にげうまメモ

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21/10/04 Velká Pardubická ① - Introduction -

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Velká Pardubická(ヴェルカ・パルドゥビツカ)は10月の第2日曜日にチェコPardubice(パルドゥビチェ)競馬場で行われるチェコ最大の障害競走であり、かつCross Country競馬としては世界最高の人気を博す一大競争です。チェコ障害競馬の中心的な競馬場であるPardubice競馬場の障害コースをフルに使ったこの競争は、完走馬が一頭もいない年があったりと世界一難易度が高くタフな障害競走とも言われており、チェコ国内競馬においては絶大な人気と最高の権威を誇ります。また、この競走はチェコ国内のみならずヨーロッパ障害競馬においても高い関心を集めており、チェコ調教馬だけではなく、隣国スロバキアはもちろん、フランスやアイルランドといった障害競馬大国からの参戦馬・参戦騎手が集まります。普段はのんびりとした長閑なPardubice競馬場ですが、この日のPardubice競馬場にはたくさんの屋台が立ち並び、ヨーロッパ中から集まった大勢の観客が詰めかけ、大変な熱気に包まれます。

 

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このレースの歴史は非常に古く、第1回競走が開催されたのは1874年に遡ります。悪天候や戦争等の影響で中止となることもしばしばありましたが、2021年で第131回を数える伝統ある競走となっています。その長い歴史の中には、完走馬がいなかったことや(1909年)、一位入線馬が制限時間を超過したために失格となったこと(1920年)、一位入線馬がコースを間違えたために失格となったこと(2008年)、様々な出来事がありました。*1

 

チェコ障害競馬体系とVelká Pardubická

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チェコ障害競走はフランスやイタリアと同様に、"Proutky"(Hurdle)、"Steeplechase"、"Steeplechase Cross Country"の3カテゴリーに分類されており、Velká Pardubickáは"Steeplechase Cross Country"に分類されます。イギリス・アイルランドではCross Country競走はSteeplechaseに含まれますが、フランスやイタリア・チェコでは"Cross Country"としてSteeplechaseとは独立したカテゴリーとなります。フランスやイタリアでは、HurdleやSteeplechaseと比べてCross Countryの競走数は少なく、確たる重賞競走を中心とした路線が整備されていない一方で、チェコ障害競馬における障害競走の中心は"Steeplechase Cross Country"であり、その中心となるのがこのPardubice競馬場、そしてこのVelká Pardubickáです。

チェコ障害競馬において、"Proutky"や"Steeplechase"は重賞競走も含めて実施されてはいるものの、これらの競争を走るチェコ調教馬はどちらかというとチェコ国内競走と比較して高額な賞金額が設定されているイタリア等に目標を定め、国外の障害競走を主戦場としている場合が多いようです。チェコ調教馬はイギリス・アイルランド・フランス以外のヨーロッパ諸国の障害競走において、その層の厚さや水準の高さに関しては随一のものを誇っており、イタリアやポーランドといった周辺諸国の障害競馬ではチェコ調教馬が絶大な存在感を示しています。例えば、イタリアSteeplechaseの重賞競走においてはチェコ調教馬がイタリア調教馬を圧倒し、その重賞勝ち馬の殆どがチェコ調教馬か、もしくはチェコやイタリア等と比較すると遥かに巨大な規模を有するフランスからの遠征馬となっています。

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一方で、"Steeplechase Cross Country"はチェコ障害競馬の中心的な役割を果たしており、"Steeplechase Cross Country"を主戦とする競走馬の殆どがチェコ国内競走を中心に出走します。この"Steeplechase Cross Country"のレース体系は良く整備されており、年齢指定競争として4歳馬限定戦、5歳馬限定戦が活発に行われている他、牝馬限定戦も多数存在します。レース距離としては3000~4000メートル台の競争が中心で、しばしば比較的上位クラスにおいては5000メートル台の競争も行われています。Velká Pardubickáは6歳以上・牡馬/牝馬混合・6900メートルのレース条件が設定されていますが、チェコ"Steeplechase Cross Country"においてVelká Pardubickáに次ぐ長距離が設定されている競走が5800メートルであることも踏まえると、Velká Pardubickáはチェコ"Steeplechase Cross Country"路線においては特異に長い距離が設定されていると考えてよいでしょう。障害競馬において、一般的に格の高い競走は長距離かつ難易度の高い障害を使用する傾向があることも踏まえると、Velká Pardubickáのレース条件はまさにチェコ障害競馬における最高峰のものとなっています。

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チェコ障害競馬はLysá nad Labem競馬場、Slušovice競馬場、さらにチェコ平地競争の主要競走が行われるPraha競馬場(Velke Chuchle)等で行われていますが、その中心となるのがPardubice競馬場です。Slušovice競馬場のVelká Slušovická steeplechase、Lysá nad Labem競馬場のMemoriál Evy Palyzové O pohár hejtmanky Středočeského krajeを始め、Pardubice競馬場以外でもある程度上位クラスの競走は行われていますが、その開催数及びレース数は近年減少傾向にあり、現在チェコ障害競走、特にSteeplechase Cross Country競走はPardubice競馬場で大多数の主要競走が行われる状況となっています。

 

*Pardubice Autumn Festival

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Velká Pardubickáは、"Podzimní městské slavnosti"と呼ばれるPardubiceの街のお祭りの最終日に行われます*2。このお祭りはなかなか大規模なもので、旧市街の広場"Pernštýnské Náměstí"を中心に、飲食物やお土産の屋台が出ていたり、コンサートをやっていたり、自転車のレースをやっていたりと、ローカル色豊かに賑わっています。2021年はVelká Pardubickáが行われる週の金曜日~日曜日がこのお祭りの期間となっており、最終日はレースを見よう! ということだそうで。上の1枚目の写真はPardubice駅の構内。上の方に小さく見えますが、Pardubiceの市章には馬が象られています。2枚目の写真は旧市街の広場"Pernštýnské Náměstí"の近くにある時計塔(Zelená brána:Green Gate)から広場を見下ろしたもの。下の2枚の写真は土曜日の夜の旧市街の広場。主にお子様が提灯のようなものを手に持って街を歩くそうです。

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