狭いところから強引に抜けてくるといった内容で、もう少し馬場が渋った方がいいような印象もあり、内容的には前評判以上に今後注意しなければいけない一頭だろう。アイルランドにてHurdleを3連勝で挑んできたZanahiyrが4着に入った。この辺りは展開次第で着順は十分に入れ替わる可能性がある。

 

McCoy Contractors Country Handicap Hurdle (G3) 2m179y (Replay)

1. Belfast Banter J: Kevin Sxton T: Peter Fahey

後方から馬群を縫って出てきたBelfast BanterがPetit Mouchoir以下を抑えて勝利した。Belfast Banterは今回最軽量の10st0lbを背負っていた馬で、ここまでHurdleは未勝利勝ちのみ、前走もいまいちメンバーが揃っていたとは言い難いPaddy Power Betting Shop Novice Hurdle (G2)で2着とあまり実績はなかったのだが、この馬群を割って出てくる脚は大したものである。10歳のベテランPetit Mouchoirが2着に入った。もともとは積極的な先行策で結果を残してきた馬だが、さすがにそろそろG1クラスで戦う程の力はないようだが、それでもコンスタントに走る辺り大した馬である。

 

Albert Bartlett Novices' Hurdle (G1) 2m7f213y (Replay)

1. Vanillier J: Mark Walsh T: Gavin Cromwell

前半からN'Golo、Adrimelなどが前に行く展開も馬群は密集して進行。ここから前に出てきたVanillierが残り2障害辺りで先頭に立つと、そこから一気に後続を突き放し、終わってみれば2着のOscar Eliteに11馬身をつける勝利を挙げた。

Vanillier自身は前走のNathaniel Lacy & Partners Solicitors '50k Cheltenham Bonus For Stable Staff' Novice Hurdle (G1)にてGaillard Du Mesnilからだいぶ離された10着に大敗している馬で、ここでも評価としては微妙だったのだが、前評判を覆す走りを見せた。どうしてもこの路線はこの時期から24fを使う馬が少ないということもあり、メンバー的には若干微妙なところがあるのだが、それでも最後の上り坂の地点では一頭強力なスプリントを掛けており、飛越技術もしっかりしているところを考えると、次のシーズンはChaseで見てみたい馬である。良馬場にてパフォーマンスを一気に上げてきたことを考えると、やや馬場状態には注意した方がいいかもしれない。

全く人気のなかったOscar Eliteがしぶとく伸びて2着に入った。比較的人気のあった組としては、前述のアイルランドの名前の長いG1にてGaillard Du Mesnilの3着に入っているStattlerがいたのだが、こちらは伸びきれず4着まで。同レース4着のFakieraは10着に大敗と、全体的に上述の名前の長いG1の結果が反映されない結果となった。おそらくここまで不良馬場でのレースが多く、今回は打って変わっての良馬場というレース条件の大きな変化が如実に反映された結果となった印象がある。

 

Cheltenham Gold Cup Chase (G1) 3m2f70y (Replay)

 1. Minella Indo J: Jack Kennedy T: Henry de Bromhead

3. Al Boum Photo J: Paul Townend T: Willie Mullins

本日のメインレース。そしてこの素晴らしい4日間のメインレース。前評判としては、Cheltenham Gold Cup3連覇を目指すAl Boum Photoが人気の中心となっていた。対抗角としては昨年のSavills Chase (G1)を制し、目下絶好調のRachael Blackmore騎手とのコンビを組むA Plut Tard。その他アイルランドの期待馬Minella Indo、昨シーズンのRSA Chase (G1)の勝ち馬で期待されるイギリスのChampなどが上位人気となっていた。

レースは前半から元気一杯Frodonが飛ばす展開。これを追いかけてBlack Op、Kemboyなど。Native Riverは主張して前に行こうとするが追い付かず、好位から進めることになる。早々に飛越のミスを繰り返したChampは途中棄権、さらに第7障害で大きなミスをしたSantiniも途中棄権。そのままFrodonは積極的に逃げるも、じわじわとMinella Indoが接近。手ごたえをなくしたBlack Opに代わってA Plut Tard、Al Boum Photoが前に迫るも、これらを退けてMinella Indoが勝利した。

Minella Indoは2019年のAlbert Bartlett Novice Hurdle (G1)、Irish Daily Mirror Novice Hurdle (G1)に続き、G1自体は3勝目とした。昨年のRSA Chase (G1)では先日のRyanair Chase (G1)を勝つことになるAllahoと散々道中から競り合った上に、最後脚が上がったところをChampに差し切られるというレースであったが、同レース自体、Champが飛越の問題等で十分に勝負所での加速が掛からなかったことが原因であり、内容的にはAllahoを競り落としたということで勝ちに等しいものである。今シーズンはG2勝ちのみに留まり、期待されたSavills Chase (G1)では落馬、Irish Gold Cup (G1)ではややがっかりな4着に終わっていたが、ここでようやく結果を残した。おそらく重馬場でも戦えるものの良馬場の方がスピードの減衰が遅くなるタイプで、今回はJack Kennedy騎手がスムーズに立ち回った上、最後は脚が上がりかけて右にヨレているように、この馬の体力を限界まで振り絞る最高の騎乗を見せた。

一方のAl Boum Photo、A Plut Tardは道中ややもったいない進路どりがあった。A Plut Tardは下り坂の入り口の辺りでバテて下がってきたBlack Opの捌きを失敗している。Rachael Blackmore騎手としては内にいたAl Boum Photoをブロックする意識が働いていたと思われるが、下り坂での加速力に優れたこの馬にとっては結果的にスピードのロスに繋がった。Al Boum Photoも道中こそスムーズに立ち回れたものの、最後の下り坂の辺りでRachael Blackmore騎手のA Plut Tardにブロックされる不利があった。この辺りは道中の進路どり一つで着順が入れ替わるものだろう。それぞれ持っている武器としては異なるのだが、ここまで力量が接近した有力馬が多数存在するアイルランド障害競馬の層は非常に厚いのである。

イギリス勢として再先着を果たしたのが11歳のNative River。どうしてもパワーのある馬だけにこのスピードの生きる馬場は合わず、Frodonのペースにもついていけなかったのだが、それでも最後は頑張って4着まで盛り返しているのだから大したものである。ただし、11歳馬健在ということは嬉しいことであるし、他の有力馬がCheltenhamは向かないとの理由で回避していたとはいえ、イギリス勢として未だに再先着を果たすのが11歳のNative Riverというのは少々寂しいものがある。King George VI Chase (G1)を勝ったFrodonは積極的なレースをしたのだが、やはり最後は根負けして5着まで。この馬のリズムで運んだBryony Frost騎手の手腕はさすがであったが、さすがに今回は相手が強すぎた。Novice馬ながらRSA Chase (G1)ではなくこちらに回ってきたことで話題を集めたRoyale Pegailleはさすがにペースがきつかったようで、後方から進めるも全体的に追走に苦労しているように見えた。

その他。期待されたイギリスのChampは早々に飛越をミスしてそのまま途中棄権。前走のGame Spirit Chase (G2)では16fのスピードに対応して2着に入ったとはいえ、やはり飛越の問題というのは相変わらず残っているようだ。昨年2着のSantiniもやはり飛越をミスしてそのままリズムを崩した。Santini自身、今シーズンはどうにもぱっとしないレースを続けており、馬の状態にもやや不安が残る。同様に今シーズンはいまいちなのがLostintranslationで、一度Wind Surgeryを経ているのだがあまりその効果が出ていないようだ。前走Irish Gold Cup (G1)を勝ったKemboyは前々で運ぶも早々に後退しての大敗で、基本的にCheltenhamは合っていないような印象がある。

 

〇 St. James's Place Festival Challenge Cup Open Hunters' Chase (C2) 3m2f70y (Replay)

1. Porlack Bay J: Lorcan Williams T: Will Biddick

イギリスのPorlock BayとアイルランドのBillawayの叩き合いであったが、イギリス勢の切なる願いに応えてPorlock BayがBillawayを僅差で退けて勝利した。ただしPorlock Bay自身、これがイギリスでは2戦目とあまりキャリアは多くない馬で、元々長くフランスで走っていたのち、2021年からイギリスに移籍している。すでに10歳と年齢は重ねているように、一流戦線で戦おうというよりはこのHunters' Chaseを主戦とする目的のようだ。人気を背負ったBillawayが2着。13歳のベテランで、2019年にこのレースを勝利しているHazel Hillは5着に入った。

 

Mrs Paddy Power Mares' Chase (G2) 2m4f127y (Replay)

1. Colreevy J: Paul Townend T: Willie Mullins

レースはハナに行ったColreevyが必死に追いかけてきたElimayを退けて勝利した。Colreevy自身はこれでChaseは4戦4勝とした。その中にはLimerickのFaugheen Novice Chase (G1)も含まれており、実績的には牝馬限定戦に出てこなくてもいいような格上の馬である。2着には前走BBA Ireland Limited Opera Hat Mares Chase (Listed)を快勝しているElimayが入った。アイルランド牝馬Chase路線では明らかに実力はトップクラスの馬で、この2頭が競り合う結果はほぼ実績が示す通りである。10歳のShattered Loveが3着。JLT Novices' Chase (G1)の勝ち馬だが、その後はコンスタントに良績を残しており、やはりCheltenhamのコースというのはこの馬向きのようだ。イギリス勢はさっぱりで、単勝80倍のChilli Filliの6着が再先着というのだから悲しいものである。

 

〇 Martin Pipe Conditional Jockeys' Handicap Hurdle (C2) 2m4f56y (Replay)

1. Galopin Des Champs J: Sean O'Keeffe T: Willie Mullins

Cheltenham Festival最終レースであったが、勝ったのはWillie Mullins厩舎のGalopin Des Champs。これでWillie MullinsはCheltenham Festivalのチャンピオントレーナーとなった。Galopin Des Champs自身はもともとフランスで勝ち星を挙げた馬で、昨年の11月からアイルランドに移籍するも、いまいち結果を残せていなかった。今回は11st9lbとやや斤量は背負っていたのだが、それでもいきなり結果を残すのだから大したものである。イギリスのLanger Danが2着に入った。一瞬あわやという脚を見せたのだが、最後は悲しいことに勝ち馬と脚色が同じになってしまった。