にげうまメモ

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20/03/13 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

Cheltenham Soft (Good to Soft in places)

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Cheltenham Festivalの最終日、Gold Cup Day。夢のような時間が過ぎるのはあっという間である。この日はチケット代が他の日よりも高く、ついでに微妙にドレスコードの面も厳しくなる。年明け辺りからはずっと悪天候続きで、Cheltenham Festival期間中も心配された天候はなんとか最終日まで持ちこたえたようで、馬場は前日と変わらずSoft (Good to Soft in places)で行われた。また、新型コロナウイルス感染症の影響で、アイルランドやイギリスの一部でも無観客開催が広まりつつあるが、Cheltenham Festivalに関してはひとまず4日とも無事に開催されたのは喜ばしいことだろう。もっとも、これからその影響が出てくる可能性は否めないのだが。

 

 

JCB Triumph Hurdle (G1) 2m179y (Replay)


1. Burning Victory J: Paul Townend T: Willie Mullins

2. Aspire Tower J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

3. Allmankind J: Harry Skelton T: Dan Skelton

7. A Wave of the Sea J: Barry Geraghty T: Joseph O'Brien

8. Solo J: Harry Cobdon T: Paul Nicholls

U Goshen J: Jamie Moore T: Gary Moore

Hurdle3戦3勝、そのいずれもが大楽勝で挑んできたGoshenが人気になっていた。前半からAllmankindが元気よく飛ばす展開だが、これにGoshenが絡んでいく。下り坂で一気に加速を掛けたGoshenは後続を突き放し、一時は10馬身差に近い決定的な着差をつける。しかし最終障害で躓くとまさかの落馬。代わってAllmankindが先頭に出るも、後方から忍び寄ってきたBurning Victoryがこれを差し切り勝利した。2着にはAspire Towerが復活していたようだ。

Goshenは障害馬としては筋肉質でパワフルな馬体から繰り出される天性のスピード能力で、ここまで圧倒的なレースを見せてきた馬。気性的に前向きでやや飛越技術に難があるのはGary Moore調教馬としては良くあることなのだが、それ以上に今回も素晴らしい加速力とスピードの絶対値を見せた。落馬は完歩合わせを間違えたもので不運としか言いようがなく、これは勝ったWillie Mullins調教師をはじめ、各所からJamie Moore騎手や関係者へのねぎらいの言葉が向けられている通りである。逃げたAllmankindはChepstowのCoral Finale Juvenile Hurdle (G1)で他を圧倒してきたスピード能力の高い馬で、かつCheltenhamのような起伏の激しいコースへの適性も高い。Allmankindのペースをスムーズに追走し、かつ下り坂を利して一気に加速し後続を突き放すレース振りは、このハイレベルなメンバーに入っても明らかに能力が一枚上であったと言ってよいだろう。落馬地点で後ろ脚の蹄鉄が前脚に引っ掛かっているようにも見えるのだが、ひとまず調教師からは特段の故障はないとのこと。帰ってきたJamie Mooreは見ていて可哀そうになるくらいにがっくりと肩を落としており、なんとか次でいいことがあって欲しいところである。

牝馬Burning VictoryはこれがHurdle2戦目であったが能力を見せた。Nathanielはどちらかというとここまで平地馬を多く出しており、障害での活躍馬は比較的珍しい。Paul Townend騎手の騎乗としては昨日のBacardysとほぼ同様のもので、Goshenが前に行った馬を潰した展開も向いたと思われる。もっとも、前走は重賞勝利とはいえ、Hurdleデビュー戦の馬が多数を占めるレースでさほど水準としては高くなかったことを考えると、Goshenの落馬による棚ぼたで、かつPaul Townend騎手の腹をくくった騎乗がハマったとはいえ、いきなりこれほどのレースをやってのけたことはやはり評価しなければいけないだろう。2着のAspire Towerは終始飛越がいまいちで、ミスをしては巻き返すというロスの多い競馬をしていたのだが、それでも頑張って2着まで来た。あの飛越で2着まで来るのだからやはり能力は高いのだろう。最終障害の落馬と言えばこの馬もまた前走のTattersalls Ireland Spring Juvenile Hurdle (G1)でやらかしており、飛越技術についての向上が望まれる。

Chepstowで爆走してきたAllmankindは自分の競馬をしたのだが、最後は苦しくなっての3着。積極策はこの馬の戦術だが、今回はそれ以上に相手が強かった。そのTattersalls Ireland Spring Juvenile Hurdle (G1)を勝ったA Wave of the Seaは良いところなく大敗。フランスからの移籍馬で、KemptonのAdnis Juvenile Hurdle (G2)を楽勝してきたSoloは好位から進むも、残り2障害辺りから脱落して大敗した。KemptonとCheltenhamではコース形態が違いすぎるため、KemptonでのパフォーマンスはCheltenhamに繋がりにくいというところがある。それにしてもこのレースで唯一の近年イギリスやアイルランドで活躍しているフランス障害競馬の出身馬であったのだが、今回は残念なパフォーマンスであった。

 

County Handicap Hurdle (G3) 2m179y (Replay)

1. Saint Roi J: Barry Geraghty T: Willie Mullins

2. Aramon J: Paul Townend T: Willie Mullins

今年のCheltenham Festivalにおいて絶好調のBarry Geraghty騎手の騎乗するSaint Roiがするすると中段から抜け出してくると、そのまま競り合う後続を一気に4馬身ほど突き放して勝利した。11st11lbのAramonが2着に入ったが、例によってPaul Townend騎手は先ほどのBurning Victoryと同じようなレースをしていた。

 

Albert Bartlett Novices' Hurdle (G1) 2m7f213y (Replay)


1. Monkfish J: Paul Townend T: Willie Mullins

2. Latest Exhibition J: Brian Cooper T: Paul Nolan

3. Fury Road J: Davy Russell T: Gordon Elliott

4. Thyme Hill J: Richard Johnson T: Philip Hobbs

13. Ramses De Teille  J: Tom Scudamore T: David Pipe

PU Cat Tiger J: Mr David Maxwell T: Paul Nicholls

PU Lieutenant Rocco J: Harry Cobdon T: Colin Tizzard

Monkfish、House Island、Oscar Academyなどが引っ張るも馬群は密集して進行。残り3障害の辺りでは馬群はほぼ一段となり、ここからMonkfish、Latest Exhibiton、さらにFury Roadが抜け出してくる。外を回ってThyme Hillが進出しこの集団に加わろうとするも、進路がなく内へと切り替えるロス。抜け出してきたMonkfish、Latest Exhibiton、さらにFury Roadの叩き合いは、真ん中のMonkfishに軍配が上がった。

MonkfishのPaul Townendは好位の内目にいるのだが、コーナーではするすると馬群を抜けてくるとそのまま外へと進路を取っている。さらに、Davy RussellのFury Road、Brian CooperのLatest Exhibitonもまたスムーズに加速するために進路を確保しつつ、抜けてきたMonkfishと同様の進路どりで外へと切り替えている。この3頭が外へと膨らんだ結果、一見スムーズに外を回って進出してきたThyme Hillは進路がなくなり、何度か進路を切り替えざるを得なくなった。Thyme Hillは一度はLatest ExhibitonとMonkfishの間を割ろうとしてMonkfishが外に膨れたためにこの進路を諦め、さらにMonkfishの内に潜り込もうとするも、最終障害を越えてFury Roadが思いっきりMonkfishへ合わせに行ったためにこの進路も諦めて、結果的にFury Roadの内へと潜り込んでいるのだが、幾ら何でもこれだけロスがあると最後は馬も脚を無くしている。Thyme Hillは24fはこれが初であり距離不安があったとはいえ、それ以上にこのロスが大きく響いたことによる敗戦だろう。ちなみにMonkfishのPaul Townend騎手はこの進路取りが問題視され、4日間の騎乗停止処分を受けている。

Monkfishは元々PTP出身の馬で、ここまでFairyhouseのMaiden、ThurlesのNoviceを圧勝した程度の実績しかないのだが、見事なレースを見せた。途中で大きなミスがあり、Paul Townend騎手の好騎乗に助けられた面は大きいのだが、それでも初の大舞台でこのレース振りは褒めるべき内容だろう。LeopardstownのNathaniel Lacy & Partners Solicitors '50,000 Cheltenham Bonus For Stable Staff' Novice Hurdle (G1)とかいう長ったらしい名前のレースを勝ってきたLatest Exhibitonは惜しい2着で、内容としては勝ちに等しいもの。同レース4着のFury Roadもまた惜しいレースを見せた。Grand Nationalにも登録があり、HaydockのPrestige Novices' Hurdle (G2)を勝っているRamses De Teilleeは途中までは好位で進めるも、勝負所から後退して大敗に終わった。飛越技術とスピードの持続性能という面では素晴らしいものを持った馬で、そもそも飛越技術が怪しく体力的な面でも目指せ完走的な側面のある24f Novice Hurdleのある程度の相手であればこのアドバンテージで圧倒できるのだが、さすがにここに入るとスピード面で厳しかったかもしれない。大目標は明らかにGrand Nationalであり、馬は元気そうなのでこれで十分だろう。フランスで実績のあるCat Tigerは見せ場を作れなかったが、幾ら何でも後方の内というポジションにいてはどうしようもない。おそらくこれからChaseに転向することが想定され、フランスSteeplechaseの実績を考えればChaseで期待したい馬である。

 

Magners Cheltenham Gold Cup Chase (G1) 3m2f70y (Replay)

1. Al Boum Photo J: Paul Townend T: Willie Mullins

2. Santini J: Nico de Boinville T: Nicky Henderson

3. Lostintranslation J: Robbie Power T: Colin Tizzard

4. Monalee J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

5. Delta Work J: Mark Walsh T: Gordon Elliott

6. Real Steel J: Brian Hughes T: Willie Mullins

7. Kemboy J: Mr Patrick Mullins T: Willie Mullins

8. Clan Des Obeaux J: Harry Cobdon T: Paul Nicholls

9. Bristol De Mai J: Dary Jacob T: Nigel Twiston-Davies

10. Chris's Dream J: Aidan Coleman T: Henry de Bromhead

11. Elegant Escape J: Jonjo O'neill Jr T: Colin Tizzard

F Presenting Percy J: Davy Russell T: Patrick Kelly

本日のメインレース。連覇を狙うAl Boum Photoが人気の中心になっていたが、対抗角にイギリスの新星Santini、アイルランドでG1を2連勝してきたDelta Workなども挙げられ、混戦模様を呈していた。レースは内からKemboyが先頭を伺うも、これを制して第2障害で加速を掛けたBristol De Maiが先頭に。内から上がってきたElegant Escapeと並んで引っ張る。Monaleeなどが好位から。Al Boum Photoは中段の外につける。馬群は密集して進行するも、2周目から好位にいたMonaleeがElegant EscapeとBristol De Maiの間を割って先頭に。さらに残り6障害辺りで加速を掛けたAl Boum Photoがするすると外から進出すると、残り4障害の段階でMonaleeを内に閉じ込めて先頭に。これに内からSantini、外からLostintranslationが並んでいく。残り3障害地点から一気に後続が殺到し、外からReal Steel、Chris's Dreamも進出。しかしぴったりと合わせて行くLostintranslationに対して先頭を死守したAl Boum Photoがこれらを振り切ると、最後は外に切り替えて伸びてきたSantiniを振り切って勝利した。3着にLostintranslation、4着にMonaleeと続いた。

CheltenhamのNew Courseは非常に起伏が大きくタフなコースで、残り6障害の辺りを頂点に少しずつ下り坂となり、急なカーブを回った直後の最後の直線には急な上り坂が待ち構えている。Al Boum Photoは不利を受けずに外々を回ったのはともかくとしても、丘の頂上となる残り6障害辺りから少しずつ前に取りつき、下り坂が始まる残り4障害あ辺りから前に出て当面のライバルとなるMonaleeを封じ込めると、そのままスムーズに加速してゴールまで我慢しきるという、このCheltenhamのタフで特殊なコースにおける最高のレース運びをやってのけた。もともと機動力とスピードの持続性能に優れた馬だが、ここに来てそのレース運びには円熟味が増しており、かつてPunchestownにてこの馬に騎乗した際に謎の障害手前の逸走をやらかしたPaul Townend騎手とも息が合っている。それにしても、イギリス競馬における最高のサーキットであるCheltenhamの競馬場で、イギリス・アイルランド障害競馬最高のメンバーと騎手が揃った、この至高の音楽の如きレースの中で主役を演じきったことは、Paul Townend騎手の技術と勝負勘、Al Boum Photoの飛越技術やスピード、精神力、持久力、全てが揃っていて初めて実現できたものであろう。障害競馬としての完成の域に達した、美しいレースであった。動くべきタイミングで、いるべきポジションで、必要なすべての要素を持ち合わせた人馬が勝利した、Cheltenham Festivalのメインレースに相応しいレースであった。

Novice上りのSantiniは惜しいレースであった。もともとCheltenhamにおいて必要なロングスパート能力に長けた馬だが、とにかく今回は直線でLostintranslationに進路をふさがれ、外に切り替える不利があったことが痛すぎた。Kauto Star Novices' Chase (G1)にてLa Bague Au Roiに圧倒されていたように、Kemptonのような単純なコースだと加速がかかり切らないきらいもあり、また、どちらかというと左回りの方に適性があるようにも感じる。馬場としてももう少し渋った方が良いだろう。昨年のBetfair Chase (G1)にてHaydock Parkでは尋常ならざる強さを誇るBristol De Maiを下したLostintranslationもまた完璧なレース運びを見せたが、最後はAl Boum Photoに振り切られての3着。King George VI Chase (G1)の後にWind Surgeryを行っており、幸いにしてその影響はなさそうなのは歓迎すべき内容だろうが、Al Boum Photoに対してはワンパンチ足りなかった。Rachael BlackmoreのMonaleeもまたPaul Townend騎手と同様に発想で臨んだが、勝負所で遅れAl Boum Photoに前に入られたことが致命的となった。最後はSantiniと並んで追い上げているだけに、この辺りはレース運び一つで逆転の可能性があるだろう。

LeopardstownにてSavills Chase (G1)、Irish Gold Cup (G1)と連勝してきたDelta Workは5着まで。昨年のRSA Chase (G1)でも下り坂で加速を掛けたTopofthegamesの3着に敗れているように、下り坂を利した加速力という点では若干微妙な点も残る。また、終始馬群の中に入って動きにくそうにしており、こればかりはポジション取りのミスだろう。本来ロングスパート能力に長けた馬であり、今回はこの馬の実力を出し切ったようには思えない。Punchestownに戻って期待したい。外から物凄い脚で捲ってきたのがReal Steelで、20fで高いスピード能力を見せていたこの馬のやるべきことはやったレースである。最後はさすがに遅れたが、やはりこれは距離の問題だろう。後方からぽつねんと進め、イチかバチかでこの馬の加速力に賭けたBrian Hughes騎手の騎乗は決して間違っていない。昨シーズンは24f Chase路線で活躍したKemboyは終始リズムが悪く、最後は前とはかなり離れた7着に終わった。行きたがって走る馬だけに前に行きたかったようだが、どうにも飛越のリズムが悪く気が付けば後方まで遅れていた。King George VI Chase (G1)を圧勝したClan Des Obeauxも全く走らなかったが、おそらく左回りがというよりはCheltenhamが合わないのだろう。Red Mills Chase (G2)を勝ってきたChris's Dreamも自分のレースはしたが、今回は如何せん相手が強かった。Bristol De MaiもHaydock Parkでなければこんなものだろう。細かい加速が云々というよりは、パワーのあるストライドの持続性能に長けた馬で、やはりHaydockの不良馬場はこの馬にとっての聖域なのである。Elegant Escapeは案の定スピード負けした。新進気鋭の若手騎手Jonjo O'Neill Jrの先行策はこの馬のタフネスを最大限に生かす先方ではあるのだが、やはりこのメンバーでこの良馬場では手も足も出ない。Bristol De Maiと同様の性質を持った馬で、最後までバテずに頑張っている。不良馬場の超長距離戦で期待したい。もったいなかったのがPresenting Percyで、終始馬群の中の狭いところにいた上に、残り2障害地点でも飛越にスペースがなく、最終的には落馬に終わった。

 

〇 Martin Pipe Conditional Jockeys' Handicap Hurdle (C2) 2m4f56y (Replay)

19. Big Blue J: Luca Morgan T: Ciaron Maher

オーストラリア調教馬のBig Blueが参戦していた。前半からゆったりと先頭を走るも、残り3障害辺りから苦しくなると、そのまま後退し大敗に終わった。前走の段階でややスピードの持続性能の面で苦しいことはわかっており、前走と比較するとメンバーは弱化していたとはいえ、やはりCheltenhamのタフなコースと距離延長は苦しかったのだろう。それよりも関係者がCheltenham Festivalに感動して、ここに馬を連れて来ようと決意、オーストラリア障害競馬において実績を残していた同馬をはるばるオーストラリアからイギリスに滞在させ、自身の夢を実現した熱意に敬意を表したい。