にげうまメモ

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24/03/12 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

3/12(火)

Cheltenham (UK) Soft (Heavy in places)

Supreme Novices' Hurdle (G1) 2m87y (Replay)

1. Slade Steel (IRE) J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

Cheltenham Festival1日目。レースは人気のTullyhillが前に行くも、これにKielan WoodsのTellherthenameが絡んでいき、2周目あたりからは先頭に立つ構えを見せる。下り坂の辺りから後続が殺到し内にいたTullyhillが抵抗するも、直線を向いてやや外を回ったSlade Steelが抜けてくる。さらに外から伸びたMystical Powerが最終障害の地点では一瞬前に出るも、ここから内で抵抗したSlade SteelがMystical Powerを振り切って勝利した。

TullyhillはここまでPunchestownのListed戦で強い競馬を見せた馬ではあるのだが、これにここまで逃げる競馬で結果を残してきたTellherthenameが絡んで行くことでだいぶ展開的には苦しくなったようだ。馬場もだいぶ重くなっていたようで馬群の中に入ると消耗が大きくなるレース条件となっていたと思われるが、Slade Steelは好位の外で不利を受けずにスムーズに運び、かつ途中からTullyhillの外に出ていったTellherthenameのプレッシャーを受けないというRachael Blackmoreの好騎乗もあった。Slade Steel自身はLeopardstownのTattersalls Ireland Novice Hurdle (G1)ではBallyburnの2着に敗れていた馬で、スプリント能力で一瞬前に出たMystical Powerを差し返したここでのレース運びを考えるとシンプルな16f Hurdleの馬というよりはChaseへの転向か、距離が伸びてより良さを発揮するタイプのように思われる。このSlade Steelとは対照的に馬群を縫って出てきたのがAnnie Powerの産駒のMystical Powerで、序盤は無理をせずに運んだとはいえ、そこから抜け出してくる際のレース運びのロスの大きさを考えると、ここまであまり厳しいレースをしたことがないこの馬にとってはなかなか収穫のあるレースであったと思われる。一瞬は抜け出すくらいのスピードを見せており、単に血統的に良い馬という以上にこの路線で楽しみな馬になりそうだ。

Jack KennedyのFirefoxは馬群の中から抜けての3着。この馬場で内から抜けてくるのはそれなりのロスがあったものと考えられ、もう少しスムーズに運ぶことが出来ればもう少し前に接近することができたかもしれない。190センチを超える長身のThomas Costello騎手とのコンビで話題を集めたAsian Masterは外を立ち回るも最後は脱落しての4着で、さすがにRachael Blackmoreよりも一枚外を立ち回っているようではここで勝負に加わるのは厳しかったようだ。内から抜けてきたMistergifは5着まで。Supasundaeの半弟Supersundaeは後方からのレースで、これがフランスからの移籍初戦、フランスでも特段目立ったところがない馬のレースとしては頑張った方だろう。父は実績のある種牡馬Authorized、さらに名門Willie Mullins厩舎と背景的には立派な馬で、一花咲かせることができることを期待したい。Nicky Henderson厩舎のAQPSであるJeriko Du ReponetはここまでイギリスではSupreme Trial Rossington Main Novices' Hurdle (G2)を含め3戦3勝と結果を残し、ここでもイギリス勢の一角として期待されていたが、中段の内から進めるもそこから後退し、途中棄権に終わった。

 

Arkle Challenge Trophy Novices' Chase (G1) 1m7f199y (Replay)

1. Gaelic Warrior (GER) J: Paul Townend T: Willie Mullins

Gaelic Warriorが16fに距離を短縮してきたことで話題になっていた。レースは第2障害で早々にMaster Chewyが落馬。Sam Twiston-DaviesのMatataが元気に引っ張るも、好位にいたFound A Fiftyが残り2障害辺りから先頭に。しかしこれに手ごたえよく接近したGaelic WarriorがそのままFound A Fiftyを突き放して勝利した。

Gaelic Warriorは3度目のCheltenham Festival参戦での勝利とした。アイルランド移籍初戦で挑んだBoodlesではBrazilに足下を掬われ、昨年のBallymore Novices' Hurdle (G1)ではImpaire Et Passeの2着に終わっているが、ここまでの成績を考えれば勝ち切れていないことが不思議なくらいの存在で、待望のタイトルといったところだろう。Hurdleでは24fのIrish Mirror Novice Hurdle (G1)を勝った馬で、前走はLeopardstownの20f戦であるLadbrokes Novice Chase (G1)に参戦していたのだが、2頭立てとなったFact to Fileに対して元気よく進めるも、終盤に脱落し落馬に終わっている。今回は16fへと距離を短縮してのレースであったが強い競馬を見せた。ここまで20~24fを使われることが多かったのだが、前走でかなり積極的にレースを運んでいたこと、ここでもある程度締まったペースをきっちり追走していたことを考えると、現時点ではこのくらいの距離の方がかえって良いのかもしれない。Found A FiftyはここまでRacing Post Novice Chase (G1)での勝利をはじめアイルランドの16f Novice Chaseではトップクラスの活躍を見せていた馬で、今回もJack Kennedy騎手がこの馬のスピードを存分に生かすレースを見せていた。Found A Fiftyとしてはこの馬のやることをやり切った結果であり、このレースでGaelic Warriorにこれだけ突き放されてしまったということを考えると、今回はさすがに勝ち馬を褒めるしかなさそうだ。

Irish Arkle Novice Chase (G1)でFound A Fifty相手に穴を開けたIl Etait Tempsは3着まで。途中で何度か飛越にミスがあったが、基本的にCheltenhamのように起伏を生かして展開に乗ることが必要なコースは本質的には合わないように思われる。飛越のミスがありながらもFound A Fiftyに4馬身まで迫っていることは褒められる内容で、コースが変わればまたどこかでチャンスはありそうだ。イギリス勢として最先着を果たしたのが4着のMatataで、Sam Twiston-Davies騎手がこの馬のペースで運ぶことでアイルランドの強豪相手に見せ場を作った。ただしイギリス勢としても実績的にはだいぶ見劣るこの馬が気楽な騎乗でイギリス勢最先着というのはさすがに寂しいものがある。Hurdleの実績馬として期待されたQuilixios、イギリス勢の実績馬として期待されたJpr Oneはさっぱりいいところなく大敗に終わった。

 

Ultima Handicap Chase (Premier Handicap) 3m1f (Replay)

1. Chianti Classico (IRE) J: David Bass T: Kim Bailey

Fergal O'Brien厩舎のベテランHighland Hunterが積極的に運ぶ展開も、残り3障害辺りから好位にいたChianti Classicoが先頭に。最終障害で小さなミスがあるも、そのままTwig、Meetingofthewatersなどを振り切って勝利した。

Chianti ClassicoはChaseでは4戦3勝とした。今シーズンからNovice Chaseを使っている馬で、HurdleではNovice戦でのレースは早々に卒業し、その後Class3のHandicap戦の勝利がある。Shantou産駒らしくパワーを生かしてしぶとく走り続ける持久力が武器のようで、基本的にはHandicap戦線においてしぶとさを生かすレースが主になるだろう。11st4lbを背負っての勝利というのはなかなか価値があるもので、Novice馬でかつ7歳と若い馬だが引き続き期待したい。昨年の夏にUttoxeterのSummer Cup (Class2)を勝ったTwigが2着。実績的にはどちらかというと良馬場の方が良さそうなのだが、このレースから馬場はHeavy (Soft in places)に代わっており、この馬場をこなすことが出来たことはこの馬にとっては大きい。上位馬の中で最も斤量を背負っていたのが3着のMeetingofthewatersの11st8lbで、どうやらこの馬はAintreeのGrand Nationalにも登録があるようで期待したい。昨年のScottish Grand National (Premier Handicap)の勝ち馬Kitty's Lightは7着まで。この馬は基本的に良馬場ならではの馬で今回の馬場は気の毒だったと思われるが、どうにも今シーズンはいいところがないのが気になるところである。昨年Munster National (G3)を勝ったGevrey、Minella Crooner、Run Wild Fred、Lord Du Mesnilなどの実績馬はいいところなし。2021年にLondon Nationalを勝利し、先日行われたKeagan Kirkbyの葬儀で先導役を務めたHighland Hunterは積極的にレースを進めたが、残念ながらレース後に心血管系のトラブルで亡くなったそうだ*1

 

Champion Hurdle Challenge Trophy (G1) 2m87y (Replay)

1. State Man (FR) J: Paul Townend T: Willie Mullins

Constitution Hillの回避でアイルランド16f Hurdle路線にて無敵を誇るState Manが一本被りのような下馬評となっていた。レースは12歳馬Not So Sleepyがやや引っかかり気味に前に行く展開で、この内からNemean Lionが並んで前に行く形となる。State Manは好位のポケットから。残り3障害辺りから好位の外にいたIrish Pointが前に出るも、さらに外に回して進出したState ManがIrish Pointを振り切って勝利した。

メンバー的には下馬評としてほぼState Man一強状態のような面々であった影響か、全体的に馬群が密集しIrish PointのJack Kennedy騎手をはじめState Manを閉じ込めるようなレースをしている。State Manはどちらかというとストライドの大きさとスピードの持続性能を生かすタイプのようで、早々にPaul Townend騎手がインを取りに行ったことでかえってマークがきつくなったこの形は本来望ましいレース運びではなかったと思われるが、それでも内容的には完勝のパフォーマンスを見せた。昨シーズンのこのレースではConstitution Hillに完敗の内容であったが、とはいえ今シーズンはだいぶ馬が良くなっているという話があがっており、上記のような強力な包囲網が存在し、ある程度この馬自身もその包囲網に手を焼いたことを考えると、今回Constitution Hillが不在であったことがこの馬の強さや今回の勝利の価値を否定するものではないだろう。シンプルなスプリント勝負でIrish Point以下を完封したことはさすがの内容である。ただし上記のようにインのポケットに入れる形はこの馬本来のレース運びではないことは明らかであり、Paul Townend騎手がこの形にこだわらないことを願いたい。

LeopardstownのChristmas Hurdle (G1)を勝って挑んで来たIrish Pointは見せ場を作っての2着。Jack Kennedy騎手としてはState Manに対して不利なレースを強いる完璧なレース運びを行っており、これを突破されてしまった点については勝ち馬を褒めるしかなさそうだ。ただし前走は24f、今回は16fとどうにも陣営にとって便利にレースに使われていることが気になる点で、おそらくStayers' Hurdle (G1)に出走していても有力視されていただろうという点は残念である。前走AscotのBetfair Exchange Trophy (Premier Handicap)を勝った牝馬Lucciaが3着で、強力なアイルランドの上位2頭に対して唯一肉薄するレースを見せた。Zarak The Brave、Colonel Mustard、Nemean Lionなどは特にいいところなし。12歳馬Not So Sleepyは12歳馬とは思えないほど元気にレースを進めたが、最後は苦しくなって脱落し7着に終わった。追加登録で出走してきたIberico Lordは早々に脱落しての途中棄権となった。

 

Close Brothers Mares' Hurdle (G1) 2m3f200y (Replay)

1. Lossiemouth (FR) J: Paul Townend T: Willie Mullins

Champion Hurdleでも有力視されていたLossiemouthがこちらに回ってきたことで話題を集めていた。レースはTheatre Gloryなどが前に行くも、途中からPatrick MullinsのAshroe Diamondがやや引っかかり気味に先頭に。そのままAshroe Diamondは軽快に運ぶも、残り3障害辺りからTelmesomethinggirlが先頭に。しかしこれを追いかけたLossiemouthが手ごたえ良く抜け出すと、Telmesomethinggirlに3馬身差をつけて快勝した。

Lossiemouthは昨シーズンのJuvenile Hurdleで無敵を誇った馬で、唯一の敗戦としてはLeopardstownのSpring Juvenile Hurdle (G1)でひたすら前が壁になり続けたもののみである。今回は初の20f戦ということでPaul Townend騎手がだいぶ慎重に騎乗していた感があるが、牝馬相手にきっちりと勝ち切って見せた。ただし20fの距離がこの馬本来の適性かどうかはもう少し慎重に検討した方がよさそうで、メンバー的にもあくまで牝馬のHurdleといった面々であったことには留意した方がよさそうだ。アイルランドのTelmesomethinggirlが見せ場を作って2着。2022年のこのレースでは人気を集めるも残り2障害で他馬の煽りを食らって落馬に終わっており、今回はその雪辱を晴らしたかったのだが、残念ながら少々相手が強かった。ただしこの馬もあくまで牝馬相手であればといったところで、Rachael Blackmore騎手が上手くロスなく騎乗したことによる助けもありそうだ。離れた3着にはPunchestownのQuevega Mares Hurdle (G3)を勝ったHispanic Moonが入った。フランスではPrix La Gascogne (G3)での勝利など実績のある馬で、アイルランド移籍後あまりキャリアを重ねておらずここでも人気薄の存在であったが、イギリス・アイルランドのレースに慣れてきたのであれば上がり目はありそうだ。これが引退レースとなったLove Envoiはいいところなく5着。Gala Marceau、Echoes In Rainなどもいいところなし。特にGala Marceauは道中ひたすら前が壁になっており、あの騎乗ではどうしようもないだろう。Ecoes In RainやAshroe Diamondはシンプルに距離が長かったものと思われるが、前者はここ最近調子を落としている感があるところが気になるところである。昨年の夏にはAscotのGold Cupを含め平地競争に参戦しているのだが、これがあまり精神面でもいい方向に出ておらず、夏から連続してレースに使っていることを踏まえるとそろそろ疲労の観点から心配なところである。Marie's Rock、Theatre GloryのNicky Henderson陣営の2頭はいずれも途中棄権。この日はNicky Henderson陣営の馬は何頭か出走していたが、まともに走ったのはChampion Hurdle (G1)のLuccia1頭のみで、他は全て途中棄権というのは心配な材料である。

 

Boodles Juvenile Hurdle (Premier Handicap) 2m87y (Replay)

1. Lark In The Mornin (GER) J: J J Slevin T: Joseph O'Brien

Latin Verse、Bright Legendなどが前に出てくる展開も馬群は例によって固まって進行。最終コーナーから逃げるBright Legendを交わしてAn Bradan Feasaが進出するも、さらに外から出てきたLark In The MorninがEagles Reignを振り切って勝利した。

やはり馬場はだいぶ重くなっているようで、あまり馬群の中に入ってロスの多い競馬をすると終いは苦しくなるようだ。Lark In The MorninはSoldier Hollow産駒のドイツ生産馬で、Hurdleはこれが初勝利とした。ここまでMaidenでは2着が最高と勝ち切れなかったのだが、今回は外を回って来るJ J Slevin騎手の好騎乗もあり結果を残した。レース展開に助けられた部分はそれなりにありそうだが、距離的にはもう少し伸びてもよさそうな印象もある。母父にDeep Impact、母に日本生産馬で未出走のまま繁殖牝馬となったNacreを持つEagles Reignが2着に入った。ここまで平地競争では未勝利、前走のPunchestownのHandicap Hurdleを勝っての参戦であり、ここでは単勝80倍と低評価であったが見せ場を作った。ただしこちらは血統的にはかなり平地色が強く、上位馬の中でも10st8lbと斤量的に恵まれていたことは考慮に入れるべきだろう。Cracksmanの産駒で前走Maidenを勝利したNdaawiが3着。11st12lbと斤量的にはトップハンデに近いものを背負っており、Lark In The Morninから2馬身差というのは立派だろう。フランスから参戦したMilan Tinoは好位の馬群の中で運ぶも、どうにもちぐはぐな競馬でそのまま伸びきれず6着。フランスではListed勝ちのあるNaraは馬群の中から抜け出せず大敗で、これらは勝ち馬とは対照的に展開に泣いた組だろう。Saxon Warrior産駒のPigeon Houseもやはり馬群の中で何もできず。Karia Des Blasisesの落馬によりOse PartirとMordorの2頭が落馬したが、残念ながらOse Partirの方は助からなかったそうだ。

 

Maureen Mullins National Hunt Challenge Cup Amateur Jockeys' Novices' Chase (G2) 3m5f201y (Replay)

1. Corbetts Cross (IRE) J: Mr Derek O'Connor T: Emmet Mullins

伝統のアマチュア騎手限定超長距離戦だが、今年は7頭と小頭数で行われた。2022年の6頭に比べればまだよいのだが、過去には20頭近い多頭数を集め、その勝ち馬からはTiger RollやMinella Rocco、Cause of Causes、Teaforthreeといった強力なステイヤーを送り出していた時代を鑑みると寂しいものがある。レースはつい先日亡くなったMark Bradstock調教師の管理馬Mr Vangoが淡々と引っ張るも、これにApple Awayがついて行く。Apple AwayはMr VangoにプレッシャーをかけていくもMr Vangoはこれに抵抗。しかし残り2障害辺りからものすごい勢いで抜け出したCorbetts Crossが脚の上がった後続を尻目に差を開くと、終わってみれば17馬身差の圧勝とした。2着にはEmbassy Gardensが入った。

Corbetts Crossは昨年のAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)で先頭集団を元気よく進みながらも最終障害で逃避した馬で、今シーズンからChaseに転向していた。ChaseではBeginners Chaseの勝利ののちNeville Hotels Novice Chase (G1)ではGrangeclare Westの2着に入っていた。今回は初の30f戦であったが、他の馬が完全に脚が上がる中、この馬だけは唯一最後までスプリントを掛ける余力が残っており、この超長距離戦への適性を示したということは面白い結果であろう。前走のDevon Nationalでは2着に60馬身差をつけて勝利したMr Vangoのペースということで全体的にかなりゆったりとしたペースで進んだということは否めないが、元々G1戦線でも対応可能なスピードを持った馬が30f戦にこれだけの適性を示したということで、この馬の今後を楽しみにしたい。前走はNaasのFinlay Ford At Naas Novice Chase (G3)を快勝したEmbassy Gardensが2着。やや飛越にもたつく場面はあったが最後はMr Vangoを振り切っており、さすがに今回は勝ち馬を褒めるしかなさそうだ。そのMr Vangoはゆるゆると走って3着。重馬場の超長距離戦をひたすらしぶとく走り続けるステイヤーならではの走りで、あまりペースが速くなると苦しそうだが、条件次第では面白い存在だろう。Hurdleの実績馬としてApple Awayも出走していたが、勝負所から苦しくなり後退。昨年のAmerican Grand National (G1)にも遠征したSalvador Ziggyも勝負所から脱落し途中棄権に終わった。