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21/09/18 障害競馬入門⑧ - 障害競馬の1年(1~3月) -

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競馬ファンには独特の季節感があるもので、例えば日本競馬においては春先になるとクラシックレースを始めとする上半期の平地G1競走や、中山グランドジャンプといった主要競走の到来を感じるものですが、一方で障害競馬にも独特の季節感があるものです。特にイギリス・アイルランド障害競馬はイギリス・アイルランド平地競馬とは真逆の時期に行われていることは有名ですが、世界中に目を向けると、どの季節もどこかしらで障害競走が行われています。ここでは計4回にわたり、それぞれの季節において開催される主要障害競走について記載していきます。

 

なお、この記事で記載することは概ね上記のラジオで話しています。中の人を含め、計5人で運営しているラジオ番組で、メンバーはいずれも知識の方向性が少しずつ(?)異なっておりますが、どのジャンルにおいても非常に興味深く、他ではなかなか聞くことができないような番組が多数配信されております。是非ご一聴ください。

 
*1~3月の主要障害競走イベント一覧
イベント・レース等
1月 イギリス Clarence House Chase (G1)等
アイルランド Lawlor's of Naas Novice Hurdle (G1)
フランス Pau競馬場開催
2月 イギリス Ascot Chase (G1)等
アイルランド Dublin Festival
フランス Pau競馬場開催(Grand Cross de Pau)
イタリア Gran Corsa Siepi Nazionale (G1)
3月 イギリス Cheltanham Festival

 

*1月

おそらく日本でも広く知られているとおり、イギリス・アイルランド障害競馬はイギリス・アイルランド平地競馬とは真逆の季節である秋~春(10月~4月)を中心に行われており、1月はまさに障害競馬シーズン真っ只中といったところです。しかし、イギリス・アイルランドともに年末に大きな開催が複数行われるため、1月に行われる主要競走は比較的少なく、1月の中旬にAscot競馬場で行われる16ハロンのClarence House Chase (G1)や、1月上旬にSandown競馬場で行われる16ハロンのTolworth Novices' Hurdle (G1)、加えてアイルランドNaas競馬場で行われる20ハロンのLawlor's of Naas Novice Hurdle (G1)が挙げられる程度です。ちなみに、イギリス・ウェールズ地方の"Grand National"であるWelsh Grand National (G3)は本来年末のChepstow競馬場で予定されている競走ですが、降雨等による極端な馬場状態の悪化を理由に年始に延期されることが最近多いですね。Chepstow競馬場はイギリスの中でも非常に激しい起伏を有する競馬場で、Welsh Grand National (G3)は例年重馬場で行われることも相まって、非常にタフなレースが展開されます。

イギリス・アイルランド以外では、フランスのPau競馬場及びCagnes-Sur-Mer競馬場で障害競走が行われています。Pau競馬場及びCagnes-Sur-Mer競馬場はフランスの冬季(主に12~2月)に開催が行われており、G1競走に出走してくるような超一流馬の出走こそないものの、ちらほらと重賞競走も行われています。ちなみに、この時期はイギリス・アイルランド・フランスを除く各国の障害競馬という観点においてはほぼお休みで、イタリアPisa競馬場の開催が僅かにあるのみです。

 

*2月

2月のハイライトは、なんといってもアイルランドLeopardstown競馬場にて行われるDublin Festivalでしょう。2日間に渡って行われるこの開催では、Irish Gold Cup (G1)、Dublin Chase (G1)、Irish Champion Hurdle (G1)といったアイルランド障害競馬におけるG1競走が多数行われ、有力なアイルランド調教馬が多数出走する開催となります。アイルランド調教馬にとっては、Dublin Festivalのレースのあとは主にイギリスCheltenham Festivalを目指すことになります。一方のイギリスでは、翌月に開催されるCheltenham Festivalに向けたプレップレースが行われる期間となります。G1競走としては、中旬にAscot競馬場で行われる20ハロンのAscot Chase (G1)、上旬にSandown競馬場で行われるScilly Isles Novice Chase (G1)が挙げられます。

フランスでは引き続きPau競馬場及びCagnes-Sur-Mer競馬場の開催が行われます。2月上旬にはPau競馬場最大のCross Country競走であるGrand Cross De Pau Reverdyが行われ、多数のPau競馬場のCross Country Specialistが出走します。Pau競馬場にはPassage de RouteやBanquetteを始めとする多数の難易度の高い障害が勝負所に設置されており、これらをスピードを持ってリスクの高い飛越で突破しなければいけない、非常にテクニカルなCross Countryコースが設置されています。Pau競馬場はその地理的な側面や開催期間等の関係により、このPau競馬場のCross Countryを専門に走る馬が多数存在し、そのためPau競馬場のCross Countryに習熟した馬が多数集まるのが特色です。

イギリス・アイルランド・フランスを除くと、イタリアPisa競馬場でHurdleのG1競走であるGran Corsa Siepi Nazionale (G1)が行われます。イタリア障害競馬は夏(5~9月)はイタリア北部に存在するMerano競馬場で開催が行われますが、それ以外の時期はMilano、Pisa、Treviso等でちらほらと障害競馬が開催されており、この時期はPisa競馬場で障害競馬が行われる期間となります。なお、"Siepi"とはイタリアのHurdle競走のことを指します。

 

*3月


3月のメインイベントは、言うまでもなくイギリスCheltenham競馬場で行われるCheltenham Festivalでしょう。おそらくAintree競馬場のGrand Nationalを除けば日本で最も知名度があるこの開催は、24ハロン(3マイル)超のハンデキャップChase競走路線を除く全ての路線におけるイギリス最高峰のレースが、連続した4日間に渡って集中的に行われます。さらに連日行われるイギリス競馬最高のG1競走の数々のみならず、高額な賞金額を誇るアマチュア騎手限定戦やハンデキャップ競走も多数行われ、この開催で勝利することは関係者にとっては生涯の誇りとなります。Cheltenham Festivalでは、まるで人生のピークみたいな勢いで喜ぶ勝ち馬の関係者を見ることができますね。このような素晴らしいCheltenham Fesitvalはイギリス・アイルランド競馬ファンにとっても重要で、Cheltenham競馬場に毎年のように多数の熱狂的な競馬ファンを集めます。実際、Cheltenham Festival期間中にCheltenhamにホテルを確保することは至難の業です。イギリス障害競馬ファンにとってこの開催は1年間の長きに渡って心待ちにしていたものであり、仲間とともに酒を飲んで全力ではしゃぎまわるのですが、そのような大量の競馬ファンが小さなCheltenhamの街に押し寄せることで、結果的に行き帰りのバスは地獄絵図と化します。逆に言えば、地獄絵図になるほどこの開催を楽しみにしていて、そして全力で楽しんでいるのだと、好意的に捉えることもできるかもしれません。

フランスではこの時期からAuteuil競馬場の開催が始まります。フランス障害競馬の本拠地はパリに存在するAuteuil競馬場で、フランス障害競馬における殆どの重賞競走がAuteuil競馬場で行われていると言っても過言ではありません。Auteuil競馬場の開催は春と秋に行われ、3月からはちらほらと重賞競走が始まり、この時期から5~6月のG1競走を目指す馬たちが始動することになります。