*Cheltenham Soft (Good to Soft in places)
Cheltenham Festival一日目、Champion Day。毎年チケットは売り切れ、美しいCheltenham競馬場に満員のイギリス・アイルランド障害競馬ファンを集めるこの素晴らしい開催も、今年は残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響で無観客開催として実施された。昨年のCheltenham Festivalは新型コロナウイルス感染症拡大の直前に開催され、当時はアルコール消毒液の設置などある程度の感染防護対策を敷いて観客を入れて開催されたのだが、その後残念ながら新型コロナウイルス感染症拡大の大きな原因となった可能性が指摘されていた。考えてみれば、新型コロナウイルス感染症の拡大が示唆されながらも誰一人としてマスクをつけている人がいなかったりと、その後の感染拡大の惨状や、マスクをせずに公共の場を歩き回ることがもはやタブーとなった今から思えば、それなりに、というかかなり微妙な感染防護対策であったように感じられる。
〇 Supreme Novices' Hurdle (G1) 2m87y (Replay)
1. Appreciate It J: Paul Townend T: Willie Mullins
レースは例によってFor Pleasureが飛ばす展開。好位からAppreciate It、Metier、Blue Lordなど。残り2障害地点で押し上げてきたBallyadamは大きなミス。抜け出したAppreciate ItにBlue Lordが追いすがるも、最終障害でBlue Lordは落馬。そのまま残ったAppreciate ItがBallyadamに24馬身差をつけ圧勝した。
Cheltenham Festivalの1レース目からいきなりとんでもないレースを見ることになった。このようなレースが4日間続くのがCheltenham Fetivalであり、賞金額だけは立派な開催は世界各地にあるものの、これほど濃密なレースを4日間に渡って観戦することが出来るのはCheltenham Festivalだけなのである。Appreciate ItはでこれでHurdleは4戦4勝とした。ここまでアイルランドにてFuture Champions Novice Hurdle (G1)、Chanelle Pharma Novice Hurdle (G1)と連勝してきたアイルランドの代表格で、そのいずれもが快勝ということでここでも抜けた評価を集めていたのだが、その前評判以上のレースを見せた。やや大柄ながらも細身でゆったりとしたストライドは飛距離のある飛越とスピードの持続性能を生んでおり、見る限りではトップスピードよりも航行能力に長けたタイプだろう。今回はハナを主張したFor Pleasureがいたもののの、おそらく逃げてペースを作っても持ち味は出せるように思われる。ここまでアイルランドでは悪天候の影響で重馬場での実績が多かったのだが、今回の良馬場でも卓越した能力を見せたことはこの馬にとって明るい材料だろう。次のシーズンにおいてChaseに転向するかは定かではないが、飛越技術の安定性能や飛距離を見る限り、おそらくChaseでも十分に対応することは可能であると思われる。
ここまでの実績としてはMaiden勝ちのみで、前走はChanelle Pharma Novice Hurdle (G1)にてAppreciate Itから6馬身離れた3着に入っていたBlue Lordは前評判を覆す見せ場を作った。最終障害での落馬は着地からの次の完歩で躓いたものであり、この馬の技術に問題があったわけではないだろう。やや前向きな追走を見せていたように、おそらくトップスピードと機動力を武器にして戦う馬であり、同じ勝負服のL'ami Sergeの主戦騎手Darryl Jaconbとの相性も良かったように思われる。Royal Bond Novice Hurdle (G1)の勝ち馬Ballyadamは勝負所でミスをし、最後はなんとかFor Pleasureを交わすも、Appreciate Itからは大きく離れた2着に終わった。Gordon Elliott厩舎のごたごたの影響でHenry de Bromhead厩舎に移籍しており、環境の変化が馬の状態に影響を与えた可能性は否定できないのだが、元々の主戦騎手Jack Kennedyが手綱を取っているように、さすがに言い訳の出来ない敗戦だろう。イギリス勢として再先着を果たしたのが最低人気のFor Pleasureで、ここまでSupreme Trial Novices' Hurdle (G2)勝ちがあるとはいえ、その後のBetfair Hurdle (G3)では大敗していただけに、やや実績的には格下感のある馬ではある。とにかく元気よく飛ばしていくのが持ち味らしく、最後Ballyadamに交わされたとはいえ2馬身ちょっとの差に留まっており、前走Novice馬ながらもBetfair Hurdle (G3)を勝利したSoaring Gloryを抑えているように、展開や条件次第ではどこかで穴を開ける可能性もあるだろう。イギリス調教馬の代表格と思われたMetierは全く見せ場なく大敗に終わった。年始のTolworth Hurdle (G1)の勝ち馬だが、ここまで重馬場でのみ戦っており、比較的乾いた馬場のスピード決着には不慣れであったと思いたい。ただし、Tolworth Hurdle (G1)の上位勢がその後さっぱりという経緯もあり、若干レースレベルには疑問符がつきそうだ。
〇 Arkle Challenge Trophy (G1) 1m7f199y (Replay)
1. Shishkin J: Nico de Boinville T: Nicky Henderson
レースは前半からAllmankindとCaptain Guinessが競り合う展開。好位からスムーズに運んだShishkinは残り3障害過ぎから抜け出すと、そのまま独走。後続に12馬身差をつけて快勝した。2着には最後Eldorado Allenが追いこんできたようだ。
ShishkinはこれでChaseは4戦4勝とした。Hurdleでも昨シーズンのSupreme Novices’ Hurdle (G1)の勝利など飛びぬけたレースを見せてきた馬で、Chaseに転向してからもその勢いは素晴らしく、ここまで4戦いずれもが楽勝という内容である。ここでもAllmankindとCaptain Guinessが競り合う早い流れをものともせず、最後まで脚を伸ばしたパフォーマンスは明らかに一頭別次元の馬が混じっていたとしか言いようがないレースであった。今回、アイルランドで強い競馬を見せていたEnergumeneとの対決が期待されていたのだが、残念ながらEnergumeneは直前で出走を取りやめており、改めてアイルランド代表格のEnergumeneとの対決の実現が期待される。また、この16f Chase路線には才能あふれる素晴らしい馬がたくさん存在しており、次のシーズンにおいてそれらの馬との対決も楽しみにしたい。
対抗角として期待されたAllmankindは最後失速し4着。Henry VIII Novices' Chase (G1)では強い競馬を見せたが、さすがに今回は相手が悪かった。どちらかというと渋った馬場でパワーを生かして走るタイプであり、今回の馬場はこの馬向きではなかったように思われる。Captain Guinessは前半からAllmankindに喧嘩を売りに行く競馬で、最後はAllmankindを競り落としているのだから大したものである。ここまで昨年のSupreme Novices’ Hurdle (G1)では他馬の煽りを食らって落馬、Chaseに転向するもNovice ChaseではいきなりEnergumeneに当たって2着だったり、Irish Arkle Novice Chase (G1)では好位で元気よく進めるも勝負所で落馬したりとどうにも運のない馬なのだが、持っている能力としては重賞クラスで通用してもおかしくないものである。
昨年11月のFrom the Horse's Mouth Podcast Novices' Chase (G2)を勝ったEldorado Allenが最後追いこんで2着に入った。前半から飛ばす前の馬をほぼ無視してこの馬のペースで運んだHarry Cobdon騎手の好騎乗が光ったが、前走のDoncasterのLightning Novices' Chase (G2)でShishkin相手につけられた着差はやはり決定的なものであった。アイルランドのRacing Post Novice Chase (G1)の勝ち馬Franco De Portはさっぱりレースについていけず、最下位に終わった。さすがにペースがもう少し落ち着いてくればもう少しやれるようには思うのだが、現状このスピードについて行くのは難しかったようだ。
〇 Ultima Handicap Chase (G3) 3m1f (Replay)
1. Vintage Clouds J: Ryan Mania T: Sue Smith
前半からAlnadam、Vintage Cloudsなどが前に行く展開だが、ここにHappygoluckyが勝負所から進出。しかし内で抵抗したVintage CloudsがHappygoluckyを5馬身ほど突き放して勝利した。
Ryan Maniaは2013年のGrand NationalをAuroras Encoreで勝利した騎手だが、その後減量に苦しみ引退、2019年の10月に騎手として復帰したのち、これが初めてのCheltenham Festivalでの勝利となった。一方のVintage Cloudsはこのレース5度目の挑戦での勝利と、実にfairytaleといってよいレースである。中の人はCheltenham FestivalにてVintage Cloudsにとって最初のUltima Handicap Chaseを観戦しており、当時は落馬に終わったのだが、その後5年連続でこのレースに挑戦、その5回目にして勝利するという、実に感慨深い勝利である。Vintage Clouds自身、ここまでPeter Marsh Handicap Chase (G2)が主な勝ち鞍といったところだが、長らくこの超長距離戦で活躍してきたベテランである。どうしても緩慢なストライドの持ち主ゆえ、飛越でのミスが大きなスピードロスに繋がる上、とにかくズブいところがあるという馬なのだが、一方で持久力とパワーだけは一流のものを持っている。昨年末にWind Surgeryを行い、どうやらこれが良い方向に出たようだ。今回のレースではRyan Maniaの騎乗がなによりも素晴らしく、ストライドを伸ばして飛越しつつ、ひたすら加速を掛けていく騎乗を見せており、この馬の良いところを遺憾なく発揮させるものであった。どうにもNational Fenceは馬が嫌いなようで、Grand Nationalには登録はないのだが、どうやらScottish Grand Nationalに向かうということで、11歳とさすがにかなり年齢は重ねてきたものの、展開次第ではまだチャンスはあるだろう。
人気を集めたHappygoluckyが2着。現時点でNovice馬だが、いきなりここでスムーズな飛越で2着に入るのだから大したものである。遡ればBallymore Novice' Hurdle (G2)でThyme Hillの2着もあるのだが、おそらくHandicap路線に向かうことになるだろう。やはり好位から進めたAye Rightが3着に入った。Grand Nationalに登録のあるOk Corral、Pymなども出走していたのだが、いずれも見せ場なく大敗に終わった。
〇 Champion Hurdle Challenge Trophy (G1) 2m87y (Replay)
1. Honeysuckle J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead
本日のメインレース。ここまで10戦無敗の牝馬Honeysuckle、昨年の勝ち馬Epatante、さらに昨年のTriumph Hurdle (G1)の最終障害にて無念の落馬に終わったGoshenの3頭の参戦で話題を集めていた。レースは前半からSilver Streakが積極的に前に行く展開。これにGoshenが並びかけていくが、スタンド前を過ぎ向こう正面に入る辺りからGoshenは制御を欠き、馬群から離れていく。そのままSilver Streak、Aspire Tower辺りが引っ張るも、ここからするすると進出してきたHoneysuckleが追いかけてきたSharjahを振り切り勝利した。Epatanteが3着。Goshenは大敗に終わった。
HoneysuckleはこれでHurdleは11戦11勝とした。どちらかというとここまで20fののんびりとしたレースや牝馬限定戦での実績が多かったのだが、今シーズンはChanella Pharma Irish Champion Hurdle (G1)など、16fの一流メンバーに挑み結果を残している。Racing TVの分析が示す通り、このメンバーに入っても加速力・スパートの持続性能ともにずば抜けており、前評判以上に危なげのない圧倒的なパフォーマンスであった。女性騎手Rachael Blackmoreは女性騎手としては初のChampion Hurdle勝利となったが、馬群が密集してごちゃつく中を全く一切の不利を受けずに立ち回ってくる騎乗は、まさにイギリス・アイルランド障害競馬における一流騎手の騎乗であった。牝馬と女性騎手というコンビで日本でもなにかと関心を呼ぶのだが、単に牝馬・女性騎手というコンビという枠に留まらない、近年のChampion Hurdleでも卓越したパフォーマンスであったことは特記しておかなければいけない。
昨年の2着馬Sharjahはまたしても2着に入った。どうにもつかみどころのない馬だが、おそらく良馬場の方がこの馬向きであり、かつスパートの持続性能が低いため脚の使いどころが難しいタイプと認識しておくのが良いのだろう。その点で、Honeysuckleを追いかけて回ったPaul Townend騎手の騎乗ぶりというのは見事であった。一方であまりうまくいかなかったのがEpatanteで、後方から一瞬の機動力を生かす競馬に出たのは良いのだが、あまりスムーズに立ち回れなかった印象がある。葦毛のSilver Streakは自分の競馬を下のだが、さすがに今回は相手が強かった。馬場ももう少し渋った方が良いのだろう。注目されたGoshenは陣営は左回りが問題であるとの認識のようで、実際にあまりコーナーはうまくいかなかったようだが、スタート直後から逃げたSilver Streak相手に気合をつけて加速を掛けており、ややこの辺りで馬がエキサイトしていた可能性もある。今後はAintreeを使わずにPunchestownに向かう可能性もあるとのことで、この馬の再度の挑戦に期待したい。フランスPrix Renaud du Vivier (G1)にてMoises Hasの2着のあるJames Du Berlaisはこれがイギリス初戦だったが、さすがに厳しかったようで大敗に終わった。
〇 Close Brothers Mares' Hurdle (G1) 2m3f200y (Replay)
1. Black Tears J: Jack Kennedy T: Mrs Denise Foster
Floressa、Great White Sharkが並んで逃げる展開だが、第7障害辺りからRoksanaが接近。残り3障害辺りで抜け出しを図るが、これを目掛けてConcertistaが進出。一時は抜け出すも、これを追いかけてきたBlack Tearsがゴール手前でConcertistaを捉えて勝利した。
Black TearsはこれがG1は初勝利とした。前走の3月のQuevega Mares Hurdle (G3)ではThe Getaway Starを5馬身退ける走りを見せていたが、その前のIrish EBF Mares Hurdle (G3)ではConcertistaから12馬身離れた3着に終わっており、さすがに前走のメンバーがメンバーだけに、相手関係を鑑みて今回はやや人気を落としていた。レース運びとしては後方からひたすらConcertistaの後をついて行くという徹底マーク振りで、スペースが少しでもあれば躊躇なく突っ込んでいく、Jack Kennedy騎手らしい勝利への渇望を感じさせるアグレッシブな騎乗であった。
一方のConcertistaは惜しい2着に終わった。牝馬限定戦らしく全体的にゆったりとしたレース運びであったのだが、この馬のスピードの持続性能を生かすにはもう少し積極的に運んでも良かったかもしれない。2019年のこのレースの勝ち馬で、今シーズンはLong Walk Hurdle (G1)にてPaisley Parkの3着など頑張っていたRoksanaは3着まで。2019年にこのレースを勝利したとはいえ、当時は圧倒的人気を背負ったBenie Des Bieuxの落馬に助けられた感が大きく、今回のレース選択としてもメンバー的にMares' Hurdleの方が楽であったとはいえ、本来であれば24fにて終いのスピードを活かした方が良いタイプである。今シーズンの馬の調子は良かっただけに、ややレース選択として残念な内容となってしまった。
〇 Boodles Juvenile Hurdle (G3) 2m87y (Replay)
1. Jeff Kidder J: Sean Flanagan T: Noel Meade
いわゆるFred Winter Juvenile Hurdle。レースは馬群を抜けてきたJeff KidderがSaint Samを抑えて勝利した。Jeff Kidder自身、ここまで障害はMaiden勝ちがあるのみで、前走のLeopardstownのKnight Frank Juvenile Hurdle (G2)ではZanahiyrから離れた最下位に終わっていたりと、ここまでさっぱり実績はない馬である。さらに、父であるオーストラリア産馬Hallowed CrownはオーストラリアでこそAustralian Oaksの勝ち馬Coletteを輩出しているようだが、オーストラリアにおいても長距離での実績はなく、ここまでイギリス・アイルランド障害競馬においては全くと言っていいほど産駒は走っておらず、このJeff Kidderが唯一の勝ち馬であったり、系統的にもあまりイギリス・アイルランド障害競馬において馴染みのないStreet Senseの系統だったりと、イギリス・アイルランド障害競馬では非常に珍しい種牡馬である。母父Rail Linkもイギリス・アイルランド障害競馬では母父としての産駒はほとんどおらず、このJeff Kidderが唯一の勝ち馬である。血統的には平地競争馬といって差し支えないものであり、障害を走らせたところうまくいったので障害に回ってきた可能性もあるが、今後平地競争と兼用で走る可能性も考えておいた方が良いだろう。
〇 National Hunt Challenge Cup Novices' Chase (G2) 3m5f201y (Replay)
1. Galvin J: Jack Kennedy T: Ian Ferguson
例年アマチュア騎手を対象として行われる競走だが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響でアマチュア騎手の騎乗が不可となった。レースは中段から進めたGalvinが先に抜け出したNext Destinationを捉えて勝利した。Galvin自身は比較的Chaseでの経験は長い馬だが、昨年の7月からこれでChaseは5連勝としている。その中にはCheltenhamのMatchbook Better Way To Bet Novices' Chase (G2)も含まれており、スピード能力よりも持久力に優れたタイプとして頭角を現していた。これがGordon Elliott厩舎からの移籍初戦になるが、Jack Kennedy騎手が例によって馬群を縫ってくる見事な騎乗を見せた。レースとしてはやはり超長距離戦で非常にゆったりとしたレースであったが、特段のミスなく最後まで脚を伸ばし切るパフォーマンスは、今後Grand Nationalを目指すタイプの馬として楽しみなものであった。
アイルランドでHurdle G1を2勝した実績のあるNext Destinationが2着で、この馬もまた今後超長距離戦を走るにあたって楽しみなレースを見せた。元々Willie Mullins厩舎の所属で、NoviceのHurdleのG1路線で活躍した馬だが、2018年4月から3年近い休養を経て、今シーズンからPaul Nicholls厩舎にてレースに復帰している。一時は出産のため現役を退いていたSnow Leopardessは最後勝ち馬から遅れ4着に終わった。2017年のAuteuilでの勝利ののち、故障もあり現役を退いていたのだが、その後2019年の11月に復帰、Chaseに転向した昨年の11月にはHaydockにて勝利も挙げている。