*週刊障害競馬回顧 2021/12/06-2021/12/12
12/10(金)
Cheltenham (UK) Good to Soft
〇 Betfair Handicap Chase (G3) 3m2f (Replay)
1. Commodore J: Charlie Deutsch T: Miss Venetia Wiliams
この日のCheltenham競馬場は、15歳の若さで調教中の事故により亡くなったTiggy Hancockを悼んで若齢の乗り役を支援することを目的として設立されたTiggy's Trust(Homepage、twitter)の呼びかけにより、Tiggy Hancockの好きな色であった黄色を身に纏う人が多く認められた。騎手は通常白のパンツを着用しているが、この日黄色のパンツを着用している人が多く認められるのはそのような理由によるものだそうだ。馬の錐体細胞はヒトと異なり二種類しかないため、馬と人とで色の見え方が異なっていることは良く知られているが、通常白一色の騎手が黄色に染まったこの日、馬にとっては少々変わった世界が見えていたかもしれない。
レースは前半から元気よく引っ張ったCommodoreが残り3障害辺りからSantiniを振り切ると、そのままMister Fogpatchesに15馬身差をつけて勝利した。
Charlie Deutschは2018年に飲酒運転で捕まったことがあるのだが、そこから復帰するとつい先日はCloudy GlenとのコンビでLadbrokes Trophy (G3)を制すなど、めざましい活躍を見せている。そのよきサポーターとなっているのがVenetia Williams調教師であり、このコンビはしばらくイギリス障害競馬を賑わせてくれるだろう。CommodoreはここまでC3のハンデ戦くらいの勝ち鞍しかなかった馬で、重賞クラスではここまでさっぱりであったのだが、今回はWind Surgery明けであったこと、さらにCharlie Deutsch騎手が前半から積極的に運んだことでこの馬の新たな可能性を引き出すことに成功した。Charlie Deutsch騎手は終始Commodoreをハロン15秒程度でリズムよく運んでおり、このような積極策でびっくりするような大駆けをやってのけることがしばしばある。Commodore自身このように先手を取って引っ張るタイプの馬だが、このようなレース運びはCharlie Deutshch騎手の十八番として注意した方がいいだろう。2020年のCheltenham Gold Cup (G1)の2着馬SantiniはこれがPolly Gundry厩舎への転厩初戦で、初のハンデキャップ競走への参戦であったのだが、Commodoreを追いかけていくも最後は失速し4着に終わった。さすがに一頭だけ11st12lbという飛びぬけた斤量を背負っていた影響はありそうだが、どうにも昨シーズンの段階でG1戦線では厳しい成績に終わっており、今後のレース選択は少々難しくなるかもしれない。
〇 Glenfarclas Crystal Cup Cross Country Handicap Chase (C2) 3m5f37y (Replay)
1. Diesel D'Allier J: Harry Bannister T: Richard Bandey
今年のCrystal Cupの最終戦。フランスからの参戦はなかったものの、アイルランドからはBalko Des FlosやMidnight Maestro、Plan of AttackやBallyboker Bridgeといった面々が多数参戦した。レースは前半からFox Proが逃げるも、2度目のWater Jumpの辺りからPotters Cornerが先頭に。そのままPotters Cornerが逃げ込みを図るも、最終障害を越えて迫ったDiesel D'allierがゴール直前でこれを捉えて勝利した。
Balko Des Flosは2018年のRyanair Chase (G1)でアイルランドの伝説Un De Sceauxを破った馬で、底から勝ち星こそないものの、長くG1路線で戦い続けてきた馬である。2021年からCross Countryに転向し、今年の4月のGrand National (G3)ではMinella Timesの2着に入る活躍を見せている。ここでは一頭飛びぬけて高いレーティングを持っており、ここでも11st12lbのトップハンデを背負っていた。これに次ぐ斤量はBack On The Lashの10st6lbで、実に7頭もの馬がLong Handicapと算出されている。従って、一頭悲しみの11st12lbを背負ったBalko Des Flosを除けば、せいぜいLimited Handicap競走のような条件となっている。
Diesel D'Allierは元々フランスのPauを中心にCross Countryで頑張っていた馬で、2017年には11月のGlenfarclas Cross CountryでUrgent De Gregaineを破って勝利をあげている。さすがにEasyslandを始めフランスCross Countryのトップクラスでは足りないようであったが、今年からイギリスのRichard Bandey厩舎に移籍し、ここ2戦ともこのCheltenhamのCross Countryに参戦している。初戦は3着と惜しいレースで、今回はその雪辱を晴らす勝利であった。前走から変わらず10st2lbで参戦で来たことはこの馬にとっては大きかったようで、レース運びとしてはさすがのCross Country Specialistといったところだが、イギリス・アイルランドにはCross Country競走は少なく、今後のレース選択はやや気になるところである。2019年にWelsh Grand National (G3)を制したPotters CornerはこれがCross Country3戦目で、ようやくここにきて飛越の形を作れてきたようだ。Jack TudorはConditional Jockeyであるため9st11lbと斤量的には恵まれたが、それ以上にCross Countryの飛越に慣れてきたことが収穫である。アイルランドのPlan of Atttackは前半に飛越にもたついて後方に遅れたことが痛かった。3着と良く差を詰めているだけに、飛越に慣れてくれば逆転まであるだろう。遡ればNeville Hotels Novice Chase (G1)でDelta Workの2着のあるMortalはこれが初めてのCross Countryであったが、非常に収穫のある4着。近走はChaseでさっぱり不振に陥っていただけに、これが浮上のきっかけになって欲しいところ。11月のGlenfarclas Cross Countryを勝ったBack On The Lashは3lbの斤量の増加が響いたのか今回はやや遅れての5着で、レース内容的にはそこまで勝ち馬と差はなさそうだ。14歳のBallyboker Bridgeはさすがにスピード能力の面で遅れ8着。Balko Des Flosも後方から押し上げるレースをしたのだが、さすがに11st12lbは厳しかったようだ。PunchestownのCross CountryでShady Operator相手に2着に入ったMidnight MaestroはどうにもCheltenhamの障害に慣れていないような飛越で、さっぱり良いところはなく大敗した。
12/11(土)
Cheltenham (UK) Good to Soft (Good in places)
〇 Racing Post Gold Cup Handicap Chase (G3) 2m4f127y (Replay)
1. Coole Cody J: Adam Wedge T: Evan Williams
前半からSiruh Du Lacを制して強引にハナに行ったCoole Codyが軽快に飛ばすと、そのままぴったりとついてきたMidnight Shadowを振り切り勝利した。2着には最後追いこんできたZanzaが入った。
Coole Codyは今年10歳となる馬だが、実にここ9戦のうち8戦がCheltenhamであり、今年の10月のシーズン初戦こそHurdleで一叩きを試みているが、それ以外はほぼ20f Chaseばかりを使っている。前走のPaddy Power Gold Cup (G3)は先頭でコーナーを回ってくるも残り2障害で落馬におわっており、その雪辱を晴らす勝利となった。先手を取ってしぶとく走るのはこの馬の芸風であり、Cheltenham直線の坂でも止まっていない辺り、このコースに対する適性は高いのだろう。ZanzaはここまでG3クラスであまり良いところはなかったのだが、ここにきて初の好走。Paddy Power Gold Cup (G3)を勝ってきたMidnight Shadowは4lbの増加で挑んだが、最後はやや根負けするような3着に終わった。人気のFusil Rafflesは途中でミスもあったが伸びきれず4着。前走のPaddy Power Gold Cup (G3)で浮上の兆しを見せたLalorも人気になっていたが、好位から進めるも最後脱落して6着に終わった。前走のPaddy Power Gold Cup (G3)で4着に入ったDostal Philは前半に故障を発生、残念ながら助からなかったそうだ。
〇 Albert Bartlett Novices' Hurdle (G2) 2m7f213y (Replay)
1. Blazing Khal J: Donal Mclnerney T: Charles Byrnes
Current Mood、Barony Legendなどが前に行く展開も、最終障害手前から進出してきたBlazing Khalがそのまま抜け出すと、Gelino Bello以下に4馬身差をつけて勝利した。
この時期の24fのNovice Hurdleというのはどうしても使ってくる馬も少なく、またレース経験のある馬も少なかったりと、水準の面でいまいち信用しきれない部分がある。このレースも過去にはUnowhatimeanharry、Coneygreeといった名馬も出しているのだが、その一方で勝ち馬含めて出走馬全てその後はさっぱりな年もあったりする。Blazing Khalはこれで4連勝、Hurdleは3戦3勝とした。前走も同じGelino Belloが2着というのは若干微妙な感もあるのだが、途中でややミスはあったとはいえ、終いの伸び脚は目立っていたことを考えると、単なる完成度の高さで浮上したものではないだろう。Gelino BelloはまたしてもBlazing Khalに水を空けられる2着。
〇 International Hurdle (G2) 2m179y (Replay)
1. Guard Your Dreams J: Sam Twiston-Davies T: Nigel Twiston-Davies
レースはHeaven Help Usを制してWilde About Oscarが逃げるも、残り3障害辺りからGuard Your Dreamsが先頭に。ここに持ったままでHunters Callが接近するが、ここからGuard Your Dreamsが抵抗。外から差を詰めるHunters Call、さらに後方から猛然と追いこんできたSong For Someoneを凌いでGuard Your Dreamsが勝利した。人気のSceau Royalはさっぱり伸びず6着まで。
Guard Your Dreamsは昨シーズンのMersey Novices' Hurdle (G1)の3着馬で、当時の勝ち馬My Drogoはこの日のCheltenhamのNovice Chaseで非常にいい勝ち方を見せている。前走のCoral Hurdle (G2)は比較的ゆったりとしたペースからBuzzのスピードには敵わず3着に終わっていたが、今回は積極策で結果を残した。11st0lbと比較的軽量のハンデに恵まれた感はあるのだが、まだ5歳と若い馬で、どちらかというと積極的にレースを動かしていった方が良いのだろう。Wind Surgery後の2戦目で、昨年のこのレースの勝ち馬Song For Someoneはどうにも道中ズブいところを見せていたのだが、最後は差を詰めて2着に来た。昨年のこの時期は重賞2連勝と結果を残していた一方、今年はどうにも勝ち切れてはいないのだが、ノドの状態さえよければ今後も期待できるだろう。どうにも道中レースに参加しきれていないようなところもあり、距離的には20fの方がよさそうな印象がある。11歳馬Hunters CallはここまでG2クラスの経験はないのだが、まさかの見せ場十分の3着。今シーズンはWind Surgery後にクラス2を11st8lbを背負って快勝したりと調子は良さそうだ。昨シーズンはRoyal Bond Novice Hurdle (G1)を勝つなど、アイルランドの16f Novice Hurdle路線で活躍したBallyadamは久々のHurdleであったが、どうにも引っかかるところが目立ち大敗。Chaseでは飛越の拙さが目立っていた馬だが、どうにもGordon Elliott厩舎のごたごたの影響で転厩してからリズムが狂っているような印象がある。人気のSceau Royalは案外な大敗だが、今シーズンはこれで4戦目、前走はNewcastleのFighting Fifth Hurdle (G1)で僅差の3着に頑張った疲労もあったのかもしれない。
Doncaster (UK) Good to Soft (Good in places)
〇 December Novices' Chase (G2) 2m7f214y (Replay)
1. Threeunderthrufive J: Adrian Heskin T: Paul Nicholls
ゆったりとFantastikasが逃げるも、残り4障害辺りから前に出たThreeunderthrufiveがそのまま勝利した。ThreeunderthrufiveはこれでChaseは4戦3勝とした。Hurdleでは4月のPerthでListed勝ちがあるくらいで、ここまで集中的に24fばかりを使っているのが特徴である。どうにも今回は3頭立てで慎重なレースになっており、全体的に飛越に細かいミスも目立った。クラス3を勝ってきたばかりのFantastikasもやはりミスが多く認められた。HurdleではRendlesham Hurdle (G2)勝ちのあるEmitonはこれが2シーズン目となるChaseだが、どうも慎重な飛越が目立っており、Fantastikasを捉えきれず3着に終わった。
〇 Summit Juvenile Hurdle (G2) 2m128y (Replay)
1. Knight Salute J: Paddy Brennan T: Milton Harris
Porticelloが逃げる展開も、最終コーナーの辺りからImpulsive One以下が接近。最終障害を越えてKinight Saluteが前に出ると、再度盛り返してきたPorticelloを制して勝利した。僅差の3着にはImpulsive Oneが入った。
Knight SaluteはこれでHurdleは4戦4勝とした。元々平地を走ってきた馬ということもあり、やはりこのような瞬発力勝負では一日の長がある。最終障害の飛越でPorticelloを交わして前に出るような巧さもあり、現時点のJuvenile Hurdleでは比較的完成度の高い障害馬と考えてよいだろう。前走WetherbyのListedを勝ってきたPorticelloは惜しい2着で、最終障害を越えたあとに進路を切り替えす不利があったことを考えると、勝ち馬とそう差はないだろう。むしろ経験値が少ない分、こちらの方が伸びしろがあるかもしれない。アメリカ産馬Impulsive OneはWind Surgery明けであったが3着に食い込んだ。この馬も比較的フラットの経験が長く、Hurdleは4戦目と経験を積んでいる。父Union RagsはアメリカBelmont Stakes (G1)の勝ち馬だが、まだ殆ど障害馬の父としての実績はない。さらに母父Lonhroはオーストラリア産馬で、障害馬の母父としての実績はない。イギリス障害競馬においては少々変わった出自の馬として少し注意しておいた方がいいかもしれない。
その他
〇 Robbie Dunne banned for 18 months for bullying and harassing Bryony Frost (Racing Post)
〇 Read panel's damning verdict on Robbie Dunne's bullying of Bryony Frost (Racing Post)
〇 As it happened: Robbie Dunne disciplinary hearing chronology (Racing Post)
先日来話題となっているRobbie Dunne騎手のBryony Frost騎手に対する一連の嫌がらせについて、Robbie Dunne騎手に対して厳しいペナルティが課されることになった。Robbie Dunne騎手は2020/21シーズンは計44勝を上げたイギリスの障害競馬の一線級で活躍するジョッキーの1人であり、目立つタイトルとしては2015年にScottish Grand NationalをWayward Princeで制している。当然その行いは許されるものではないが、このような形でその姿を障害競馬で見られなくなることは残念である。
〇 Ruby Walsh: The weighing room has "stopped working” (Racing TV)
上記の件に関するRuby Walsh、Neil King、Venetia Williamsなどといった関係者の見解を示した記事。