にげうまメモ

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23/01/04 障害競馬入門⑭ - 主要競馬場(イギリス・アイルランド) -

以下、当記事ではイギリス・アイルランドの主要競馬場の概要を提示する。

 

*イギリス

British Horseracing Authorityには計59の競馬場が掲載されており、平地競争専用競馬場19を除く計40の競馬場で障害競走(National Hunt Flatを含む)が開催されている*1。そのうち、障害競馬専用競馬場は24、障害競馬・平地競馬兼用競馬場は16である。なお、現在は平地競馬専用競馬場となっている競馬場においても、WolverhamptonやWindsor、Nottingham等、過去には障害競馬を開催していた競馬場も多く存在する*2。また、上記40の競馬場とは別に、Point-to-Point Racingが開催される競馬場も数多く存在する。イギリスPoint-to-Poing Racingについては以下のホームページを参照されたい。

Weatherbys Point-to-Point

 

Cheltenham競馬場(Jump, Left-handed)

Cheltenham Racecourse(The Jockey Club)

  • New Year's Day(1月)
  • Festival Trial Day(1~2月)
  • Cheltenham Festival(3月)
  • Race Night Featuring Hunter Chase Racing(4~5月)
  • The Showcase(10月)
  • The Open - November Meeting(11月)
  • International Meeting(12月)

South West England、Gloucestershire CountyのCotswolds地方に存在するCheltenham競馬場はイギリス障害競馬の中心的な競馬場である。ロンドンから電車又はバスで2~3時間ほどの距離にあるCheltenham自体は小さな保養地として知られているが、Cheltenhamの中心地から徒歩十数分の場所に位置するCheltenham競馬場は巨大かつ豪華なスタンドと広大で激しい起伏を有する世界有数の障害コースが設置されており、このコースを利用して行われる主要競走の数々はイギリス・アイルランド障害競馬におけるチャンピオンを決定する競走として機能している。3月の上旬に4日間に渡って行われる"Cheltenham Festival"では、上記イギリス・アイルランド障害競馬のほぼ全ての路線におけるチャンピオンを決定するG1競走が行われるほか、Cheltenham Festivalの競争で勝利することは関係者にとっては大変な名誉であるようで、ここでの勝者は"Festival Winner"として讃えられる。この開催はイギリス・アイルランドにおいて大変な人気を誇り、毎年チケットは完売、イギリス・アイルランド各地から多数の競馬ファンがこのCheltenham競馬場に殺到する。Cheltenham自体は小さな町で宿泊施設も限られているため、現在はCheltenham Festival期間中の宿泊料が高騰していることが問題となっており、あるホテルでは一般的な期間であれば£280(約4万5千円)で4日間宿泊可能である一方で、Festival期間中は£3,600(約58万円)となっているそうだ*3。おそらく最も確実かつ安価なのはBirminghamあたりに宿をとることと思われるが、どうやらCheltenhamとBirminghamを繋ぐ電車では主に酔っ払いによる地獄絵図が繰り広げられているようだ*4。Cheltenham Festivalの熱気は年々鰻登りで、残念ながらそれと比例して訪問するには難しい開催となっているが、その観客の熱気とレースの迫力は世界有数のものであり、競馬ファンであれば必ず一度は訪問する価値のある開催であることは間違いない。

Cheltenham競馬場はOld CourseとNew Courseが存在する。いずれも激しい起伏が存在し、特に急なカーブとなる最終コーナーに向かう下り坂からスタンド前の直線に待ち構える上り坂が設置されたコース終盤は非常にタフであることが知られているが、Old CourseはNew Courseと比較してよりスピードが生きるコースとされている*5。Cheltenham Festivalでは1~2日目はOld Courseを、3~4日目ではNew Courseが使用される。また、Cheltenham競馬場には上記イギリスの競馬場において唯一Cross Country Courseが設置されており、年に4回ほどCross Country競走が行われている。

 

Aintree競馬場(Jump, Left-handed)

Aintree Racecourse(The Jockey Club)

  • Grand National Meeting(4月)
  • Old Roan Chase Day(10月)
  • Becher Chase Day(12月)

North West England、Merseyside州に位置するAintree競馬場はイギリスGrand National (Premier Handicap)が行われる競馬場として有名である。Liverpoolから電車で15分ほどで到着するAintree競馬場には、イギリス全土においてこの競馬場(及びCheltenhamのCross Country Course)にしか存在しない、トウヒの枝を使用した"National Fence"が設置された"National Course"が存在しており、この"National Course"を使用してイギリスGrand Nationalが行われる。Grand Nationalは4月上旬に連続する3日間に渡って行われるGrand National Meeting最終日のメインレースであるが、Grand National MeetingではこのGrand National以外にもイギリス障害競馬の各路線における主要競走が多数行われる。イギリスにおいてこのGrand Nationalの人気は凄まじく、毎年Grand National Dayにおけるスタンドのチケットは発売が開始されるや否や、瞬く間に完売となる。

Aintree競馬場の通常のChase Courseは"Mildmay Course"と呼ばれており、Aintree競馬場全体はNational Courseも含めて平坦なコースである。従って、起伏のあるCheltenham競馬場とはコースの性質としては大きく異なっている。National CourseはGrand Nationalを含め年に5回使用されており、Grand National以外では11月のGrand Sefton Chase、12月のBecher Chase (Premier Handicap)、及びGrand National MeetingにおけるFoxhunters' Chase並びにTopham Chase (Premier Handicap)である。

 

Ascot競馬場(Mixed, Right-handed)

Ascot Racecourse

  • Clarence House Chase Raceday(1月)
  • Ascot Chase Raceday(2月)
  • Long Walk Hurdle Day(12月)

イギリス王室が所有するAscot競馬場はLondonから電車で約1時間ほどの場所に位置しており、夏季はRoyal Ascotをはじめとする平地の主要開催が行われる一方で、冬季はAscot Chase (G1)、Clarence House Chase (G1)といった障害競馬の主要競争が行われる。1700年代に設置された長い歴史を誇るAscot競馬場であるが、Ascot競馬場のNational Hunt Courseは1965年に設置されたものだそうだ*6。Royal Ascot開催が行われるように、世界有数の豪華な施設で知られたAscot競馬場であるが、その障害は特に固く設定されていることで有名であるほか、平地競馬でも広く知られているように最大で高低差22.25メートルもの厳しい上り坂をはじめとする激しい起伏が存在し*7、非常にタフなコースが設定されている。

 

Sandown Park競馬場(Mixed, Right-handed)

Sandown Park Racecourse(The Jockey Club)

  • Veterans' Chase Day(1月)
  • Imperial Cup Day(3月)
  • Bet365 Jump Finale(4月)
  • Tingle Creek Chase Christmas Festival(12月)

Londonから電車で約1時間ほどの場所に位置するSandown Park競馬場は、19世紀末にヨーロッパ初の競馬専用施設として誕生した比較的新しい競馬場であり、平地でもEclipse Stakes等の主要競争が行われる競馬場として知られているが、Ascot競馬場と同様に冬季には主要競走を含む障害競馬開催が行われている。1月には2014年から始まった10歳以上限定Chase競走である"Veterans' Chase Series"の最終戦が行われるが*8、ここには多数の人気のあるベテランの競走馬が出走し、G1等の格付けはないものの(Class2)白熱したレースが展開され、イギリス障害競馬ファンを喜ばせる。4月末のJump FinaleではCelebration Chase (G1)やbet365 Chase (Premier Handicap)を含む主要競争が行われるが、この開催はイギリス競馬シーズンを締めくくる開催として機能している。Sandown Parkはメインスタンドからはヒースロー空港をも望む都市型の競馬場だが、そのコースは非常に独特で、向こう正面のChase Courseには競馬場敷地外の鉄道と並行して走るように"Railway Fence"と呼ばれる比較的狭い間隔で設置された3つの障害が存在しているほか、そこから"Pond Fence"と呼ばれる障害を通過して、直線に待ち構える残り2つの障害へと向かうことになる。ゴール前には厳しい上り坂が待ち受けている非常にタフなコースである*9

なお、Hurdle CourseとChase Courseでは直線の走路及び使用するゴール板が異なっており、この2つの走路はゴール直前で合流する形となるが、ゴール板が並行して2つ設置されているため、しばしばゴール地点を間違える騎手が発生する*10

 

Kempton Park競馬場(Mixed, Right-handed)

Kempton Park Racecourse(The Jockey Club)

  • Boxing Day(King George VI Chase)(12月)

Londonから電車で約1時間ほどの距離にあるKempton Park競馬場は1878年に設置された競馬場であり、Boxing Day(12月26日)にはKing George VI Chase (G1)をメインレースに、Christmas Hurdle (G1)、Kauto Star Novices' Chase (G1)の計3つのG1競走が行われる。特にKing George VI Chase (G1)はイギリスのクリスマス障害競馬開催の筆頭格の競争とされ、毎年アイルランドからの遠征馬を含め、多数の有力馬を集める競争である。もともとKempton Parkは平地競争との兼用競馬場として使用されていたが、2006年に芝コースがAWコースに変更されたことで、SandownやAscotと異なり、障害競馬シーズンである冬季を含め年間を通して平地競馬も開催されている。コースは全体的に平坦でスピードが要求されるものだが、ポリトラックとの交差地点や比較的急なカーブといった特徴も有している。

2017年にThe Jockey ClubはKempton Parkが2021年までに閉鎖され、住宅開発のために再開発される予定である旨を発表した。Kempton Parkで行われる主要競争はSandown Parkに移設される予定であったが、どうやら競馬界を含む激しい反発等もあり、ひとまずKempton Parkの開催は引き続き継続されることになったようで、2022年12月現在も上記Boxing Dayの主要競争を含め、無事に競馬開催は行われている*11*12

 

Haydock Park競馬場(Mixed, Left-handed)

Haydock Park Racecourse(The Jockey Club)

  • Peter Marsh Chase Day(1月)
  • Grand National Trial (2月)
  • Betfair Chase Day(11月)

North West England、Merseyside州に位置するHaydock Park競馬場はAscot競馬場やSandown競馬場と同様に、夏季は平地競争、冬季は障害競争が行われており、11月には24ハロンChase路線のシーズン最初のG1であるBetfair Chase (G1)が行われる。特徴的であるのは約5ハロン近くにも渡って存在する長い直線走路であり、Haydock Park競馬場全体としては潰れたパンを横から見たような形をしている。気候的な影響があるのか冬季はなにかと馬場が重くなる傾向があるようで、その場合は長い直線もあってタフなレースが展開されることが多いが、一方で本来は平坦で急カーブこそ存在するものの基本的にはスピードが生きる競馬場と言われている。Chase CourseとしてはどうやらLancashire CourseとInner Courseの2種類が存在するようで、Betfair Chase MeetingはLancashire Courseが使用される*13

 

Chepstow競馬場(Mixed, Left-handed)

Chepstow Racecourse

  • Welsh Grand National(12月)

WalesのMonmouthshire州に位置するChepstow競馬場はArena Racing Company*14により所有される競馬場で、Walesで最大の競争であるWelsh Grand National (Premier Handicap)が開催される競馬場として知られている。Welsh Grand Nationalではレース前にWales国歌も歌われる非常に人気のある開催である。同開催ではFinale Juvenile HurdleというJuvenile Hurdle路線のG1競走も行われていたが、残念ながらBHAにより2022年からG2に降格になった。約5ハロンほどの非常に長い直線走路を有する楕円形のコースであるが*15、特徴的なのはその激しい起伏で、なにかと冬場には重くなりがちな馬場状態も相まって、Welsh Grand National (Premier Handicap)では非常に激しくタフなレースが展開される。なお、2023年1月にはこのWelsh Grand National(当時はG3)を勝利したDream Allianceを題材とした映画が日本でも公開される予定である。

 

Ayr競馬場(Mixed, Left-handed)

Ayr Racecourse

  • Scottish Grand National(4月)

Scotlandに位置するAyr競馬場はScotland最大の競争であるScottish Grand National (Premier Handicap)を開催する競馬場として知られている。AyrはScotlandの南西部に存在するSouth Ayrshireの都市であり、ノース海峡に面している。Ayr競馬場もまた起伏のあるコースで、最終コーナーまでは下り坂、長い直線は緩やかな上り坂となっている*16。Scottish Grand National (Premier Handicap)は世界最高クラスの長距離である4マイルの距離が設定されているが、4月のこの開催は基本的に良馬場で行われることが多い。

 

アイルランド

アイルランドにはUlster地方(North Irelandを含む)におけるDownpatrick競馬場及びDown Royal競馬場(いずれもNorth Irelandに位置する)を含め、計26の競馬場が存在する*17。このうち、障害競馬専用競馬場が計4、障害競馬・平地競馬兼用競馬場が計19存在する。平地競馬専用競馬場はAWであるDundalk及び砂浜競馬であるLaytownを除くとCarraghのみであり、すなわちアイルランドでは芝コースが設置されているほとんどの競馬場で障害競馬が行われていることがわかる。Dundalk Racecourseは元々障害競馬をメインに行う芝コースが存在していたが、2001年に残念ながら閉鎖され、代わりにAll-weather Trackが2007年に創設されている。なお、これ以外にもPoint-to-Point専用の競馬場も多数存在する。

Irish Point to Point

 

Punchestown競馬場(Mixed, Right-handed)

Punchestown Racecourse

  • Moscow Flyer Hurdle Day(1月)
  • Grand National Trial Day(2月)
  • Punchestown Festival(4~5月)
  • Morgiana Hurdle Day(11月)
  • John Durkan Memorial Punchestown Chase Day(12月)

Kildare地方のNaasの近くに位置するPunchestownはアイルランド障害競馬において中心的な競馬場であり、そのハイライトは4月末から5月頭にかけて行われるPunchestwon Festivalである。連続する5日間に渡って行われるこの開催はアイルランド競馬シーズンを締めくくるものであるが、アイルランド障害競馬における主要競争の数々が行われ、アイルランド障害競馬のチャンピオン決定戦として機能している。豪華絢爛で熱狂的な競馬ファンで溢れるCheltenham Festivalと比べると、その雰囲気はどちらかというと素朴で温かみのある祭典であると言われている。日本の競馬場とは比べ物にならないほど広大なコースは激しい起伏が連続しており、コースにおいて平坦な部分は殆どないといっても過言ではないほど起伏に富んだアイルランドらしいコースである。特に最後の5ハロンは上り坂になっており*18、非常にタフで見ごたえのあるレースが展開される。Punchestown競馬場にはアイルランドで唯一のCross Country Courseが設置されているが、そのコースには多数のBankが設置されたトリッキーなものであり、CheltenhamのCross Country Courseとは大きく異なる性質を有している。

 

Leopardstown競馬場(Mixed, Left-handed)

Leopardstown Racecourse

  • Christmas Festival(12月)
  • Dublin Racing Festival(2月)

Dublin近郊に存在するLeopardstown競馬場は東京競馬場との交換競争を行っていることで日本でもその名前をよく知られている。Irish Champion Stakes等の平地主要競争を開催することでも知られているが、その主な開催は12月のLeopardstown Christmas Festivalと2月のDublin Racing Festivalである。Leopardstown Christmas Festivalでは連続する4日間、Dublin Racing Festivalでは連続する2日間に渡って競馬開催が行われ、多数のG1競走を含むアイルランド主要競争が行われる。これらの開催はアイルランド競馬シーズンにおいて、Punchestown Festival等と並ぶ主要開催として位置づけられており、いずれの開催においても多数のアイルランドの有力馬が参戦しており、アイルランドの有力馬たちにとっては年間の重要な目標レースとして機能している。楕円形のトラックはほぼ平坦で、最後のコーナーからわずかに上り坂となっているものの急なカーブも存在せず、どちらかというとスピードが生きるコースが設定されている*19

 

Fairyhouse競馬場(Mixed, Right-handed)

Fairyhouse Racecourse

  • Dan Moore Chase Day(1月)
  • Fairyhouse Easter Festival(4月)
  • Fairyhouse Winter Festival(12月)

Meath州のRatoathに位置するFairyhouse競馬場の主要開催は4月のEaster Festivalと12月のWinter Festivalであり、特にEaster Festivalの3日目にはIrish Grand Nationalが行われることが知られている。Fairyhouse Winter FestivalではHatton's Grace Hurdleを含む複数のG1競走が行われており、シーズン序盤の主要競争として有力馬の始動戦として機能している*20。全体的に正方形のような形のトラックは起伏があるものの、終盤の1マイル程度は下り坂になっているようで、同じ右回りとはいえPunchestownとは性質を大きく異なるものとしている*21

*1:Racecourses - The British Horseracing Authority

*2:National Hunt needs swift course of action | London Evening Standard | Evening Standard

*3:£280 in February, £3,600 in March: Cheltenham Festival hotel prices soar | Horse Racing News | Racing Post

*4:海外の好きな競馬場&やばい競馬場を語る回@ニュースchメンバー勢揃い - 海外競馬ニュースch | stand.fm

*5:Cheltenham Course Guide | At The Races

*6:Ascot Racecourse - Wikipedia

*7:競馬場・コース紹介:イギリス競馬 各国の競馬 海外競馬発売 JRA

*8:https://www.britishhorseracing.com/press_releases/bha-announces-new-veterans-chase-series-worth-400000/

*9:競馬場・コース紹介:イギリス競馬 各国の競馬 海外競馬発売 JRA

*10:22/12/04 Weekly National Hunt / Jump Racing - にげうまメモ

*11:Kempton saved after Jockey Club scales down housing plans for racecourse site | Horse Racing News | Racing Post

*12:Is Kempton Park Still at Risk of Development? | OnlineGamblingWebsites.com

*13:https://www.racingtv.com/racecourses/haydock-park

*14:Arena Racing Company - Wikipedia

*15:https://www.racingtv.com/racecourses/chepstow

*16:https://www.racingtv.com/racecourses/ayr

*17:https://www.bettingsites.co/sports/horse-racing/ireland/

*18:https://www.racingtv.com/racecourses/punchestown-ireland

*19:https://www.racingtv.com/racecourses/leopardstown-ireland

*20:https://www.goracing.ie/racecourses-and-events/racecourses/fairyhouse/meetings/

*21:https://www.racingtv.com/racecourses/fairyhouse-ireland