にげうまメモ

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23/03/06 Velká PardubickáのQualification Raceに関する考察

*Velká Pardubickáの出走条件に関する変更について

Sezóna 2023 bude plná změn (Dostihový spolek)

2023年のVelká Pardubickáにおいては、出走権利の獲得に関する要件が変更となることが発表された。2022年までは年に4回行われるQualification Raceにおいて完走することが出走権利の獲得における条件の一つであり、これは実質的にチェコ・スロバキア調教馬が同レースへの出走権利を獲得するための主要な条件として機能していたが、この要件が見直され、単に完走するのみでは不十分となり、"dotovaném místě"における着順(おそらく5着以内)*1での完走又は勝ち馬から20秒以内での完走に変更となった。なお、Velká Pardubickáの出走資格獲得要件のうち、チェコ国外のCrystal Cup等の競争での要件についても引き続き設定されるようで、これは実質的にチェコ(及びスロバキア)国外調教馬及びチェコ国外(フランス、イタリア、ポーランド等)で活躍するチェコ調教馬(近年ではBrunch Royal、Delight My Fire、Sztormなど)のための要件として機能することが想定される。

Mění se kvalifikační klíč pro start ve Velké pardubické. Platí, že koně musí absolvovat jeden ze čtyř kvalifikačních dostihů v Pardubicích, ovšem podmínkou je dokončení dostihu na dotovaném místě, nebo maximálně s odstupem 20 vteřin od času vítěze. Podmínky vstupu na start Velké pardubické lze splnit také v dostihu seriálu Crystal Cup nebo absolvováním obdobného dostihu na tratích v Irsku, Anglii, Francii a Itálii. Vítěz loňského ročníku Velké pardubické má nárok startovat bez kvalifikace.

ちなみに、2023年のPardubiceの競馬シーズンは上記以外にも大きく変更されており、年に4回行われるQualification Raceのうち6月の競争(2nd Qualification Race)については距離及びコースが通常の5800メートルから延長され、賞金額を大幅に増加し、欧州Cross Country SeriesであるCrystal Cupに含めることが計画されている。2022年のこの競走の総賞金額は400,000 Kč(すなわち約€17,000)であり、これはさすがに最低でも€40,000を確保していたCrystal Cupの他の競争と比べても見劣りしていた*2。しかしながら2023年は総賞金額が1,000,000 Kč(約€42,600)と大きく増額されるようで、他のCrystal Cupの競争と遜色ない賞金額となる。

Velká Pardubickáの過去の出走要件を含む情報については以下のカテゴリーの記事を参照されたい。

チェコ競馬-Velka Pardubicka (にげうまメモ)

なお、これらの変更はチェコ国外からの出走馬の誘致を目的としたものであると想定され、特に世界随一の障害競馬大国であり、かつCross Country大国でもあるフランス調教馬を念頭に置いたものであると考えられる。Velká Pardubickáに向けて、一度Pardubiceの特殊なCross Countryコースを経験することができるのは国外調教馬にとっては大きなメリットになるだろう。Velká Pardubickáは歴史的にチェコ国外の調教馬を集めてきたが*3、近年では2019年にイギリスからDavid Pipe厩舎のRathlin Roseが参戦し、好位から元気に進め勝ち馬からは約3秒差の6着に入っている。また、2017年にはフランスのUrgent De Gregaineが逃げたBridgeurを早々に競り潰し、ゴール寸前まで先頭を走ったシーンは記憶に新しい。新型コロナウイルス感染症の影響もあり近年はチェコ・スロバキア国外からの参戦は実現していないが、2021年のCena LabeにはフランスのBorn To Be A Queenが参戦し、先頭で最終コーナーを回ってくるも最終障害で落馬している。

一方で、この変更は国内調教馬及び競走の質を担保することも目的と考えられ、特にVelká Pardubickáにおける出走馬の質については2022年にJaroslav Myškaからも指摘がされている*4。実質的にQualification Raceにおいては勝ち馬から大きく離された敗戦に終わり、Velká Pardubickáにおいても勝負圏内に食い込む可能性が乏しいにも関わらず、出走権利が取れてしまう状態となっていた。本稿ではQualification RaceにおけるVelká Pardubickáの出走権の獲得状況と、今般の出走条件の変更に際して対象となる馬の内訳について考察する。

 

*Velká PardubickáのQualification Raceにおける出走資格の獲得状況について

以下、チェコJockey Clubのデータベースに基づき、2012~2022年のQualification Raceの統計データを収集した*5。過去11年間において、延べ550頭が出走し、そのうちの完走数は405頭(約73.6%)、競争中止頭数は145頭(約26.4%)であった。なお、2014年のIII. kvalifikace na 124. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnouにおいて7位に入線したTropic De Brionは走路の誤りにより失格とされているが*6、おそらく単にPopkovice turnのあとの走路を誤ったものと思われることから、いちおう完走は果たしたものとして記録した。2012~2022年の各年における平均出走頭数及び競争中止率の推移は以下のとおりである。

Figure 1 2012~2022年のQualification Raceの年別平均出走頭数

Figure 2 2012~2022年のQualification Raceの年別競争中止率(%)

2010年代の中頃は15頭前後の出走馬を集めていたQualification Raceであるが、その後は比較的出走頭数が落ち着く傾向にあり、近年は概ね10頭辺りで推移している。2010年の中頃は3割前後の競争中止率を示していたが、出走頭数が減少した影響か、その後は全体的に完走率が増加する傾向にある。なお、2022年は競争中止率が25%と近年の中では高くなっているが、これは4th Qualification Raceにおいて序盤に複数の重複落馬が発生したことによるものであると思われる*7。また、この年の3rd Qualification Raceにおいてはスウェーデン調教馬のThree Is Companyが出走し途中棄権に終わっているが*8、さすがにスウェーデンSteeplechaseの形態を踏まえると状況的にはかなり厳しいものであったことが想定されることから、本来であればこの馬は除外して考えた方がよいかもしれない。

 

*Velká PardubickáのQualification Raceにて勝ち馬から大きく離されて入線した馬について

2012~2022年のQualification Raceにおいて、勝ち馬から20秒以上離されて入線した馬を以下に示す。なお、以下の走破時計に関する統計情報において、2016年の4th Qualification Race及び2015年の2nd Qualification RaceはチェコJockey Clubのデータベースに走破時計が記載されていなかったことから除外している。

  • 2021年6月26日 7着 Gontchar (FR) タイム差:37.19
  • 2020年7月25日 8着 Vernois (FR) タイム差:24.18
  • 2018年6月23日 9着 Nikas (CZE) タイム差:23.77
  • 2018年8月18日 6着 Mileryt (POL) タイム差:38.90
  • 2018年9月8日 9着 Val De Guye (FR) タイム差:25.36
  • 2017年6月24日 6着 Val De Guye (FR) タイム差:24.88
  • 2017年6月24日 7着 Krocoleon (FR) タイム差:29.34
  • 2017年6月24日 8着 Un Tiep (FR) タイム差:48.11
  • 2017年8月19日 11着 Aucun Soucis (FR) タイム差:24.16
  • 2017年8月19日 12着 Mileryt (POL) タイム差:30.10
  • 2014年6月28日 12着 Budapest (IRE) タイム差:28.34
  • 2013年5月25日 13着 Sešlost (CZE) タイム差:29.09
  • 2013年6月22日 5着 Cabernet (GER) タイム差:21.40
  • 2013年6月22日 6着 Lingarry (FR) タイム差:43.16
  • 2013年6月22日 7着 Ronino (POL) タイム差:43.76
  • 2013年6月22日 8着 Frasini (GB) タイム差:44.81
  • 2013年8月24日 7着 Čmaňa (CZE) タイム差:26.54
  • 2013年8月24日 8着 Zarif (IRE) タイム差:32.06
  • 2012年8月18日 8着 Universe of Gracie (GER) タイム差:20.31
  • 2012年8月18日 9着 Ready For Smile (CZE) タイム差:22.36
  • 2012年8月18日 10着 Cabernet (GER) タイム差:25.97
  • 2012年9月15日 11着 Soros (POL) タイム差:20.82

2012~2022年のQualification Raceにおいて、勝ち馬から20秒以上遅れて入線した延べ22頭のうち、その約半数は2012~2014年の期間に発生し、完走率に関するトレンドが変わってきたと思われる2019年以降においては2頭しか発生していない。

2021年の2nd Qualification Raceに出走し7着に入ったGontcharは2016年のチェコダービー馬である。ただし、その後は同年のチェコSt Legerの2着が最高で、2019年からHurdleデビュー、同年のうちにCross Countryに参戦するも、Category IIIでの3着が最高であった。2021年のNagroda Tiumenaでもいいところなく終わったのち、なぜかこのII. kvalifikace na 131 Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouに挑んできたのだが、どうにも飛越も安定せず大きく離れた最下位に終わっている。Vernoisは元々フランスの障害馬で、Haras Du Pinの4歳限定Steeplechaseを勝利した実績もあるのだが、チェコ移籍後はCategory IIにて2着に入ったのが最高で、それ以降は大敗を繰り返していたようだ。いずれもVelká Pardubickáへの出走権は獲得したとはいえ、同年のVelká Pardubickáには出走していない。

2018年の該当馬のうち、MilerytとVal De Guyeはいずれも2017年のQualification Raceにおいても同様の成績に終わっていることに加え、Velká Pardubickáへの出走歴を有する。Milerytは2017年、Val De Guyeは2018年のVelká Pardubickáにそれぞれ出走しており、いずれも途中棄権に終わっている。MilerytはTourbillonの末裔であるSnow Kidの産駒で、ポーランドで2歳平地戦であるNagroda Dakotyを制した馬だが、障害ではBenešov競馬場*9のCategory IIIを制したのが最高であった。Val De Guyeはex-frenchのAQPSだが、チェコ移籍後はPardubiceのCategory IVで3着に入ったのが最高で、チェコでは16戦を消化するも未勝利に終わっている。一方、2018年の3頭のうち残り1頭の該当馬であるNikasは2015年のVelká Pardubickáの1着入線馬(失格)である。13歳となった2018年も現役を続行しており、Velká Pardubickáに向けてQualification Raceに出走してきたのだが、さすがに往年の力はなかったようで、例によってBrigdeurが元気よく飛ばす展開も勝負所からついていけなくなり、そこからはあまり無理をせずに回ってきたものと思われる。ただ、その年の9月のIV. kvalifikace na 128. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnouでは勝ち馬から5秒ほど離れた6着に入り、同年のVelká Pardubickáでは9着と完走を果たしているのは大したものである。

Krocoleonは生涯の勝ち鞍としてはWroclawのNagroda Zamknięcia Sezonu Przeszkodowegoのみにとどまったが、一方でCategory IIでも好勝負をしていた馬で、2017年の2nd Qualification Raceでは大敗に終わっているのだが、本来であればこのクラスでも好勝負のできた馬である。2019年のVelká Pardubickáで故障を発症して亡くなっているが、Velká Pardubickáでも穴人気くらいはしていてもおかしくない馬であった。Un Tiep、Aucun Soucisはいずれもフランス障害競馬からの移籍馬だが、いずれもチェコでは下級条件戦の勝利又は好走のみに終わっており、Velká Pardubickáへの出走歴はない。

Budapestは2010年のGran Premio Merano (G1)での2着を含めイタリアのSteeplechaseの実績馬で、2013年の3rd Qualification RaceではTrezorから差のない3着に入っている。同年のVelká Pardubickáは落馬に終わっているが、2014年の直前のCategory IIでもOrphee Des Blinsから13馬身差の2着に入っており、このクラスでも優に上位クラスの馬であった。2014年の2nd Qualification Raceで大敗した理由は不明だが、なにかしらトラブルでもあった可能性がありそうだ。同様の内容はこの路線で上位争いを繰り広げていた実力馬であるZarifやRoninoにも当てはまるものと考えられる。なお、Sorosは2009年のポーランドダービーの勝ち馬で、障害戦でも結果を残していたが、2012年の4th Qualification Raceはこれが2度目のCross Countryで、さすがに状況的には厳しかったものと思われる。なお、同馬は2014年にも3rd Qualification Raceに出走し、Kasimから2秒差の3着に入っている。なお、2012~2014年の該当馬のうち、同年のVelká Pardubickáに参戦したのはSešlost(途中棄権)、Cabernet(11着)のみであり、それ以外の馬のVelká Pardubickáへの参戦歴はない。Sešlostは2012年のCena Labeの2着馬だが、2013年以降は精彩を欠いていたようだ。

Figure 3 2012~2022年のQualification Raceにおける勝ち馬からのタイム差の平均値及び中央値(秒)
Figure 3に2012~2022年のQualification Raceにおける完走馬の勝ち馬からの走破時計の差の平均値及び中央値を示す。サンプル数が少ないため多少のばらつきはあるのだが、基本的に2019年以降は低下傾向にあると考えてよいだろう。なお、2020年はCOVID-19の流行による医療機関への影響もあり、落馬による騎手の負傷を避けるため通常よりも慎重なレースが展開されていた可能性もあるが、現時点では推測に過ぎない。

Figure 4 2012~2022年のQualification Raceにおける勝ち馬からのタイム差(延べ頭数)

Figure 4に2012~2022年のQualification Raceにおける完走馬について、走破時計が勝ち馬と比較して0~1秒、1~5秒、5~10秒、10~20秒、20秒以上の延べ頭数をカウントしたものを示す。Figure 3から推測される通り、ここ数年は全体的な傾向が変わってきた可能性が示唆される。実際に2012~2017年と2018~2022年のデータに対してF検定を行った場合、p値は0.0000277となり、近年は全体的にタイム差が付きにくい傾向にあることがわかる。

上記のとおり、2012~2022年のQualification Raceにおいて、勝ち馬から20秒以上離されて入線した馬における同年のVelká Pardubickáでの好走例はない。2023年の変更においては引き続き出走権を獲得することが可能ではあるものの、10~20秒遅れて入線した馬に関して併せて考察する。以下、2018~2022年のQualification Raceにおいて、勝ち馬から10秒以上20秒未満遅れて入線した馬を示す。

  • 2022年5月21日 11着 Chicname De Cotte (FR) タイム差:12.40
  • 2022年6月18日 5着 Beau Rochelais (FR) タイム差:17.09
  • 2022年8月6日 10着 Dulcar De Sivola (FR) タイム差:10.75
  • 2021年8月7日 8着 Aeneas (IRE) タイム差:16.16
  • 2021年9月4日 6着 Beau Rochelais (FR) タイム差:19.27
  • 2020年7月4日 12着 Decorus (CZE) タイム差:10.78
  • 2020年7月4日 13着 Marcus Aurelius (FR) タイム差:12.21
  • 2020年7月25日 7着 Moula (CZE) タイム差:18.30
  • 2020年8月8日 6着 No Time To Lose (IRE) タイム差:11.50
  • 2020年8月29日 9着 Moula (CZE) タイム差:11.55
  • 2020年8月29日 10着 All Scater (POL) タイム差:11.70
  • 2019年5月25日 8着 Eldorado (GER) タイム差:14.68
  • 2018年5月26日 9着 Vicody (FR) タイム差:10.62
  • 2018年5月26日 10着 Universe of Gracie (GER) タイム差:16.71
  • 2018年6月23日 8着 Modena (CZE) タイム差:14.97
  • 2018年8月18日 4着 Kasim (CZE) タイム差:10.23
  • 2018年8月18日 5着 Aristmontot (FR) タイム差:15.25
  • 2018年9月8日 8着 Vandual (SVK) タイム差:10.69

このうち、同年のVelká Pardubickáに出走したのは延べ10頭で、その中での最高着順はDulcar De Sivola及びModenaの7着であり、完走を果たしたのはこれらに加えてVandual(8着)のみである。

一方で、2020年のNo Time To Loseは2017年のVelká Pardubickáの勝ち馬であり、11歳となった2020年の段階ではやや力落ちの可能性を指摘されていた一方で、2021年には突如復活し、5月の1st Qualification Raceを勝利したうえ同年のVelká Pardubickáでも4着に入っている。2018年のKasimはもともとはQualification Raceを2勝しているこの路線の上位クラスの馬だが、当時13歳という年齢的なものもあったのか、同年のVelká Pardubickáでは飛越拒否に終わっている。Vicodyは2018年の1st Qualification Raceこそ振るわなかったものの、9月の同レースではAnge Guardian、Tzigane Du Berlaisから僅差の3着に入っている。残念ながら同年のVelká PardubickáではTaxis Ditchでの事故が原因で亡くなっているのだが、次世代のVelká Pardubická路線を担う可能性のある馬であった。Chicname De Cotteは2019年のVelká Pardubickáの3着馬で、重馬場を得意とするAQPSらしく2022年は極端なスローペースと良馬場に泣かされて途中棄権に終わっている。なお、Dulcar De Sivola、Beau RochelaisはいずれもVelká Pardubickáではここまで格下との評価を受けている馬だが、Dulcar De Sivolaはここまで2019~2022年と4年連続で参戦しいずれも完走、Beau Rochelaisは2021年は途中棄権とはいえ空馬に釣り出され致命的なロスを受けている影響も否定はできず、レースに全く参加できないほどの馬ではないように思われる。